編集ノート
(中川 徹, 2003年11月26日)
本稿は9月10-12日に南紀白浜で開催された第4回日本IMユーザグループミーティングでの発表の中で, 最も注目され, 活発な質疑応答があったものです。パナソニック コミュニケーションズ (旧九州松下電器) での活動については, 昨年度のユーザグループミーティングで多くの私的な討論がありました。 その後今年の 4月8日に日刊工業新聞で「松下グループがTRIZを全面展開する」との 報道
があり, 今回のミーティングでは発表前から非公式の討論が深夜まで続いておりました。具体的な技術開発の事例と共に, その活動の形態, 特にトップダウンでTRIZを推進している山口和也氏 (開発プロセス革新グループ長) の哲学が大きな感動を与えたものです。
具体的な技術開発事例として, 電子黒板の梱包サイズを体積で半分にした事例が発表されました。その詳細はPDFファイルでご覧ください。技法としては, 問題の一部分にアイデアを出そうというのではなく, システム全体の機能分析などをきちんとして, いろいろな観点からTRIZの技法 (特に矛盾の解決, 進化のトレンド, 物理的効果など) を適用し, 最終的にしっかりした新製品にまで仕上げることに使っています。TRIZの技法が複数の問題を解決し, 最終的に営業用のバンに積めるように梱包サイズを半分にした新製品を作り上げています。
この具体事例より以上に注目されたのが, 同社におけるTRIZ推進のしかたでした。その部分はスライドにはなっていず, 山口和也さんとの質疑応答で口頭で述べられたものでした。非常に幸いなことに, NECの大浦利雄さんがこの質疑応答を詳しく記録してくださり, この『TRIZホームページ』での掲載を承諾くださいました。山口さんの補筆を経ましたものを, 本ページの最後に掲載します。技術開発の技法を全社的に推進する責任者が, TRIZの推進に全力で取り組み, 社内で「闘っている」状況とその哲学が明快に語られています。非常に参考になる記録です。[ご感想などを本ホームページにお寄せ下されば「読者の声」などで掲載させていただきます。]
本件掲載に関し, 著者, 所属企業, およびUGMを主催された下記組織, そして質疑応答の記録者に感謝します。
著者: 山口 和也 氏 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社) Email: yamaguchi.kazuya001@jp.panasonic.com
永瀬 徳美 氏 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社) Email: nagase@dpid.kme.mei.co.jp
所属企業: パナソニック コミュニケーションズ株式会社 (本社: 福岡市博多区) Webサイト: http://panasonic.co.jp/pcc/
(株)三菱総合研究所 (情報環境研究本部) http://www.internetclub.ne.jp/IM/
(株)エム・アール・アイ・システムズ 知識創造研究部 (小西慶久部長) http://www.mrisys.co.jp/
記録者: 大浦 利雄 氏 (NEC エレクトロニクス株式会社) Email: toshio.ooura@necel.comなお, スライドはPDFファイルの形式で 402KB, 各スライドが1頁ですので, 印刷時に2頁レイアウト印刷を指定するとよいかと思います。
ダウンロードするには, Adobe 社のAcrobat Reader [いろいろなサイトで無料配布されています] を使って下さい。
第4回日本IMユーザグループミーティング, 発表
「パナソニック
コミュニケーションズにおける
TRIZ手法導入情況と商品開発への活用事例:
梱包サイズを半減化した新型電子黒板の開発」
山口 和也・永瀬 徳美 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社)
<要旨とメッセージ>パナソニック コミュニケーション株式会社では、2001年度より、商品開発・研究段階での課題解決にTRIZ手法を適用し、より良い商品をいち早くお客様に提供する活動を進めています。本事例は、TRIZ手法を商品の梱包サイズ小型化の課題に適用し、市場投入できた電子黒板の取組を紹介するものです。
TRIZ手法を用い、発明的問題解決のアイデア創出を行う上で、最も重要なことは高い目標設定、すなわち従来の改善検討では克服できない目標を設定して、技術者が一丸となってそれを解決しお客様に提供したいと思えるように明快に問題定義することでしょう。
明快な問題定義がTRIZ手法を実践活用する上でも非常に重要であり、TOPEのプロダクト分析はその有用なツールのひとつとして活用しています。
今後も商品開発や基礎研究分野のみならず、製造現場の課題解決など、当社のあらゆる場面でTRIZ手法を活用していくよう推進していく計画です。
(パナソニック コミュニケーションズにおける
TRIZ手法導入情況と商品開発への活用事例)
質疑応答の記録
回答者: 山口 和也 (パナソニック コミュニケーションズ株式会社)
記録者: 大浦 利雄 (NECエレクトロニクス株式会社)
Q1.新型電子黒板の開発期間は?
TRIZが終わってから1年ちょっとかかった。Q2.TRIZの適用によって、特許出願の出方は、どうか?
3ヶ月でできるかも知れない。TRIZが終わったあとのマネジメントで期間が違ってくる。全体では沢山出る。今までの何倍も出る。Q3.新型電子黒板は、販売面では?従来より、1.5倍売れている。Q4.コストは?原価ベースで、製品コストは、従来より10%下がった。Q5.TRIZコンサルティングの頻度は?
TRIZでは、コストを下げないと、意味がない。「以前から折りたたみは思っていたが」と言うが、それは単なる思い付きである。
TRIZは、思い付きではない。2週間に1回, 5〜7回/テーマ, +α である。Q6.TRIZ普及推進について。自然的に普及することは、あり得ない。そのため、強制力が必要である。Q7.松下グループでの全面展開について。(4月 8日の日刊工業新聞で報道された
社内に(TRIZができる人は) いま150人いる。
そのうち、私の直接の配下は15人で、毎日、(TRIZを)やらせている。TRIZが良い、ということを実感していると思うが、モチベーションがどうしてTRIZに行かないのか。
会社では働かなくても (良い仕事をしなくても) 給料はもらえるので、自らを変えてチャレンジする人は少ない。
自ら変わりたくない人を、私は認めない。
(TRIZ実践者の)上司が、『TRIZで思いついたものがあるのか?』と聞くような部署ではTRIZは普及しない。(多くの部署の上司に当たる人が)実に、積極的な協力的行動をしない。
やらせることが大事。やらせて、効果を実感してもらう。
(どんなものでも)良いものにすぐに飛びつく人は、全体の2%。
それを見てから次にやる人は15%。
更にそれを見てから次にやる人は20数%。
更にその次にやる人は20%。
どうしてもついていけない人は、20%いる。が、)
松下グループで、すでに誰かが決定したわけではない。Q8.TRIZの効果は?私は『TRIZは、いいよ』と、松下電器産業の幹部に言い続けた。
松下電器産業の幹部は、『TRIZは、いいね』と、言っている。
これから、(全面展開を)決定するでしょう。競争力のある新商品を出し続けることが、効果そのものである。Q9.1年当たりのTRIZ適用テーマ数は?
何もしなかったら毎年売り上げが減る(状況の)ところを、たとえ(売り上げ)金額は増えなくても減る分を補えたと考えることが妥当だと考えている。結局、TRIZで競争力をつけて、会社が生き残るかどうか(将来在るか無いか) を解決していくのが課題なのだ。
当社 (PCC) の販売規模が連結で約5000億円相当であり、近い将来販売の全てをTRIZで網羅したいと思う。
(TRIZの)効果は、「会社そのものの存在を決定づける」と考えている。
当社では、2001年からTRIZを商品開発に適用している。Q10.会社として、金太郎飴にならないか? 多様性ではどうなのか?
2002年度は50テーマをやった。日本でトップダウンでやったのは初めて。
毎年、ノルマを上げている。
技術関係者は品質管理や生産技術を含めて約2500人で、
今年度 (2003年度)は、テーマ3桁、100件をやりたい。目標である。技術者数で割って、『これくらいやってよ』と、言っている。
『皆、それに向け、頑張ろう!!』と言っている。TRIZよりも優れたものはあるか? 有ればいつでもそれに乗り換える。Q11.教育を受けた人は? 新人教育は?『TRIZよりも優れたものを提案しない限り、君の意見は認めない』と、言っている。
TRIZより良いものは、無い!500人がベーシックコースレベルを受けた。 レベル差が有る。Q12.技術課題を持ってこない人にどう対応していますか?上司の顔を見て仕事をする人は全体の99%いる。
上司が認めないと(部下の)人は、動かない。
マネージャーが認めない限り、(TRIZを)進められないので、それを払拭するため、風土を構築している。(そのため、)管理職には、1日コースでTRIZを理解してもらう。
仕事をする人は、TRIZを実践してもらう。新人には、1日コースをやっている。
教育には、若い若くないは関係ない。こちらで、手ぐすね引いて技術課題を待っているのに、実に、課題が出てこない!Q13.教育を受けていない人が、突然、テーマを持って来た場合の対応は?
課題を持ってこさせるのに苦労している。技術課題を持たずに教育を受けに来た人には、「技術者ならもっと困れ。課題を解決してこその技術者である」と言っている。
上司に対しノルマ的に課題を出させるというものも含めた推進が必要である。
テーマ実習をさせる。
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最終更新日 : 2003.11.27.
連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp