TRIZフォーラム: 問題提起: 

フォローアップの討論 (1) 2010年 5月〜10月

「TRIZの現状と将来の方向」 (Arshad論文) をめぐって

コメント:  Ellen Domb (米国) 2010年5月12日 (掲載: 2010. 5.16)

討論:  「弁証法およびTRIZを科学にするために」 高原利生、2010年5月20日 (掲載: 2010.10.10)

編集: 中川 徹 (大阪学院大学)

掲載:2010. 5.16; 10.10

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編集ノート (中川 徹、2010年 5月16日)

このページには、Arshad 氏の論文 (2010. 5. 9 掲載) をめぐっての、(2010年5月(〜年末) の討論を掲載します。次の項目があります。ただし、英語でもらった討論記事は英語のページだけに掲載しています。

 

  "Comments on "The Journey So Far and the Way Forward for TRIZ" by S. Saleem Arshad" (Ellen Domb) (2010. 5.12) (掲載: 2010. 5.16)

"Comments on "Editor's Note, Addendum" by Toru Nakagawa" (Ellen Domb) (2010. 5.12) (掲載: 2010. 5. 16)

編集ノート (中川 徹、2010年10月9日)

実は、5月20日に高原利生さんからの寄稿があったのですが、シンポジウムの発表申込み締切時の多忙のために紛らせてしまい、最近になって気がつきました。お詫びして、ここに掲載いたします。また、高原さんが本件を最近英訳されましたので、英文ページにも掲載します。

「弁証法およびTRIZを科学にするために」 (高原利生) (和文: 2010. 5.20)、(英文: 2010.10. 1) (掲載: 2010.10.10)


  Arshad論文に関して: 「弁証法およびTRIZを科学にするために」 (高原利生)

 

弁証法およびTRIZを科学にするために

2010年 5月20日   高原利生

中川 徹先生:

「TRIZの現状と将来の方向」 S. Saleem Arshad、2010年 5月 6日、
(これについての)「追記」 中川 徹、 2010年5月9日、
「Arshad論文へのコメント および 中川の追記へのコメント」 Ellen Domb 、2010年5月12日
(いずれも中川先生のTRIZホームページ)を拝見しました。

日ごろ敬愛する中川徹先生とEllen Dombさん(私のいくつかの論文で、このお二人に対する謝辞を書かせていただいています)の参加される議論に参加できるのは嬉しい限りです。

たくさんの重要な論点があります。ここでは、1.TRIZの弁証法との関係、2.TRIZを科学にするためにどうすればいいか、についてコメントします。

1.TRIZの弁証法との関係

TRIZの優れている点は、中川先生の「50語」に示されているように、弁証法の観点があることです。問題の大きな一つはこの「弁証法」の中身です。

弁証法とは私の理解では、古代ギリシャの弁論術であり(実はこれについては殆ど何も知りません。得ることは多いのだろうと思います)、ヘーゲルの「正反合」であり、エンゲルスやソ連共産党哲学教程の唯物弁証法であり、同時にそれらのいずれでもないものと思います。

また最近、弁証法には、論理という面と、哲学、思想の面があるという気がしています。この二面は、本当は分けられないのかもしれませんが。

1) 論理としての弁証法

TRIZ Journalに載っている論文で弁証法の紹介をしているものがいくつかありますが、その内容はいずれも見直しが必要です。今既存の弁証法の見直しをやっており、一部を
          高原:「弁証法論理の粒度,密度依存性」 FIT2009
に書きました。これは全く論理について述べています。

2) 哲学、思想としての弁証法

Arshadさんが、「将来に向かってのわれわれの考え」を示唆するための11の観点の第五に挙げられている次の点は、哲学、思想としての弁証法です。こういう見方があるということに感銘を受けました。

「(5) 第五に、「弁証法的アプローチがTRIZの哲学的なエッセンスであり、それは議論の両側を等しく考慮することで行なわれる」ことを認識することである。新しい洞察が生れることができるのは、二つの対立する見方がより大きいコントラストで考慮され、いわば、その対立が強調されるときである。この分野の国際的なジャーナルは、鋭く異なる複数の見方が、横に並んで現れることを許容し、読者がそのやりとりから利益を得るように、しなければならない。」

2.TRIZを科学にするために

TRIZが、操作変更のための論理の体系にはなっていないことはそのとおりであると思います。

私の考えでは三点あります。

1) 合成の手法がないに等しい

Arshadさんが11の観点の二番目、四番目に、次のように挙げられていることはそのとおりであると思います。

「(2) 第二に、「大抵の知的開発は分析サイクルとそれに続く合成サイクルとから構成されており、TRIZが持っているヒューリスティックス のセットは、分析を支援するものが多く、合成を支援するものが少ない」ことを自覚することである。」

「(4) 第四に、欠如しているイノベーションツール、すなわち合成を指向したツールを開発する必要がある。これらは、TRIZの諸ツールの適用をガイドし、何をどの順序でする必要があるかの問題に取り組むような、計画立案と構造化の機能を提供しなければならない。」

Lally Ballさんの本のA章からE章には、「理想化」を行っていけば合成する手法が「できる」ということが示唆されていますが、完全ではありません。研究開発のTRIZから一般の技術者のためのTRIZにするためには(も)、合成は不可欠です。技術者だった時に最も欲しかったのは合成、総合の手法でした。私はもうこれに取り組む気力も体力も時間もありません。どなたか取り組んでいただくことを期待しています。

2) 分析の手法も論理性が不足している

例が論理の代わりにならないのは言うまでもないことですが、自分を含めて、例があれば正しいとつい思ってしまうのはどうしてでしょうか?例を例として尊重し、しかし例は論理の証明にはならないという当たり前の理解が何と難しいことでしょう。

必要なのは、考えうるオブジェクトを網羅し、その中からオブジェクトを特定し、方法を特定する論理です。まだ私を含めて努力が続いている状態です。まだオブジェクトの網羅、その中からオブジェクトを特定し、方法を特定する論理も、ないといっていいと思います。

ArshadさんがB項で「腐食性の酸 (フッ化水素酸?) の例で、テスト対象材料で [テスト用] 容器を作るという例題」を挙げられています。実は私の昨年2009年の日本TRIZシンポジウムの「TRIZという生き方?」のスライドでこの例を取り上げて、何とか論理的に解を導くことができないか考えていました。講演の中で説明する暇はなかったのですが。

以下その一部を補足して引用します。考えうるオブジェクトを網羅し、考えうる方法を適用していくというやり方を述べようとしています。これだけでは分かりにくいかもしれません。

システムオブジェクト(「もの」です):
       試料、酸、容器(属性:コスト,その値:C)

プロセスオブジェクト(「運動」、動作、過程です):
       試料テスト(状態:運用時間,その値:t)、
       酸の容器浸食(属性:全運用時間,その値:t),(属性:浸食度,その値:運用時間t 間の取替え回数n回)、
       容器取替え(属性:容器コスト,その値:C), (属性:工数費用, その値:Cr)

目的の種類列挙: 
       単位時間あたり容器取替えコスト (C +Cr) n / t最小: 1
   酸が容器を浸食するというプロセスオブジェクトの削除: 2
       容器取替えというプロセスオブジェクトの削除: 3

これは列挙の例です。1が2,3を含んでいます。
例えば、 2. 酸が容器を浸食するというプロセスオブジェクトの削除のために、容器の除去をすると、容器が酸と試料を保持しているという機能が削除されるという副作用が生じ、酸の試料浸食が実現できなくなる。

こうして、技術的矛盾の解決をせねばならないことになる。(以下略)

3) TRIZの対象領域

これは殆どの方と視点が異なる点だと思います。TRIZは、技術から出発したが、全ての領域に適用可能な方法と理解しており今まで発表もしてきました。この位置づけが技術にも有用と思っています。

また個人の領域や制度の領域には、弁証法の「思想、哲学」としての面も重要と思うようになりました。この点も技術と関連があるかもしれません。

以上

 

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最終更新日 : 2010.10.10    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp