TRIZ論文: 日本TRIZ シンポジウム 2009 論文
通信機器開発における実践的創造技法の活用

庄司 隆浩、古賀 陽介 (パナソニックコミュニケーションズ(株))

日本TRIZ協会主催 第5回日本TRIZシンポジウム、2009年9月10-12日、国立女性教育会館、埼玉県比企郡嵐山町

紹介: 中川 徹 (大阪学院大学)、
英文: 2009年11月28日、和訳: 2010年5月22日
掲載:2010. 5. 30

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編集ノート (中川 徹、2010年 5月22日)

本稿は、昨年の第5回日本TRIZシンポジウム2009でオーラル発表されたものです。日本人参加者による「あなたにとって最もよかった発表」の投票の結果、オーラル賞を受賞しました。

本件の発表スライドは、すでに、昨年12月1日から日本TRIZ協会のWebサイトで公開されてきました。本『TRIZホームページ』での掲載が遅くなりましたが、より広く知っていただけるように、和文ページと英文ページの両方を作り、著者の許可を得て、発表スライドのPDF を掲載します。また、中川が書きました紹介を、「TRIZシンポジウムのPersonal Report」 Part D として英文ページに掲載しておりましたが、今回和訳してここに掲載いたします。

パナソニックコミュニケーションズ社は、2001年にTRIZを導入して以来、QFD-TRIZ-田口メソッド (および CAD/CAE) という科学的手法を本格的に取り入れて、全社レベルで実践してきています。恐らく、日本で最もTRIZが普及している企業です (例えば、古賀 (2007年) 参照)。しかしそれでも、開発プロジェクトの技術者たちには、TRIZを中心とした科学的手法をそのままの形で実践していく時間がない、というので敬遠されがちです。そこで、必要に応じて適用の規模を調整できる(「スケーラブル」) ようにし、もっと分かりやすく適用することが必要である、と認識して、筆者たちは新しいやり方を作りました。それは、もはや、TRIZが表てに顔をだしていません。TRIZはバックにあってしっかりと全体を支えています。企業技術者が、TRIZを「本当に消化して」実践していくようにした、一つの形態がここにできてきています。

[紹介にも書きましたように、私はこの発表を直接聞きませんでしたので、この発表の趣旨を理解するのに少々時間がかかりました。通常のTRIZの理解からもっとこなれさせたものがここにありますので、いままでのTRIZの理解の枠に当てはめようとすると、戸惑うでしょう。TRIZにこだわらずに、素直に読むのが一番良いようです。TRIZの初心者の方には却ってよく分かるのではないかと思います。]

本ページの先頭 概要 スライドPDF 英文スライドPDF 紹介(中川) TRIZシンポ2009紹介 (中川)   TRIZシンポ2009 英文ページ

[1] 論文概要

通信機器開発における 実践的創造技法の活用

庄司 隆浩、古賀 陽介 (パナソニックコミュニケーションズ(株))

概要  

パナソニックコミュニケーションズ(以下、PCCと記載)では、QFD、TRIZ、品質工学などの科学的手法を活用した商品企画、開発、製造に取り組んでおり、その有効性はこれまでの当社の報告事例でも実証済みである。しかしながら、上記のような科学的手法による開発プロセスが、定着、常時実践している部門は残念ながら一部にとどまり、全社的な展開には至っていないのが実情である。その理由のひとつとして、科学的手法によるアプローチの多くは、実践するにあたり相応のスキルが要求され、また、相応の時間を要することが挙げられる。

上記のような課題に対して、本報告では科学的手法、創造技法に不慣れな初心者や、開発との並行作業での時間不足状況でも実践可能な技術的課題解決のためのプロセス、創造技法を提案し、通信機器開発における応用事例を報告する。

 


[2] 発表スライド全文:

和文発表スライド (24 スライド、PDF 1.3 MB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)

英文発表スライド (24 スライド、PDF  1.1 MB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)


[3] 発表の紹介 (中川): 

「Personal Report of The Fifth TRIZ Symposium in Japan, 2009, Part D. Case Studies in Industries」
中川 徹 (2009年11月28日) (英文ページ) から抜粋。

庄司 隆浩、古賀 陽介 (パナソニックコミュニケーションズ(株)) [J23 O-3] が、素晴らしいオーラル発表をした。そのタイトルは「通信機器開発における 実践的創造技法の活用」である。この発表は日本人参加者による「私にとって最も良かった発表」の表彰を受けた。ここにはまず著者による「概要」を引用する。

パナソニックコミュニケーションズ(以下、PCCと記載)では、QFD、TRIZ、品質工学などの科学的手法を活用した商品企画、開発、製造に取り組んでおり、その有効性はこれまでの当社の報告事例でも実証済みである。しかしながら、上記のような科学的手法による開発プロセスが、定着、常時実践している部門は残念ながら一部にとどまり、全社的な展開には至っていないのが実情である。その理由のひとつとして、科学的手法によるアプローチの多くは、実践するにあたり相応のスキルが要求され、また、相応の時間を要することが挙げられる。

上記のような課題に対して、本報告では科学的手法、創造技法に不慣れな初心者や、開発との並行作業での時間不足状況でも実践可能な技術的課題解決のためのプロセス、創造技法を提案し、通信機器開発における応用事例を報告する。

この会社、パナソニックコミュニケーションズ社 (PCC) は、TRIZを、QFDおよび田口メソッドとともに、活発に導入してきた歴史を持っており、この5年間ひきつづき日本TRIZシンポジウムで発表・報告してきている (例えば、古賀 (2007年) 参照)。本発表の最初の3枚のスライドを以下に示す。彼らはすでに、QFD/TRIZ/田口メソッドのフルセットを導入・展開し、それらの有効性を実際の製品開発において実証することに成功してきた。しかし、いま、それらの方法を多数の通常のプロジェクトに適用することに困難を感じている。より簡単で、より効果的/生産的な適用実践方法が、通常ベースで必要なのだという。そこで、著者たちの戦略は、プロジェクトのサイズ/要求に応じて適用法を「スケーラブル (規模可変) にする」こと、プロセスとアイデアを目に見えるようにすること、そして、方法をより簡単にすることである。[***残念なことに、英文スライドの訳が、著者らの発表内容そのものに比べて、あまり質が高くない。ダブルトラックであったため私はこの発表を直接には聞くことができなかったけれども、この発表内容をできるだけ分かるように以下に [英文で] 紹介しよう。]

 

 

スライド (右) が示しているのは、彼らのTRIZ/科学的方法を、スケーラブルなやり方でプロジェクトに適用するプロセスである。TRIZのプロセスを始める前に、TRIZのコーディネータが、技術チームのマネジャと打合せをし、可能な入力、利用可能なリソースおよび望ましい出力について、討論、レビュー、決定する。このようにして、TRIZの適用プロセスを、そのステップ、方法、参考情報に関して設計する(調節する)。そして、彼らは、いくつかの材料や文書を準備するが、そこには、TRIZ適用プロジェクトのテーマ、スケジュール表、および出力のイメージを含む。これらの準備をした後に、TRIZコーディネータ (たち) と技術者チームによる、TRIZプロジェクトミーティングを開く。

スライド(右) に、新しいTRIZ/科学的手法を適用するプロセスの全体を示す。プロセス全体の出発点はテーマを設定することであり、その最終ゴールは創造した解決策を特許出願することである。

(I) 第一のフェーズは、その機能を果たす多数の基本的な (あるいは、予備的な、既知の) アイデアを創りだすことであり、それらのアイデアをその機能目的に関してツリー状のマップに作る。この目的は、問題の全貌と望ましい解決策空間を理解することである。

(II) 第二のフェーズは、解決のための努力を集中するべき領域を選択し、その選択した領域で新しい/発明的なアイデアを考え出すようにメンバに強制することである。

(III) 最後に第三のフェーズでは、 (関連する分野の特許のレベルについて理解/レビューした上で) これまでに生成したアイデアを評価し、ついで、高い評価を得たアイデアを強化する。この強化のためには、従属的なアイデアと組み合わせること、より深く考えること、さまざまに異なる角度から (あたかも、競合他社の見方のように) 見ることを行なう。このようにして、アイデアが、実現の可能性のある解決策、特許として出願する可能性がある解決策として評価されるに至る。

これらすべてのプロセスは、簡単で、直截的で、見える化されており、スケーラブルであるように設計されている。このプロセスは、すでにPCC内でいくつかの実地プロジェクトに適用済みである。

(I) つぎのふたつのスライド (下) は、一つの実地プロジェクトを例にして、上記の第一フェーズの目的と方法を例示したものである。このフェーズにおいて、その主要な目的は、新規のアイデアを生成することではなく、開発したい製品の既存の機能および望ましい機能をすべて列挙することである。メンバたちは全員、そのような機能/特長を考えついて、それをポストイットカードにつぎつぎと書き出すように、奨励される。その各機能の目的を、異なるメンバが書いて貼り、さらにもう一人のメンバがその望ましい機能を再度考えて貼り出すようにする。それから、すべての目的と機能を整理して、階層的なツリー構造に表し、機能のマップを構成する。

(II) 第二のフェーズを示しているのがつぎの4つのスライド (下) である。このフェーズでの第一の課題は、新しいアイデアを開発すべき領域/テーマをプロジェクトとして選択することである。各テーマで新しいアイデアを生成するためには、プロジェクトではスライド(右上)に示すように「管理型ブレインストーミング」のやり方を使う。メンバたちはつぎつぎに30秒以内でアイデアを出すように要求される。もう一つの方法は、TRIZのSTCオペレータ [すなわち、サイズ/時間/コストを極端にするオペレータ] をシナリオ思考と一緒に使うことである (左下のスライド)。生成したすべてのアイデアを、機能/技術マップの形にリストアップする (右下のスライド)。

(III) ついで第三のフェーズで、すべてのアイデアを手早く評価する。それには、スライド (下の左上) に示すように、評価基準 (新規性、有効性、ニーズ、シーズ、など) を持った評価シートを使う。高い評価を得たアイデアはこのフェーズでさらに強化する。それには、他の補助的なアイデアと組み合わせたり (右上のスライド)、使用のシナリオにおいてどのように働くかを詳しく考察したり (左下のスライド)、競合他社の視点から考えたり (右下のスライド)、といった方法を使う。このフェーズの意図は、生成したアイデアから強力な特許を作ることである。

本発表の仕事で強調していることは、全プロセスを(技術者の) メンバたちにも、そのマネジャたちにも明瞭になるようにし、革新を目指す動機を共有することである。スライド (右) は、本発表の3フェーズのプロセスの意味/意図を視覚化したものである。このグラフは、アイデアの位置づけを示そうとするもので、横軸に新規性 (進歩性・革新性)を取り、縦軸には実現可能性 (具現性) を取っている。フェーズI では、既存のアイデアと望ましい機能をリストアップすることであり、それらはまだ発明性を有する解決策のアイデアではまったくない。フェーズIIは、「管理型ブレインストーミング」のプロセスで、新しい発明性を有するアイデアの生成を目指しているが、この段階ではまだ実装可能ではないであろう。フェーズIIIにおいて、それらのアイデアを簡単な評価プロセスでフィルタリングして、優れたアイデアをさらに強化する。これにより、アイデアを実現可能でかつ特許可能なものにするのである。

スライド(右) に著者らの結論を示す。簡単化、見える化 (ビジュアル化)、およびスケーラビリティ (規模を調整可能にする) の3点が、本発表の方法の最も大事なアプローチであり、それによって実地のプロジェクトで従来よりもずっと良く受け入れられたという。簡単化というのは、本発表の方法を説明するのに極めてわずかのTRIZ用語しか使われていないこと、それによって、普通の技術者たちがこの全プロセスを容易に理解し実行できるようになっていること、で明らかである。

見える化については、ポストイットカードを多く使っていること、機能/技術マップを構築していること、アイデアを評価するのに評価シートを使うこと、そして全プロセスの意義をグラフで示していること、などでよく分かる。この全プロセスのスケーラビリティについては、出発点におけるマネジメントミーティング、および(全フェーズで) アイデアを生成・評価するに際して、その数と扱いの深さを調節可能なこと、などで読み取ることができる。著者たちは、本発表の方法が技術者たちによく受け入れられたと報告している。

*** (私はダブルトラックのために本件のオーラル発表を聞いていなかったので) この発表のスライドを読んだとき、私には最初この全体プロセスの意義がよく分からなかった。TRIZ (およびQFD/田口メソッド) がどのように導入されているのかもよく分からなかった。スライドを和文と英文で読み、このレビューを [英文で] 書きながら、私はこれらの点を少しずつ理解していった。私はいま、著者たちの考えをこのレビューが適切に伝えることができていることを願っている。

フェーズI はQFDとTRIZとを反映している。特に、目的と機能とを階層的に展開している点。
フェーズIIはアイデアを強制的に生成する段階であり、著者たちは「管理型ブレインストーミング」(TRIZのSTCオペレータとシナリオ思考を併用して) を使っている。このフェーズでは、さまざまなTRIZの知識 (特に、40の発明原理や技術システムの進化のトレンドなど) がバックグランドとして有用であろう。だから、これらのTRIZの知識ベースを学んだ技術者たち (あるいは、TRIZの初歩を始めた人たち) はこのプロセスをずっとうまくできるだろうと、私は思う。
フェーズIIIでは、アイデアを強化するのに、さまざまなTRIZの方法や知識を導入することができるだろう。

*** 要するに、本発表のプロセスは、技術者たちがよく知っている通常のやり方を、TRIZおよびその他の方法で陰でバックアップして、使うように設計しているように見える。実地のプロジェクト、かなり規模が大きく、それでいて期間が短いプロジェクトに、TRIZを適用していく貴重なアプローチであると思う。このアプローチの一層の発展と適用経験を、著者たちからまた近い将来に聞くことを願っている。

 

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最終更新日 : 2010. 5. 30     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp