TRIZ 論文

簡単なTRIZ的価値評価方法の提案
−高齢者の新しいライフスタイルの提案を例として(その1)―

長谷川公彦、竹内 望、片岡敏光、永瀬徳美、鈴木 茂、正木敏明、石原弘嗣、西井貞男 (日本TRIZ協会・知財創造研究分科会)

第10回 日本TRIZシンポジウム、2014年 9月11日〜 12日、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)

掲載:2015. 3.27

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編集ノート (中川 徹、2015年 3月 3日)

本稿は、昨年の第10回日本TRIZシンポジウム2014で発表されたものです。私は、このシンポジウムの参加報告({Personal Report」)で、本発表をつぎのように紹介しました。

この発表は(Abstractによれば)、数年にわたり継続的に活動してきたTRIZ協会の知財創造研究分科会が、今後の活動について「いつも気になっていること」というテーマで自由討論した結果生まれた、新しい活動テーマであるという。

それは、テーマの目的を議論した結果、上位目的(ビジョン)として、「高齢者とその関係者が幸せな生活を送る」と設定し、目標(ゴール)として、「高齢者が自分の問題と他人の問題を解決する」とした。もっと具体的には、「定年を迎えた研究者・技術者が生きがいを持った生活を送りたい」という問題意識に、「自分のビジョンを実現する目的のために、自分の問題と他人の問題を解決する」という解決策を作り出していこうとしている。そのような「高齢者の新しいライフスタイル」を提案し、そのためのいろいろな考え方を整理し、実現のための環境を整える活動を提案していこうと考えている。

-- 日本社会にとって、また高齢になりつつある多くの技術者、特にTRIZ実践者の多くにとって、大事なテーマであり、アプローチであると思う。今後の活動が期待される。
なお、このテーマでの活動を主に考えると、本発表の題名は、主題と副題を逆にした方が分かりやすいと思う。

本ページには、(著者から提供いただきました)概要説明(5月のシンポジウム発表申込段階でのA4 2枚の説明)のHTML版とPDF版発表スライドの画像HTML版を掲載します(PDF版はTRIZ協会ホームページにリンクします)。英文スライドはTRIZ協会による英訳ですので、協会サイトへのリンクを張り、英文ページは編集ノートと概要だけの簡単なものにしています。

 

 

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簡単なTRIZ的価値評価方法の提案
−高齢者の新しいライフスタイルの提案を例として(その1)―

長谷川公彦、竹内 望、片岡敏光、永瀬徳美、鈴木 茂、正木敏明、石原弘嗣、西井貞男
(日本TRIZ協会・知財創造研究分科会)

2014年9月11日

第10回 日本TRIZシンポジウム、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)

 

概要 

「高齢者の新しいライフスタイルを提案する」ことに複数年をかけて取り組む研究テーマとして決定した経緯を述べることで、漠然とした問題意識に基づいて新たな問題を発見する方法を提案する。具体的には、
    (1)「SWOT分析」による対象システムの問題の要因の明確化、
    (2)「クロスSWOT分析」による4つの場面における対応策の検討、
    (3)「目的展開」による研究テーマのビジョンとしての「あるべき姿」と焦点となる目標の決定、
を実施した。
その結果、ビジョンとして「高齢者とその関係者が幸せな生活を送る」、目標として「高齢者が自分の問題と他人の問題を解決する」を決定し、目標実現のために「高齢者が自分の好きなこと得意なことを再認識する」ことから着手することを明らかにした。

さらに、問題解決者である高齢者本人が問題を解決した結果の価値評価が行えるために、エンジニアリング分野のエレガンス性とTRIZの理想性とを組み合わせた「局所的理想性」という評価基準を提案し、具体的な評価事例を報告する。

 

内容説明

1.はじめに

今回のテーマは漠然とした問題意識に基づいた問題の発見から問題の解決までの進め方についての提案という見方もできる。その要領は以下のとおりである。

まず、知財創造研究分科会のメンバーが普段気になっていることについて自由討論をした結果、高齢者に関する問題を取り上げることとなった。

そこで、当事者である高齢者に関して現在どのような問題が存在しているかを発見するために、マーケティング分野で使用されているSWOT分析を行った。

次に、SWOT分析によって発見された対象者の要因と環境の要因との組み合わせを想定し、それぞれの場面での対応策をクロスSWOT分析によって検討した。

最後に、クロスSWOT分析の結果得られた対応策を「目的展開」で整理し、今回の副題である「高齢者の新しいライフスタイルの提案」について複数年かけて取り組むことを決定した。

なお、今回の発表では、テーマ実現のために必ず通らなくてはならない「解決策の価値評価方法」についても言及する。

2.問題の発見のためのクロスSWOT分析

 問題の所在を明らかにするため行ったSWOT分析では、「強み(strength)」は内部要因であることから、対象システムの有益な資源とみなした。「弱み(weaknesses)」は同じく対象システムの有害な資源とみなした。「機会(opportunities)」は外部要因であることから、上位システムの有益な資源とみなした。「脅威(threats)」は同じく上位システムに有害な資源とみなした。

それぞれの要因を分析した後にそれらの要因についてのクロスSWOT分析を行った結果以下の対応策を創出した。

「強み」×「機会」:自分の問題は自分で解決する、豊富な知識・経験に知恵を付加した企画を提案する、若年層の創造性教育に貢献する。
「強み」×「脅威」:一人でも考えられる問題に取り組む、実現可能性の高いアイデアを創出する、知識を知恵に変える方法を習得する。
「弱み」×「機会」:若者から現場の生の情報(動画など)を手に入れる、元気な高年齢者によるイノベーション創出活動に参加する、異性と協力して新たな事業を行う。
「弱み」×「脅威」:若者を自分の分身として利用する、アイデアを即評価できる環境を手に入れる、進んで新しいことに取り組む。

3.ビジョンと目標を決定するための目的展開

これらの対応策に基づき、今回のテーマのビジョンとしての「あるべき姿」を描き、焦点となる目標を決定するために目的展開を行った。

その結果、「高齢者とその関係者が幸せな生活を送る」を最上位の目的としてのビジョンとし、このビジョンを実現するための目標として「高齢者が自分の問題と他人の問題を解決する」とした。また、その目標を実現するためには最初に「高齢者が自分の好きなこと得意なことを再認識する」ことから開始すべきことを明らかにした。

4.問題を解決するために最初にすべきこと

「高齢者が自分の問題と他人の問題を解決する」際に最も重要なことは、単に高齢者が問題に対する方策の提案をすればよいというものではない。

実際には、その方策の提案を実行した結果、当初の問題がどの程度解決できたかを確認することでその良否を判断しなければならない。その結果、解決度合いが不十分ということであれば、追加の方策案を提案し実行することを考えなければならない。

そのためには、まず、提案した方策案を実行するのに値するか否かの判断ができなければそれは解決者の自己満足で終わってしまい、自分の問題はもちろん他人の問題の解決を支援することなどできない。

5.高齢者にとっての問題解決

何ともいえない不安感を抱くことのある高齢者が生き生きとした生活が送るためには、他人に頼らず身の回りの問題を次々と解決していくことが必要となる。その際に、問題解決に追われるといった姿勢ではストレスをためてしまうことなる。

逆転の発想をすれば、高年齢者が問題解決を楽しめるようになればいいということである。

幸い私たちはTRIZという強力な問題解決ツールを手にしているので、普段から問題に対して前向きに取り組むことができる。後は、楽しい学びの経験や楽しい仕事の経験を増やすことができる環境があればよい。

そのためには新たな仕組みが必要になる。その仕組みは、問題解決を行った結果、関係者と解決者本人に感動が得られる「エレガントな解」[1] を求める問題解決を目指す方法とその場を提供すればよい。

6.簡単な解決策の価値評価方法の提案

高年齢者が問題解決を楽しむためには、自分が考えたものが「エレガントな解」であるか否かを簡単に価値評価ができる手法が求められる。

技術的解決策の評価方法としては、発明に関して特許取得の可能性を判断する方法がある。特許可能性を判断する要件として発明に新規性、進歩性があることが求められるため、発明の出願前に存在する先行技術との相対評価が必要となる。相対評価を行うには、その対象となる出願前の世界中の先行技術を調査しなければない。

しかしながら、一高年齢者にとっては物理的、時間的な制約のため、それを正確に行うことは事実上不可能といえる。

TRIZにおいて解決策の価値評価といえば「理想性=有益機能の総和/有害機能の総和」という基準がある。理想性の定義によれば、理想的なシステムとは有害機能を一切含まないシステムだと想定することができる。 現実の問題解決の場合には、理想性の内容は主観的な観点、あるいは、システムや問題状況が置かれた局所的な条件に密接に関係する。

そのため、「局所的理想性」[2] という概念を採用することが現実的である。「局所的理想性」は周囲から入手可能な資源の限界の中で問題を解決する私たちの能力に関係するものである。問題解決における私たちの目標とは、既存のシステムをより理想的な状態に向かって進化させることであると考えれば、理想に近い問題解決を行う一般的アプローチとは、システムの中またはその周辺にある資源を活用する方法を考えることである。

エンジニアリングの分野の価値評価といえば、「エレガンス性=その解がなしとげる目的/その解の複雑性」という基準がある。[1] この基準によれば、ある解がなしとげる目的と比べて特に単純な解はエレガント(優雅)であるといわれる。

解の複雑性は、システムの構成要素の数とそれらの関連性の数によって決定する。解がなしとげる目的は、新しいシステムへの期待度合いによって決定する。

エンジニアリング分野のエレガンス性とTRIZの理想性とを組み合わせたものを「局所的理想性」と捉えると、「局所的理想性=(その解がなしとげる目的/その解の複雑性)×利用した資源」といった価値評価基準が考えられる。ここで、利用した資源については、資源の存在する場所や変更処理の有無によって異なる係数を採用する。

今回の発表では、新たに提案した「局所的理想性」の評価基準の妥当性を判断するため、子供のいたずらによる火災事故を防止する安全ガスライターの他、年齢や障害の有無などにかかわらず利用可能であるユニバーサルデザインに関する発明品について、複数の分科会メンバーによる評価を行った結果を報告し、その有効性の良否を問うものである。

 

【参考文献】

[1]  エンジニアリング入門、E.V.クリック著、渡邊真一、丹下敏、河原巌訳、ソーテック社

[2]  「eラーニング、I-TRIZの概要」、IWBソフトウェア、アイディエーション・インターナショナル社

 

 


 発表スライド     PDF (日本TRIZ協会) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新日 : 2015. 3.27     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp