TRIZ 解説

「階層化TRIZアルゴリズム」とその発展

Larry Ball (Honeywell、米国)、2014年6月15日
和訳: 中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授)

著者序文、日本語版『階層化TRIZアルゴリズム』
(Larry Ball 著、高原利生・中川徹訳、クレプス研究所、2014年6月刊)

掲載:2014. 6.30

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編集ノート (中川 徹、2014年6月25日)

別ページに案内しておりますように、このたび、Larry Ball著『階層化TRIZアルゴリズム』の日本語版(高原利生・中川徹訳、クレプス研究所、2014年6月30日刊)を出版いたしました。

ここに掲載しますのは、著者Larry Ballさんから新たにいただきました Preface (序文) です。訳書への序文は通常は1〜3頁程度のものでしょうが、今回は7頁にわたるもので、著書の趣旨をその後の発展をも含めてきちんと紹介・解説したものです。出版案内中に埋もれてしまうのはもったいないと考え、ここに独立した解説のページとして掲載させていただきました。

Larry Ball の「階層化TRIZアルゴリズム」という考え(思想・方法・教材)は、1992年以来同氏が世界のTRIZリーダたちの考えを学び、独自に整理し直して、製品開発・市場開発の観点から一貫した方法の体系として構築してきたもので、「現代化したTRIZ」の素晴らしい方法です。そのTRIZ教科書は、イラストをふんだんに使った、分かりやすいものです。

本サイト『TRIZホームページ』では、『階層化TRIZアルゴリズム』(2005〜2006年原著発表)の和訳掲載(高原・中川訳、2006〜2007年)を行い、TRIZシンポジウム(2007年)での同氏の基調講演の講演録 を掲載しました。今回の紹介を読みますと、大部な教材から次第にそのエッセンスが明確になり、分かりやすく表現されてきていると感じます。著者が言う「階層化」とは何なのか、ぜひ読み取っていただきたいと思います。

 

目次

本書の系図
本書の目的
決定の階層構造
解決策の分岐
本書 [のシリーズ] を最大限に活用する方法
簡単さへの目標

 

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 TRIZ解説  

「階層化TRIZアルゴリズム」とその発展

Larry Ball (Honeywell、米国)、2014年6月15日

和訳: 中川  徹 (大阪学院大学)

著者序文、日本語版『階層化TRIZアルゴリズム』(Larry Ball 著、高原利生・中川徹訳、クレプス研究所、2014年6月刊)

 

本書の系図

 [本書の本体部である] 『階層化TRIZアルゴリズム(Hierarchical TRIZ Algorithms)』は、その後にも発展して、その最新版は (英文で) 『TRIZ Power Tools』としてインターネット上に無償で掲載している。URL: http://www.opensourcetriz.com/  

この本のシリーズの最初は、1990年代の初めで、ARIZ [TRIZの (総合的な) アルゴリズム] の一つのバージョンの形であった。だんだん多くのTRIZの本を私が学び、TRIZ研究者たちが追加のツールを発表してきたのに応じて、私のこのアルゴリズムも大きくなってきた。やがて、1990年代半ばまでには、それは一冊の本になった。学生たち [研修者たち] が一つのまとまったアルゴリズムを強く求めたので、私はそれを創りだし、数年にわたって使った。やがて、2003年にこれを『Breakthrough Thinking with TRIZ』として出版した。その名前は後日『Breakthrough Inventing with TRIZ』と改めた。その理由は、「Breakthrough Thinking」という用語を他の人がすでに使っていたからである。

そのアルゴリズムの洗練と改訂をさらに続けて、新しい本を『階層化TRIZアルゴリズム(Hierarchical TRIZ Algorithms)』として[2005年に] 出版した。さらに改良して、それは『Hierarchical Innovation Algorithms』になった。

発明者たちはいくつかの異なるタイプの仕事をしており、それぞれに核になるツール群を使っていることが認識された。そこで、『Hierarchical Innovation Algorithms』を複数の本に分割して、それぞれがこれらの仕事に対応するようにすることを決めた。このようにして『TRIZ Power Tools (TRIZ パワーツール集)』のシリーズがつくられ、各タイプの仕事に一冊の本が対応するようにした。各冊は自立したものを意図しており、その結果、各本のいろいろな章はその他の冊でも繰り返されている。

ついにまた、本全体が (特に初心者にとって) 重くなりすぎてしまった、といま私は認識している。

本書の目的

『階層化TRIZアルゴリズム(Hierarchical TRIZ Algorithms)』はTRIZの他の大部分の本とは異なる目的を持っている。

歴史的な観点からいって、TRIZの創造は極めて重要なことであった。「一つの新しいタイプの科学」が誕生したのである。イノベーションを専門対象とする科学である。この科学分野を勇敢に推し進めた人々はしばしば大きな犠牲を払わざるをえなかったのであり、彼らはその成果に大きな誇りを持つに値する。その人々と彼らが創った理論は実に特筆すべきものである。

初期の開発者たちは、発明的な [発明を要するような] 問題を解決するためのいくつもの競合するモデルをつくった。それらのモデルは発明的問題のさまざまなタイプを明確に区別しなかったので、互いに重複するものができた。初心者の観点では、これは混乱させるものであった。「私はどこから始めればよいのか?」と。

一部の実践者たちの観点では、重複しているのはよいことであり、一つの問題をさまざまに異なる観点から見ることができるようになる。実際、同じ質問をさまざまに異なるしかたで尋ねることができる。そのような、重複を好んでいる実践者たちは通常、彼ら独自のアルゴリズムを作っていて、すべてのものを活用する方法を見つけている。

科学を改良するという観点からは、重複は混沌と混乱を意味する。科学は、予測することを目的として、いろいろなパターンを見つけて活用する。それらのパターンが重複しているときには、何か欠けたものがあるのかどうか、また新しい情報をどう扱えばよいのかを言うことが難しくなる。諸パターンははっきり区別され、明確な線で定義・分類されている必要がある。これは予測可能な理論を一般化するために必要なことである。理論が現実とどのように対応するかを観察することによって科学は進歩する。支持する観察結果があれば理論が強化され組み立てられていく。例外は不協和音を作りだし、理論が変わることを許す。

もしわれわれが発明の科学とその分野を発展させたいと望むなら、われわれは重複を消去する必要がある。では、どのようにしてそれをするのか?想像してみるがよい。われわれは、古典的なTRIZのすべてのツールを、他の重要なマーケッティングやイノベーションプロセスとともに取り上げて、それらを多数の個々のツールに分解してしまう。ついで、一つ一つのツールを取り上げて、「これはどのようなタイプの問題を解決するのを助けるのか?」と問うてみる。諸ツールをいくつかの山に積み上げ、それぞれの山にあるツールは同じタイプの問題に関連しているようにする。もし一つの山が大きくなりすぎたなら、そのツール群が解決を助ける問題のタイプを細分化し、新しい複数の山を作る。われわれは、これらの山を繰り返し繰り返しチェックして、それぞれ一つの山の中にあるツールはすべて同じ種類の問題を扱い、またそれらの山の間の区別が明確であるようにする。

下記の図に、ツールの山の例を示す。ただしこの例では、すべての山を網羅しているわけでないし、特別な順序に並べたわけでもない。

古典的な [TRIZの] 諸方法を他のイノベーションやマーケッティングのツールとともに、分解して、明確に区別されたさまざまに異なる山に分類した作業は、新しいパターンが出現することを許す。

決定の階層構造

ここまでで、われわれはいわば「発明家の作業場」を創り出したといえる。各グループのツールがそれぞれの山に置かれていて、さまざまな発明的な仕事に取り組む準備ができている。しかし、あるツールをいつ使うべきなのか?どんな順序で諸ツールを使うべきなのか?をわれわれはどのようにして知るのだろうか?

一つの仕事を実行するときはいつでも、諸活動(その中でツールを使う)をある最適な順序で実施しなければならない。そうでなければごちゃごちゃになってしまう。一つの活動を行うと、通常他のいくつかの活動を行うことの「準備になる」。例えば、農夫は、種を撒く前に、土をほぐし、地面を平らにして、準備する。もしこの順序を逆にしたら何が起こるかを考えてみよ。わずかの種しか芽を出さず、実りのある植物にならないだろう。

発明者や問題解決者の仕事は、発明的な決定を行う目的で、アイデアやコンセプトを操作することである。農夫が地面を耕して種を撒く準備をするのと同じように、「一つの発明的な課題 (タスク) を実施 (達成)することは、他の発明的な課題のための必要な情報を創り出す」。もしわれわれがこれらの課題を、順序を違えて実施するなら、われわれは何らかのものを「仮定しなければならない」。仮定は、パラダイム [枠組み、固定観念] だ、と覚えておいてほしい。仮定は、発明 [を妨げる] 慣性である。もしわれわれがこれらのパラダイム [固定観念] から逃れる必要があるなら、われわれは発明的課題を実施する「前」に必要な情報を生成しなければならない。これによってパラダイム [固定観念] を破る発明的プロセスを管理することができるようになる。

ここで「決定の階層構造」を提案する。それは、「ある種の決定や仮定が、不可避的に他のもの (決定や仮定) に先行しなければならない」と宣言する。われわれはこれを知っている。なぜなら、階層構造の任意のレベルでの一つの変更は、それ以下のすべてのレベルに影響を与える。逆に、任意の一つのレベルの変更は、それ以前の (以上の) 諸レベルにおける変更を必要としない。

以下に、その「決定の階層構造」を示す。

1. [扱う] マーケット (「ある種の状況で一つの仕事を実施しようとしている一群の人々」 として定義される)

2. (優先順序をつけた) マーケットでの障害 (マーケットの目から見て、その仕事をうまく行うことを妨げているもの)

3. われわれのシステムが実行するだろう機能 (その仕事の中で、マーケットの障害・バリアを克服するための機能)

4. ビジネスモデル (そのビジネスがどのようにして金を儲け、目標とするマーケットの仕事を持続させるかのモデル)

5. 上位レベルでの要求 (マーケットの障害を克服し、ビジネスとして金を儲けるために、われわれのシステムがどのようにうまく機能を実行するべきかの要求)

6. その要求を提供するだろう機能(オブジェクトを含む) -- 各機能に対して、以下のものを、この順序で、決定する必要がある。

1. 「変更」されるべきオブジェクト
2. オブジェクトへの「変更」
3. その「変更」を提供するのに使う物理現象
4. その物理現象を提供するだろうオブジェクト

7. 図式的 (あるいは類比的) な表現  (システムオブジェクトについての)

8. 適切なモデル (基本的な関係を記述するもの、数式表現など)

9. 主要なオブジェクトの属性 (ノブ[属性] とその値で、さまざまな実施要求を満たすために必要なもの。これらのノブはモデルからやってくる。)

10. 主要なオブジェクトの属性 (ノブ) の空間・時間などにおける分布 (矛盾の解決) 

11. 工学的な図面 (クリティカルな構造や寸法を図式的に表現したもの)

注意すべきは、この階層構造の各 [レベルでの] 決定が、それ以前のレベルでなされた決定から導かれる情報に依存していることである。例えば、主要オブジェクトのパラメータを知ることは、システムにどんなオブジェクトが存在するのかを決定する以前には、不可能である。この中のどれかのレベルが、[それ以前のレベルを跳ばし、その結果] 何らかの重要な仮定を早すぎる段階でしてしまわないでも、実施できるかどうかを、読者自身で確認いただきたい。

この「決定の階層構造」が正しいなら、イノベーションのプロセスはこの階層構造を運用することだとみなせる。大部分の会社が新製品をマーケットに出すときのやり方を考えてみよ。この階層構造がほとんど守られていないことに気がつく。あまりにも早すぎる段階で鍵になることが仮定されている。

例えば、非常に典型的なのは、だれかが一つの製品のための一つのアイデアを思いつき、そのアイデアを開発するための予算を要求する。この「一つの製品について思いつく」というのが、階層構造のどのレベルに位置するのかに注意されたい。その製品は通常、アイデアの図式的な表現で示される。この製品のアイデアを思いつくために仮定されたことのすべてを考えてみよ。ターゲットにするマーケットは何か?彼らのニーズは何か?沢山のものが仮定されている。そのアイデアにひとたび予算がつくと、それは仕上げに回される。

なぜこのようなことが起こり、なぜそれが良い考えでないのかを理解するために、その根底にあるビジネスの仮定を見てみよう。第一は、「もっとも注意深く定義された製品は、リスクが最も低い」という仮定である。ときには技術者が一つのアイデアの完全な図面を描いてきて見せるだろう。工学的な作業がもうすでになされているのだから、今後の工学的な作業に必要な予算はより少なくて済むだろう。われわれが失敗することなどあろうか?-- これに対する答えは、統計で明らかである。最高の会社においてさえ、新製品や改良製品の失敗率は非常に高い。完全な工学的図面として提示されたアイデアの多くがこの落し穴に陥る。注意深く準備したアイデアでも、マーケットのニーズをサポートしていないものは、まだ一つの不安の種なのだ。

経験が示しているのは、マーケットのニーズを最初に考慮し、学習的アプローチ (すなわち、ビジネスモデルを完全に実装する前に、すべての重要な仮定を検証するアプローチ) を採用すると、失敗率が劇的に減少することである。これは研究のアプローチを構築しなおして、「製品開発に予算をつけるアプローチ」から、「マーケット開発に予算をつけるアプローチ」に変えることを要求する。この再構築は極めて破壊的であり、最初はより危険が多いと見えるかもしれない。それがリスキー(危険)に見えるのは、われわれがマーケットのデータから予測を立てる必要があるからだろう。しかし、それの代替は、技術者たちに、彼らが実際にはそのマーケットの代表的なメンバーでないにもかかわらず、マーケットのニーズを仮定させることだ、ということを銘記する必要がある。すぐに作れる工学的な図面を持っていることが、良いマーケットデータを持っていることの代わりになるわけでない。マーケット開発に予算をつけるという、このいわゆる「リスキーな」アプローチは、Proctor & Gamble およびその他の賞賛されている企業によって、使われている。マーケットを開発するとき、われわれは「作れるものを売る」のではなく、「売れるものを作る」という理想に近づく。

より高いレベルでのイノベーションは、新しいマーケットに到達するための新しいビジネスモデルを導入する必要を創り出すことがしばしばある。これは通常、混乱を避けるために、新しいビジネスを創生することを要求する。新しいビジネスモデルを必要としないその他のイノベーションでもまた、ビジネスにとって破壊的なことがある。歴史が示しているのは、障害を跳び越えることができる企業が、継続的な競争優位性を持つ傾向があることである。その理由は、競合他社もまた、追いつくためにはその障害を跳び越えなければならないことを見出すだろうからである。このことはまた、より新しいベンチャーの方が、より高いレベルでのイノベーションを起こす自由さを持っていることを、説明する。ビジネスモデルをこれからまだ確立する段階だからである。

理論の改良が有益だろうと期待される。その改良はもうすでに起こっていると、われわれは信じている。本書 [のシリーズ] には、古典的TRIZでは利用できなかった、新しいツールが多数提示されていることに、あなたは気がつくだろう。

解決策の分岐

階層構造の各レベルにおいて、後続レベル (下位レベル) で必要になる情報を創出するが、それぞれのレベルで生成されるアイデアがただ一つに限られるわけでない。その結果、問題解決のプロセスは各レベルで複数のパスに枝分かれすることができる。それは複数のコンセプト (概念) に導く。

また、各レベルで生成されたアイデアがすべてうまくいくわけでもない。ある一つの解決策のパスがうまくいくようにするには、多くの制約を満足しなければならない。ときには、適当なノブを回し [すなわちパラメータの値を調節し]、あるいは辛うじて潜り込ませて、これらの制約を満足させる。そのようなシステムはより「壊れやすく」、[前提した] すべてのものがうまくいくことに依存してしまう。よりよい方法は、「矛盾を解決する」ことによって制約を満足させることである。これは、解決策パスに、より多くの自由度を与え、したたかさを与える。それにもかかわらず、少数の矛盾を未解決のまま残し、適当なところではシステムの最適化を図るという傾向がある。かくて、それぞれの解決策のパスは、他の解決策パスとは独立に進化する。言い換えると、各パスはそれぞれ、ある程度統合され、首尾一貫したものになる。

コンセプト進化のプロセスは、階層構造の各段階を、いくらかオープンのままにして改良の余地を残すことによって、この利点を活用している。一つのレベルでの柔軟性の改良は、他のレベルにも伝搬する。このようにして、複数の解決策ブランチが、情報を共有しつつも互いに独立に進化することができる。

本書 [のシリーズ] を最大限に活用する方法

本書はTRIZの「使い方」の本である。もしあなたが本書を所有しているなら、それはあなたがTRIZについてより一層熟練したいと望んでいるからであろう。スキルを持つことが目標 (ゴール) であり、それには、よいツール群を持ち、各ツールの適切な使い方と使うべき時を知っていることが必須である。

本書を、あなたが繰り返し立ち戻ってくる参考書と考えるのがよい。それは「発明と問題解決のアルゴリズム」の本である。これらのアルゴリズムは、ステップ集として提示してあり、各ステップはそれ以前のステップから集められた不可欠な情報の上に構築されている。

各ステップを階層的にどんどん詳細に分解していくことができ、それはユーザの問題解決のスキルに依存し、問題解決者がどれだけのリスクを喜んで受け入れるかに依存する。言い換えると、「このアルゴリズムは、ユーザの要求に応じて、どれだけでも詳細になり、あるいは簡単になることができる」。これによって、初心者でも、上級者でも、すべての習得レベルで自己研鑽に使うことができる。

[『TRIZ Power Tools』シリーズの] いくつかの本には、凝縮した形の概略アルゴリズムを載せている。この概略シートには、凝縮した形式ですべての必要な情報を載せている。もしそのステップのより深い知識を必要としたら、対応する本を参照するとよい。

アルゴリズムを繰り返し使うことが必要だから、アルゴリズムのさまざまなレベル (ステップ) にジャンプする方法を知っていると役に立つ。画面の左のしおり (ブックマーク) を使って本のあちこちに行くことができる。見出しをクリックすると、アルゴリズムのその点に飛ぶ。概略シートもまたアルゴリズムを与えている。

プロセスの動作をより単純に保つように、アルゴリズムの一ステップずつだけを展開してみるのがよい。各ステップは、さらに詳細に、さらに深いレベルで見ることができる。あなたが必要と感じる深さにだけアルゴリズムに入っていくのがよい。

階層構造の最上位のレベルは、[『TRIZ Power Tools』シリーズの] 6冊の本のタイトルで分かる。各タイトルは、イノベータたちが行う一つの仕事を表しており、適用する自然な順番に並べてある。それぞれの仕事は先行する仕事から得られる情報の上に築かれていることに注意されたい。もしあなたが各本のタイトル以外には何も知っていなかったなら、下記の各本のタイトルに関してブレーンストーミングをして、この階層構造のトップレベルを使うことができよう。

仕事1: マーケットを発見する -- あなたが目標とするマーケットはどんな人たちだろうか?

仕事2: 取り柄 (売りもの) を選ぶ -- 目標のマーケットを興奮させるような要求仕様

仕事3: プロトタイプを作る -- あなたの基本的な提供物の構造を創造する

仕事4: 単純化する -- あなたの提供物をより単純にする方法を見つける

仕事5: 問題を解決する -- 提供物の欠点を取り除く方法を見つける

これらの仕事のそれぞれをさらに個々の操作に分解して、それらの操作のために設計された多様な発明的問題解決ツールの使い方を示すこともできる。この階層構造のさまざまに異なるレベルを使用することは、例えて言えば、岩石収集家と探鉱家と鉱山家の違いのようなものだ。

岩石収集家は詳細さが最も少ないレベルで作業する。一つの貴重な原石を家に持って帰ることだけが大事なのである。大部分の岩石収集の初心者たちはこのレベルからスタートする。そして、そのような初心者にとっては、この簡単だがエキサイティングな課題を実行することが、まったく適切なことである。

岩石収集家の一部には、岩石や鉱物を集めるその他の理由を見つけ始めるだろう。有望な鉱脈の所在を明らかにし、それを売れば、きっといくらかのお金を儲けられるだろう。それをするためには、岩石収集家のスキルを越えることが必要になる。探鉱家は地形を見、岩石の組成を見る。そして、もっと多くの情報を取り出すために、小規模な地下探査を実施する。このレベルの活動で探鉱家にとっては全く十分であろう。多数の事例で、探鉱家は比較的小規模な探索で巨大な富を得る可能性がある。

もしある人が地下からその鉱物を取り出すことに特別な関心を持ったとしたら、探鉱家のツールや知識を越えることが必要になるだろう。その探鉱家は鉱山家に転身して、その探しているものを見つけるために、より深く進み、より高度なツールを使うことになる。

これらの三者のレベル (すなわち、[この譬えの] 岩石収集家、探鉱家、および鉱山家のレベル) のそれぞれを、あなたがTRIZで自分を鍛えれば、実現できるだろう。これらのアルゴリズムの各ユーザは、自分がその次のレベルに進む必要があるときを、自ずから判断できるものだと、われわれは保証する。

TRIZであなた自身を鍛えることは、あなたの楽しみでもあり、仕事でもある。優れたスポーツマンならだれでも、成功の喜びは非常なハードワークの後に来るものだと、知っている。大部分のワークはアルゴリズムを繰り返し使うことであり、それが最も強力な思考ツール群を自動的・無意識的に適用することを身に着けさせる。そしてやがて、脳がイノベーション向きに結線される。

簡単さへの目標

ツール群が豊かになるにつれて、理解すべきことが沢山あることが明らかになる。個々のステップをできるだけ簡単にすることが、この教材の一つの目標である。

簡単な用語:

多くの専門分野と同様に、TRIZの用語はしばしば学ぶのが難しい。一つの目標は、用語を、学生たちがすでによく馴染んでいる概念に適合させることである。例えば、[TRIZの] 古典的な用語「ダイナミック化」を「調節可能にする」と変え、「局所的性質」を「非均質」に変えた。ある程度の量の新しい用語の導入は避けることができないので、それらの導入は高度なレベルで行うように注意を払った。

より小さいステップ:

初心者はたいてい、TRIZの文献中に提示されている、一見「自明な」最終解決策に戸惑ってしまう。それらの解決策の多数は、事後になって [分かって] 初めて自明なもので、直感における大きなジャンプを示している。TRIZ教師の一部の人たちは、このような大きなジャンプはTRIZの強力さの証であると思い、それらを学生たちに印象づけようと試みるだろう。不幸にも、多くの初心者たちは、そのような解決策が自分たちにはそんなに自明でないことに、がっかりしてしまう。本書の問題解決プロセスの一つの目標は、ステップサイズを小さくして、少数の大きなジャンプでなく、(多) 数個のより小さなステップによる結果として解決策が得られるようにすることである。

視覚化:

「より小さなステップ」の概念とともに、「解決策が現実のものになるには、視覚化される必要がある」という考えが [本書のプロセスの根底に] ある。各ステップはユーザが解決策の最終的な形を心に思い描くのを助けるべきである。古典的TRIZの諸ステップを [詳細に] 展開すると、そのエレガントさやコンパクトさが犠牲になると感じる人たちがあるかもしれない。しかし、われわれのゴールは解決策を思い描く [可視化する] のをより容易にすることである。

解決策の完全さ:

「解決策」という用語は、さまざまな人々にとってさまざまに異なったものを意味する。本書においては、「解決策」を、「一つのスケッチで、だれかがそれを使ってハードウエア [具体的な物] を設計できるようなもの」と定義する。困難な矛盾や問題が解決されずに残っていてはいけない。この文脈から言うと、ある問題を解決するのに使えるだろう一つの物理現象を指摘しただけでは、「一つの解決策」とはみなされない。解決すべき困難なことが不可避的に残っているだろうから。

 

私がTRIZを教えてきた経験によると、[TRIZを真剣に使うひとびとはたいてい、彼ら自身のアルゴリズムを創り出す必要があった」ことを私は認識した。最初、このことは私を悩ませた。しかしやがて、それがひとびとの [自然な] やり方なのだと私は理解し、その流れに任せた。私は現在、「ひとびとが問題解決やイノベーションについての彼ら自身のやり方を新しくしていくのを助ける機会」を作っているのが、私が教えている意義だと理解している。

読者の皆さんが、本書のアルゴリズムを、問題解決のための皆さん自身の一人一人の方法に取り込んでいくとよい素材なのだと、理解してくださることを私は切に願います。

 

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最終更新日 : 2014. 6.30    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp