TRIZ研究ノート:  ASIT(3) 
イスラエルのSIT法とその利用 (3)
新製品開発におけるASITの利用
 Roni Horowitz (start2think.com, イスラエル) 
 出典: TRIZ Journal, 2001年11月号
 和訳: 中川  徹 (大阪学院大学) 2001年12月 2日
      [掲載: 2001.12.10]
 

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編集ノート (中川  徹, 2001年12月 2日)

本稿は, イスラエルのASIT法 (Advanced Systematic Inventive Thinking) の開発者である Roni Horowitz の解説記事を翻訳したものである。この解説は, TRIZ Journalに掲載されたものであり, 本編を含めて 3編よりなるシリーズの最終編である。原題は "Using ASIT to Develop New Products" である。和訳・掲載を許可いただいた著者およびTRIZ Journalに厚く感謝する。

     著者:  Dr. Roni Horowitz (start2think.com, イスラエル)  email: Roni.Horowitz@start2think.com     WWW:  http://www.start2think.com
     TRIZ Journal: 編集者  Dr. Ellen Domb,   http://www.triz-journal.com/

本編では, 新製品を開発 (着想) するのに, 「まず既存の製品を取り上げ, それにASIT法の 5種の思考ツールのどれかを適用して変容させ, それを誰がどこで使えるだろうかと考える」のだという。一般のユーザが考えたこともないような製品とその市場を発明するのだという。第2編の問題解決とは異なる適用スタイルを提示しており, 意外さのあるエッセイである。

本ホームページに, 第1編, 第2編, 本編(第3編) および Dr. Horowitzの1997年の論文を和訳掲載しているので, 参考にされたい。特に, ASIT法の位置づけや Dr. Horowitzのプロフィール, Webサイトなどについて, 第1編およびその編集ノート(中川)を参照されたい。


 
本ページの先頭 1. 形の先行 2. 新製品開発ASIT 3.1 統合法 3.2 乗算法 3.3 除算法 3.4 対称性破壊 3.5 オブジェクト除去 結論 第1編 第2編 Horowitz論文1997




 

新製品開発におけるASITの利用
 

1.  形を機能に先行させる

このASITシリーズの前の二つの解説は,問題解決に焦点をあてたものであった。本稿では, 新製品の開発にASITをどのように使えるかを示そう。

新製品開発の通常の方法では顧客とその需要から開発プロセスを始めるけれども, ASITは既存の製品から始める。

ASITにおいては, [既存の] 製品を最初に, ASITの5種の思考ツールのうちの一つの線に沿って (概念的に) 変容させる。そのとき, 特定の目標を想定していないのである。第二段階において, その新しい (仮想的な) 製品を可能性のあるマーケットとマッチさせる。そのマーケットはつぎの質問に答えることによって同定される (あるいは発明される): 「われわれの変容させた製品によって, 誰が, どんな状況下で, 益をうけるだろうか?」 製品ではなくて, マーケットが発明されるのである。

このアプローチが通常のアプローチよりも有利な点は, われわれが競争に先んじ, エキサイティングな新製品を着想することができることである。いままで見過ごされていた需要で, 顧客がわれわれにまったく伝えることができないような需要を満たすような新製品である。

機能を決定する前に一つの形を創ることによってアイデアを作り出すことは, Finke ら [1] によって, 「形に機能がついてくる 」思考として記述されている。一連のすばらしい実験において, Finkeらは, 「機能より前に形を決定するように制約されたとき, 各人は一層創造的になる」ことを示した。

ASITを使うとき, 新製品開発者は, 「形に機能がついてくる」思考だけでなく, 閉世界思考という制約をも受ける。

一つの閉世界は, 「その製品を作っているオブジェクトたちのタイプと, その製品のすぐ周辺にあるオブジェクトたちのタイプとの集合」として定義される。ASITの閉世界原理は, 開発者に対して, もとの製品と同じ「世界」を共有する新製品を開発するように制約する。

閉世界条件は, 開発者に, 既存の製品を置き換えたり, いままで存在しなかった新しい要素を追加したりする代わりに, 既存の製品のバリエーションを着想するように制約する。このようにして, ASITで生成された新しいアイデアは, 研究開発努力を全く必要としない。

 

2.  新製品開発 (NPD) のためのASITのプロセス

ASITはつぎのプロセスを提唱する。

  1. その製品が置かれている「世界」を決定する。
  2. 新しいを決定する:  ASITの一つのツールを選択し, それを適用して製品を変容させる。
  3. 新しい機能を決定する: 変容された製品に対して, 新しい機能, 新しい価値, あるいは新しい利点を認識するように努める。
ASITは「世界 - 形 - 機能」思考だといえる。

ASITの5種の思考ツールを, 新製品開発に適用するやり方で, ここに簡単に説明しておこう。


 

3.  適用事例

注: ここの事例のいくつかは実在の商品について記述しており, 他のいくつかはここでの例示のために発明したものである。適用事例は用いたASITツールに従って分類している。
3.1  統合 (Unification)

例1:  ローソクについての新アイデア

製品:  ローソク;  世界: バースデイケーキ;  統合法。

ローソクをバースデイケーキ中に統合する。

新機能または価値:  そのローソクは食べられるので, ケーキから取り除く必要がない。ローソクを食べるのは子供たちにとって愉快なことであろう。

例2:  携帯電話についての新アイデア
製品:  携帯電話;   世界: 家庭;  統合法

携帯電話を通常の家庭用ワイヤレス電話と統合する。

新機能または価値:  二つの別の製品の必要がない (あるいは, もう一つのワイヤレス電話が無料で家庭にできる)。


 

3.2  乗算 (Multiplication)

 例3:  漬け物 (ピクルズ) 容器についての新アイデア       [訳注: 例題の番号が跳んでいるのを訂正]

製品:  漬け物容器;  世界:  冷蔵庫;   乗算法

漬け物容器を二つにする。

新機能または価値:  二つの容器を上下に重ねて連結し, 間にフィルタを設ける。冷蔵庫中では, 漬け物 (ピクルズ) は下の容器中にあって, 塩水に漬かっている。食卓に出すとき, 容器を上下逆さまにする。塩水はフィルタを通じて下側の容器に流れて, 漬け物は水なしで食べることができる。


 

3.3  除算 (Division)

例4:  壁掛け時計についての新アイデア

製品: 壁掛け時計;  世界:  家庭;  除算法

[文字盤の] 数字を時計から分離する。

新機能または価値:  [時刻を示す] 数字を壁に直接とりつけ, 巨大な時計を作ることができるだろう。


 

3.4  対称性の破壊 (Breaking Symmetry)

例5: 自動車についての新アイデア

製品: 自動車;  世界:  路上での通常の使用;  対称性の破壊の方法

エンジンの排気量を必要馬力の関数として変化させる。(これは, 時間に関する対称性の破壊である。)

新機能または価値:  より経済的なシステムになる。技術的に排気量を可変にするには, 実働のシリンダーの数を可変にすることで実現できる。

例6:  ジグソーパズルについての新アイデア
製品:  ジグソーパズル;  世界:  家庭での通常の使用;  対称性の破壊の方法

ジグソーの断片の大きさを, パズルの一つの側と向かい側とで変化させる。

新機能または価値:  年齢の違う二人の子供たちが, 一つのジグソーパズルを一緒に作り上げることができる。小さい子は大きな断片から始め, 大きな子は小さな断片から始める。二人はどこか中程で出会うだろう。


 

3.5  オブジェクトの除去  (Object Removal)

例7:  テレビについての新アイデア

製品:  テレビ;  世界:  家庭での通常の利用;  オブジェクトの除去の方法

テレビ画面をシステムから除去する。

新機能または価値:  盲人のための安価なテレビセット。もし設定と違う世界を考えるならば, 画面のないテレビのアイデアは車の中でも使えるだろう。運転者は画面を見ることはできないが, ニュースや好きなトークショーなどを聴きたいと思うだろう。


 

4.  結論

本稿は新製品開発のためのASITプロセスを提示した。

[新製品開発のための] ASITプロセスは3ステップからなる:  世界を決定し, 形を決め, そして機能・価値・または利益を明らかにする。

ASITは非常に独創性が高いアイデアや製品で, 製造が比較的簡単なものを作り出す。また, 市場に出すまでの時間も短くてすむ。一方その短所は, 既存の製品の領域内にある需要しか発見できないことにあろう。

ある場合には, ASITプロセスの成果は一つの新製品には止まらない。新しいコンセプト全体が生まれてくることもある。ジグソーパズルについての対称性の破壊のアイデアをもう一度考えよう。「年齢の違う二人の子供たちのための一つのゲーム」というコンセプトが生まれた。いまや, このコンセプトをテンプレートとして使って, 沢山の新しい面白いアイデアを創り出すことができる。例えば, 公園のシーソーで, 座席の位置を中央からの距離が両側で違うようしておく (これにより, バランスに差を与える)。違う年齢の (だから, 違う体重の) 子供たちが一緒に遊ぶことができる。
 

参考文献


 
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最終更新日 : 2001. 12.10     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp