TRIZ(USIT)適用事例 (2)
USIT法の適用事例報告 (2) 
高圧ガス入り溶融ポリマーから多孔性樹脂を成形する場合の発泡倍率の増大
  中川 徹 (大阪学院大学)
  1999年 7月 2日
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はじめに

  この適用事例は, 1999年 3月に行われたUSIT法研修セミナーにおいて, Dr. Ed Sickafus
の指導のもとで, 小生とRavi Chona (Texas A&M 大学) とが問題解決を図ったもの
である。この問題は小生が持ち込んだものである。この適用事例報告は,セミナーで作
成した手書きOHP シートを清書して図として掲載し, その説明を本文として付け加えて
わかりやすくしたものである。

  USIT法研修セミナーの参加報告およびUSIT法適用事例報告(1) 「ゲートバル
ブからの漏水の検査法」を本ホームページに掲載しているので, 読者がこれらをすでに
読んでいるものとして本報告を記述する。USIT法は問題分析の段階に二つの異なる
方法を持っている。適用事例報告(1) では第一の方法「閉世界法」を用いた例を示し,
本報告(2) は第二の方法「Particles 法」を用いた例を示しており,これらの二つの適
用事例報告が互いに補ってUSITの全体像を説明している。

  本件の適用事例は, 上記の研修セミナーの第 3日に行ったものである。当日は (適用
事例(1) の場合と同様に),  参加者10名が 4チームに分かれて, それぞれ持ち込みのテ
ーマで並行して問題解決を図り, 共同発表をし, 討論・指導を受けた。講師が方法の概
要を説明した後に, 各チームが並行して, 問題定義, 問題分析 (Particles による),
および解決策の生成という 3段階を順次試行した。本件は正味 4時間程度で行った問題
解決の成果である。
 
 

1.  USIT法のフローチャート

  USIT法 (Unified Structured Inventive Thinking)は, TRIZを大幅に簡略化
した技法であり, その全体は図1 のフローチャートで示される。問題解決の過程は, 問
題定義・問題分析・コンセプト生成の 3段階から構成される。その中の問題分析段階で
は, 閉世界法とParticles 法の二つの流れが可能で, 本適用報告は後者の方法を選んだ
ものである。以下の問題解決過程は, このフローチャートに従って演習したものである。
 
 

      図1.  USIT法のフローチャート (USIT研修セミナー報告(1997.3.30, 中川)より一部編集して再掲)

 

2.第1段階: 問題の定義 (図2 参照)
 

段階1-1:  問題状況の説明

 この事例は, 初期の実験段階にある実地問題をとりあげたものである。問題の状況を
説明すると以下のようである。

 「これは, 発泡した樹脂シートを作成する場合の発泡性を向上させる問題である。シ
ートを成形するには, 加熱して溶融したポリマーを, ノズルから押し出すとともに引っ
張って, 連続的なシートにする。この際, 溶融ポリマーに高圧でガスを溶解させておく。
押し出しとともに表層が冷えてガスを内部に閉じ込め, また圧力が開放されてガスはポ
リマー内で泡状となり, クッション性のある多孔質シートを成形できる。ただ, 予備的
な実験をした段階で発泡倍率を調べてみると, 中に溶解したガスの量から計算して理想
的には10倍に体積増加しなければならないのに, 実際には, 2〜3 倍の実績しか得られ
ていないことが分かった。この発泡倍率を向上させることが今回の問題である。」

  なお, 実地の問題では, 溶融樹脂の素材, 溶融温度, ガス組成, 加圧圧力, シートの
押し出し速度, シートの厚さ,予備実験の装置など, 技術的な詳細が分かっているが,
今回の適用事例としては記述しない。USIT法自身が, このような技術的詳細には関
与せず, 上記に記す程度の概念的な問題として理解し, 解決策を考えることを推奨して
いるからである。
 

段階1-2:  問題設定

  問題状況の説明を踏まえて, 「問題設定」を簡潔な文として表現した(→図2)。
 
 

     図2.  問題定義の段階 (段階 1)で作成したOHPシート

  なお, 上記の問題状況の説明を読み, ここの「問題設定」の文を読んだ読者は, 長い
文を短くしただけだと感じられるであろう。実際はそうではなくて, 実地問題での問題
状況はもっと多くの付帯的な説明があり, それに関わる技術者はさまざまの目的・ねら
い・問題点を抱えている。それらの輻輳した状況から問題を絞り込んで, 「一つだけの
問題」にしたのが, この「問題設定」の文であり, それに対応したことだけの背景状況
を書いたのが, 段階1-1 で記述したことである。問題を「一つだけ」に絞ることは,問
題解決の生産性と深さを向上させるために大事である。もし,他にも問題があるなら,
それをまた別の「一つだけの問題」に絞り込んで考えるのが, USITで薦める方法で
ある。
 

段階1-3:  図解

  問題の説明図を簡略に描く (→図2)。加圧した溶融ポリマーをノズルから押し出して
いる部分だけを描いている。ポリマーの溶融やガスの圧入, あるいは, それを押し出す
ためのメカニズムなどは, 関係ないものとして省略している。この辺の図解の簡潔さ (
問題の絞り込み方) は, 前日の指導 (適用事例報告(1))を受けた成果であろう。
 

段階1-4: 根本原因の考察

  この問題の根本原因として挙げているのは, 「ガスが表面から逃げる」ことである。

  ただ, これが「原因」であるのか, 「結果」であるのかは, 本当はもっと良く考えな
いといけない。ガスが成形済みシートの内部に泡の形で留まっている分量が発泡倍率 (
体積の拡大率) から分かっており, それ以外のガスは「表面から逃げる」しかないのだ
から, 「結果」として多くのガスが表面から逃げているのは確かな事実である。しかし
, それが本当の (あるいは「根本の」) 原因であるかどうかは, 疑問がある。このよう
な疑義は, 講師他参加者の一部からも示唆された。「発泡セルが大きくならない」とい
う記述にも同様の問題がある。

  「根本原因」をより深く理解すれば, 問題解決はより適切になるであろう。その意味
では, ここの「根本原因」の理解をさらに突っ込むことは大事である。それには, いろ
いろな実験事実と技術情報が必要になる。ただ,  (原因と結果とが不分明な) 現象的な
理解であっても, 間違った方向でさえなければ, それなりに問題解決の指針を与える。
その意味で, 「根本原因」を深刻に考えすぎることはないと思われる。もちろん, 「根本
原因」を正しく捉えることの意義の理解とその努力とを前提とした上での話しである。
 

段階1-5:  オブジェクトの選択

  問題のシステムを記述するのに必要なオブジェクト (構成要素) を列挙している。目
的の生産物としての発泡樹脂, 原料としての溶融樹脂, 加圧し溶解させたガス, そして
成形の場としてのノズルがある。図2 で「 (空気) 」と記述しているのは, 「周りにあ
る環境で, 見逃しがちだけれども利用できる可能性があるもの」を示している。
 
 

3.第2段階: 問題の分析(Particles 法とUniqueness分析)

 問題分析の段階に対して, この適用事例では「Particles 法」を用いた。この方法は
AltshullerによるTRIZの「Smart Little People 法」を取り入れたものである。い
わば, 「魔法の小人」あるいは「魔法の粒子」があったときに, それらに何をやっても
らえばよいのかを考える方法である。適用事例(1) で使った「閉世界法」が, 現在のシ
ステムの改良を考えていくのに対して, 本件の方法は, そのようなベースがあまりなく
て, もっと自由に発想することが適している場合に使うとよい。本件の適用事例は, こ
のParticles 法の特性と適合してうまく用いることができたと考えている。
 

段階2-1:  問題状況と理想解のスケッチ  (図3 上部参照)
 
 

 図3.  問題分析の「問題状況と理想解, およびParticlesの適用」の段階 (段階2-1)で作成したOHPシート

段階2-1-1:  問題状況をスケッチする (→図3 左上)                

  Particles 法では, まず, 現在の問題状況を簡単にスケッチする。図はノズルの近傍
での状況を拡大したものである。この図の構図は, 講師のSickafus博士の指導によるも
のである。図2 の図解よりもさらに問題の核心部分だけを拡大して描いている。溶解し
たガスの一部は発泡に寄与しているが, 一部 (あるいは大部分) が表面から逃げてしま
っていることを図示している。定性的・概念的な図の描き方でかまわない。
 

段階2-1-2:  理想解をスケッチする (→図3 右上)

  USITでの重要な過程がこの段階である。問題が「理想的に」解決されたとしたと
きに, その状況を図に描く。この場合には,樹脂の中で融解していたガスが泡を形成す
る。その全てが泡になるのだから, 泡の数が多くなり, また, 泡の大きさが (ある程度
まで) 大きくなるのが理想であろう。ガスはすべて泡になって内部に留まり, シートの
外へ逃げるものがないのが理想であろう。

  この図は, どのようにしてこの「理想」が実現できるのかは問題にしない (してはい
けない) 。例えば, ガスを閉じ込めるために, ノズルの形状を変えて器壁を作るなどと
いう「手段」の案は, ここに表現しようとしてはいけない。
 

段階2-2:  Particles を図に適用する (→図3 下部)

  理想解のスケッチをコピーして, その中の適当な所に「Particles 」を「×印」で描
きこむ。「適当な所」というのは, 基本的には,問題状況のスケッチと理想解のスケッ
チとで, 差異が認められるところである。問題解決のために変化が必要な所と考えれば
よい。この演習では図のように, 押し出されつつある樹脂の内部, 泡の中と周辺, 樹脂
の表面近傍の内部などに, この「×印」を配置した。 (樹脂の外部表面にも配置しても
よかったかもしれない。その部分はガスが逃げないように変化したのだから。)

 「Particles 」は, 「任意の性質を持ち, 任意の行動ができる, 魔法の物質および/
または場」と考える。どんな性質を持ち, どんな行動をするかは, いまから考えればよ
いことである。これを適用している「ご主人」 (問題解決者) の命令に従って, 何でも
できると考える。Altshullerは, これを「Smart Little People 」と呼んだけれども,
イスラエルの人達が「Particles 」と呼び替えた。その理由は, 問題解決者に,「Smart
Little People 」を過酷な状況 (例えば, 非常に反応性が高い酸の中など) に置きたく
ないという無意識の心理が働くのを避けるためであるという。

  「Particles 」は, 「なんでもできる魔法の物質あるいは場」であるけれども, 最終
的には,自然の法則に従うものである。ある物質としてある作用をするなら, その物質
はどこかから持ち込まれたり, 生成されたりしなければならない。ある局部的な電場と
しての効果を期待するなら, その電場を生成する何らかの設定がなければならない。魔
法のParticles として, 目的をまず考え, それを実現する方法は後から考えるのが, こ
の方法の本質である。それでも, 実現するには, あくまで自然法則に従って実現しなけ
ればならない。この点が, おとぎ話としての「魔法」と異なる点である。
 

段階2-3:  Particles に託す行動と性質を描く ( 図4参照)
 
 

    図4.  問題分析の「Particlesに託す行動と性質」の段階 (段階2-3)で作成したOHPシート

段階2-3-1:  Particles に託す行動を AND/OR Treeの形で明確化する (→図4 上半)

 理想解を実現するためにParticles にしてほしいことを, 「行動」 (Action  または
Function) の言葉で表現する。まず, 一番上に, してほしいことを一つの文として表現
する。この表現は, 平易な言葉使いがよい (固い言葉, 技術的な言葉は, 特定の技術的
な方法と結びついていることが多く, 思考範囲を限定してしまうからよくない) 。もし
この行動がいくつかの要素からなっている場合には,その下の段にこれらの要素を分離
して書き, それらの要素が同時に起こる必要がある (AND)のか, それとも, どちらかが
起こればよいのか (OR) を区別して記入する。さらに, 各要素の行動をするには,
Particles がどんな行動をすればよいか, 詳細をブレークダウンして記述していく。こ
のようにして, トリー状に展開した図をUSITでは「AND/ORトリー」と呼んでいる。
 [小生は, 図4 を「Particles の行動/ 性質図」と呼ぶ方が覚えやすくてよいと思って
いる。]

  ここで, 一つの要素をブレークダウンしているときに, 他の要素のことを考慮する必
要はなく, それぞれ独立に展開していく。普通,  3段〜4段程度の展開で十分である。
これらの行動も平易な言葉使いで書き, 特定の (技術的) 手段を意味しないように配慮
する。平易な言葉で書いていると,一見同じことを重複して書いているように見えても,
その実, いろいろ異なる実現法を連想できるようになる。図4 の例の右端の所で, 「
泡を大きくする」という目的に対して, 「泡にガスを集める」のは泡の内側からの行動
を連想させ, 「泡の周りからガスを絞り出す」のは, 泡の周辺で泡の外側での行動を連
想させる。
 

段階2-3-2:  Particles が持っているとよい性質を列挙する ( →図4 下半)

 上記のようにしてParticles に委託したい行動をブレークダウンしたのに続いて, そ
の末端の要素行動のそれぞれを行うために, あるとよいと考えられる性質を列挙してい
く。この場合にも要素行動の間の関連を考える必要はない。ともかくできるだけ発想を
自由にして, ある程度抽象的に, 実現の可能性は二の次にして, 列挙していく。

  図4 の例で言えば, まず, 「ガスを表面でブロックする」という行動を行うための性
質として, 「容器」があればよい, 「圧力」が外の方で高ければよい, 「電場」があっ
て (ガスに電荷があるとして) ガスを表面から押し戻せばよい, 「磁場」があっても同
じようにできるかもしれない, ... などと考えているのである。このあたりの思考プロ
セスは, 厳密さは大事でなく, より自由で広い発想をすることが大事である。「磁場」
を使ってガスを表面でブロックすることが, 非常に特殊な場合で, 極端な実験条件を必
要とするかもしれなくても, 構わないのである。

  図4 で, 「泡を作るもとを多くする」という行動に対して, それを実現するための性
質として, あわのもとになる「核」を多くする, 核になるための「シード」を用いて,
それを多くする, 「容器の表面」を利用する, また適当な界面を導入してそこで泡を発
生させる, 泡を作る核を反応で生成させる, 泡が多数発生するように「時間を確保」す
る, ... などと記している。これらの一つ一つをリストアップしているときに, すでに
, つぎの段階である「問題解決のコンセプト」の要素となるアイデアが頭の中で誘発さ
れており, それを記憶し, あるいは図の中に適切な言葉で表現していくことが大事であ
る。
 

段階2-3-3:  Particles を使用する前処理と後処理の分析

  この適用事例では省略しているけれども, 「Particles 」は, 自然法則に従う物質ま
たは場であるから, それを使うためには,「初期化」と「終了処理」が必要である。
「初期化」とは,「Particles 」を使えるようにする前準備であり, 物質または場であ
るParticles をどのようにして使えるように導入してくるかを明確にすることである。
「Particles 」が, おとぎ話的な「魔法の粒子」ではなく, 自然法則に従うものである
ために, このような「初期化」の考察が必要になる。「終了処理」も同様である。

  「初期化」と「終了処理」は,  (必要ならば) 図4 と同様の考え方の図を描く。ただ
し, そのパターンはほとんど定型化されている。定型のものの望ましい「行動」を描い
た部分を, 参考までに下記に記す。託したい「性質」については, これらの下部に図4
と同様に記入していく。
 
 

段階2-4:  Uniqueness分析 (機能の時間的・空間的特性の分析)  (図5 参照)

  問題分析の主要な過程に本件のように「Particles 」法を使った場合にも, (適用事
例(1) のように「閉世界法」を使った場合と同様に)   後段の分析過程として
Uniqueness分析を行う (図1 のフローチャート参照) 。その目的は, 問題の特性・機能
の空間的・時間的な特徴を明示的にすることである。 
 
 

   図5.  問題分析の「Uniqueness分析」の段階 (段階2-4) で作成下OHPシート

  本件の適用事例では, 問題状況の特性を記述することは省略して, 理想解の特性を直
接分析した。まず, 空間的特性を描いたグラフが図5 の上の二つである。最初に軸方向
 (樹脂の押し出しの方向) の特性を考える。泡は, ノズルの先端の位置 (圧力が開放さ
れ始める位置) で生まれ, 次第に多く, 大きくなって, 樹脂が冷えて生成膜として定着
するところでその変化が止まる。もう一つの特性として, 樹脂の密度 (すなわち, 発泡
倍率と逆比例の関係にある量) を考えた。高圧で溶融されているときの密度があり, そ
れは泡の形成とともに低下し, 生成膜が定着したところでは, 小さな値になる。発泡倍
率の観点からわれわれがまず考えるのは, バルクとしての内部の樹脂の密度である。

  もうひとつ考えたのは, 図4 の分析過程で, 「ガスを表面から逃さない」ための一つ
の方法として, 「泡を表面に作らない」としたことである。このためには,理想解は,
表面近傍では泡が少なく, 従って, 密度がある程度の大きさに維持されなければならな
い。これが, 図5 の左上の図に書き込んだ, 「密度 (表面) 」と書いた曲線である。

  この点を明瞭に表すには,空間の膜厚方向での特性を考えることであり, それが図5
の右上の図である。生成膜の膜厚方向の断面で見た特性を示す。泡の分布は, 内部では
一様に多く, 表面近くで急に少なくなる。密度は, 泡の分布と逆数関係にあり, 内部で
小さく, 表面近傍でのみ大きな値になっている。

  図5 の下部は, 時間的な特性を示す。この場合は, 樹脂の微小部分に着目してその時
間経過を見たと考えると, 高圧溶融状態にあったものが, ノズルから押し出され, 泡を
形成し, 膜として成形されていくわけであり, その (定性的な) 様子は軸方向の空間特
性と同様になる。それでも, ここでは, 時間の観点から考えているのであり, ある時間
経過のうちに泡が生じ, 泡が多く, 大きくなり, そして定常的になることを示す。特に,
泡の形成と成長に時間がかかるのだと認識できたこと, および押し出し方向の距離と時
間とが並行関係にあることを認識したことが重要である。

  ところで, このような図は, 「分かっていることを描いた」のではない。「空間特性
を描け」, 「時間特性を描け」という枠組みが与えられ, そのやり方に従って描こうと
すると, 具体的にどのように描けばよいのかを一つ一つ考えることになり, その過程で
一歩ずつ新しい認識をし, 新しい判断をして, その積み上げとして, ここに描いたよう
な図が出来上がるのである。USITの分析過程が問題解決に寄与するのは, このよう
に思考を促し, 作業の中で新しい認識を生じ, それが目に見える形に表現されて定着す
るからである。
 
 

4.第3段階: 問題解決のコンセプト生成  (図6参照)

  [USIT法研修セミナーの演習では第 3日に, Particles 法による問題解決を 4題
並行して行い, 午前中に問題定義フェーズ, 午前・午後に跨がって問題分析フェーズ,
そして最後にコンセプト生成フェーズを行った。われわれのチームは問題分析フェーズ
で時間が足りなくなり, コンセプト生成フェーズの時間枠でも問題分析をやりあげるこ
とにした。その結果, これまでに記述した部分が, 当日のセミナーで実際にOHP に書き
, 発表・討論し, 指導を受けた部分である。この分析の過程とその討論を通じて, コン
セプト生成は自分の頭の中ではほとんど出来上がっており, 講師のDr. Sickafusの頭の
中でも同様であったと思われる。図6 に示すものは, セミナー修了・帰国後の数日後
(3月17日) に書き上げたものである。]

  USITの第 3段階は, いままでの分析を踏まえて, 問題を解決するコンセプトを生
成して, それを書き留めることである。図1 のフローチャートが示すように, USIT
には,  4種の問題解決方法がある。 (適用事例(1) を参照) 。
  (a) Dimensionality法:   属性に注目する。
  (b) Pluralization 法:   オブジェクトに注目する。
  (c) Distribution法:     機能に注目する。
  (d) Transduction法:     属性- 機能- 属性のリンクに注目する。
これらを臨機応変に用いればよいのであり, どの順番で用いるか, どのような手順で用
いるかを, USITではあまり問題にしていない。

  実際, 本件の適用事例では, 「上記のうちのどの方法を用いた」という意識は全くない
前述のように, 問題分析過程で一つ一つ列挙し, グラフに描いているうちに, いく
つものアイデアの要素が頭の中に生まれていた。セミナーの数日後に, 図6 を書いたの
であるが, そのときにしたことは, いくつものアイデアを整理して, 記述していくこと
であった。アイデアの要素をキーワード (あるいは文) として書き留めながら, 骨格と
なるアイデアを明確にする。そしてまた, その骨格に肉付けしていく。この過程は, 特
別な技法を使っているというよりも, 企画書や論文骨子のような骨格をはっきり記述す
る文書を作成するときの, 典型的な執筆作業と同じものであったと思う。
 
 

   図6.  コンセプト生成段階 (第 3段階) で作成したOHPシート

  図6 の記述をいくつか補足しておく。

(1) 「発泡させるためのシードを入れる」というのは, 泡をできるだけ多数, かつ初期
      に生成させることを目的とする。「不均一な要素が必要だ」というのは, Dr. Sickafus
      との討論から得た結論である。

(2) 「ノズル部から先にアタッチメントをつける」というのは, 樹脂内の泡の形成と成
      長を促進させるために, 「圧力・温度」などの基本的環境を整備するための方法である。
      「Particles 」は物質だけでなく, 「場」 (TRIZでは力, 場, 相互作用, エネルギー,
      環境条件などを総称して「場」という) をも代表するものであり, そのような「場」を
      具体的に保証しようというのが, ここの「アタッチメント」である。アタッチメントと
      書いているのは, この部分をいろいろ取り替えて工夫することにより, 実験条件を容易
      に制御できるだろうという含みがある。

(3) 「膜の表面に泡を作らない」ことは, より積極的な対策として, 「膜の表面層にポ
       リマーを早期に析出させる」という考えを導いている。ここでは,Uniqueness分析で明
      確に認識した「膜厚方向での空間特性分布」 (膜の表面と内部の差別) を具体的に実現
      することを目指している。

(4) 「膜の内部でガスがすべて泡の形成・拡大に寄与する」ことは, 発泡倍率が理論値
      そのものになること, すなわち「理想解」であることを意味する。ともかく, これが目
      標であり, 図6 の(1)〜(3) はそのための具体的な方法である。これを達成するために
      は,「泡の形成と拡大」のための環境を整え保持して, それが実現できるのを「待つ」
      必要があること, 「時間」の要素をよく考える必要があることを指摘している。

  なお, これらのコンセプトは, 同時に実現可能であり, 全体として統一的なものにな
っていると考えている。
 
 

5.まとめ

 本件の適用事例は,「Particles 法」を用いて, 初期の実験段階にあった具体的な問
題での解決を図ったものであり, 解決策コンセプトの生成という目的を的確に果たした
ものである。Particles 法は, 一つに絞り込んだ問題に対して, その問題を総合的に見
て, 適切な指針を示してくれるように思う。

  実際に, 小生はこの問題を数ヶ月前に知り, 時々考えてはいたが, この問題の専門家
でもなく, 担当者でもない。その小生が, USIT法とDr. Sickafusとの討論をもとに
して,  1日間で到達したのが, 図6 の解決策コンセプトである。後日, この技術問題の
関係者の上司にこの適用事例を説明した。その上司は, 「これらのコンセプトはそれぞ
れ知られているアイデアであり, オーソドックスである」と評した。それでも, 実験の
初期で数ヶ月のあいだ模索段階にあった事例に対して, 「オーソドックスである」と評
させるほどの, 明確な方向付けを与えたことは, 注目すべきことである。具体的な技術
的な詰めと実験が現在進行中である。

  なお (上記の評に関連して付言すれば) , 「創造的な」問題解決は, 必ずしも「奇を
衒った」アイデアを良しとするものではない。Dr. Sickafusは, USITの目標として,
「企業において, 発明を指向するよりも, 現場の実際問題をできるだけ速やかに創造
的に解決する複数のコンセプトを生成する」ことに置いている。「発明」が技術的・企
業的に成功するには長期間かかるが, 現場で必要とされる「創造的問題解決」はもっと
速やかに (例えば数ヶ月以内に) 技術的に実現させたいものである。本適用事例は, そ
のようなUSITのねらいを十分に達成したものと考えている。
 

  この適用事例を指導して頂いたDr. Ed Sickafus に深く感謝する。今回掲載した 2件
の適用事例報告が, USITを理解し, またTRIZを理解して, 問題解決に適用しよ
うという多くの人々の助けになることを願っている。 

                                                                                              以 上
             
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最終更新日 : 1999. 7. 7     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp