USIT講義ノート: Sickafus のニュースレターとミニ講義 (第1集)
USIT ニュースレター と ミニ講義  (第1集) 
Ed Sickafus (Ntelleck, USA),
第1号 2003年11月15日 〜  第6号 2003年12月22日
  訳: 古謝 秀明 (富士写真フィルム) ・
       中川 徹 (大阪学院大学)
  

[掲載開始: 2004. 1. 8, 最終更新日: 2004. 3. 3] 
  和訳掲載号: (1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)    以降は第2集に

  英語原文 (PDF版) 掲載: 2013. 1.27

 For going back to the English page, press: 

 注:  USITニュースレター についての説明は, この親ページを参照下さい。

  

USIT Website: http://www.u-sit.net/

Dr. Ed Sickafus:   Email: NTELLECK@u-sit.net

 
 (号) 発行年月日   特集   ミニ講義 の 内容 掲載日 (和訳) 英語原文 (PDF)
(1) 2003.11.15  創刊号 ミニ講義(1) 適切に定義した問題 2004. 1. 8
2013. 1.27
(2) 2003.11.23  ミニ講義(2) 最小限のオブジェクトの組 2004. 1. 8
2013. 1.27
(3) 2003.11.30 ミニ講義(3) 根本原因の推定(その1) 2004. 1.28
2013. 1.27
(4) 2003.12. 8  ミニ講義(4) 根本原因の推定(その2) 2004. 1.28
2013. 1.27
(5) 2003.12.15 ミニ講義(5) 適切に定義された問題を完成する 2004. 3. 3 
2013. 1.27
(6) 2003.12.22  クリスマス  ミニ講義(6) 直感的解決策を列挙する 2004. 3. 3 
2013. 1.27

 

ニュースレター NL-1 望ましくない効果 NL-2  最小限のオブジェクト NL-3 根本原因分析(1) NL-4 根本原因分析(2) NL-5 適切に定義された問題の完成 NL-6 直感的解決策の列挙 次のページ ニュースレターの親ページ

 


 

  USITニュースレター  No. 1  (2003年11月15日)   Ed Sickafus       

「USIT (統合的構造化発明思考法) は, 構造化されていないブレインストーミングが行き詰まってしまったときに, 革新的な解決策のコンセプトを発見するために問題に対する常套的ではない見方を作り出すのに使う問題解決の方法論である。」

読者の皆さんに:  USITの正規登録の読者数が「クリティカル・マス」に達したようですので, ここに「USITニュースレター」を発行することにしました。

1. USIT教科書は, しばらく前から 44.50ドルに値下げしております。お間違えなく。

2. eBook 「USITの概要」(無料) は, 公開後8週間で 37カ国157人の人たちがダウンロードしました。

3. USITを使って発明した最新の特許につぎのものがあります。

米国特許 No. 6554332 (2003年4月29日) "Pedestrian impact energy management device with seesaw elements"
発明者: Peter Jon Schuster (米), Liz Tait (英), Bradley Staines (英), Christopher William Lucas (英), & Edward Nathan Sickafus (米)

4. 構造化問題解決に関する情報には, つぎのようなWebサイトから得られます。

USIT:              www.u-sit.net                    [Ed Sickafus (米)]
SIT:                www.start2think.com           [Roni Horowithz (イスラエル)]
USIT/TRIZ:     www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/eTRIZ/      [中川 徹 (日)]
TRIZ:              www.triz-journal.com          [Ellen Domb (米)]

ミニ講義-01

適切に定義された問題は、望ましくない効果から始まる

問題を解決しようとするとき、私たちの典型的なアプローチは構造化されていないブレインストーミングである。構造化されていないブレインストーミングは、ある問題が提起された瞬間に私たちが無意識に始めるものである。問題は私たちの心理的能力に対する知的チャレンジであり、私たちはそのチャレンジに興奮させられる。新しい解決法を発見することや仲間を打ち負かして解決を得ることで、知的な満足が得られる。私たちが無意識に行うブレーンストーミングの効率は素晴らしいものである。私たちはみんなこれをうまくやる。しかしながらあるところまで来ると、私たちが発見できるアイデアがもっとあると感じていても、構造化されていないブレインストーミングはだんだん力をなくす。そこで、通常でない見方を創りだす構造化されたブレインストーミングの出番である。統合的構造化発明思考法(Unified Structured Inventive Thinking) を導入する機会がここにある。   

問題への取り組みをどのように始めるのか自体も問題である。どこから始めるのか?どうやって始めるのか?初めの段階でこれら二つはまだ回答が得られていない質問である。私の定義によると、「答えが得られていない質問はなんでも問題である」。答えが得られた質問はもはや問題とはいえない。しかしながら、答えが得られていない質問が必ずしも適切に定義された問題とは限らない。そういうわけで、USITにおける最初の問題解決フェーズは「適切に定義された問題 (a well-defined problem)」を構築することである。

USITにおける適切に定義された問題の特徴の一つは、「ただ一つの望ましくない効果 (a single unwanted effect)」を持つことである。したがってどんな問題状況にUSITを適用するときも、私たちはまずその状況を出来るだけたくさんの望ましくない効果に解きほぐさなければならない。そしてそれらの効果に優先順位を付けて、本気で取り組むべきものを一つ選定しなければならない。人間の脳は、一度に二つの問題を解決することがでいきない。これが、適切に定義されたUSIT問題を形成する最初のステップである。「望ましくない効果を認識し、優先順位を付け、そして一つに絞る」ことが、明確な取っかかりを持たないように見える問題状況に対して行動を起こす効率的なやりかたである。このテクニックに価値があることは、私が指導したUSITのクラスの演習中に (そして企業における「初見」のチームにおいて) 何度も証明されている。そこでは、彼らがクラスに持ち込んだ企業の種々の問題に取り組もうとして、どうやって解決に取り掛かればよいかわからないでいるように見えた。もちろん、適切に定義された問題をいままでに構築していなかったから、彼らは行動を起こせなかったのだ。

演習: つぎの状況を考えよ

        出版業者が言っている:  「当社の新聞用紙に印刷されたインクがきたない。なんとかしろ。」

問題は何だろうか?問題状況を関連のあるできるだけ多くの望ましくない効果に解きほぐすことによって答えよ。手順を適切で取り扱い可能なものとするために、この問題状況を含む少数のオブジェクトの組(最小限の組)を選定せよ。そして、その組の中で作業せよ。

適切に定義された問題はまた、根本原因をも含む (今後のミニ講義の一つのテーマである)。
この演習を次回の「USITニュースレター」で続けよう。

USITミニ講義は問題解決の三つのフェーズを今後扱っていく。

1.  問題の定義  --  適切に定義された問題を構築する
2.  問題の分析  --  問題に対する新しい洞察を得るためのツール
3.  問題の解決  --  USIT問題解決技法を適用する

古謝秀明・中川 徹 訳 (2003.11.22, 2004. 1.6)  [掲載: 2004. 1. 8]


USITニュースレター  No. 2  (2003年11月23日)   Ed Sickafus         

1. ニュースレターNo. 1を受け取った旨を沢山の人たちから返信いただきました。また, 以下の返事をいただいたことに感謝します。
  • 「... ミニ講義の第1回はすばらしいです。われわれの社内でUSITが認知されるように, ゆっくりですが努力しています。トレーニングセミナーができるとよいと思っています。ニュースレターをUSITの普及に役立てます。...」 Gary Allen
  • 「すばらしいメッセージをありがとうございました。「USITニュースレター」の配信を開始されたのを喜んでおります。特にミニ講義が示唆的です。これを定期的に日本語に翻訳して『TRIZホームページ』に掲載することを許可いただけないでしょうか?ところで, このニュースレターをUSITのWebサイトに同時に掲載されるとよいのではないでしょうか?」中川 徹。[Ed: 許可します。]
  • 「一つだけ注文。メール添付のニュースレターのファイル名に「USIT」という名前を追加して, 区別しやすくしてください」Ellen Domb。[Ed: 処置済み] 
  • ミニ講義-02

    適切に定義された問題は、最小限のオブジェクトの組を持つ

      ミニ講義01(以後ML01)は、「適切に定義された問題」を創り出すことを目指してスタートした。不適切な定義の問題の例を示し、その問題をできるだけ多くの望ましくない効果に解きほぐすように、私たちに課題を課した。それから、直感的ではない攻略方法を示した。すなわち、「オブジェクトの数を最小にせよ」と。しかし、これは賢明なことだろうか?できるだけたくさんの望ましくない効果を見つけたいのなら、できるだけたくさんのオブジェクトが必要ではないだろうか?もちろん、答えにはイエスとノーがある。いや、きっぱりとノーだ!! 問題に対する攻略法で、一番大切な、根底にあり、基礎的で、基本的で、本質的なものは、問題を「単純化する」ことである。オブジェクト数を最小化することは即座に問題を単純化する。(下記別掲の例 [トランプの問題] を参照のこと)

      前回のミニ講義で、つぎのような問題状況を提出した:

    出版業者が言っている:  「当社の新聞用紙に印刷されたインクがきたない。なんとかしろ。」

    この問題状況を構成したときに私が思い浮かべた最初のイメージは、印刷用紙のインクを指で触って汚したところである。(図中の暗い色の楕円が指の節を表わしている。)

      前出の演習は、この状況をできるだけ多くの望ましくない効果に解きほぐすことであった。

      不適切にしか定義されていない問題から適切に定義された問題を形作ることの一つの面は、用語を明確にすることである。「きたない(messy)」という言葉はこの問題状況を特定するものではない。この言葉は、インクが紙の上になすりつけられることと、インクが紙から離れて移ることによる沢山の効果 (結果) を含む。これは定義が不適切な問題の一つであり、焦点をもっと絞り込むことが必要である。根底にある望ましくない諸効果を同定することによって、私たちは努力をより効率的に方向づけることができ、考えられる根本原因 (次のミニ講義03を参照) を特定でき、適切に定義された問題の核心に迫ることができる。

    望ましくない効果 (unwanted effects):

      望ましくない効果として考えられるもののいくつかを以下に示す。

    これらの望ましくない効果に含まれているオブジェクトに注目しなさい:インク、紙、手、衣服、搬送機、それから鼻。より多くのオブジェクトを許すと、より多くの効果が許される。例えば、配達人の車のシートのクリーニング費用など。クリーニングの問題は追加のオブジェクトを持ち込む。望ましくない効果を適切な、関連したもの、取り扱い可能なものに保ち、プロセスを効率的なものに維持するために、オブジェクトの数を最小化せよ。

    オブジェクトの最小化:

      この問題状況には明白に4つのオブジェクトがある:インク、紙、指 (あるいはインクで汚される他のオブジェクト)、そして周りの空気。これらは全て関連している。最小限の組を形成するためには、問題を見失うことなくオブジェクトを除外できるような状況を考えるための方法を見つける必要がある。この状況を検討するための一つの方法は、指を除外したときにその問題が存在し続けるかを調べることである。指がなすりつけを起こすのは確かだが、印刷されたインクは指がインクに触る前からなすりつけが可能な状態にある。上記の望ましくない効果のうちの初めの4つは本物の指あるいはその類似物を持っている。つまり、インクと接触する何かで、インクでしみを付けられるものである。そこで、私は「インクと接触する何か」を削除し、インク、紙、そして空気を残そう。そうすると 、[さらに] 空気を削除してもなお、印刷されたインクはなすりつけ可能な状態にありそうだ。こうして、「インク」と「紙」とが、この問題を含む最小限のオブジェクトの組として残る。

     このオブジェクトの消去のプロセスで私が可能性のある解決策のいくつかを棄ててしまったのではないかとあなたが心配しているのなら、心配無用である。私たちの心はこれらのオブジェクトを処理したのであり、それによって、それらを私たちの潜在意識にしみ込ませたのである。解決策コンセプトには恐らく、意識的に維持しているオブジェクトと同様に、これらの [潜在意識中にある] オブジェクトも含まれてくるだろう。問題分析の最中に考慮した全てのアイデアを再考することを、私たちの心に止めさせることはできないのだから。([例えば] あなたが聴いたメロディを忘れようとしてみなさい(たとえ何年も前に聴いたものでも)。一旦そのメロディがあなたの心の中で再生され始めると、あなたの潜在意識がそのメロディを思い出さないように意識的に強制することは、不可能とは言わないまでも非常に難しい。)

      この結果、私たちには二つの望ましくない効果が残った。「インクが接触したオブジェクトを汚す」と、「いやな臭い」である。新聞についての私の経験から、取り組むべき望ましくない効果として、私は「インクによる汚れ」を「臭い」よりも重要であると位置づける。Karl (私の息子の一人、たまたま新聞業界で働いている) も、「汚れ」がより重要な問題だと保証してくれた。私たちの望ましくない効果は、つぎのように述べることができる。「新聞紙のインクが、それに接触するオブジェクトにしみを付ける。」 しかし、私たちは基本的な問題に焦点を絞るため、問題を起こす接触するオブジェクトを消去したい。そこで、より少数のオブジェクトの組についてのもっと明確なステートメントは次のようになる。「新聞紙のインクがなすりつけられる可能性を持っている。」この表現は、問題を起こす [指などの] オブジェクトを暗黙にしか含んでいない。

     ついに私たちは、[望ましくないいくつもの効果を] 識別し、言語化し、優先順位付けをし、そして単一の望ましくない効果を選定して、一つの問題に焦点を絞った。

    望ましくない効果:「新聞紙のインクがなすりつけられる可能性を持っている。」

    この問題の次のセッションのために、オブジェクトを列挙し、図解を行い、望ましくない効果に対する考えられる根本原因の特定をやってみるとよい。この演習によってあなたは、望ましくない効果の根底にある現象論を明確にするあなた自身の能力の限界まで即座に到達できるだろう。それ以上 [学習の役に立つこと] は求めようがない。  

    (『USITの概要』 p.15-16: 「考えられる根本原因」 についての議論を参照のこと)  

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    オブジェクトの最小化     (USITクラスでの説明)

    当該問題を含まないオブジェクトを消去してオブジェクトの数を減らすことが、解決策のコンセプトを棄ててしまうことはない。私たちは [USITにおいて] 厳密で、十全で、伝統的な工学的分析をしているのでないことを心に留めておきなさい。私たちは、ものごとを違う角度から見て、問題解決のための私たちの無意識を呼び覚まして行動を起こさせるように、迅速で非常套的な分析を試みているのである。オブジェクトを消去するプロセスは、一つ一つのオブジェクトの役割について注意深い推論をしているのである。残すオブジェクトについても、消去するオブジェクトについても。このプロセスにおいて、それら両方ともが私たちの心にしみ込まされるのである。それでいて、私たちの意識的な努力はより少数のオブジェクトに焦点を絞っており、その結果、より意識的に取り扱いが可能になる。これは [問題解決の] スピードと効率的な焦点を作り出すであろう。

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    古謝秀明・中川 徹 訳 (2003.12. 7, 2004. 1.6)  [掲載: 2004. 1. 8]


     パズル:  切ったトランプ中の仲間外れのカード枚数を等しくする

    (問題解決技法とその他の関連事項)

     この前の日曜日に息子の一人Kurt が電話をかけてきて、面白いパズルを教えてくれた。National Public Radio の「カー・トーク」番組で聞いたものだという。

    『52枚のトランプの一組で、いまそのうちの13枚が表向きで39枚が裏向きのものを渡されたとする。これを二つのグループに分けて, 両グループにある表向きのカード枚数が同じになるようにせよ。-- ただし、これを目隠しして、 あるいは暗室で行うこと。』
    (続きを読む前に自分で解いてみなさい。そのほうがこのつぎの議論がよく分かるでしょう。)

                 -------    一つの解決策   ----------

    私のUSIT流の反応は、オブジェクトの数を減らして問題を単純化することであった。最小化するには、その問題を含むのにちょうど必要なだけに問題中のオブジェクトの数を減らすことが求められる。明らかにこの問題では、裏向きのカードが表向きのカードの3倍の数ある。このような特徴をもった最小限の組はカード4枚である。そこでこの小さい方の問題をまず解いて、それからその結果を大きな方の問題に拡大できるかどうかを考えよう。

    4枚のカードを二つのグループに分けるには3種類の方法しかない。2枚と2枚、1枚と3枚、そして3枚と1枚という3種である。もちろん、表向きの (1枚の) カードは、これらのグループのどこにでも入る可能性がある。二つのグループでの [表向きのカードの] 枚数を等しくするためには、表向きのカードは [全体として] 偶数枚必要である。するとこの場合は、0枚、2枚、または4枚である。そこで明らかなことは、偶数枚の表向きのカードにするためには、われわれは1枚または3枚の裏向きのカードをひっくり返すか、1枚の表向きのカードをひっくり返す必要がある。しかしさらに、われわれに必要なのは、二つのグループのカードで、(見ることができない) [何枚かの] カードをひっくり返すことが望ましい結果になることを保証するような、ユニークな対を作り出すことである。ここで再び単純化して、一つのグループ全体をひっくり返すことにしよう。この小さい方の問題では試行錯誤で解決策を得ることができる。

    「まず二つのグループに分け, 一方が 3枚, 他方は残りの1枚とする。(表向きの [1枚の] カードはこのどちらかのグループに入っている。) 単純に、1枚だけのグループをひっくり返せばよい。そうすると、表向きのカードの枚数は両グループで同じになる。すなわち、各グループに 0枚または1枚である。」
    この解決策をカード枚数が多い場合に拡張しよう。 例えば、全体で 4n枚, そのうち n枚が表向きで、残りの 3n枚が裏向きの場合には、つぎのようにすればよい。
    「全体のカードを、 3n 枚のグループと n枚のグループとに分ける。そして, 少ない方のグループ全体をひっくり返す。」

    この解決策でうまくいく理由は、もし大きい方のグループが n-x 枚の表向きのカードを持っているとすると、小さい方のグループには表向きのカードはx 枚あることになる。そこで、小さい方のグループ全体をひっくり返すと、[小さい方のグループの表向きのカードはn-x 枚になり、] 両グループが n-x 枚の表向きのカードを持つ。

     

     --------------------  以下は 中川の拡張 (2004. 1.27) -------------------

    上記の最後の説明を読むと、n枚 と 3n 枚ということが本質ではないことが分かる。そこで、最初の問題をもっと一般化するとつぎのようにできる。

    『ある任意枚数 (M枚) のトランプを渡され、そのうちある枚数 (n枚) だけが表向き、残りは裏向きであると教えられる。これを二つのグループに分けて, 両グループにある表向きのカード枚数が同じになるようにせよ。-- ただし、これを目隠しして、 あるいは暗室で行うこと。』
    これに対する解決策は以下のようにできる。
    「渡された全体 (M枚) から任意のカードを n枚取り出して別グループにし、その別グループ全体をひっくり返す。」
    これでうまくいく理由は、別グループに入った表向きのカードが x 枚であったとすると、元のグループには n-x 枚の表向きが残っている。別グループの n 枚全体をひっくり返したので, そこは x 枚が裏向き、n-x 枚が表向く。

    ここの中川の拡張は、問題の「簡単化 (Simplify)」が、問題を「小さくする」ことによって起こると同時に、[一旦ある種の洞察/解決策を得た後は] 余分な個別条件 (13枚とか, 3倍とか) を取り払うことによっても起こることを示している。この後者の部分は、もっとも端的には、「すっきりさせる」という言葉で表現できるものである。一般的にし、抽象的にしているので、難しく感じる場合もあるが、一旦理解すると、簡単で単純である。面白いと思ったので蛇足をつけました。  

      [この欄  訳: 中川  徹  2004.1.27, 掲載: 2004. 1.28]

    USITニュースレター  No. 3  (2003年11月30日)   Ed Sickafus               

    ミニ講義-03

    考えられる根本原因を推定する (その1)

    出版業者の問題の続き  − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

    復習: 前回のミニ講義02で、解決すべき最も重要な望ましくない効果を、「新聞用紙上のインクがなすりつけられる可能性がある」と選択した。私たちは、オブジェクト群をインクと新聞用紙に最小化し、問題の図解を得た。(得たかしら?) そしてつぎに根本原因について研究することを約束したので、それをこれから行なおう。しかし、「(USIT流の) 適切に定義された問題」へと進み続ける前に、ミニ講義02で生じたいくつかのことを片付ける必要がある。

    まず、あなたはもしかして、私が同じオブジェクトについて「新聞用紙」という言葉と「」という言葉を使ったことに気づいただろうか?どうして違う言葉を使ったのだろう?ここで起きていることは、適切に定義された問題を組み立てるプロセスの一部である。この部分は創造的思考のための土台を作ることに関係する。ここで私はオブジェクトを商業的な名前から対応する一般的な名前に変えることを言っている。私が問題の別の側面に意識を集中している間に、長年の経験によって、私の潜在意識は「新聞用紙」を一般化するよう努力していた。「新聞用紙」 [という言葉] は具体的である。「紙」が一般的 (総称的) だ。私たちの潜在意識は具体的な [特定の] 言葉よりも、一般的な言葉のほうからより多くの連想を生むようである。あなたが一つの問題中のオブジェクト数を最小限に絞り込んだなら、それらの名前を一般化するとよい。「インク」は恐らく十分に一般的だろう。私には良い言い換えを考えられない(インクは水や液体以上のもの [を意味している])。

    信じようと信じまいと、オブジェクト名を一般化する目的は「曖昧性を持ち込む」ことである。[あれっ? と思ったかもしれないが、] あなたがいま読んだ通りである。そして、認知心理学者たちは「曖昧性が創造的思考に必須である」ことに同意している。

    第二に、有用な図解を作る必要がある。それは根本原因を特定するときの助けになるだろう。注意すべきは、前回のミニ講義で示した図解が、問題の症状を述べていて、問題そのものを示したのではないことである。前回はインクがなすりつけられているところを図解した。私たちの問題は、「インクがなすりつけられる可能性がある」ことである。だから、私たちはなすりつけが起きる前の時点を図解する必要がある。実際、私たちはなすりつけが起こりうる「点」 [すなわち、小さく特定した場所] を図解する必要がある。この「点」において、紙がインクに接触しており、そのインクは空気と接触している (図には二つの界面を断面図で示している)。「指」がやってきてインクをなすりつける前の段階で、空気が機能を持っているかもしれない。なすりつけの最中、空気はどけられて、「指」がインクと接触するオブジェクトになる。−そこには新しい界面が生まれる。この図解がオブジェクトとオブジェクトの接触界面を示し、それによって私たちの注意を即座に作用地点に向けることに注目しなさい。その作用地点では、紙上のインクが紙と結合し、インクが空気と接触し、またそのインクがなすりつけられるようになる。ここで私は、空気を私たちの分析の3番目のオブジェクトとして追加する価値を認める。

    形状を持ったオブジェクトの界面を直線で表わすと、重要な詳細部分が失われるのでないかと、もしあなたが心配するなら、以下のように考えるとよい。断面中の界面を表わすのに直線を使うのは、わざと曖昧にするためであり、そのことによって接触点の詳細についての見る人のイマジネーションを任意のレベルに拡大・縮小できる。例えば、戦艦が砂浜の水を掻き分けている、超高層ビルの窓で窓拭きワイパーが水を掻く、ティーバッグがカップの側面に水を広げる、ペンがバースデイカードにインクを塗り広げる、指先の [指紋の] うねと溝がサングラスの汗を拭き取る、あるいは皮脂の分子が親水性表面を滑る、− など、いくらでも挙げることができる。

    オブジェクトどうしが接触している点(すなわち界面)が、「作用が起きている」場所である。問題を分析するときはまずここを見ること(それから再度、ここを見ること)。隣り合った長方形の図が三つのオブジェクトの抽象化した図による比喩になっていることに注意しなさい。この図は作用点の一般化された表現を提供し、写実的な図にあるような見方の偏りがない。この図は曖昧性を保証して、私たちが自分自身の理解の深さに応じて、界面における作用を特徴づけるために探索することを許してくれる。

    さてこれで、私たちは根本原因の推定に取り組むことができる。  

    根本原因の推定 (その1)

    私たちには確認済みの根本原因が与えられていないのだから、考えられる根本原因を推定するUSITのツールに助けを求めよう。(ebook 『USIT の概要』, p15を参照。) 根本原因は適切に定義された問題を形成するのに本質的であり、確認済みの根本原因は黄金に値する。根本原因を知らなければ、問題に取り組む人は彷徨い歩き、意味のある結果を全く得られないかもしれない。このような状況が初期のクラスであまりにも頻繁に起きたので、私は考えられる根本原因を推定するためのこのツールを開発せざるを得なかった。もしこのツールを開発しなかったら、企業の実問題について短時間のクラスではほんのわずかしか進展しなかっただろう。考えられる根本原因はクラスですぐに見つけることができ、確認済みの根本原因の代用にできる。しかしながら、考えられる根本原因をこのツールで [真の根本原因だと] 確認することはできず、推定のまま残ることに注意しなさい。その一方で、考えられる根本原因を推定することは、[確認のための] 実験を速やかに設計するよい出発点になる。これはこのツールのもう一つの利用法である。

    望ましくない効果を [根本原因推定ツールの図の] ツリーの最上部に置き、その下にこの問題を構成するオブジェクトを並べる。それぞれのオブジェクトについて (他のオブジェクトとは独立に) それが望ましくない効果を引き起こす原因となりうるだろうかを調べる。そのような原因の一つ一つをそのオブジェクトの下に記入し、それを図のさらに下位レベルの効果 (結果としてひきおこされたもの) とみなす。図の [効果から原因を辿る] 枝が止まるのは、その効果が明確な原因となる属性を持つときである。それから、原因となる属性で可能性のあるものを列挙する。末端の諸属性が「考えられる根本原因」であると定義される。考えられる根本原因のそれぞれが、解決策コンセプトの出発点となる。

    根本原因の推定 を (その2) として次のミニ講義で続けよう。それまでのあなたの演習は、根本原因推定ツールを私たちのこの例題に、自分の手を動かして適用してみることだ。上記の図を作成し、その中にワープロで適当な言葉を記入していくとよい。

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    根本原因の特定がその問題をすべて解決するか?    (USITクラスでの説明)

    「根本」原因を特定するということが、「なにか基本的で理想的な真実 [の原因] が存在して、すべての問題を辿るとそこ [その原因] に行き着ける」ことを含意しているようにみえるかもしれない。しかしそうではない。根本原因は現象についてのわれわれの技術的思考 (われわれのメンタル・モデル) の深さに依存している。問題解決をしようとする一人一人は、この演習に自分の個人的な訓練・経験・関心・直感を持ち込む。それは一つの問題に対する自分の分析であり、自分の技術的理解を精一杯伸ばして深く考えることを奨励することを意図したものである。一般的な科学、入門的な化学、入門的な物理がこの演習ではずっと遠くまで使える。自分の専門・経験外の問題をも分析する助けになる。自分のアイデアを後日専門家に尋ねて確認することは、いつでも可能なのである。

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    ミニ講義はどこに行こうとしているのか?        (Q&A)

    このUSITニュースレターの「ミニ講義」のシリーズが、どこに行こうとするのか、まただれのためを意図しているのか、を明示せずに始めたことに気がついた。これを見逃したことをお詫びする。

    私が選んだ一般的なテーマは、統合的構造化発明思考法 (USIT) の方法論に基づいた「構造化された問題解決」である。USITが基礎にしたのは、体系的発明思考法 (SIT) で、1995年にRoni Horowitz博士と Yacob Goldenberg博士が講師をして教えられたものである。この歴史はUSITの教科書 『Unified Structured Inventive Thinking - How to Invent』 に記述している (より詳細は Webサイト www.u-sit.netを参照のこと)。また、このミニ講義の進行に応じて、私がいま進めている新しい仕事のいくつかのアイデアも紹介していきたい。私が「構造化された問題解決」と言うのは、問題解決のプロセスを効率的で創造的にするために、問題解決で使う組織化した思考を意味する。私はこのミニ講義を、技術的な設計型問題を解決しようとする人々、初心者から専門家までの人々にとって、読みやすく有意義にしようとしている。私が期待していること (しかし、これから示して行かねばならないこと) は、「技術的な設計型問題」というのは、単純に「問題」と言ってもよくなることである。

    大きな見方:  専門的な工学 (Engineering) においては、条件、仕様、要件、予算、時期、事業目的、顧客要求、社内技術蓄積、知的財産、設備投資、品質保証、保証、その他さまざまの考慮すべきものをわれわれは持っており、われわれが問題解決をする間中われわれの意識に重くのしかかっている。構造化された問題解決の第一ステップは、これらの条件を識別し、「フィルター群 (Filters)」というラベルのもとに列挙することである。そして、われわれは取り組むべき問題を選択するのにこれらのフィルター群を使い、また得られた解決策コンセプトから [良いものを] 選択するのに再びこのフィルター群を使う。しかし、その中間では [これらのフィルター群を] 使わないのである。より詳しく書くとつぎのようである。

    構造化された問題解決のプロセス:
        プロセスをつぎの段階に分離する:
    解決策のコンセプトおよびその工学的な規模の拡大において、一般的に新しい問題が引き起こされることに注意しなさい。そして、そのことはわれわれ問題解決者にとってはちょっとも悪いことでない。 (われわれに仕事を作ってくれるだけでなく、) われわれはそのような問題を能率的に解決するツールを持っているのだから。

    フィルター群は、抽象化、比喩 (メタファー)、および曖昧性を使うことを停止させてしまう。これらこそが概念的思考 [概念レベルの思考] の中核なのである。

    「概念レベルの問題解決においては、フィルター群が居るべき場所はない。」

    古謝秀明・中川 徹 訳 (2003.12.21, 2004. 1.27)  [掲載: 2004. 1.28]

      

    USITニュースレター  No. 4  (2003年12月 8日)   Ed Sickafus           

    1.  USITニュースレターは現在 32カ国、93人の読者があります。-- 訂正:  93人の受信者がいます (あなたの行動については分かりませんから)。

    2.  このニュースレターを新しく知って、以前のものが欲しい人は、私に電子メールを送り必要な号を言って下さい。  

    ミニ講義-04

    考えられる根本原因を推定する (その2)

    出版業者の問題の続き  − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

    復習:    このUSITニュースレター第 3号掲載の前回のミニ講義では、「考えられる根本原因を推定するツール」を導入した。この問題で、「紙上のインクがなすりつけられる可能性がある」という望ましくない効果に対して、このツールを適用するように読者は求められていた。根本原因を推定する図式の説明の段落をさっと読み直して、それから以下に記す私の結果を読んで下さい。

    まず、私の仮定 (新聞印刷に関する私のメンタルモデル)を記す。

    インクは液体の形で使われる。インクはローラ (印刷業界用語でブランケット [日本でも同様]) からオフセット方式で転写される。そして、紙は高速で移動している。(最新の新聞印刷機は両面を同時に印刷する。) 「なすりつけ」は動いている紙上の初期の「印刷」位置からインクが除去されることのあらゆる形態を含む。

    インクは着色微粒子が液中に懸濁したものである。液体の目的は紙上の結合サイトに微粒子を運ぶことである −一旦微粒子が引き渡されると、もはやインクは液体という属性を必要としない(もはや液体という属性が活性でなくてよい)。インクの結合には、粒子−紙結合と、粒子−粒子結合がある。

    インクの乾燥には、インク中の液体成分が紙に優先吸着することと、空気中への蒸発とが含まれる。紙は部分的に水溶性なので、インク中の水分は紙から、(液体が乾燥すれば) インク微粒子を結合するのに有用な材料を、滲み出させる。紙は繊維状構造をしており、その隙間に、液体は毛管作用で入り込めるが、インク微粒子が入り込むにはおそらく狭すぎる。乾燥インクは濃い色を持つことができるので、インク微粒子はおそらくインクの線幅あるいは厚みよりも小さい。こうして、インクが乾燥するにつれて微粒子が密に詰められる。インクの乾燥が最も効率的に起こるのは、紙が裁断・結束の工程に着く前である。

      次に、私の根本原因の推定分析を記す。(読みながら、図と比べてみられたい。)   

    望ましくない効果:    紙上のインクがなすりつけられる可能性がある

    オブジェクト群:     紙、インク、空気

    紙による原因として考えられるもの:   「紙がインクを保持しない」
    インクによる原因とし考えられるもの:  「インクが紙に結合しない」、そして「インク同士で結合しない」
    空気による原因として考えられるもの:  「空気がインクを乾燥させない」

    説明:

    これらすべてが、インクがなすりつけられる可能性を作る原因として、私が思いついたものである。

    このそれぞれが、原因となる属性を示唆するように見えるので、私は属性を特定することに進んだ。それらの属性を以下に示し、私の考えを注釈としてつける。あなたは、私と同じように考えねばならないわけでないし、あるいはまた同じ属性を思いつくかもしれない。あなた自身の分析は私のと同様によい、あるいはよりよいものとなるだろう (この演習は個人的経験と直感を活用してなされるのだから)。

    考えられる原因 「紙がインクを保持しない」 に対して:

    インクが紙に結合しない、あるいはインクが自分自身に結合しないというのは、インクの諸属性を検討することを示唆している。

    考えられる原因 「インクが紙と結合しない」に対して

    考えられる原因 「インク同士が結合しない」に対して:

    考えられる原因 「空気がインクを乾燥させない」に対して:

    根本原因の推定のためのツリー図は、「活性な属性」 [すなわち問題に関係する属性] を素早く識別できるようにするツールである。この根本原因を推定するためのツリー図を構築する過程で、私たちは「望ましくない効果」の根底にある現象論 [現象のメカニズム] を発見し始めるのである。これは効果的な問題解決への重要な出発点である。解決策のコンセプトは、いつもここから生じる。

    以上の分析は、私の基礎的訓練と直感を活用して、考えられるアイデアを創出しようと努力したものである。私は紙への印刷の [専門的な] 経験を持たない。これらのアイデアのいくつかは間違っているかもしれない(間違いがあれば教えて下さい)。それでも私はこれらを基礎にしてさらに進み、問題を分析し、解決策生成法を適用し、解決策のコンセプトを創出するができる。(ここで、現象論を強調し、分析的な科学を使っていないことに注意されたい)。しかし、ある時点で、これらのアイデアは専門家によって裏づけられる必要が出てくるだろう。チームを組んでいれば、修正提案がより速く出されるだろう。


    質疑応答

    Hugo Sanchez (ニカラグア) からの質問 と Sickafusの回答

    質問1) ASIT と USIT との主要な違いは何でしょうか?

    回答:  USITの内容とその構成を簡単に示す目的で、私は eBook 『統合的構造化発明思考法 (USIT) の概要』 を、[Web上に無料で] 公開した [訳注: このeBook を本ホームページ上に和訳・掲載しています ]。USITは 「体系的発明思考法 (Systematic Inventive Thinking、SIT)」の1995年版から派生したものであり、このSIT が ASITに先行するものである。ASITについて私が詳しく説明するのは適当ではない。ASITの詳細はそのWebサイト www.start2think.com を参照されたい。  

    質問2) USITはいわゆる「非技術的問題」に取り組むのに有用でしょうか?

    回答:  前号のニュースレターで扱った「トランプのパズル」はそのような例の一つである。私は、つぎの 2条件が満たされれば、非技術的問題にも適用可能であると信じている。
    条件1: 「オブジェクト、属性、機能に対する適切な類比が [その非技術分野の問題に] 見出せること」。
    条件2: 「適切に定義された問題としての宣言を創り出せること」。
    非技術的な分野で起こる一つの問題点は、人々が、どんな問題状況でもそれが適切に定義された問題であると、あまりにも安易に受け入れてしまうことである。  

    古謝秀明・中川 徹 訳 (2004. 1. 2, 2004. 1.28)  [掲載: 2004. 1.28]

      

      USITニュースレター  No. 5  (2003年12月15日)   Ed Sickafus            

    1.  問題解決における最初でかつ大きな段階が問題定義である。ミニ講義では、この段階のUSITのアプローチが終りに近づいている。次号のミニ講義-06で完了する予定である。その次の段階は問題分析である。

    2.  USIT教科書『USIT - How to Invent 』 (1997) には、USITの詳しい適用例がいくつも記述してある。また、部分的に適用した事例も含まれており、講師がUSITのクラスにおいてそれを完結させるという使い方もできる。  

    ミニ講義-05

    適切に定義された問題を完成する

    出版業者の問題の続き  − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

    復習:    前号のミニ講義-04で根本原因の推定分析が完了した。そこで私たちは、USITにおける適切に定義された問題にとって必要な構成要素をつぎのように揃えた。

    単一の、望ましくない効果 : 紙上のインクがなすりつけられる可能性がある。
    図解 :
    オブジェクト群(一般名称) : 紙、インク、空気   (最小限のオブジェクトの組)
    考えられる
    根本原因 :
    紙による :

    推定根本原因:

    紙がインクを保持しない
    滑らかさ、吸着、結合、濡れ性 (表面張力)、化学活性、物理的結合、含水率、密度、疎水性、転送速度、巻取り圧力、透過性  (考えられる根本原因12項目)
    インクによる :

    推定根本原因:

    インクが紙に結合しない
    表面張力、化学的親和性、物理的結合、粘度、温度、蒸気圧、飽和度        (7項目)
    インクによる :

    推定根本原因:

    インク同士で結合しない
    濡れ、乾燥速度、蒸気圧、温度、吸湿性、粘度、もろさ   (7項目)
    空気による :

    推定根本原因:

    空気がインクを乾かさない
    湿度、転送速度、温度   (3項目)

    以上が復習である。ちょっとここで、再考しよう。私たちはどこへ行こうとしているのか? そして何をしようとしているのか?-- 聡明な問題解決者の皆さんにはきっとつまらない質問だろう。その点はお詫びする。侮辱しようとしているのではない。ここで私の本当の意図は、この講義をちょっとの間止めて、私たちが随分理想主義的なプロセスに関わっており、そのことを考慮しておく必要があることを、指摘しておきたいのである。

    適切に定義された問題を定式化することは、非常に重大な最初のステップである。-- 私は、私たちがやり終えたばかりのことを軽視するつもりはない。ここに提示したプロセスは、私のやり方だ (そして、このケースでは、私は作業を進めながらノートを取り、それをできるだけ率直にあなたがたに示した)。しかし、私がはっきり言わなかったことで、この講義をいままでやや不誠実にしていることは、「私たちが構造的分析を進めていっている間に、実際には私たちの脳がこの問題を (そして他のどんな問題でも)  [並行して] 解いていっている」ことである。だから、私がこの講義を問題解決テクニックを適用する形式的な段階まで [このまま] 続けるなら、私は本当に不誠実になってしまう。あなたも私も、すでに [いろいろな] 解決策を見つけているのだから。もしこれらのことを考慮せずに進めると、もうすでに見つけている解決策に対する手柄をも、このUSIT法独自の問題解決テクニック (まだ紹介もしていないテクニック) に与えようと、私が努力しているように見えることであろう。

    適切に定義された問題を私たちが「意識的に」構築している間に、私たちの「潜在意識」は直感的に解決しようと試みている。つまりブレインストーミングによるアイデア出しである。いや、ほとんどそうだが [少し違う]。ブレインストーミングと、直感的に解決策を見つけることとはやや異なる。直感が自動的な潜在意識の想起に関わるのに対して、ブレインストーミングは(潜在意識の想起を伴う)協調的な意識的プロセスである。[このミニ講義では] 講義と講義の間に長い時間があるので、私たちはおそらく自分でその両方を行っている。ともかく、私たちはプロセスのこの時点までで、いろいろな解決策をすでに思いついている。だから、正直にするために、私もあなたも、いままですでに思いついた解決策コンセプトをリストアップすることを、私は薦める。これまでに知られていた解決策と同時に、私たちがここまでで創り出した新しいアイデアも列挙しよう。それが、次のミニ講義までのあなたへの宿題だ。

    解決策をリストアップした後では、私たちは新しいアイデアを見つけることに一層集中できるようになる。私たちが既に知っている解決策をこの [ミニ講義の] プロセスが見つけられるだろうかと心配することもないし、それらの解決策を見つけるように無意識に方向づけることもないだろう。「でも、リストアップすると、このプロセスから引き出せるアイデアの数が減らないだろうか?」との疑問がある。そうかもしれない、わたしには何とも言えない。しかし、こんな風に考えてみるとよい。ブレインストーミングには効果がある。低いところに下がっている果実をつかみ取るのにブレインストーミングを利用しなさい。そしてそれから、構造化された問題解決法を使って、いままで手が届かなかった果実をつかみ取りなさい。どんな解決策コンセプトでも見つかったらすぐに書き留めることで、このプロセスを効率的に進めなさい。

    [解決策をこの段階でリストアップすることの] もうひとつの効果は、「形式的なプロセスであなた自身が達成できるもの」をあなたが納得できるようにあなたに示すことである。そしてさらにもう一つ [の効果] がある。あなたが書き留めた解決策アイデアの一つ一つが、あなたの心の中でより一層明瞭に確立される。今後の演習の過程でそれらのアイデアは、さらに改良するために、あるいは他のアイデアを改良するのを助けるために、思い起こされるようになるだろう。

    これらのコメントを読むとあなたは、Sickafusさんは怒りっぽくっていらいらしているのでないか?と思うかもしれない。そのとおりである!わたしがフォード自動車社で構造化問題解決法を教えていたとき、本当に何度も何度も、生徒たちがプロセスを「罠で待って捕まえよう」とするのを見かけた。つまり、「潜在意識をかき混ぜて創造的アイデアを生み出す」という方法を学習・発見するのに参加するのではなく、彼らは傍観して、出てくる結果を見ようと待っていた。その結果、彼らはほとんどなにも学ばず、フォード社は彼らをトレーニングしようとした投資を詐まし取られた。マネジャとして、これはまったく満足できないことだった。  

    -----------------------------------------

    「一つ」の根本原因 ?       (USITクラスでの説明)

    ある人たちは言う: 「私に根本原因 (一つ) を示して下さい、そうすれば私はあなたに (一つの) 解決策を示しましょう」と。これはおそらくいつでも正しいだろう。しかし私の見方では、どんな問題にも「一つだけの根本原因」ではなく、「複数の根本原因」がある。根本原因の一つ一つが、一つの解決策コンセプトに至る可能性を持っている。一人の人では見つけることができなくても、おそらく他の人々がそれを見つけるだろう。


    アルキメデスの「ストマキオン問題」に 17152個の解決策が見出された     (興味あるトピックス)

    (ニューヨークタイムズ, 2003年12月14日)  古代ギリシャの数学者・物理学者・発明家であるアルキメデス (BC 287(?) - 212年) は、「三角形と四角形の14個を組み合わせて、一つの正方形を作り出すできる限り多くの配置を作れ」という組合せ問題を提案していた。この問題は「Stomachion」として知られていた。[これに 17,152個の配置 (解決策) があることが分かった。]  

    古謝秀明・中川 徹 訳 (2004. 1.17, 2004. 2. 8)  [掲載: 2004. 3. 3]


     

      USITニュースレター  No. 6  (2003年12月22日)   Ed Sickafus              

    読者のみなさん: 

        はじめての雪がつもり、冬の静けさに包まれています。
        大きくて柔らかなぼたん雪が あてもなくふわふわと漂い、
        音もなく曲を奏で、ホリデーシーズンを輝かせています。
        みなさまの新しい年が幸せでありますように祈ります。   

                        Ed and Mary Sue Sickafus 

     

    ミニ講義-06

    直感的な解決策を列挙する

    出版業者の問題の続き  − 「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。」

    復習:    新聞用紙上のインクがきたないという出版業者の問題について、私たちはUSIT流の「適切に定義された問題」を構築することを先週完成した。今回の宿題は、既知の解決策と、この問題に取り組んだ最初からいままでに心に浮かんだ解決策コンセプトとを列挙することであった。通常私たちは、USITで問題に取り組み始めてから終えるまでの間、アイデアを思いつくたびに一つ一つメモを取る。ところがこのミニ講義の問題演習では、週ごとの短い講義に分断されているので、これをやるのは難しい。そこでここに休止を入れて、私たちの解決策のリストを更新し、推奨する [メモを取る] やり方の代用にしよう。

    新しい問題に接したとき、熟達した問題解決者としての私たちの反応は、それを解決しようと即座に試みる。私たちは過去の経験を想起し、連想することによって、それを直感的に行う。それは無意識に行なうことだ。最初に供されるのは、通常、既知の解決策だ。それから、既知の解決策を自明なように変形して、与えられた「フィルタ」(すなわち、問題の属性)に適合させるようにしたものを考える。このミニ講義のケースでは、私たちはすでに問題を定義し、いくつもの [考えられる] 根本原因の特定を行なった。これらのうちのいくつかが解決策のコンセプトをもたらしたはずだ。ここに私の解決策コンセプトを [xx] と番号をつけて示す。

    最初にこの問題を読んだとき、「なすりつけられたインク」は私の心に、インクの濡れが問題であり、速く乾燥させることが解決策コンセプトであることを示唆した。そこで、解決策[1] 「印刷機を通過する紙を加熱する。」これがコンセプトレベルの [概念的な] 解決策であることに注意しなさい。どのように加熱を行なうかは、「工学的詳細」であり、多くの可能性がある。

    解決策[2] ゼロックス (ゼログラフィ) を思い出し、「粉末インクを使って濡れを防ぐ」 ことを思い浮かべた。これはもちろん、この方法がなすりつけが起きないことを保証するものではない(濡れに対応するだけである)。しかし私たちはこれらのアイデアを [少々問題があるからと言って] いまの段階で捨てることはない。それらの問題は後に考察すべきことになるだろう。私たちは好奇心を持ち、また、問題を解くための道具を持っているのだから、問題があるからという理由で私たちが思いとどまることはない。

    解決策[3] [考えられる] 根本原因の一つ、「不十分な吸収」が示唆するのは、「インクの表面張力を増加させて*、紙の粗い面に染み込む力を増加させる」ことである。
         
    [訳注:  原文は表面張力を「増加させる」となっているが、「減少させる」が正しいと考える。]

    解決策[4] [考えられる] 根本原因の一つ、「紙の滑かさ」が示唆するのは、「紙の表面をざらざらにする」こと。

    解決策[5] [考えられる] 根本原因の一つ、「空気の湿度」が示唆するのは、「空気を事前に乾燥、加熱し、印刷中の紙に吹きつける」こと。

    解決策[6] [考えられる] 根本原因の一つ、「インクの蒸気圧」から思いつくのは、「インクを加熱し、熱いまま [印刷に] 適用して、インクの液体成分の蒸発を助ける」こと。

    解決策[7] [考えられる] 根本原因の一つ、「物理的結合」から再びゼロックスを思い出し、「乾燥インクを使い、適用時にインク粒子に高圧帯電させる」ことが示唆される。

    解決策[8]  インクが吸湿性である可能性と空気中の湿度の問題は、「紙の保管庫と印刷室の環境湿度を最適に設定し維持する」ことを示唆する。

    解決策[9]  [考えられる] 根本原因の一つ、「巻取り圧力* 」が示唆するのは、「新聞用紙を保管する前の巻取り圧力と、印刷機内での巻戻し圧力とを最適に設定し維持する」こと。
           [訳注:  Packing pressure.  NL-04 では綴じ圧力と訳したが、巻取り圧力と修正する。]
           [訳注:  ここの巻戻し圧力というのがどの段階のことかあまり明確でない。]

    解決策[10]  [考えられる] 根本原因の一つ、「化学的活性」が思いつかせるのは、「インクの紙への結合の化学 [的メカニズム] について化学者と議論し、結合力をコントロールするのにどんな選択肢が利用できるか決定する」ことである。

     

    さて以上で、私たちは解決策コンセプトのリストを更新したので、問題解決の第二の段階、すなわち「問題分析フェーズ」に進もう。この第二フェーズでは、問題に対する二つの視点を確立する。第一の視点では、選ばれたオブジェクトの組について考察し、それらが適切に機能している様を見る (つまり、うまく働くように本来設計された様を見る)。第二の視点では、オブジェクトがどのように問題に寄与しているか (つまり、システムのどこが悪いのか)を詳細に特定する。

    次の講義のためのあなたへの宿題は、「選択した最小限のオブジェクトの組 (すなわち、空気、インクおよび紙) を吟味し、それらを階層的なツリー構造に配置し、機能の観点から見た相対的重要性を示すようにする」ことだ。これが「閉世界」ダイヤグラムと呼ばれるのは、限定した閉じた世界でのオブジェクトについてだけ分析するからである。まず3個の箱を描き、それぞれにオブジェクト群のうちの一つのラベルをつけなさい。そして、適切に機能している設計においては、それらのオブジェクトがどんな機能的連結性を持っているか (あるいはいないか) を調べなさい (これは、初期の設計意図についてのあなたの見方 [を表現する])。  

    -----------------------------------------

    演習の行方       (USITクラスでの説明)

    あなたが疑問に思っているかもしれないので:

    このミニ講義の例題がどのような結果になるかを私自身も知らない。各回の講義を出し終わった後ではじめて、私はその次の講義を執筆している。それは、実際の [問題解決の] プロセスのおおよその感じを提示しようという私の試みである (それによってこの演習が私にとってもずっと興味深くなるから)。

    あなたのフィードバックや意見をお寄せ下さい:   Ntelleck@u-sit.net

    To be creative, U-SIT and think.

    古謝秀明・中川 徹 訳 (2004. 2. 5, 2004. 2.24)  [掲載: 2004. 3. 3]

     

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    最終更新日 : 2004. 3. 3.  [調整: 2013. 1.27]   連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp