TRIZ研究ノート
「若者向けのTRIZ」、「若々しいTRIZ」のために :
TRIZ協会 中長期計画のための 検討基礎資料
(A) モデル原図、 (B) 文章化資料

中川徹 (大阪学院大学 名誉教授)
2012年 5月 6日、5月12日、
日本TRIZ協会 運営会議メンバ他に提示

掲載:2012.12. 5

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編集ノート (中川 徹、2012年11月27日)

今年の5月初めに行なった一連の研究の資料について、その原図一式とそれを説明した文章の一式をここに掲載いたします。(なお、本資料から発展した一連の学会発表などについては、「解題」のための親ページを参照下さい。)

本稿は、タイトルに示すように、若者向けにTRIZの普及をどうすればよいかを考えることがそのモチーフでした。それは、日本TRIZ協会として、どのような方向・方針にするとよいのかの中長期計画を考えること、またもっと具体的に9月のTRIZシンポジウムで「若い人たちにTRIZを伝える」ことを主題とした企画をすること、を意図して始めたものです。5月1日(頃) から始めて、5月 6日には26枚の図が出来上がっていました。これに説明の文章 (14頁) を作り、TRIZ協会の運営会議メンバと教育分科会メンバ (合計 約30名) にメールで送りました。いろいろ賛同する返信をいただきました。

さらに6枚の原図を追加して (原図合計32図)、同様に文章を拡張して (22頁)、5月12日に仕上げ、同じメンバにメールで送りました。学会発表 などではページ数の制限から、主要な図しか掲載できませんが、本ページでは作成したすべての原図と、それを説明した文章とを、もとのままの形で掲載いたします。

作成した図をTRIZ協会の仲間たちに送るに際して、図の作成の意図、図を作成して分かったこと、などをきちんとした文章にして説明したものをつくりました。そこでは原図の中から主要なものを選択して記述しています。なお、TRIZ協会のメンバからいろいろな意見をいただき、それらを別資料 (C) として記録しましたが、本ホームページには掲載しません。

本資料では、一人の人 (若い人) がTRIZのような創造性技法を受容するに至る内面的 (心的&知的) な準備・発展の段階について、いろいろな角度から描いた図を説明しています。企業でのTRIZ導入活動と、TRIZ実践者の成長の関わりの図もあります。(ここまでが原図の(A)グループ)。さらに、日本のいろいろなTRIZ推進組織の活動形態を描き、その総体としてのTRIZ推進活動を図示し、日本TRIZ協会の方向性を検討しています (ここまでが原図(B) グループ。5月6日送付の段階)。

この後、いままでの図と考察を土台にして、今後の日本におけるTRIZ推進のあり方を大局的に考える作業を進めました。主要な手がかりは、TRIZを適用・普及させるとよい領域・分野の全体像でした。これを考察したときに、適用・普及させるとよいのは、「TRIZの個別の技法やツール」 (あるいは「TRIZ」という方法) なのではなく、もっと一般的な、創造的思考と創造的な問題解決の方法 (の一般) であるという認識に至りました。この認識を「全体目標」として記述したのが、つぎの文です。
      「全体目標 (要求課題): 創造的な問題解決/課題達成法(←TRIZ)を確立し、
                                       広範に普及させて、
                                       国全体のさまざまな領域での問題解決/課題達成に適用する。」
そして、この確立に必要な活動を概念的にまとめ、また、ここで標榜しています「創造的な問題解決/課題達成法」が備えるべき特徴や方法を考察しました (ここまでが原図 (C) グループ。5月12日に追加記述して送付)。

このモデルの原図と文書は、後の学会発表の土台になったもので、元資料の方がより詳細に記述しています。お読みいただけますと幸いです。
なお、本資料は英訳していません。

 

 文章化資料の目次

1. 問題意識

2. 問題の状況を、多数の側面から考えたモデル

3. 問題状況のモデルで明確になった要点

4. TRIZの「外部情報」と日本のTRIZ活動諸組織との関わり                 (以上 5月6日)

5. TRIZの推進の方向づけ (ビジョン、要求課題) の全体像を考える     (本節は 5月12日)

 

本ページの先頭 1.問題意識 2. 複数のモデル 3.モデルで明確になったこと 4.日本のTRIZ活動 5. 方向付け 原図資料 (PDF) 文章化資料(PDF) 「解題」ページ 英文ページ (「解題」ページ)

 


  研究ノート: 「若者向けのTRIZ」、「若々しいTRIZ」のために:
                   TRIZ協会 中長期計画のための 検討基礎資料 (B) 文章化資料

2012年 5月 6日、 追記 5月12日    中川 徹  (大阪学院大学 名誉教授)

この文書の趣旨:

TRIZシンポジウム2012 の企画の一つの面として、「若者向けのTRIZ」、あるいは「若々しいTRIZ」を取り上げて推進したいと考えてきました。
しかし、それはシンポジウムに止まらず、TRIZ協会の将来を考えることと重なっていることであると、理解してきました。
そこで、TRIZ協会の中長期の方向づけの一つの検討資料として、考えるとよいことを ここにまとめてみます。 (もちろん、中長期計画の全体像を示すまでには至っていません。)

注(5/12): 本資料(B) とその付属資料(A)(C) をつぎの方針で拡張、推敲していくことにします

    (A) 「諸モデル (原図)」 (中川) .ppt 検討作業のための原図 (5/6: 1-26図; 5/12: 27-33図)
    (B) 「検討基礎資料 (文章化)」 (中川) .doc 文章化し、精選した図を採録、他者コメントつき (5/6: 1.〜4.節、5/12: 5.節)
    (C) 「経過と皆さんからの意見」 (多数著者) .doc メールなどで寄せられたいろいろな意見 時間順にまとめて示す。 (5/12: いままでのメールのまとめ)

1. 問題意識

・ TRIZが日本に導入されて、すでに15年ほど経ちます。この間に、TRIZの教科書やツールの整備・導入、TRIZの理解、TRIZの適用経験、推進の体制、交流・発表の場などが、随分と出来てきています。それと同時に、当初の新鮮さや熱気が失われている面があります。

・ 日本におけるTRIZの若返り、TRIZの担い手の若返りが大きな課題だと認識しています。

・ 問題点もいろいろあり、原因は必ずしも明確でない。いくつもの漠然とした原因がある。

・ 「どうしたらよいか」についても、明確でない。だれがなにをすればよいのか?

・ それは、TRIZ協会が何を目指すか、それをどのようにして達成していくべきかが、 まだ明確でない (実現可能性の視野の中に入っていない) からでもあろう。

2. 問題の状況を、多数の側面から考えたモデル

別紙資料[1] に、問題の状況を複数の面から考察したモデルの図を示した。
以下の10種のモデルを作っている。精選した原図をここに載せる。

(a) 人の成長段階と持つべき素養 (幼児→小学生→中学生→高校生→大学生→技術者(社会人))

(b) 「授業」のしくみのモデル (機能関係のモデル化 [予備的な図 → 一つの図 → 改良した図]) [講義資料より]

(c) (自分が)「学ぶ、理解する」という精神活動のモデル [講義資料より]

(d) (TRIZという) 一つの知識/技法が、一人の人に伝わる/習得されるためのモデル。

(e) 一人の人が、TRIZの技法を、学習/適用して、習得していくためのモデル。

(f) 一人の人 (特に、学部生) にとっての、生活、仕事、人生などにおける実際状況や価値観・考え方のモデル、その中でのTRIZの位置づけ。

(g) 一人の人 (特に、若手技術者) にとっての、生活、仕事、人生などにおける実際状況や価値観・考え方のモデル、その中でのTRIZの位置づけ。

(h) 企業において、TRIZという一つの技法が適用/普及していくためのモデル。

(i) 一つの国 (日本) において、TRIZという技法を適用/普及させていくためのモデル。

(j) (TRIZ/USITという) 一つの技法/知識の体系のモデル、その理解のための、また適用のための体系、教材など。 [MPUF USIT/TRIZ 研究会向け資料より転用]

これらのモデルはまだ文章化していないので、明確でない点もあるが、作成しながら気がついたことがいろいろある。

以下には、まずそれらの気づきの要点を記述し、その後でさらに考察を進めて行こう。

3. 問題状況のモデルで明確になった要点

3.1 (a) 人の成長段階と持つべき素養のモデル

・ このモデルで言っているのは、人の成長の段階に応じて、持っているべき素養、養われる素養が違っており、それを飛び越えることはできない、ということである。

・ 幼児 → 小学生 → 中学生→高校生→大学生→技術者(社会人) の 6段階を想定している。

・ だから、成長段階に応じた教育課題があり、適切な教育方法をとるべきだと言うことである。

3.2 (b) 「授業」のしくみのモデル

・ 「授業」(あるいは教育) をモデル化すると、往々にして、先生から学生への「講義」「教える」ことが中心になり、学生自身の「学ぶ」という活動が忘れられる。

・ 学生自身が「自ら学ぶ、理解する」ことが不可欠である。

3.3 (c) (自分が)「学ぶ、理解する」という精神活動のモデル

 

・ ここでは、実際の活動 (表に見える活動)、そのときの精神的な活動形態、および内面での情報、という 3レベルでモデルを表現している。

・ ただ単に、「熱心に授業を聴く (見る&聴く&読む)」だけでは、浅い知識しか得られない。尋ねる、調べる、考える、努力して理解する、そして、話す、適用する、実践する、まとめる、体系化する、レポート・文書を作成するなどの活動が必要であることを表現している。

・ これは、単に授業とか研修とかの場合だけでなく、TRIZの理論や技法を習得する場合にも広く当てはまることだといえる。

・ このような意味で、普及活動の形態についての示唆を与えるものである。

3.4 (d) (TRIZという) 一つの知識/技法が、一人の人に伝わる/習得されるためのモデル

・ これは、モデル(a) をTRIZという観点から、再整理したモデルである。

・ 幼児から、学生、技術者、そして(TRIZをマスターする)創造的技術者になるまでに、各段階での教育を受け、科学と技術に関する知識が形成されることを記述している。

・ その中で、論理的思考とともに創造性 (創造的思考) の訓練が必要であることを強調している。

・ 「子ども時代の創造性が、(日本では特に) 小学校 4年ころからほとんどの人で消えてしまう」ということが実証されており、それは「設問に対して、正しい答えは一つだけだ」という教育、「(正しい) 知識を学ぶ」教育、とくに受験勉強の教育が影響していると指摘されている。(例えば、弓野憲一 (静岡大学名誉教授))そこで、大学生になってから、主体性の確立、論理的思考と創造への自覚 (要するに独立した研究者・技術者としての精神) の教育・養成が必要になっている。

・ 「創造的思考のトレーニング」が必要で、TRIZのトレーニングは、「論理的思考と創造的思考を両方求めるトレーニング」になっている。

・ このため、TRIZの意義を理解し、十分にマスターする人たちがあまり多くない状況にある。

3.5 (e) 一人の人が、TRIZの技法を、学習/適用して、習得していくためのモデル。

・ このモデル (図) は、随分いろいろな含蓄があり、豊富で使いやすい図である。

・ 中央の列には、一人の個人のTRIZ習得の成長過程を図示している。(a)〜(d)を反映している。

・ 左の列は、種々の外部情報であるが、TRIZに関わるものと一般的な分野のものとを列を分けて記述している。多様な形態の情報が有益であることを示している。

・ 列は、一つの組織 (例えば会社) の中での(TRIZの) 習得過程を、その組織と活動として示す。この中には、いろいろな習得段階にある個人を表現している。

・ 一人の人は、社内での活動に関わるとともに、直接外部情報に接することもできる。

・ 一人の人のTRIZ習得の過程で、いろいろな形態のTRIZ情報が利用される (適切な形態というのが違う)。

・ とくに注目したいのは、「新聞、テレビ、雑誌」などのマスメディアが一般的には情報伝達力が強い。この形態でのTRIZ紹介記事が、現在きわめて弱いのが問題である。

・ 個人のレベルアップには、実地の開発課題への適用が最も有効である。そのための社内試行体制、あるいは社外でのトレーニング体制の整備が望まれる。

・ 個人がTRIZ経験者からTRIZリーダ、TRIZ推進指導者に上昇していくためには、これらの人が外部の情報や仲間に接することが必要であろう。ここにTRIZ協会の意義が出てくる。

3.6 (f) 一人の人 (特に、学部生) にとっての、生活、仕事、人生などにおける実際状況や価値観・考え方のモデル、その中でのTRIZの位置づけ。

・ これは、(d) のモデルで、(学部) 学生という段階での状況をより詳細に考察したものと言える。

・ TRIZをベースにした創造的思考のトレーニングは、望ましいけれども、まだまだ特別な機会であると考えられる。(TRIZトレーニングを受けることができた学生は幸せである。)

・ 一般の学生には、TRIZトレーニングをする基盤がまだ弱い。

3.7 (g) 一人の人 (特に、若手技術者) にとっての、生活、仕事、人生などにおける実際状況や価値観・考え方のモデル、その中でのTRIZの位置づけ。

・ これは、(d) のモデルで、若手技術者という段階での状況をより詳細に考察したものと言える。

・ この段階では、TRIZ教育が非常に望ましい、準備体制ができてきており、また必要である。

・ いままで、「高度な技術者しかTRIZを理解できない」といった考え方があったが、この図は、若手技術者 (いまから本当に研究者、技術者になろうとする人たち) にTRIZ教育をすることが、望ましく適切であることを示している。

3.8 (h) 企業において、TRIZという一つの技法が適用/普及していくためのモデル。

 

・ (e)のモデルの右列の記述をわかりやすく分解して描いたものといえる。

・ プロジェクトへのTRIZの適用が成熟していく状況を段階的に描いている。

3.9 (i) 一つの国 (日本) において、TRIZという技法を適用/普及させていくためのモデル。

・ この図は、国のレベルでTRIZを適用していく可能性を描いている。

・ TRIZが関わる領域を、大づかみに、7分類 (学界・大学、教育、家庭、社会、マスコミ・出版、産業、国と地方) として捉えている。

・ これらの諸領域のうち、TRIZがすでに関わっているのは、大学(の一部)、出版 (の一部)、そして産業 (の一部) であることが分かる。

・ それぞれの領域でもまだまだ一部しかできていないこと、そして、まだ手をつけていない領域がもっと多くあることが分かる。

・ この図は、TRIZの発展すべき方向、寄与すべき方向を、最も大きく捉えている。

・ この多様な寄与をしていくために、TRIZはいかにあるべきかを中央に置いて考えている。問題解決法(課題達成法)、理論、創造的思考(の方法)、やさしい理解、実践、解決成果、そして、効用である。これらの側面からTRIZのあるべき姿を再考することを要請している。

3.10 (j) (TRIZ/USITという) 一つの技法/知識の体系のモデル、その理解のための、また適用のための体系、教材など。

・ この図は、MPUF のUSIT/TRIZ研究会向けの資料を流用したので、USITが表に出ている。USITを明示しないでもあまり変わりはない。

・ 左列には、TRIZの適用以前に必要な方法や課題、右列にはTRIZ適用以後に必要な方法を示す。下段には、活用すべきリソースを示している。

・ 技法、方法論としてのTRIZはこれら周りのものと連携して考えるべきだということである。

3.11 上記(a)〜(j) の10種のモデルの関係

以上に記述した10種のモデルの観点は、相互に関連しており、重複している部分や発展・展開になっている部分などがある。

そこで、これらの関係を図示して、要点がより明確に分かるようにしておきたい。

この図により、「モデル(e)が、(a)〜(h)の8つのモデルを代表している」ことが明らかになった。すなわち、モデル(a)〜(h)の内容を含意して、モデル(e)が描かれている、ということである。

モデル(j) がTRIZの内容的な体系と周りの関わりを示す。モデル(i) が TRIZを適用・普及させるべき領域とその内容を示す。

いままでのモデルでは、まだ、「日本TRIZ協会」といったものが明示されていない。「TRIZ協会の将来の方向づけ」を考えることが、本稿の目的であるから、いまはまだその土台となる部分の理解を作ったということである。

「日本TRIZ協会」というのは、モデル(e)では、「外部情報」の部分に関わっている。 このモデル(e) で、「外部情報」をどのように組織し、活動させればよいかを考える。

4. TRIZの「外部情報」と日本のTRIZ活動諸組織との関わり

つぎに、日本TRIZ協会の活動について考察する準備として、日本のTRIZ活動の諸組織の活動の様子を、モデル(e) 上で表現することを考えた。

図としては、モデル(e) の中央列の「個人の成長」部分を、組織活動に置き換える。

4.1 日本のTRIZ推進の諸組織の活動の様子のモデル

日本での普及の歴史を考え、つぎのような組織を代表的に選んで記述した。

(1) 三菱総研 (MRI) : ソフトツールディーラであると同時に、ユーザ組織を作った点でTRIZ協会の先駆でもある。

(2) 産能大: 企業コンサルティングを中心としたTRIZ推進の組織

(3) 日経BP: 初期 (1996〜2002年頃) の重要な推進者。ジャーナリズムと出版。

(4) VE 協会関西支部 TRIZ研究会: ユーザの自主的研究会の代表。

(5) 東大 畑村研: 畑村、中尾、濱口教授他。初期の活動が著しい。学会に大きな影響力。

(6) 大阪学院大学 中川: 『TRIZホームページ』を公共サイトとして活用、活動している。

(7) IDEA: 最近のTRIZコンサルティング企業の代表

(8) 日本TRIZ協会: ともかく同じ構図でその活動を記述した。

4.2 日本におけるTRIZ推進の組織の活動状況のまとめ

以上のモデルを総合して、日本におけるTRIZ推進組織の活動虚状況を俯瞰する。

(9) 日本TRIZ協会とその構成メンバの関わる組織の活動を総合したモデル
-- 各組織の活動をそのまま縮小して張り合わせたもの。ベンダー・コンサル、大学、研究会、 ユーザ企業などを記述。

(10) 日本のTRIZの活動状況 を俯瞰するモデル (現在、サマリ)

この図では、日本TRIZ協会および関連する組織を周囲に配置し、中央部に総体としてのTRIZ関連活動を描く。

・ まず上部中央に、日本TRIZ協会を配置している。これが、TRIZ推進の日本のセンターである。運営のための会議組織がある。TRIZシンポジウムがその最も大きな活動である。

・ 左上には、『TRIZホームページ』を配置した。これは「公共的」な性格を持っている点で、TRIZ協会に準じる役割をし、他の個別組織とは異なる位置づけにある。『TRIZホームページ』がいろいろな情報発信をしている (普及活動をしている) ことが明瞭である。

・ ユーザ企業 (の典型例) を右側の図に示した。内部の活動の典型的な図式を示しており、日本のTRIZ推進活動が、このうちのどこに寄与するべきかを考察できる。
なお、TRIZを導入しているユーザ企業が、ほぼ製造業に限られており、さらにその中でも、電気・IT関係の大企業に偏重している点を注意しておく必要があろう。より広範な分野、より中小の企業への浸透が図られる必要がある。

・ 下辺に、ベンダー、コンサルティング会社他を配置した。TRIZの推進を事業としている組織であり、重要な寄与をする。その活動の諸形態は明示していないが、前節の例で明らかである。

・ 下辺右には、自主的な研究会を記述した。TRIZ協会の研究分科会も同様な位置づけにある。

・ 下辺左には、大学を書いている。「東京大学」を点線で書いている (本来もっと寄与を期待)。

・ 左下に、学会・学界を書き、日本創造学会、日本VE学会、日本機械学会などを点線で描いている。本来、もっと提携した活動が期待される組織である。

・ 左に、出版・ジャーナリズムを配置した。ここでも、日経BP社を点線で書いている。現在ここが弱体になっていることが分かる。

・ 左に、海外TRIZ情報として、ETRIAなどの国際会議を点線で記述した。海外学会への参加発表が限定的でしかないと考えるからである。また、ここに、以前の「TRIZジャーナル」に対応するような活発なWebサイトが存在しないことも問題である。

 

・ 中央には、日本のTRIZ活動が総体として実行するべき課題を列記している。これらのうちには、強みであるものも、不十分なものもあるが、区別は記述していない。また、組織間の分担状況も記述していない。

・ まず「方向づけ、運営、協議」は、日本のセンターとしての日本TRIZ協会の責任領域である。

・ 「発表・討論の場」は、日本TRIZシンポジウムが重要な役割を担っており、実施されている。この他に、TRIZ協会研究分科会および各地の自主的な研究会がある。また、『TRIZホームページ』、その他のWebサイト、ブログサイトなどもある。

・ 「意見交換・交流の場」は、「発表・討論の場」の他に、より小規模な会などが活用される。

・ 「TRIZ推進」は、コンサルなど、また企業内組織の役割が大きいであろう。

・ 「TRIZ研究」は、TRIZそのものの改良に必要である。日本では、コンサル、大学、企業などに小規模なものが分散してあるだけで、世界的に見たときに一つの弱点である。

・ 「TRIZ教育」は、大学に数校あるだけ、弱体だというべきであろう。

・ 「学会発表」は、いろいろな分野での学会にTRIZをテーマとした発表をすることを意味しており、まだきわめて少ないと思われる。

・ 「TRIZの確立」は、以下のいくつかの項目を総合的に行うことを意味する。

・ 「方法の開発」は、TRIZにおける問題解決、技術予測、知財開発、その他いろいろな課題に対する方法を開発することを指す。研究と実践とを要する。

・ 「ソフトツールの開発」は、TRIZの諸方法を有効にするためのソフトウェアツールの開発を指す。日本では、欧米のソフトツールを導入して和訳していることが多く、独自開発がほとんど試みられていない。やや安易な点がある。

・ 「知識ベースの開発」は、TRIZの方法論にとっては重要なことであるが、日本では自前では行っていない。和訳しているだけ。この点も日本の弱点である。

・ 「適用事例作り」は、主としてユーザ企業で行われている。ただ、社外に発表される例が少ないことが問題である。大学内、研究会内、コンサル社内などでの事例作りと発表を積極的に行うことが、TRIZ普及の鍵になるであろう。シンポジウムやWebなどで蓄積する必要がある。

・ 「社内推進事例作り」は、ユーザ企業およびコンサル社が活躍すべきことである。

・ 「TRIZ社内推進組織」は、ユーザ企業の組織作りであるが、コンサルなどが指導できる。

・ 「開発成功事例」を、ユーザ企業に期待する。コンサルの指導など。日本全体でのTRIZ推進のために大きな効果をもつものである。

・ 「講演、セミナー」は、大学、コンサル、ユーザ企業のTRIZ推進者などが行うことが期待され、多数の (あるいは少人数の) 聴衆 (一般の学生、一般の技術者、社内技術者、マネジャなど) に対する普及活動である。できるだけ広く、繰り返し行うのがよい。

・ 「トレーニング」は、複数日あるいはより長期に渡って、演習を含んだ指導をすることである。TRIZの考え方や技法は短時間では習得しにくいから、このようなトレーニングが非常に大事である。トレーニングの機会を多くすることが、TRIZの推進には必要なことであろう。社内や学内で行う場合と、公募制で行う場合がある。

・ 「コンサルティング」は、トレーニングよりも一層踏み込んだ形態であり、ユーザ企業内において、コンサルティング会社などの専門家が招かれて、実地の開発プロジェクトを指導する。なお、社内のTRIZ専門家による「社内コンサルティング」の形態をとることもある。

・ 「ジャーナリズム」と書いているのは、新聞、雑誌、テレビなどによる広範囲への紹介を指す。以前の『日経メカニカル』『日経ものづくり』はこの役割を果たしたが、いまは沈黙している。イランでのTRIZ推進活動から学ぶことが多い。

・ 「海外情報」: ベンダーの海外提携先からの情報、国際会議での発表情報、コンサルの海外活動、TRIZシンポでの海外発表者の情報などが主たるものである。海外のTRIZ関連のWeb情報もインターネットを通じて個人が直接に入手しているが、現在あまりよいものがない。次世代のTRIZジャーナルが活動を始めようとしている。

・ 「Web情報」は、TRIZ推進組織はそれぞれに掲載、発信している。TRIZ協会の場合には、公式ホームページとして、組織の紹介、シンポジウムや研究会などの公的活動の案内をし、シンポジウムの発表スライドなどを公表 (または会員限定掲載) している。ディーラ、コンサルなどは自分たちの活動の紹介をし、同時にTRIZの簡単な紹介をしている。(シンポジウム発表などの事例を掲載している場合もある。) 『TRIZホームページ』が、公共のTRIZサイトとして、情報が最も豊富であり、幅が広く、活発に更新されている。

・ 「紹介記事」には、上記の「ジャーナリズム」や「Web情報」と重複する点もあるが、その他の出版物、雑誌、私的なものなどで紹介されるものがある。普及のために大事である。

・ 「教科書」は、海外のTRIZ教科書の和訳のものがいろいろあり、また、国内の著者のものも出版されてきている。ただ、商業出版に乗りにくい点があり、難航している案件も多い。

・ 「海外情報発信」は、日本が情報を海外から入れてくるだけでなく、発信していくことの必要性を認識して書いている。国際会議での発表、TRIZシンポジウムでのスライド英訳、Web上 (特に『TRIZホームページ』) での英文発表などがある。

4.3 日本のTRIZ推進活動を俯瞰して

さて、上記の図とまとめを記述してきて、もう少し全体的なポイントを書いて置こう。

(1) 日本のTRIZの推進活動として、いろいろな組織が「協調する」ことが最も大事なことであろう。TRIZ協会主催による「日本TRIZシンポジウム」は、関係するほぼ全ての組織が協調できている点で非常に望ましい。TRIZの推進者 (ベンダー、コンサル、大学、研究会、その他) とTRIZユーザ (ユーザ企業、大学、その他個人) の両方が一堂に会して、成果や方法を発表し、討論し、交流できている。

(2) しかし、この「協調」があまり発揮できていない点も多い。もっと協調できているとよいと考えるのは、「一般社会に向けての情報発信・普及活動」である。TRIZを知るとよいはずの人たちで、TRIZをよく知らない人たちは一杯いる。すでにTRIZを導入している企業や大学などでも、本当にTRIZに接している人はごく僅かであり、その他にまだTRIZを導入していない企業が一杯あり、導入していない大学が一杯ある。このような人々への普及にとって、大事な材料は、「優れた紹介記事、多数の具体的な適用事例/成功事例、分かりやすい方法、分かりやすい教科書、など」である。これらの素材を、ユーザ企業が提供することが、非常に大事なことである。(例えば、ユーザ企業内でも、いろいろな形のTRIZ紹介記事を書いているが、公表していない。適用事例を特許や論文として発表しているのに、TRIZシンポジウムやWebなどで発表しない、など)。

(3) 日本のTRIZ社会は、単位となる多くの組織 (ユーザ企業やコンサルなど) が、お互いに自分たちのものを出し合う (与える) ことによって、自分たちが出した以上のものを貰うことができる場にすることが、ぜひ必要である。すなわち、自社の事例を発表すると、多数の他社の事例を知ることができ、それを自社のTRIZ推進に適用し、その結果自社の技術開発などを一層向上させることができるのである。この好循環はすでにできているはずであるが、もっと活発であることが望まれる。この点でユーザ企業にまだ問題がある。

(4) 日本のTRIZ推進は、まだまだ弱体であると思う。TRIZの方法の十分な理解、TRIZの方法の開発、ソフトツールの開発、知識ベースの開発、TRIZの教育方法の開発、これらを含めたTRIZの研究開発は、ほとんどその態勢が作れていない。大学、コンサル、ユーザ企業にそれぞれ少人数 (1人から数人) のグループが散在しているだけである。しっかりした、研究開発組織 (グループ) を作れていない。現在の段階では、散在している者同士が、TRIZ協会という人脈と通信ネットワークを介して、協力関係を結ぶことが望ましい。

(5) 日本TRIZ協会がいままでやや「内向き」の議論が多かったように思う。内部での方向づけや運営にエネルギーを消耗している面がある。もっと積極的に「外に向かう」必要があると考える。具体的には、いくつかの方向があろう。

    -- 関連の他学会 (例えば、日本創造学会、日本VE 学会、日本機械学会、「実際の設計研究会」など) と協調すること。

    -- 出版・ジャーナリズム (例えば、日経BP (『日経ものづくり』など)) との連携を図ること。連載記事を担当するなど。

    -- 政府プロジェクト、文部科学省費科研費プロジェクト、地域プロジェクトなどに参加すること。

(6) 日本TRIZ協会が、公共サイトとしての『TRIZホームページ』をもっと積極的に認定し、協会側から協力支援するやり方をすること。日本TRIZ協会の公式サイトは、「公式」であるための限界があることを認識して、「私的」でない「公共的」なサイトの意義を積極的に認めるとよい。具体的には、「公式情報」以外の情報 (例えば、ユーザの投稿、寄稿紹介記事、海外発表論文の和訳紹介、ユーザの意見、リンク集、参考文献リスト、海外ニュース、などの記事) を「公共サイト」で掲載するように積極的に協力する。そのために、副編集者をTRIZ協会から適切な人に委任する。このようなTRIZ協会からの支援は、中川の編集の負担をずっと軽減できる。

(7) 「若者向けのTRIZ」あるいは「若々しいTRIZ」という方向は大事なことである。現在の状況では、つぎの4つの方向があろう。 

    -- TRIZを分かりやすく、受け入れやすい方法にしていくこと。[内容の問題、表現の問題]。
          ・ Jeongho Shin の Invention Song の日本語化 (「アイデアはひとりでに - TRIZ 発明原理の歌」) はこのアプローチの一つ。
          ・ USIT もこのアプローチの一つ。
          ・ 石井力重さんの 「智慧カード」もこのアプローチの一つ。

    -- TRIZを 企業内の若手社員 (新入社員など) に向けて積極的にトレーニングすること。
           いままで、ある程度ベテランに教えようとしていた面があるのを、修正する。

    -- TRIZを、学部生の卒業研究や 大学院生の修士/博士研究の研究方法として取り入れる。
        これらの研究テーマを具体的に使って、研究室内などでTRIZ (/USIT)の共同演習をする。

    -- 高校〜小学校の生徒に対して、TRIZをベースにした創造性教育を試みる。
            これはまだ十分な指針が得られていないから、注意を要する。試行錯誤を要する。

 

TRIZ協会の中長期計画を考えるという意味では、まだまだこれから考えなければなりません。特に、モデル(i)が 有用であろうと思っています。 (2012. 5. 6)


5. TRIZの推進の方向づけ (ビジョン、要求課題) の全体像を考える
                                                           (2012. 5.12 中川)

5.1 TRIZ推進の全体目標 (要求課題) の考察と設定

さて、いままでのモデルを利用して、われわれが取り組むべき課題について考えて行こう。このためには個別の具体的なことを考える前に、全体的なこと、全体としての方向づけ、大きな目標、全体としての要求課題、あるいはビジョンなどを考えるのがよい。
(このような「個別の、目の前の問題を考える前に、全体的な課題・目標を考える」というアプローチは、われわれが創造的な問題解決の方法として、その必要性を体得してきたことである。)

いままでのモデルの中で、3.9節のモデル(i) が「TRIZを適用・普及させていくべき領域」を描いており、これがわれわれの方向づけを考察するのに最も適している。中央から外に向かう放射状に描いたもとの図を、樹形図の形式に書き直したものが、下の図 (図C2)である。

この図を見ながら、われわれの「全体目標」を言葉にしたものが、つぎのようである。

全体目標 (要求課題):
         創造的な問題解決/課題達成法 (←TRIZ) を確立し、
     広範に普及させて、
     国全体のさまざまな領域での問題解決/課題達成に適用する。

これは非常に大事なステートメントであり、本考察で得られた貴重な成果であると思う。
   以下に簡単に説明する。

・ われわれの全体目標は、3段階から構成されている。それは目標達成の発展段階でもある。

・ 第一は、方法を確立することである。その方法とは、一般的な言葉で、「創造的な問題解決/課題達成法」と言っている。問題(望ましくないこと)を解決し、課題(望ましいこと)を達成するというのは、あらゆる領域・場面でわれわれが望むこと、要求されていることである。そのための方法が欲しい。特に欲しいのは、いままでなかなか解決・達成できなかったような問題や課題に対して、解決・達成する答え (解決策/実現策) を導くことができるような、「創造的な」方法である。

・ われわれは、TRIZがそのような方法を提供する可能性があると考えてきたが、それは確立すべき方法の一部 (一要素) に過ぎないものと考えるべきである。TRIZを含み、関連の諸方法を含んで、またそれらを融合させ・統合し直したものであるべきである。だから、従来からTRIZに馴染んで推進してきた人たち (われわれ) にとっては、TRIZの発展形 (その意味で 「(←TRIZ)」という言葉を挿入している) と捉えられるが、もっと一般的にはTRIZという語を使わないで表現するのが適当である。

・ 第二は、その方法を広範に普及させることである。すなわち、多くの人に知って貰い、適用して貰って、実際に使って貰うようにすることである。これができるには、いろいろな領域でいろいろな人が、本当に理解して使うことができ、役に立つ成果が得られることが必要で、それが可能な「方法」ができている (第一段) ことが前提で、またそのような「方法」が伝達・伝授されることが必要である。この第二段は、「広範に」一挙に広がるのではなく、第一段の「方法」が適切に確立された問題領域から徐々に、その「方法」を習得した人や組織から徐々に、そして成果が確認された所から徐々に、広がっていくのが実際である。このように、じわじわと確実に浸透することを繰り返して (第一段の「方法」の「確立」と平行しつつ)、できるだけ「広範に」普及させていくことが、全体目標の中の第二段である。

・ 第三は、「国全体のさまざまな領域での問題解決/課題達成に適用する」としている。もちろん、適用して成果を出すことが目的である。ここでは、領域を特定していない。技術分野だけでなく、社会や人間が関わるような分野、あらゆる分野を含む。製造業だけでない、大企業だけでない、会社だけでない、さまざまな場面・領域を想定している。個人のことだけでない、会社や学校のことだけでない、地域のことも、国全体でのことも (さらに世界でのことも) 含んだ規模での問題解決/課題達成について適用していくことを、目標としている。もちろん、このような方法を適用するとよい、適用する意義のある領域というのがある。その中身は上記の図に記述している。

5.2 「創造的な問題解決/課題達成法(←TRIZ)の確立と普及」のための活動

上記の全体目標の第一段と第二段を達成するための方法 (手段) について考えよう。

その基礎になるのは、4.2節の (B10) の図である。そこでは、日本のTRIZ活動のさまざまな関係者 (TRIZ協会、ユーザ企業、コンサル、大学など) が、「活動していくとよいことの総体」をその中央 (淡黄色部分) にまとめている。この部分を取り出して検討したのが、 図(C3)、そしてまとめ直したのが図(C4)である。

活動の面から考えた、「方法の確立と普及」のための方法 (実現手段):

この図の中央の円内は「創造的な問題解決/課題達成の方法」と書いていて、それがどのような方法であるかについては書いていない (次節で考察する)。ともかく、そのような方法が確立されることが目標であり、それはその周囲に書いた (外形的な)諸要素すなわち、「理論、創造思考、ソフトツール・知識ベース、やさしい理解、教材、実践、解決成果、効用」などを備えているべきものである。

そのような方法を確立するための (外形的に見た) 活動は、円の周りに記述したようである。ただし、この図の記述はやや従来の狭い考え (「TRIZ」の推進という考え) に止まっていると思われる。

・ 「方法の開発」の項が、第一段の課題に対する直接的な (中心的な) 手段である。それは (TRIZの) 研究者や開発者が個々に (あるいは組織的に) 実施するべきものであろう。この中に、TRIZ以外の方法との積極的な融合・統合の活動が必要であろう。

・ この直接的な手段の他に、「方法の開発」を促進するためにするべき活動がいろいろある。その中で特に重要なのは、「適用・推進の実践」である。われわれが確立したい方法は、単なる理論ではなく、実際的、実践的な方法であるから、実地の適用を試みる中で方法自体をよくしていくことが必要である。

・ 「海外との協力」は、確立しようとする「方法」を本当に実効があるもの、「創造的な解決を与えるもの」にするために必要なことである。海外の研究者、開発者の協力を得、彼らの成果の利用が必要であり、また、そのようなものを得るためにも日本から海外への協力が必要になる。

・ 「学会・研究会の開催」および「情報の交換・交流」は、方法の開発者と適用実践者の多くの間での協力関係、相互の刺激・啓発のために必要なことである。いろいろな人 (や組織) が孤立した状態では、「方法の確立」を活発に行うことは困難である。

・ 「TRIZの成果の発信」、「TRIZの教育・普及」は、第一段の位置づけでいえば、「方法の確立」の「成果」を公表することである。そのよう成果の公表は、「方法の確立」の目標であり、同時に「方法の確立」の達成度合いを判断する材料になる。

・ なお、これらの第一段のための実現手段、そしてその実現のための活動が、第二段の「方法の広範な普及」の実現手段および実現のための活動になっている。「適用・推進の実践」は普及活動の中核であり、「学会・研究会の開催」、「情報の交換・交流」、「TRIZの成果の発信」、「TRIZの教育・普及」などはすべて、第二段の活動であるとも言える。

・ 上記の意味で、全体目標の中の第一段「方法の確立」と第二段「方法の広範な普及」とは、相互に連携し合い、補い合って進むべきものである。

5.3 「創造的な問題解決/課題達成の方法」として確立すべき中身

ここでもう一歩議論を進めて、われわれが確立したい「方法」とはどんなものか、どんな役割をすべきもので、どんなことをするための方法だろうか、について考えよう。

いままででももちろん、そのようなことは考えてきた。ただ、往々にして、既存のTRIZ(あるいはその他の方法 (VEとかQFDとか思考展開図とか)) をベースにして、それを拡張・発展させるという考え方をすることが多かった。ここでは、もう少し大きな視野から、5.1節の全体目標でいう「創造的な問題解決/課題達成の方法」の、位置づけと持つべき内容的な要素について考察したい。そのベースとして使えるのは、3.10節のモデル(j) である。

つぎの図(C5) は、「創造的な問題解決/課題達成の方法」について、その内容面からのあるべき姿を図示したものであり、ここではまず「技術分野」に集中して記述している。「技術分野」に限定しているのは、従来のTRIZの適用分野の中核が技術分野であり、その技法が蓄積している知識ベースにしても、分析や解決策生成などの技法にしても、技術分野を中心にしているからである。われわれが確立しようとしている「創造的な問題解決/課題達成の方法」は、このTRIZを基礎にして、それの発展形と考えられるので、やはり中核となる適用分野は広い意味の「技術分野」である。

この図の左端には、この方法を使うための前提となること、すなわち、この方法の技術分野での位置づけ、この方法を適用する前段階でするべきこと/できているとよいこと、この方法の使用の目的などを記述している。図の中央が、この方法の中身、すなわち、この方法自体が行うことである。中央下部には、この方法が備えているべきもの (ドキュメント類、方法、研修機会など) を記述している。また右端には、この方法を適用した後でするべきこと/できるとよいことを記述している。

この方法としてするべきことは、基本的につぎの5項目である。

・ 「問題を捉える」: 問題を体系的に、広い視野で捉える。目的・課題を考えることをも含む。さらに、焦点を絞る (明確にする)。

・ 「現在のシステムを理解する」: 現在のシステムのメカニズムを理解し、問題点とその根本原因を考える。メカニズムの理解には、機能と属性の考え方、空間と時間の特性を考える考え方を用いるとよい。問題の根本原因の理解からさらに進んで、問題の中の (あるいは課題を達成するための従来方法の中の) 矛盾を明確にするとよい。また、この問題/課題に関連した既知の技術、さらに他分野での類似の問題/課題に対して知られている技術などを参照できるとよい。

・ 「理想をイメージする」: これは、問題解決の場合にも、課題達成の場合にもするべきことであり、理想の状態、理想のシステム、理想のシステムの振る舞いなどを、イメージする。またこのために、TRIZでいう理想性の向上の概念や、技術の進化の方向の知識が有用であろう。

・ 「アイデアを生成する」: ここでいうアイデアとは、後の解決策の核になる (可能性がある) ものであり、まだ断片的で要素的なものである。そのアイデアを導くための技法や、ヒント集といったものがあることが必要である。さまざまなアイデアを網羅的に導出する/できることが必要である。また、矛盾を解決できるアイデアを導出できることが大事であり、この点ではTRIZの技法の蓄積がある。さらに、アイデアのうちの優れたものを識別する (判断する) ことができなければならない。

・ 「解決策を構築する」: 上記のアイデアを元にして、それを発展させて、いままでの技術を改良したり、あるいは新しい技術を創り上げたりする。このために、アイデアを具体化して、新しい解決策の基本的な設計をして、それが実際にうまく動くだろうレベルにまで煮詰める必要がある。このとき、他の分野の優れた技術を参考にする (技術の知識ベースを使う) ことも有効である。新しい案にはしばしば二次的な問題が発生するから、それらをも解決していく必要がある。新しい解決策を評価し、特に優れた解決策を識別する/できることが大事である。

・ 「全体プロセス」: 以上の5項目が、「創造的な問題解決/課題達成の方法」の基本的な要素であるが、これらをどのように取り入れ (取捨選択し) 、全体としてどのように構成するかが大事なことである。一貫した全体プロセスで、諸要素を取り入れて複合したもの、がまず考えられることである。この場合に、できるだけ方法の重複を避け、それでいて確実な問題解決/課題達成ができるような、全体プロセスが望まれる。またそのエッセンスを取り出して構成した、簡易プロセスも実際の適用のためには大事である。また、特定のタイプの問題/課題に適した「特殊化プロセス」も意味がある。

以上の内容を見ると、その多くはすでにTRIZ/USITの中にできていると判断される。今後、どのような目的に使うどのような方法を開発するとよいのか、よく考えるとよい。

つぎに、「非技術の分野」のための「創造的な問題解決/課題達成の方法」について、その中身を考える。ここで考える対象分野は、人間、組織、ビジネス、社会、経済、政治、教育、などを含み、「純粋な技術問題/課題以外のすべて」と解釈すべきものであろう。その特徴は、「人間の心」や「人間関係」などに起因して、非常に微妙で多様性があり、単純なメカニズムでは割り切れないことであろう。また、多くの問題/課題において、一つ一つの解決策に対して関係者間で利害判断・価値判断が分かれ、評価が分かれることが多いことである。それらの評価の違いは、多くの問題で永年の意見対立を生み、問題をこじれさせて、さらに難しくしている場合が多い。

このような包括的な問題領域でわれわれが追求しようとする「創造的な問題解決/課題達成の方法」は、まだまだ不明確というべきである。「技術分野」での方法のモデル(C5) をベースに調整して、「非技術分野」での「創造的な問題解決/課題達成の方法」の中身を記述することを試みたのが、つぎの図(C6) である。

この図では、われわれが確立すべき方法の「大きな枠組みは、技術分野と非技術分野とでかわらない」と考えている。その上で、内部のいろいろなところを調整している。以下には調整した部分を「 」で示すことにする。

・ 問題を捉える: 問題を「広い視野で」体系的に捉える、目的・課題・「ビジョン」を考える、「広い視野で」「複数視点で」考える、焦点を絞る、「段階的に考える」。

・ 現在システムを理解する: 問題点と根本原因を理解する、現システムのメカニズムを理解する、「組織や人」の「働きや性質」を理解する、空間と時間の特性を理解する (注: 国の違いや歴史の特徴などをも含む)、困難・矛盾の明確化、既知の「諸事例」を吟味する、「他国、他社、他分野などで」の類似課題を知る。

・ 理想「とビジョン」をイメージする: 理想をイメージする思考法、「ビジョンを掲げる」、「発展の方向と目標」を考える。

・ アイデアを生成する: アイデア生成のオペレータ、アイデア生成のヒント集、「対立・」矛盾を解決するアイデア、アイデアを網羅する、優れたアイデアを識別する。

・ 解決策を構築する: アイデアを膨らませる、アイデアを取り込んだ改良案、新しい解決策を設計する、「他国・」他分野の優れた方法を取り入れる、二次的問題を解決する、優れた解決策を識別・評価する。

・ 全体プロセス: 複合一貫プロセス、簡易プロセス、「用途別」プロセス。

5.4 全体目標の第三段階: 「国全体のさまざまな領域での問題解決/課題達成に適用する」

この段階について、現在見通せることはあまり多くない。図(C7) を示す。

この図は、図(C2) で、われわれが取り組むべき「重点領域」を青色楕円で示し、ついで発展するべき領域を水色楕円で示している。その他の領域は、影響を及ぼすべき領域であるが、まだまた先のことであると想定している。

「重点領域」(青色楕円):
     (学界・大学において): 創造的思考、問題解決能力の養成、工学教育の基礎
     (教育において): 創造性の教育
     (社会において): 社会人における問題解決力と柔軟性、
     (マスコミ・出版において): TRIZの紹介・出版、TRIZの啓蒙普及活動
     (産業において): 製造業での課題達成、知的財産の強化

「発展領域」(水色楕円):
     (社会において): 社会における諸課題の達成
     (産業において): 農林水産業での課題達成、サービス業での課題達成
     (国と地方において): 諸課題へのTRIZの適用

実際には、個別の具体的なチャンスをつかまえて、試行し拡張していく。これを地道にやること。この適用の拡張と、中身の確立とは互いに補い合いながら発展させていくべきものである。

以上、5節で、われわれの方向づけ、全体目標、確立すべき方法の中身、確立と普及のための活動のしかたの概要が明確になった。つぎに、6節では、初心者、若い人たちがいう典型的な問題をいくつかとりあげて、それを掘り下げて、具体的な解決策を考える作業をしよう。[6節未完] (2012. 5.12)


 

   (A) モデルの原図  (32枚)    PDF  (382 KB)

   (B) 文章化資料  (22頁)    PDF (1.1 MB)

 

本ページの先頭 1.問題意識 2. 複数のモデル 3.モデルで明確になったこと 4.日本のTRIZ活動 5. 方向付け 原図資料 (PDF) 文章化資料(PDF) 「解題」ページ 英文ページ (「解題」ページ)

 

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最終更新日 : 2012.12. 5     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp