論文: 社会変革

社会変革の一般的構造

安平哲太郎 (産業技術総合研究所)

情報知識学会誌 (2010) Vol.20, No.2 pp. 103-110

『TRIZホームページ』掲載、2015年 2月10日

掲載:2015. 2.10    許可を得て掲載。

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編集ノート (中川 徹、2015年 2月 7日)

本稿は、日本創造学会の研究会(「クリエイティブサロン」)で何回か著者の安平哲太郎さんにお会いしたのがきっかけで、ここに掲載できたものです。昨年12月6日の研究会の後で、著者から私ほか数人にメールが届き、自己紹介と(自主)研究の論文4編が送られてきました [そのメールは、本ページの末尾に紹介しています]。

その研究論文は社会や歴史観に関するもののようでしたから、びっくりしました。ともかくちょっと見てみようと思い、その第一の論文(本稿)を読み始めました。 「概要」の段階ではよくわからなかったのですが、2頁ばかり読むと、非常に明確に論じておられるのが分かってきました。社会変革というのは (当然のことですが)「社会の矛盾」を解決する/した過程であり、この論文はその過程を非常に一般的・概念的に明確にしようとしているのです。その考察結果の全体を簡潔に表現しているのが論文末尾の図1であり、その図は明快で多くの示唆に富むことを、私は理解しました。

本『TRIZホームページ』は、16年前に「技術革新の技法 TRIZ」をテーマとしてスタートしたわけですが、TRIZへの理解が深まるとともにTRIZ自身が発展して、非技術の分野、人間や社会に関する分野にも、関わるようになってきました。TRIZの本質は、「矛盾を解決することによって理想性に向かうように変革する」指向ですが、本稿で扱っている「社会変革」はそれが(一つの)国の社会の根本の制度(体制)について起こる場合を論じています。

本論文は、情報知識学会の論文誌に掲載され、一般公開されています。その論文の全文を再掲載させていただくにあたり、同学会に正式に申請し、本サイトが「非営利の論文電子アーカイブ」に準じるものとして再掲載許可をいただきました。同学会に厚く感謝いたします。

なお、原論文 (PDF ) は段落や文が長く、やや難解な表現になっています。そこで、本ページでは、[ ] をつけて少々補足し、段落を短く区切り、主文に対して例示部分を字下げして示すことにしました。図1も縦横を逆にして、時間の流れを左右でなく上下方向に変えています。さらに最終段階で、「概要の主文」を著者と編集者で推敲・修正いたしました(青字部分)。これらの変更を了解いただきました著者に感謝します。

 

本ページの先頭 概要 1. はじめに 2 社会変革期の前と後 3 社会変革期の構造 4 社会変革期のその他の特徴 5. 社会変革の一般的な流れ 6. まとめ 図1 著者自己紹介 原論文PDF 英文ページ

 


 論文      原論文PDF 

社会変革の一般的構造

安平哲太郎 (産業技術総合研究所)

情報知識学会誌 (2010) Vol. 20, No. 2 pp. 103-110

『TRIZホームページ』再掲、2015年2月10日

 

概要

「従来異なるとみなされていたものが、本来は同じものである」と認識するときに認識上の矛盾が生じ、「従来は異なるとみなされていたが本来は同じであるものを、現実に同じとみなす事のできる新しい体系」を認識するときに認識上の矛盾が解消することを、著者は明らかにしてきた。 今回、この矛盾の生成と解消の原理を社会の変革に適用する ことによって、以下の点を明らかにした。

(1) 人間社会には一人の人間がとり得る幾つかの立場がある事。
そして、通常は必然的にそのどれかの立場をとって共存しているが、
(2) やがて何らかの働きによって本来同じであるべき事を同じと認識することで [認識上の] 矛盾が始まる事。
(3)  さらにその [新しい] 認識が共有され、矛盾の原因が差別や不公平をもたらす立場の違いやそれを支えている制度にある事に気づく事で [、] 認識上の矛盾は解決する事。
(4)  やがて同じという [新しい] 認識が必要な事態があって、かつその認識が通用しない自他の立場故に事態を解決できない事に気づいた時、 その認識が通用する立場へと社会の変革を非可逆的に始める事。
(5)  しかし、同じという [新しい] 認識とそれぞれの [旧来の] 立場の距離の違いから [、] 変革に際しては変革の抵抗勢力と変革の推進勢力とが出現し混乱を招きやすい事

社会の変革をこのように見る意義は、これから迎える様々な変革に対して社会がどの段階にあるかを理解し備える事が出来るという点である。

キーワード:  社会の変革、認識の変革期、社会制度の変革期、差別、不公平さ

 

1. はじめに

我々は情報に接し知識を獲得する事によって、今までは同じと認識していなかった対象を同じと認識するようになる事がある。ところが往々にして現状からその新しい認識が通用しないリアクションを受けて新しい認識との間で矛盾を感じる。

[筆者は] 2009年の情報知識学会で「完全合理性と限定合理性」[1] という題で [、] 認識の矛盾の解消には「本来同じであるべき事」と「本来異なるべき事」に気づく事の重要性を指摘し、この事は、奴隷制からの解放、君主制から主権在民、明治維新等の社会変革と密接な関連がある事を指摘した。一方、筆者は2008年の情知識学会誌に「科学の時代から科学を基礎とした神の時代へ」[2] という題で投稿し [、] 現代は時代の変革期と考えられる事を指摘した。したがって、今ほど、現在は時代の変革期の中のどの段階にあって何をしなければならないのか知る必要に迫られている時はないと言える。

一方、同じであるという認識は社会や制度によって守られているうちはいいが、一旦それが緩めば経済的利益が優先してその認識を貫き通す事が困難である事が多い。例えば、現代でも国際社会において自然災害の被災地などでは混乱に乗じて子供の奴隷化などが見られる。この事は獲得した同じであるという認識は混乱を伴いやすい変革期にこそ社会や制度によって逆行しないようにしっかり支えられなければならないことを意味する。

したがって、この認識上の矛盾の解消を奴隷制からの解放、君主制から主権在民、身分制からの解放という幾つかの社会変革に適用して、人間社会の変革の一般的な構造を明らかにし、現在進行中の環境問題を変革という観点から位置づけ直し、本格的な変革が到来する前に、人類が今までに同じと認識してきた「本来同じであるべき事」の内、基本的な事を再確認しておく事は意義があると考えられる。そこで今回はこの事について考察する。

 

2 社会変革期前後の立場の変化

社会変革の場合、社会の変革期という期間が存在し、その変革期の前後の安定した時期に立場 [社会の基本的な共通認識] の異なる社会が存在する。
社会の変革期以前の安定した時代には、本来同じとみなすべき事を同じとみなさない事によって可能な複数の立場が存在し、個人が必然的にそのどれかの立場をとって共存している。
それに対して、変革期以降の安定した時代には、今まで同じとみなしていなかった事を同じとみなした立場を全員がとって共存する。

以下、この点について具体例で考察する。

2.1  奴隷制度とそこからの解放

奴隷制度の場合、人間がとっている立場とは人間の所有者、被所有者(奴隷)と自由人と考えられる。すなわち、全ての人間は人間の所有者か被所有者、あるいはそのどちらでもない立場になり得る可能性があり、しかも、個人の能力、体質、負債、先祖から背負ってきている負債等によって必然的にそのどれかの立場に立ち、被所有者(奴隷)を同じ人間とみなしていなかった時代と考えられる。

それに対して、社会変革期を経て奴隷制度が廃止されると「全ての人間を同じ人間」とみなし、全ての人間がそのように扱われる(すなわち、人間の所有者や被所有者にはなれない)立場をとる状態になると考えられる。

2.2  君主の時代から主権在民の時代へ

君主の時代における立場は、支配者(国王)と被支配者と考えられる。すなわち、全ての人間は支配者か被支配者になり得て、しかも、個人の能力、体質、負債、先祖から背負ってきている負債等によって必然的にそのどれかの立場に立ち、被支配者には主権はない(あるいは制限されている)とみなされていた時代と考えられる。

それに対して、社会変革期を経て君主制が廃止されると「全ての人間に同じ主権がある」とみなし、全ての人間をそのように扱う(すなわち、支配者や被支配者にはなれない)立場をとる状態になる事と考える事が出来る。

2.3  江戸時代の身分制から明治維新へ

江戸時代の身分制における立場は、士農工商の4つの身分と考えられる。すなわち、全ての人間が武士か農民、工人、商人のどれかになり得て、しかも、個人の能力、体質、負債、先祖から背負ってきている負債等によって必然的にそのどれかの立場に立ち、能力の発揮がその身分に限られていた時代と考えられる。

それに対して、社会変革期を経て身分制が廃止されると、「全ての人間が同じ能力を持っている」とみなされ、全ての人間をそのように扱う(すなわち、個人の能力の発揮が身分によって制約されない)立場をとる状態になる事と考える事が出来る。

2.4  産業育成の時代から環境保全を考慮した産業育成の時代へ

産業育成の時代の立場は、全ての産業のありようと考えられる。すなわち、全ての人間がどれかの産業を選択でき、しかも、個人の能力、体質、負債、先祖から背負ってきている負債等によって必然的にそのどれかの立場に立ち、しかも自然環境保全を考慮していない時代と考える事が出来る。

それに対して、社会変革期を経て自然環境保全を考慮するようになると、全ての人間が等しく自然環境保全を考慮した産業を行わなければならない立場をとる状態になると考えられる。

[2.5  本節のまとめ]

以上の考察から、社会変革というのは、同じと認識していない故に存在しえた幾つかの立場から、社会変革期を経て等しく同じと認識する立場をとる社会となる事として理解される。

ただし、本来同じと認識すべき事を同じと認識する立場とは、

奴隷制の場合は「全ての人を同じ人間とみなす」立場であり、
君主制の場合は「全ての人に主権があるとみなす」立場であり、
身分制の場合は「全ての人が身分に制約されないで同じ能力を発揮しうる」立場であり、
産業育成の場合は「全ての人が環境保全を考慮した産業に従事する」立場である。

 

3 社会変革期の構造

社会変革は、社会変革期を挟んでそれ以前の安定した時代から、それ以降の安定した時代への移行であることを説明した。
ここでは、社会変革期はさらに認識の変革期と社会制度の変革期に分けられる事を説明する。

3.1  [認識の変革期(その前半)] 社会変革のために「同じであるべき事」に気づく事の必要性

社会変革の場合、全ての人が幾つかの必然的に決まっている立場から全員がある特定の立場をとる方向に向かうためには、その方向へ向かう前に、本来同じとみなすべきなのに同じとみなしていなかった事を同じと認識する必要がある。

すなわち、奴隷制度の場合は「全ての人間を同じ人間とみなす」、
君主制の場合は「全ての人間を同じ主権者とみなす」、
身分制の場合は「全ての人間が同じ能力を持つとみなす」、
産業育成の時代には「すべての人が同じ環境保全を考慮する必要があるとみなす」
という認識である。

そして、この事によって、実際にはその様に扱われていない(奴隷が同じ人間として扱われていない、被支配者は同じ主権者として扱われていない、身分に制約され同じ能力を持つ者として扱われていない、種々の産業が同じ環境保全を考慮していない)現状との間で矛盾を感じるようになるのである。

例えば、福沢諭吉は父親が中津藩の借財を扱う要職にあり、儒教に通じた学者でもあったにもかかわらず、身分制によって名を成すことも出来なかった事から身分制の差別に反発を感じていたと言われるが、そのような事である[3]

3.2  [認識の変革期(その後半)] 同じという認識が通用しない為に差別と不公平をもたらす立場の違いとそれを支える制度が矛盾の原因である事に気づく必要性

「同じであるべき事」に気づいても、その同じであるように扱われていない現状から矛盾や対立を引き起こす事になる。そこで、その矛盾や対立を解消するためには、その様な扱い(差別や不公平)を可能にする立場の違いとそれを支えている制度 [が矛盾の根本原因であること] に気づく必要がある。

例えば、奴隷制度の場合 [、] すべての人間を同じ人間とみなしても、その様に扱われない(差別を受ける)現状から矛盾や対立が生ずる事になる。差別をする立場の人間の所有者と差別を受ける被所有者という立場の違い、および、それを支える奴隷制度が矛盾の原因である事に気づいて初めて奴隷制の廃止という向かうべき方向がわかる。

君主制の場合は、全ての人が主権を意識してもその様に扱われない現状から矛盾や対立が生ずる事になる。 差別をし不公平を感じさせる支配者と差別され不公平を感じる被支配者という立場の違い、および、それを支える君主制が矛盾の原因である事に気づいて初めて [、] 君主制の廃止という向かうべき方向が分かる。

身分制の場合は [、] 福沢諭吉と勝海舟とが咸臨丸で渡米し身分制崩壊後の世界を知る事によって、各身分の扱いの違いとその差別を支える身分制に矛盾の原因がある事を知り [、] 身分制を解消させなければならないという方向を意識したと言える。

産業育成の場合は、環境保全を認識しても、環境保全を考慮せずに資源をとり廃棄物を出す産業の時代には [、] 産業活動と自然環境保全とは矛盾・対立する事になる。自然環境に公共性があると考えれば [、] 再生の困難な資源を無償で利用する産業は不公平という事になり、そういう産業とその様な経済活動を許容する社会制度が矛盾の原因である事になり、全ての産業が環境保全を考慮しなければならない社会制度が向かうべき方向としてわかる。

以上の考察から、本来同じであるべき事を同じと認識するようになる事で認識の変革が始まり、同じと認識していなかった為に差別や不公平さをもたらしてきた立場の違いやそれらの立場を支える制度が矛盾の原因である事に気づく事で認識の変革は終了 [完了] する。

そして、重要な点は [、] 認識の変革が終了しただけでは社会を変革する力にはならないという事である。社会制度の変革は、同じと認識する事を必要とする事態が出現して初めて [、] 社会制度の変革が始まるのである。以下ではこの点を考察する。

3.3  [社会制度の変革期] 社会制度の変革に着手せざるを得ない事態の出現

社会変革の場合 [、] 共有した新しい認識が必要な事態が来て、さらに、新しい認識が通用しない社会の現状故に事態の解決が出来ないことに気づいた時、新しい認識が通用する社会へと社会制度を非可逆的に変化させ始める。

すなわち、リンカーンの奴隷解放でいえば、南部をアメリカ合衆国につなぎとめておく為の戦いで黒人を南部から切り離す必要があったが、南部は綿栽培の為に黒人奴隷を必要としたためリンカーンは黒人の奴隷解放に踏み切った[3]

フランス革命でいえば、国家財政の立て直しのために重税を課していた平民からの課税は無理で特権階級に課税するという平等に課税をする必要が出てきても、その努力が特権階級の反対によって失敗した時、平民が身分制の破壊に向かった場合がそうである[3]

明治維新でいえば、下関戦争、薩英戦争等で欧米列強の力を知ったことで身分制に束縛されずに能力を発揮し欧米列強に追いつく必要が出てきても、幕府の封建体制がその妨げとなっている事に気づいた時、倒幕派が身分制を含んだ封建体制の破壊に向かった場合がそうである[3]

また、産業の場合でいえば、全員が環境保全を意識する事が必要な事態が来て、環境保全を考慮していない産業の現状では事態を解決できない事に気づいた時、 環境保全を考慮した産業育成の方向に社会制度の変革が始まる事になるが、現在はまだそういう切羽詰まった段階に達していないと考えられる。

 

4 社会変革期のその他の特徴

4.1  社会制度の変革において旧い立場の差別や不公平さの違いがもたらす対立

同じであるべき事を同じとみなした新しい認識が旧い立場では通用しない度合いを新しい認識と旧い立場との距離と定義すれば、その距離はその立場によって異なり、場合によっては方向が逆でさえあり得る。

例えば、奴隷制度のもとでは、「同じ人間」という認識と、奴隷、奴隷の所有者、自由人との間では、奴隷の所有者は「同じ人間」という認識を通用させるためには奴隷を失わなければならない。 この事は経済的損失を招くため、「同じ人間」という認識が通用する社会への変革に最も抵抗するだろう [。一方] 、奴隷に「同じ人間」という認識を通用させるためには奴隷という立場から解放しなければならない事になる。この事は経済的利益に繋がりやすいため、「同じ人間」という認識が通用する社会への変革を最も望むと考えられる。

また、君主制の場合は、「同じ主権者」という認識と、支配者(君主)、および、被支配者(民)との間では、君主は自分の主権で民を動かせていた強すぎる主権の立場から主権を弱めなければならない。この事は経済的な不利益となり、「同じ主権者」という認識が通用する社会への変革に抵抗するであろう [。一方]、民衆は命令に従わざるを得ない主権のない立場から主権を獲得する事になる。この事は経済的な利益となり、「同じ主権者」という認識が通用する社会への変革を望むと考えられる。

産業育成で言えば、資源を無償で獲得し廃棄物を投棄する現在の産業の内、環境保全を考慮する事が容易な産業と困難な産業とがある。すなわち、再生が容易な資源を用いる産業は環境保全が容易と考えられ環境保全を考慮した社会への移行には小さな経済的な負担で済むだろう [。一方]、再生が困難な資源を用いる産業は環境保全が難しく環境保全を考慮した社会への移行には大きな経済的な負担を伴う事になる。

このように立場によって、新しい認識との間の距離が違うのである。そして、新しい認識に対してこの距離の違いが奴隷制や身分制や君主制の場合は差別を与える方と受ける方の方向の違いとなるし、産業育成の場合は自然環境に公共性があると考えれば不公平さの違いとなるのである。

そして、この差別や不公平さの違いが実際に社会変革に着手し始めた場合には変革を推進する勢力と変革に抵抗する勢力を作り出し対立が起きると考えられる。

4.2   認識の深化に伴う遅延時間の存在

全ての人間が本来同じと認識すべき事を同 じと認識し始め、その認識が通用しない社会の 現状故に矛盾を感じ、差別と不公平さをもたら す立場の違い、およびそれを支える制度に矛盾の原因を見出し、認識上の矛盾を解消するまでの過程はいわばコヒーレントに全員が足並み をそろえて進んでゆくわけではない。 それぞれ遅延時間を持っているのである。

以上で、認識における矛盾の解消という観点から社会変革を考察した。

 

5. 社会変革の一般的な流れ

次にこの社会変革における一般的な流れを明治維新と対比させながら図1で説明する。[注:原論文では図1で時間の流れを横方向(左から右)に書いていたが、本ページでは記述拡張の容易性を考えて縦方向(上から下)に書き替えた。]

図1の左欄 は社会変革の一般的な流れを表し、右欄 は明治維新の変革の流れを表す。左端の太い縦線は時間の流れを表し、縦線から右方に向かう矢印によってある時点で起きている事象を表す。

(1)項以前は、変革前の安定期であり、(1)項から(6)項が社会の変革期であり、(6)項以降が変革後の安定期である。さらに、社会の変革期の中でも(1)項から(3)項が認識の変革期であり、(3)項から(6)項が社会制度の変革期を指す。

図1.  (A) 社会変革の一般的な流れと (B) 明治維新の流れ 

(A)において、認識上の矛盾の解消も含めた社会変革の一般的な流れを示す。太い縦線が時間の流れる方向を示す。横破線の矢印がその時点で起きている一般的な事象とそれと対応する明治維新での事象を示し、縦実線はある期間の特徴を示す。(B)は対応する明治維新の流れを示す。

 

6. まとめ

認識における矛盾の解消という観点から、社会変革を考察する事によって以下の事を明らかにした。

(a) 社会変革とは [、] 本来同じ事を同じと認識せずしかもそれが社会制度によって支えられていた時代から、社会変革期を通して本来同じ事を同じと認識しそれが新しい社会制度で支えられる時代へと移行する事である。

(b) 社会変革期にはまず、認識の変革期があり [、] それは今まで同じと認識していなかった事を同じと認識し矛盾を感じる事から始まり、同じと認識していなかった事による差別を社会制度が支えていた事に矛盾の原因がある事に気づく事で終わる事。

(c) そして、社会制度の変革は [、] 同じと認識する事が必要な事態を迎えて初めて同じと認識する事が通用する社会制度へと変革を始める事、旧制度の破壊が終了し、新制度の建設が一段落する事で終わる事

が分かった。

社会の変革をこのように見る意義は、

(a) 社会制度の変革が始まるまでに認識の深化と共有が必要であるという点を理解できるという事である。

明治維新とかフランス革命とかはこの社会制度の変革からを言う。

(b) また、二番目は我々がこれから様々な変革を迎えるにあたって、我々の社会が変革のどの段階にあるかを知り、備えをする事が出来るという点である。

環境問題でいえば、環境保全という概念自体がまだ公害問題に見られるように人間に対する有害物質を産業が放出しない、また、温暖化問題に見られるように温暖化物質を産業も個人も放出しないという意味であり、資源取得や廃棄物排出に対する保全ではない。しかし、現在の産業活動を始めとする人間活動の在り方が持続発展可能な開発と対立する事は認識されつつある[4]。したがって、環境保全が産業も含めて誰もが等しく取り入れるべき事として認識され、かつ、その内容が特に資源取得や廃棄物排出に対する保全へと変わってゆく、認識の変革の途上の段階と考えられる。 

(c) 三番目は人類が獲得してきた基本的な「同じ」という認識は、奴隷制、君主制、身分制からわかる通り「同じ人間」、「同じ主権者」、「同じ能力」であり、これから迎える変革において社会や制度によってしっかり守られる必要があるという事が分かる点である。

 

謝辞

東邦大学名誉教授 近藤淳博士から現実と問題とが噛み合う事、そして、それまで待たなければならない事を教えて頂いた。待つ事は容易ではなかったが、環境問題に直面してこれがいかに大切であるかを考えないわけにはゆかない。この事を教えて頂いた事に心から感謝します。

 

参考文献

[1] 安平哲太郎: 「完全合理性と限定合理性」, 情報知識学会誌, Vol. 19, No. 2, (2009).

[2] 安平哲太郎:「科学の時代から科学を基礎とした神の時代へ」, 情報知識学会誌, Vol. 18, No. 2, (2008).

[3] 福沢諭吉, 南北戦争, フランス革命, 幕末,明治維新: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia) 』 http://ja.wikipedia.org/wiki/ (2010年4月1日参照)

[4] 吉川弘之:「科学者の新しい役割」, 岩波書店, (2002).

 


  編集ノート後記 

自己紹介と「自主研究」について (2014. 12. 8 安平哲太郎)

小生は1972年に通産省工業技術院電子技術総合研究 所に入所し、ずっとレーザ光の応用をやってきました。 可逆感光材料の評価や量子半導体の光学特性の計測などをやっ ていました。 2001年に独立行政法人となり経済産業省産業技術総合研究所に勤めましたが、2007年に退職しました。 その後、3年間再雇用でシニヤスタッフとして安全業務 に従事しました。

定年退職の3年前から自ら望んで調査研究に移りました。それは以下に述べております自主的研究の成果を業務に活かしたいと望んだからです。 小生は1980年から業務としての研究のほかに自主的研究をやってきまして、それを2001年に概念分析としてレポートにまとめて研究所に提出しました。 また、2004 年に『概念分析』(アマゾンで調べると一冊だけ6000 円で古本として出回っているようですがちょっと高いですね。ぜひ読んでいただきたいとは思うの ですがこれではお勧めできません。)という題で自費出版しました。現在はこの自主的研究が小生にとってのライフワークとなっています。

この自主的研究について簡単にご紹介しますと、 勤めてから5年くらいたった頃から、技術だけには飽き足らず何か哲学的な事をやりたい欲求に駆られ、仲間とサムエルソンの「経済学」を輪講しました。が、小生に とっては非常に読みやすいと思うとともに内容はよくわ からないという印象で終わりました。 そして、自分の認識をもっとよく整理してみる必要があ ると思っていた矢先、筑波へ移転した直後の1980年に当時の上司から「思いついたことをノートに書き留めるように」というアドバイスを得て、思いついたことを ノートに書き留めては自分の認識を辻褄が合うように整理してきました。

考察の対象は多岐にわたりました。其の効果が出始めるのに約20年くらいかかりまして、よう やく「概念分析」という題で上記のレポートとなりました。現在は方向(時代の流れ)に関する研究を中心にやっておりまして、残りの人生はこの世には時代の流れ(方向)あり、それを読み取る方法論を広く普及することを主としてやってゆこうと考えています。

この中で最も重要なのが、仕事や個人の人生がこの方向とどう関連するかという点だと思います。そういう意味で小生もこの方向が浮世離れした話にならないように 現場でお仕事に従事しておられる皆さんとお話 しし現場の勉強をさせて頂いて、仕事や個人が向かうべき方句を探すのにお役に立ちたいとも思っています。

以上ですが、現在小生は、現代はある方向へ向かう巨大な社会変革の入り口に立っていると考えており、これらに関する論文を4本添付で送らせていただこう と思います。ご関心を持って頂けたらでとてもうれしいです。簡単に内容をご紹介しますと、

@「社会変革の一般的構造について」 [情報知識学会誌 (2010) Vol. 20, No. 2 pp. 103-110]
フランス革命、明治維新、アメリカの奴隷解放から社会変革の一般的構造を明らかにしたものです。

A「科学の時代から、科学を基礎とした神の時代へ」 [情報知識学会誌 (2008), Vol. 18, No. 2, pp.   ]
科学の次に来る時代を直感的に記号論を応用して洞察したものです。 小生自身は科学の世界では神の名を使って議論すべきでないと考えていますが、「神の存在を信じているが神の名を使うべきでない」と考えているのと、「神はいない」 と考えているのとではだいぶ違うので、この際小生の神を考慮した世界観を明らかにしておこうと考えて、編集長の 「情報知識の発展のために役立つなら構わない」という返事を得て20周年記念ということもあり神の名を用いて投稿したものです。

B「全体主義の流れから見える時代の要求 ―全体主義の歴史の比較から知る―」 [情報知識学会誌 Vol. 23 (2013) No. 2、 pp. 153-160] は、
北朝鮮指導者への呼びかけの形をとって、上記の時代から時代への変遷の過程でも 時代は多くのことを要求していると思われ、それを1つの科学の原則に従った(仮説、検証、因果関係を取り込んだ)方法論で考察したものです。

最後に、 C「歴史から洞察される判断基準としての観点」は、
上記で述べている時代の流れ(方向)の最も基本的な性質を述べたもので、さらに、将来はこの時代の流れは主権者である市民自身が自ら発見してゆく(社会の中で仮説を立て社会の中で検証してゆく)ものと考えており、そのための社会システムを提案したものです。  

一遍に多くの論文をお送りすることになって恐縮ですが、とりあえずこの4つの論文をお読みいただきコメントを頂ければ嬉しく思います。 今後ともどうぞよろしくお願いします。  

 

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最終更新日 : 2015. 2.10     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp