USIT研究ノート
比喩を用いた観察 - 革新へと導く視点
  Ed Sickafus (NTELLECK, 米国),
  URL: http://www.u-sit.net/Metaphore.html
  2000年 4月 
  和訳:  古謝 秀明 (富士写真フィルム), 中川  徹 (大阪学院大学), 2001年 7月30日     [掲載:  2001. 7.31]
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 編集ノート (中川  徹, 2001年 7月31日)

   本稿は,  以下のようなメッセージとともに古謝秀明氏から電子メールでいただきました和訳原稿をもとに, 中川が推敲して連名で掲載するものです。

いつもTRIZホームページの情報でお世話になっております。2月のUSITセミナーも興味深く受講させていただきました。特にUSITについては、先生自身が受講されたセミナーのまとめやシカフス博士の論文他の情報が非常に役立っています。

ところで、これが恩返しになるかどうか怪しいところもあるのですが, たまにはこちらからの情報提供もさせていただきたいと思い, E-mailさせていただきました。

添付資料は, シカフス博士が始められたNTELLCK社のホームページ内にエッセイとして掲載されていた一文を翻訳してみたものです。

エッセイとなっているためか、表現が文学的かつ抽象的な部分が多く、ちょっと訳しづらいのですが、USITの基本となる考え方を非常に端的にまとめてあるように思います。間違いや表現の不適切な部分は中川先生の判断で修正いただければ幸いです。

         富士写真フイルム (株)  古謝 秀明     2001年 7月27日

   このような翻訳をし, 他の多くの読者のために寄稿して下さいました古謝秀明氏に厚く感謝いたします。

       古謝 秀明 氏    (富士写真フイルム (株) 足柄工場)     E-mail:  hkosha@ashi.seigi.fujifilm.co.jp
 

   本稿の原典は以下のようです。

"Metaphorical Observations - Viewpoints Conducive to Innovation", Ed Sickafus
       URL: http://www.u-sit.net/Metaphore.html   
   なお, Sickafus 博士は, 2000年4月にフォード研究所を定年退職し, NTELLECK社を興してUSIT法の改良と普及に取り組んでいます。博士のWWWサイトは最近大幅に更新され, いくつかの新しい記事が掲載されています。本件の翻訳と掲載を許可いただきましたSickafus博士に心より感謝いたします。
 




 

比喩を用いた観察 - 革新へと導く視点

単純なアイデアと革新的なアイデアの間の大きな違いは, 洞察力 (文字通り, 内部を見通す心の中の視覚)である。物事を新たな光に照らしてみること, 物事をいままでの研究者とは異なった見方で見ること, 物事を深奥まで見通す並はずれた展望で見ることは, 革新的思考になくてはならないものである。この前提に立つと、創造的な思考者たるものは, さらに歩を進めて, 洞察力が提供する新しい視点の潜在的価値を獲得する新しい橋頭堡を見いださねばならない。

アイザック・ニュートン卿は, 彼の科学的成功の栄誉を歴史的な先達たちに帰して, こう言った。「もし私が(あなたがたやデカルトよりも)より遠くまで見通せたとすれば, それは巨人たちの肩の上に立つことで可能になったのです」。あからさまなお世辞に応えるためだったかも, あるいはその栄光を分かち合うためだったかも知れないが, 彼の言葉は, 誰も到達し得なかった展望を美しい比喩で述べている。

新たな洞察力, 新たな視点, 新たな展望を創造することは, 問題を解決しようとしている全ての技術者にとって手の届くところにある。しかし、新たな洞察力を創造するためには, 意志と実行とが必要である。統合的構造化発明思考法 (USIT) は, 問題解決のための方法論であり, 革新へ導くための「比喩 (メタファ) を用いた観察」に焦点を当てたツール群と基本的な哲学を持っている。これには、言語的比喩と図的比喩の両方を含む。問題分析の一つの学問分野として, USITは分析者に, 問題からその解決までの道筋に沿って, 様々な新しい展望を作り出す手順とその構造とを提供する。

比喩を用いた観察は, 革新への洞察力と同様に, 図形指向の思考者たちにも, 抽象指向の思考者たちにも, 適用できる。USITのような構造化された問題解決手法は, まず第一に, 分析者を新たな展望へ速かに導くので, 効果的である。これはUSITの一つのパートであるオブジェクト名の一般化によっても達成される。オブジェクトを, カタログや辞書の中でよく見られる言葉ではなく, その機能によって名付けることによって, それらは即座に発明者の頭の中により広範な意味づけを持つようになる。例えば, 「釘」は, その使われ方に応じて, 「止め金」, 「支柱」, 「掛け金」, 「穴あけ」, 「閉じ具」, などといった名前の方がより適切である。

以下に述べるUSITの要素と手順, およびそれらの役割を考えてみなさい。つぎつぎとステップが進むのに応じて、問題状況についての新しい見方の可能性がどのように創造されていくかに注目しなさい。また, 全ての手順が, USITの3つの基本要素 (オブジェクト、それらの属性、それらが支える機能) のうちの1つ以上のものに基づいていることにも注目しなさい。最後に、このUSITプロセスが, 最初に鋭く焦点を絞り, 次に広がりを作り、そして並はずれた洞察力 (すなわち, 独自の展望のための比喩 (メタファ)) を作り出すことに注目しなさい。

 

USITの手順 (詳細は教科書を参照)

1. オブジェクトを含む簡単な単一問題の記述

効率的な問題分析を開始するための鍵は, 分析すべき問題を「見る」ことである。簡単な単一問題の宣言文を書くために必要となるオブジェクトを選定することが, 後続のプロセスのための最初の心理的イメージを形作る。USIT分析のこの初期段階においては, これらのイメージは、往々にして, むしろ自明でありきたりな (すなわち, 技術的には正しい) ものであり, 後に見られるような突飛で思いもかけないようなものではない。
2. 簡単なスケッチ
上記の問題状況を簡単なスケッチにすることを要求することにより, 前項の言葉による比喩の単純化が達成される。これは大切な演習であり, ここで分析者は, どちらかというとぼんやりしていて, そして恐らく複雑すぎる一つのコンセプトを取り上げ, それを簡単なスケッチとして描くことを強制される。このプロセスにおいて、不必要な構成物から作られている複雑さが直ちに減少させられ, 本当に不可欠なもののみになる。これが明快な洞察力への出発点となる。
3. 最小限のオブジェクト群への絞り込み
焦点をさらに絞り込むように仕向けるのが, もとのオブジェクト群を最小限のオブジェクト群にまで減少させる要求である。この演習は, 重要な機能とあまり重要でない機能とを区別するように導く。このオブジェクトを間引く演習は, 問題に対する分析者の見方を変化させる。
4. オブジェクト名の一般化
このステップが比喩による創造性のハイライトである。オブジェクトたちはその機能に応じて名付けられる。これはイメージを変えさせる効果的なプロセスである。
5. 閉世界ダイヤグラムにおけるオブジェクト―機能―オブジェクトの連結
一つのオブジェクトに一つの機能という制約を受けた閉世界ダイヤグラムを構築することは、常に洞察力を鍛える演習になり、しばしば予期しない「展望」を生み出すこともある。
6. オブジェクト―属性―機能の宣言文
この演習には2つの条件が関わっている。(1) 2つのオブジェクトが相互作用して1つのオブジェクトの1つの属性を変化させる。そして, (2) 相互作用している各オブジェクトの1つの属性が機能に関与する。これらの条件に従ったO-A-F宣言文を作成することにより、選択されたオブジェクト群の働きについて, 新たな視点を迅速に得ることができる。
7. 定性変化グラフ
最小限のオブジェクト群のそれぞれの属性たちと, 好ましくない効果とを結びつけることによって,  どこを探せば問題解決の機会が得られるかが迅速にピンポイントで分かる。 もし, O-A-F宣言文が望ましい機能だけを記述しているならば、グラフは属性たち同士の矛盾を明らかにする。それらがまた, 解決策を探すべき場所である。
8. 「理想」解
これはユニークで, 到達不可能な目標をイメージすることであり, 分析者に創造的な焦点を問いかけるものである。
9. 変容スケッチ  (The morph-cartoon)
変容スケッチは問題状況のイメージから理想解のイメージに至る推移を, 単純にイメージしたものである。
10. Particles (魔法の粒子)
Particlesは強力な比喩であり, 分析者各人の内的な思考に即して, 無限の包容力と具体化の可能性をもつ。
11. 変容スケッチへのParticlesの配置
Particlesを変容スケッチの特定の場所に割り当て、その行動を局所化することによって、分析者は各Particleが発明すべき行動のイメージを創造するように導かれる。
12. And/Or  Tree  [行動・性質ダイアグラム]
変容スケッチの各場所での Particleの行動を, 結合あるいは対比する (And/Or) ことは, これから考えるべき解決策において提案する行動同士が満たすべき論理的関係を, 分析者に描けるようにさせる。
13. Uniqueness  [空間・時間特性分析]
Uniqueness分析は, 分析者に, 同定した各機能の時間的・空間的特性について考察させる。時間的・空間的特性を頭の中で可視化することは, 各分析者に特有である。これらのイメージをスケッチとして形にすると, ビジョンが極めて明確になる。
14. Dimensionality  [属性次元法]
属性をマッピングすることは、分析者にありきたりでないマッピングを可視化することを奨励し, それが驚くような結果をもたらすことがある。
15. Pluralization  [オブジェクト複数化法]
オブジェクトを多数化あるいは分割することにより, 問題状況の新しいイメージを多く得ることができる。複数化の可能性を一つ一つ体系的に考察することにより、新たな視点が呼び覚まされる。
16. Distribution   [機能配置法]     (注: 「機能分配法」でなく 「機能配置法」で今後 訳を統一します。中川 2001. 7.31)
機能を新たに配置しなおすには、属性たちを活性化したり不活性化したりする必要がある。頭の中でこの演習を行うと、多数の視点の間を行き来することになる。
17. Transduction  [機能連結法]
属性―機能―属性のリンクたち [を作ること, すなわち, 属性を介して二つの機能を連結すること] は、新たな解決策コンセプトを生成するために属性たちをどのように配置するべきかの独自の展望を与える。
18. 解決策コンセプトの一般化
この演習は, その解決策がどうしてうまく働くのかが分かるように, 解決策のエッセンスを可視化することを必要とする。この洞察が目に見えるように一般化されると、それは新しい解決策のひな型となる。
19. エネルギー・フロー
扱っている問題が特定の種類のエネルギー・フロー [熱, 機械エネルギー, 電気などの流れ] を含むことに分析者が気づくと, 問題を極めて単純化できる新たな視点に導かれる。
20. オブジェクト, 属性, および機能
おそらく, 最も強力で効果的な比喩 (メタファ) は、USITの基本 3要素であろう。すなわち, オブジェクト、それらの属性、そしてそれらが支えている機能である。

 
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最終更新日 : 2001. 7.31    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp