TRIZ/USIT論文: TRIZ シンポジウム2008 ポスター発表
USIT適用事例: 二人の子供を安全に乗せられる自転車
日本TRIZ協会主催 第4回TRIZシンポジウム、2008年9月10-12日、ラフォーレ琵琶湖、滋賀県守山市
[USITセミナーグループ(アイデア社)] 須藤 哲也 (積水ハウス(株))、坂田 寛 ((株)日立製作所日立研究所)、長谷川 圭一 ((株)ブリジストン)、日野 桂・加藤 明 (コクヨファニチャー (株))、 中川 徹 (大阪学院大学)

[掲載:2009. 1.29; 追記: 2009. 5. 7]

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編集ノート (中川徹、2009年 1月29日)

本適用事例は、昨年9月の 日本TRIZ協会主催 「第4回TRIZシンポジウム」で、ポスター発表したものです。2008年3月のアイデア社主催USIT 2日間トレーニングセミナーで得た問題解決事例であり、そのセミナーでの5人のグループと講師兼問題提案者の中川とでまとめたものです。TRIZシンポジウムのポスターセッションでは、須藤哲也さんが日本語で説明し、少し離れて、坂田寛さんが英語で説明するという、日英並行発表の初めての例でした。

本ページには、TRIZシンポジウムでの発表スライドをPDF で掲載いたします (とりあえず和文のみ)。また、中川は、TRIZシンポジウム全体の紹介を「Personal Report of Japan TRIZ Symposium 2008」として英文で詳しく報告しております (2008.10.26掲載)。この中に書きました本件の紹介文をこのたび和訳してここにHTML形式で掲載いたします。スライドでは十分に表現できていない点 (事例の成立の経過など) の補足にもなっているかと思います。

3月に実施したセミナーでの実地問題適用事例を同年 9月のTRIZシンポジウムできちんと発表できましたのは、セミナーでのグループ演習の成果でありますとともに、それを事例としてまとめていただいた須藤哲也さん、および英訳スライドを作成いただいた坂田寛さんの尽力のおかげです。お二人およびグループの皆さんに感謝します。また、USITセミナーを主催し、いつもバックアップしていただいているアイデア社 (担当: 川合裕二氏) に感謝します。

なお、本ページの最後 [編集ノート追記] に、(財)自転車産業振興協会の試作助成の活動を紹介し、また、昨年11月のETRIA出張の際に見ました、自転車王国オランダでの類似事例の写真を添付しました。

[注: 英文ページはTRIZCON2009 (3.16-18) の後で掲載する予定です。]

追記(その2) (2009. 5. 6 中川 徹)

TRIZCON2009 での発表  を英文ページに掲載し(2009. 5. 7)、またその準備段階での副産物として「図を書くことの意義(1)」を和文ページに掲載しました(2009. 2.22)。詳しくは、このページの末尾の編集ノート追記(その2) を参照下さい。

 

本ページの先頭 スライド PDF 紹介 (中川) 編集ノート追記 編集ノート追記(その2) 第4回TRIZシンポジウム TRIZシンポ2008 Personal Report 図を書くことの意義   英文ページ

[1] ポスター発表スライド (PDF)

 

発表スライド (和文) PDF (16枚) (4枚/頁、 989 KB) ここをクリック

   

 


[2] 発表の紹介: 

「Personal Report of The Fourth TRIZ Symposium in Japan, 2008」、中川 徹 (2008年10月26日) から抜粋、和訳。和訳: 中川 徹、2009年1月29日。(掲載: 2009. 1.29)

 

[USITセミナー(アイデア社)グループ] 須藤 哲也 (積水ハウス(株))、坂田 寛 ((株)日立製作所日立研究所)、長谷川 圭一 ((株)ブリジストン)、日野 桂・加藤 明 (コクヨファニチャー (株))、 中川 徹 (大阪学院大学) [ポスター B4 #29] が、つぎのタイトルでボスター発表を行なった: 「USIT適用事例: 二人の子供を安全に乗せられる自転車」。この複数企業のメンバからなるグループは、2008年3月に行なわれた公募制の「USIT 2日間トレーニングセミナー」(アイデア社主催、講師: 中川 徹) での3つの演習グループの一つとしてできたものである。演習課題は(このケースについては) 中川が提案者であった。2日間の研修の後で、須藤氏が 、演習のテンプレートに書き込み、当日の模造紙記録の写真を貼り付ける形式で、事例報告を作成した。その報告を電子メールでやりとりしつつ、中川と須藤氏、坂田氏他のメンバーが数度推敲した。TRIZシンポジウムでのポスター発表は、須藤氏が日本語で、また少し離れた場所で、坂田氏が英語で、並行して行なった。

まず右図に、問題の背景を記述している。これはよく知られた身近な問題だから、グループメンバたちはすぐに問題を共有できた。

グループは最初にこの問題を考える範囲について議論し、検討の基本方針を右のスライドのように決定した。

そして、討論しつつ問題定義段階を進めた。提案された問題、すなわち「二人の子供を安全に乗せられる (お母さん用の) 自転車」というのは、解決策の目標としてはすでに明確であった。そこで、スライドに示す問題定義文は、この目標をブレークダウンしたものになった。

ついでグループは、現在の典型的なシステムのスケッチを描いた。子供の座席の一つを後部にセットし、もう一つをハンドルに取り付けている。さまざまな困難点、特に、漕ぎ始めるときの困難点を、この図に記入している。

ついで、USITは問題分析段階に導く。問題分析の演習を始めるときに、講師が「この問題では時間特性の分析を最初に実行するように」と助言した。

自転車にとって危険があるタイミングは右図のスライドに示すようである。自転車がある程度のスピードで走っているときには、安全 (安定) である。この分析から、グループとして考察すべき状況が明確になった。

ついでグループは、機能分析と属性分析を使うことを試みた。これらの分析の途中でより明確な理解が必要になった点は、子供の座席の高さの効果についてであった。自転車を横から見た図で議論していたため、納得できる論理が得られなかった。

セミナーの後になって初めて、自転車と親子を前(または後ろ) から見た図 (右のスライド) を描いた。この図はクリティカルなタイミングを捉えている。すなわち、自転車のフレームが片方に傾き、その荷重を親が片足で支えようとしている。もし子供の座席が高い位置にあれば、支えようとしている足よりも外側に子供の荷重がかかる可能性がある。それに反して子供の座席が低い位置にあれば、子供の荷重を支えるのは容易である。これは、「異なる (適切な) 角度から見る」ことの重要性を示すよい例である。

次にグループは、このシステムの理想のイメージを描くことに取り組んだ。理想のイメージを描くことは、この場合意外に難しかった。各メンバーがさまざまなイメージを描いてみた。だが、そのすべては、自転車のフレーム、車輪、ハンドル、子供の座席、などを描いていた。かくて、それらは「よりよい」具体的なデザイン案を描こうとしたものであって、決して「理想」とはみなしえないものであった。

その中に一つだけ「未完成の図」があり、親、子供(前に一人)、子供 (後ろに一人)、そして車輪だけを描いていた。自転車のフレームはまだ描かれていなかった。スライド (右図) に示すのは、その「未完成の図」を少し拡張したものである。それは「理想のイメージ」でありうる。この図がいっているのは、子供たちを低い位置に、親の前または親の後ろの位置に置くべきこと、車輪は従来のものよりも小さくするべきこと、自転車の全長は同程度のこと、などである。その他の詳細 (例えば、フレーム、ハンドル、ペダル、など) は、各自が思い描くことができる。この図を実際に描いたのはセミナーの後であった。そしてこの図は、本発表で提案しているほとんどすべての解決策をカバーしている。

USITのParticles法は、「理想のシステムのイメージ」で表現した望ましいことをブレークダウンして、それらの目標を達成するためのさまざまな方法を考えることを薦める。これを表現するのにParticles法ではツリー構造の図を描く (このレビューでは省略している)。そしてそれがつぎのステップでさまざまなアイデアを生成する基礎になるのである。

ついで、グループの各メンバーは、いままでの問題分析段階で頭に浮かんだアイデアをすべて書き出す作業をした。ポストイットカードに書いたアイデアを分類し、解決策の階層図として構造化する[そしてさらに、新しいアイデアを考える]。その結果、3部よりなる階層図が [セミナー中に] できたので、つぎの3つのスライドとして示す。

第一のスライド (右図) は、困難のあるタイミングにおいて自転車のフレームを片方に傾きにくくするためのいろいろなアイデアをまとめたものである。それらのアイデアをその有効性(の可能性) の面から大まかに評価して、図に ○と△で示した。

アイデアのツリー図の第二は、二つの子供座席の位置に関するアイデアをまとめたものである。基本的な方向は「子供座席を低くする」ことである。この方向に対して障害となる主なものは車輪である。われわれが考えるべきは、車輪のサイズを小さくすること (これにより乗り心地がいささか悪くなるけれども)、また、座席の位置のさまざまな選択肢を試みることである。すなわち、親に対してその前か後ろか、また車輪の前か後ろか上かあるいは分離した中間か、などである。一人の子供を (親の) 後ろに、もう一人を前に、というのが最も典型的な解決策であるが、子供を二人とも後ろにという解決策、あるいは二人とも前にという解決策もまた可能である。

第三に、車輪を3つ (あるいはもっと多く) にするという解決策のアイデアも知られており、また今回にも生成した。このようなアイデアの動機は、(a) 3輪にして止まっても倒れず安定にする、(b) 座席を置くための場所を追加する、および (c) 車輪を二つに分けてその間に(子供)座席を置く、などである。ただし、これらの解決策は (方向転換したり、段を上がるときなどの) 自転車の操作の容易性を損なうおそれがあるので、設計には追加の特別な解決策が必要になる。

右のスライドは、セミナー中に作られた解決策コンセプトの一つを示している。小さな改良策で、以前から何らかの形で多少なりとも知られていたものを、いくつも集めてまとめている。恐らくこれが、伝統的なよく知られた設計の線に沿って、すぐにでも得られる典型的な解決策の一つであろう。

つぎに右のスライドは、セミナーの後にでき上がった、新しい解決策のコンセプトである。この解決策の意図は、親の前に置く子供の座席を (前車輪のフォーク軸でなく) 自転車のフレームに固定することである。

しかし、そのような配置は親が脚を動かすための空間を狭くするという困難を引き起こす。われわれが考えたのは、「そのような困難は、ハンドルの軸と前車輪のフォーク軸とが同一であるという仮定から来ている」ということであった。これら二つの軸を空間的に分離し、なんらかのメカニズムでリンクさせることをすれば、子供座席をフレームに固定するための空間を作り出すことができる。

このアイデアを右図では、子供を二人とも親の前に配置する形で、誇張して示している。この新しい配置は、子供達にとっては前方がよく見え、親にとっては常時子供達の状況に気をつけていることができる、という良い点がある。この新しい自転車は少しばかり乗り慣れる必要があるかもしれないので、リース販売のシステムを導入して [省資源にも配慮して] いる。

USIT 2日間トレーニングセミナーとこの事例についての評価を、グループメンバー (講師を含まず) が書いたものを右図に示す。

 


編集ノート追記 (中川 徹、2009年1月29日)

本テーマに関しては、(財)自転車産業振興協会 が一つの課題として取り上げて、開発を奨励していることを (昨年7月中旬に) 知った。http://www.jbpi.or.jp/

この募集を知ったのが少し遅かったこと、またその前に知っていても試作体制を持たないわれわれには応募できなかっただろうと残念であった。7月に公表されている各種の案には、上記の発表で考えていたものが多く含まれており、また、われわれが思いつかなかったものもある。ただ、上記の最後のスライドに示した案 (特に、ハンドル軸とフォーク軸の分離、子供を前に二人配置) に対応するものはなかった。この新しい案、およびTRIZを使った体系的な考え方について、一度自転車の専門の人たちに話してみたいと思いながら、まだその機会を作れていない。

また、昨年11月にオランダでETRIA主催の「TRIZ Future 2008」国際会議があり、出席した。オランダは平坦な国だから、まさに自転車王国である。自転車専用路が街中にあり、多数の駐輪場があり、さまざまな自転車が走っていた。その中で目にしたのが、親と前車輪との間に二人分の子供座席をボート状に設置したものであった。本件の案よりもさらに安定をねらっており、冬の寒さからも守れるようにゆったりとしたものであった。お母さんが二人の子供を乗せて何の苦もなく乗っていった。駐輪していたものの写真を下に示す。ハンドル軸とフォーク軸が1.5 m 程離れており、びっくりするほど簡単な片持ちリンクで連動していた。世界にはいろいろなアイデアがあるものだと、思い知ったことであった。

   

ただ、上記の案そのままでは、日本の実情に合わない。全長が長すぎ、普通の駐輪場や、アパートや自宅の入り口に置くには不便である。やはり本発表での案 (上記スライド) に近いような形がよいように思う。機構的にも、操作性の点でも、われわれの案で行けるんだと思った次第である。自転車のように長い歴史を持つ技術では、まったく新しい案というのは困難だけれども、非専門家でも十分の寄与ができる、TRIZ/USITはそれをガイドしてくれると再確認した。 


編集ノート追記(その2) (中川 徹、2009年 5月 6日)

この事例報告を、2009年3月16-18日の米国での国際会議TRIZCON2009 で発表しました。坂田寛さんが登壇者でしたので、著者の順番を少し入れ替えて、坂田・須藤・長谷川・日野・加藤・中川といたしました。TRIZシンポ2008の段階では、ポスター発表で和文・英文の両方で発表しましたけれども、きちんとした本論文を書いていませんでした。このTRIZCONでの発表のために、いままでの事例報告の記述をまとめなおして、英文20ページの論文にしました。

この過程で気がついたこととして、「図を描くことの意義 (1) 「二人の子どもを安全に乗せられる自転車」の事例から」というエッセイ をまとめて、本ホームページに掲載しました(2009. 2.22)。
    (1) 子どもの座席の高さの影響について: 倒れそうな時を前から見た図
    (2) 理想のイメージ: 具体的なものを描かない図
    (3) 三人乗り自転車の機能分析の図: すっきりと表現した図の威力
    (4) 新しいシステム案を位置づける: 機能分析図での表現
    (5) 親と前輪の距離を大きくする: ハンドルとフォーク軸を分離する案、前に子ども二人の案
という構成で、それぞれ一種のワンポイントレッスンになっています。全体を説明するテキストや事例では書き切れないことを、分かりやすく書いています。

英文ページにはつぎのものを掲載しました。
    (1) TRIZCON2009 発表 英文論文   HTML 版   および  PDF 版 (20頁、PDF、1.1 MB)
    (2) TRIZCON2009 発表 英文スライド  PDF (29スライド、4スライド2頁、809KB)
この論文を和訳できるとよいのですが、その時間が取れそうにありません。分かりやすい、よい事例になっていると思います。

下記に英文スライドのミニ版をご参考までに掲載しておきます。

 

本ページの先頭 スライド PDF 紹介 (中川) 編集ノート追記 編集ノート追記(その2) 第4回TRIZシンポジウム TRIZシンポ2008 Personal Report 図を書くことの意義   英文ページ

 

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最終更新日 : 2009. 5. 7      連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp