TRIZフォーラム
翻訳のノウハウ:
   詳細資料: 翻訳推敲例 (その2)
  中川  徹 (大阪学院大学)  2004年6月21日
     [掲載: 2004. 6.30]
For going back to the English page, press:

本ページは MannのTRIZ教科書『Hands-On Systematic Innovation』を翻訳出版したプロジェクトにおける、翻訳のノウハウの詳細資料をまとめたものです。より全体的なことはつぎの親ページを参照下さ い。

    
Mann のTRIZ教科書『TRIZ  実践と効用 (1) 体系的技術革新』 の出版案内と資料    [2004. 6.30掲載]
     翻 訳とデスクトップパブリッシングのノウハウ  (中川 徹)   [2004. 6.30掲載]


   このページには実際の翻訳推敲例とその説明を具体的に記述しています。順序は実際の試訳と推敲を行った順番であるため、章の順番はばらばらです。段落ごと につぎの5種のテキストを組にしており, それぞれフォントの色を替えて区別しています。


    (a)  原文    (黒字):   Darrell Mann の原文の英文。 
    (b)  初期試訳 (黒字):   知識創造研究グループの担当メンバ   (2002年11月〜2003年 2月)

              試訳者の補足 (灰青色字)
    (c)  推敲訳 (青字):   中川  徹   (2002年11月〜2003年2月)
    (d)  推敲意図の説明 (緑字):   中川  徹  (2002年11月〜2003年2月)。 上記(b)を(c) に推敲した意図の説明。
    (e)  最終稿 (茶色字):  中川  徹  (2004年4月〜5月)  





14.

Problem Solving Tools

Resources

問題解決ツール(リ ソース)*1

問題解決ツール

リソース*1

14

問題 解決ツール − リソース

 

“Do you mind if I use your back legs as a towel horse? *2  

Rabbit to Winnie the Pooh after Pooh gets wedged in Rabbit’s front door.

ものは使いようだ.役立たないものはない。何かの使い道 がある。*2  

(くまのプーさんが、うさぎさんの家に遊びに行ったとき、い ざ帰ろうとうさぎ穴から出ようとしたら、食べ過ぎで穴にひっかかってしまった。「穴にひっかかって出られなくなっている“君の後ろ脚をタオル掛けとして 使っても構わないかなぁ? ” だって、引っ掛かっている間、後ろ脚は何もしていない。タオルを掛けさせてもらえると便利だ」の話があります。そこから、『タオル掛けに使われるぐらいひ どいことはない』というような意味にも訳せますが、ここでは、下記文章を総合して意訳して上記のような訳としてみました。)

『君の後ろ脚をタオル掛けに使っていいかい?』 *2

くまのプーさんがうさぎの家の入り口にはさまっているとき、うさぎがプーに。

*1  章のタイトルなどで, 行替えをして階層化している場合, できるだけもとの形式を保存して下さい。

*2  章の最初の引用文はいつも訳すのに苦労しますが, できるだけ素直に訳すとよい。その寓意をどこまで理解でき るかは, 読者に任せる。訳者が「寓意」を「解説」してしまってはい けない。ただ, 訳者はその「寓意」を理解して訳さないといけないが。原文 で, ... a towel horse?」の後ろに が欠如している。ミスプリ。

「君の後ろ脚をタオル掛けに使っていいかい?

くまのプーさんがうさぎの家の入り口にはさまっているとき、うさぎがプーに。
 

Resources play a big part throughout the systematic creativity process. *3   We encounter them as an integral part of the problem definition process (Chapter 5) *4  and conceptually, *5   we are being encouraged to maximise the effective use*7   of resources (defined as we have read earlier as ‘anything in or around the system not being used to its maximum advantage*8   – including the harmful things’*9  ) in every part of the generate solutions part of the process. *6  

リソースは、システマチックな創造性プロセス*3  を実行する上 で大きな役割を果たしている。問題定義プロセス(5)の 必須要素として、*4  また、考え方 として*5  リソースを発 見できる。どのようなプロセスの発生課題部分にも*6  、リソースの 効果的な使いみちがたくさん見つけられつつある*7  。(前述した ように『最大の強みまで使われていないシステムの中あるいは周辺の何か*8  ‐ 有害なもの も含む*9  』と定義され る。)

conceptuallyは、 一般的には「概念的に」となりますが、意味が通じませんので、新編「英和翻訳表現辞典(研究者:20028月新刊)を参考に「考え方として」の訳としてみました。)

リソースは、体系的創造性プロセス*3  の全体を通じて大きな役割を果たしている。問題定義プロセス(5)では必須要素として現れている。*4  また、プロセス中の解決策生成部分のすべてところで*6  、リソースを最大限効果的に使うように*7  、その考え方が*5  奨励されている。(リソースは、前述したように、『システム の中あるいは周辺にある任意のもので*8  、その有用性の最大限までまだ使われていないもの。有害なも のをも含む*9  』と定義される。)

[推敲意図の説明]

*3  訳語として, 「システマチック」などのカタカナ言葉はできるだけ使わな い。「体系的」とする。「体系的 創造性プロセス」は、本教科書全体で提唱している方法のこと。固有名詞的に使う。

*4  後ろの文が長くて複雑なので、ここで一旦文を切るのがよ い。

*5  conceptually」は訳しにくい語ですね。ここで言っている意味は, 「解決策生成段階でリソースの概念が考え方のバックにあ る。解決策生成法の個々の説明ではそのことを表に出して言ってないかもしれないが概念レベルで重要なのだ」ということです。中川の訳もまだぴったりしてな いかもしれません。

*6  the generate solutions part」はMann の特徴的な言い方で, 本当は「the generate solutions part」とした方が、読者には親切でしょう。

*7  maximise the effective use」は, 直訳では「効果的利用を最大化する」ですが, 日本語としては, 「最大限効果的に利用する」が自然です。また, ( ) 内のリソースの定義を, 後ろに回して別文にしているのは適切だと思います。

*8  any」は明確に訳す場合は「任意の」がよい。また, この文のように, 定義文でいくつもの修飾句 () が重なっている場合に, 受験英語の要領の「後ろから訳す」でなく, 適切に文を区切ってできるだけ「前から訳す」にすると分か りやすくなる。このようにすると, 考えている順番 (話し/書き/読んで、理解する順番), 英語でも日本語でも同じになる。このような順番の維持が, 翻訳の非常に大事なコツです。

*9  -」が原文でよく使われていますが, 分かりにくくなるので日本語ではできるだけ避けたい。補足 の場合には ( ) でくくるとか, 本例のように, 文を区切ってしまうとか。
 

リ ソース (Resources、資源) は、体系的創造性プロセスの全体を通じて大きな役割を果たしてい る。問題定義プロセス中で必須要素として現れた (5 [5.2節、5.6]) し、概念的には体系的創造性プロセス中の解決策生成部分のいたるところで、リソースを最大限効果的に 使うように奨励されている。リソースの定義は前述 [5.2節] したように、「システムの中や周りにある任意のもので、その役立つ最大限度までまだ使われていないもの。有害なものをも含む」である。

The basic idea behind*10   this ‘problem solving’ chapter is to achieve two basic goals:-*11  

1)      Provide a database of resource triggers to help us*12   to recognise things that we might not normally view*13   as ‘resources’.

2)      Recommend strategies successfully used by others*14   to turn unexpected and harmful things into useful resources.

 

この「問題解決」章の後の*10  基本的な考え 方は、2つの基本的な目標*11  を達成するこ とである。

1) 私たちが「リソース」と正しく*13  みなさないか もしれない物を認めることを手助けするために*12  、リソースト リガーのデータベースを提供すること。

2)予期しない物、有害な物を有益なリソースに変えることを、成功体験に裏打ちされた*14  戦略として勧 めること。

「問題解決」のこの章の背後にある*10  基本的な考え方は、つぎの2つの基本目標*11  を達成することである。

1) リソーストリガーのデータベースを提供し, *12   普通には*13  「リソース」とみなさないだろう物をも認識することを助ける こと。

2) 他の人たちがうまく使った戦略で*14  , 予期しない物や有害な物を有益なリ ソースに変える戦略を推奨すること。

[推敲意図の説明]

*10  behind」は単純な「後ろ」でなく, 「背後」と訳すと意味が明確になる。

*11  コロン「: (または「:-) では, 以下の項目を直接的に指していることが多い。この場合に訳 文では基本的に「。」を使う。ただし, 以下のものを指していることを示すために, 「つぎの」とか「以下の」といった言葉を補うと分かりやす い。

*12  to help us ...」で, 「〜 to ...」は「...するために, 〜する」と目的・意図の意味を含むが, それと同時に「〜して, ... する」と効果・結果の意味をも含む。この後者の訳し方をす ると, 英語の原文と日本語の訳文の言葉 の順序が同じになり, 分かりやすい文になる。このような 「〜 to ... 」は非常によく出てくるので, ぜひ応用されたい。

*13  normally」は「正しく」よりも「普通に, 通常」の意味。

*14  successfully used by others」が, 前の「strategies」を修飾する挿入句になっている。ここまでを一旦訳して, 言葉を継ぐと分かりやすくなる。「順序の保存の法則」

   「問題解決」 の本章の背後にある基本的な考え方は、つぎの二つの基本 目標を達成することである。




16.

Problem Solving Tools 

Algorithm for Inventive Problem Solving (ARIZ) *1  

問題解決ツール

創造的問題解決の手 順*1  

問題解決ツール

発明問題解決のアルゴリ ズム (ARIZ) *1   

16

問題解決ツール − 発明問題解決のアルゴリズム (ARIZ)


Every part is disposed to unite with the whole, that it may thereby

escape from its own incompleteness. *2    

Leonardo Da Vinci

すべての部分は全体 に結合するように配置され、それによって不完全性を回避できる。*2  

レオナルド・ダ・ビ ンチ

すべての部分は全体に結 合するように配置され、それによってその不完全性を回避できる。*2  

レオナルド・ダ・ビンチ

[推敲意図の説明]

*1  ARIZ」はTRIZ用語として「発明問題解決のアルゴリズム」で 統一します。略号ARIZが使われているときには, ARIZ」のまま訳します。この例のような ( ) での表現は, 原文のまま維持ください。

*2  元の訳文は良い訳だと思います。「its own incompleteness」 の「its」が (「全体」でなく)「部分」を指していることが, このダ・ビンチの言っていることの真髄だと思います。日本 語でその点をうまく訳すのが難しいのですが, 「その不完全性」と補ってみました。


各部分は全体に結合するように配置され、それによって自分の不完全性を回避できる。

レオナル ド・ダ・ヴィンチ


Nothing appears to cause argument in the world of TRIZ like the Algorithm of Inventive Problem Solving, ARIZ. Conceptually, *3   there is little disagreement – ARIZ exists to help tackle ‘complex’ problems, and it does it through a series of systematic steps*4   that take problem owners *5  from potentially vague beginnings through to a successful conclusion. Thereafter, however, the details of what these steps are and in what sequence they should be carried out, *6   is a matter of some considerable disagreement – with just about every TRIZ expert endorsing their own variation on the theme. *7   In several senses, one could argue that the ‘systematic creativity’ process*8   described in Chapter 4 of this book and linked to almost every other chapter is also ARIZ-like*9   in its scope and motive. We hope*11  , however, that that process operates at a somewhat higher, more holistic level*10   than any variant of ARIZ. In that context, we view ARIZ as a tool that can form a useful complement*12   to the systematic creativity process, rather than as a replacement.

創造的問題解決のアルゴリズムで あるARIZほど議論を引き起こすものはTRIZの世界にはありません。概念的には*3  、意見の不一 致はほとんどありません。ARIZは「複雑な」問題に取り組むために存在しており、そしてそれは潜在的にぼんやりした始ま りから成功する結末まで、問題のオーナー*5  を導くシステ マティックな連続したステップを通して*4  それを行いま す。しかしそれでは、これらのステップのどの詳細が、そしてそれらが遂行されるどの個所が、テーマに対する自らの変化を是認する概ねすべてのTRIZ専門家*7  とのなにがし かの不一致をきたす問題なのでしょうか?*6  いくつかの意 味で、本書の第4章に記述されており、ほとんどすべての他の章とも連携のあるシステマティックな創造プロセス*8  もまた、その 範囲や動機においてARIZ*9  です。しか し、われわれはそのプロセスがARIZのどのような変種よりもいくぶん高度でより総括的に*10  機能すること を望みます*11  。そのような 状況にあって、われわれはARIZをシステマティックな創造プロセスの代替品としてよりもむしろ創造プロセスを保管する*12  のに有用なも のとしてみなします。

TRIZの世界で、発明問題解決のアルゴリズム(ARIZ) ほど議論を引き起こすものはない。概念レベルでは*3  、意見の不一致はほとんどない。ARIZは「複雑な」問題に取り組むために存在しており、そしてそれ は体系的な一連のステップを通して*4  、潜在的にぼんやりした始まりから成功する結末まで、問題の オーナー*5  を導く。しかしその後、これらのステップが何であるか、そし てそれらをどの順番で実行すべきかの詳細が*6  大きな不一致を引き起こす問題である。ほとんどすべてのTRIZ専門家がこのテーマに関して自分の変種を主張しているほどで ある。*7  いくつかの意味で、本書の第4章に記述し、ほとんどすべての 他の章とも連携のある、「体系的創造プロセス」*8  もまた、その範囲や動機においてARIZに似ている*9  。しかし、われわれはわれわれのプロセスが、ARIZのどの変種よりも、より高度で総括的なレベルで*10  機能すると考えている*11  。この文脈で、われわれはARIZが体系的創造プロセスに置き換わるものではなく, むしろ体系的創造プロセスを補完する*12  有用なツールであると考える。

*3  conceptually」は, 「概念的には」でもちろんよいのですが, 「概念レベルでは」と訳すともっと分かりやすくなる。

*4  systematic」を「体系的な」, a series of 」を「一連の」とした。また, 訳出の語順を原文に近づけた。

*5  problem owners」は訳し難い単語です。「問題のオーナー」というのは日本 語としては分かりにくい。「問題を抱えている人」, 「問題を解こうとする人」, 「問題解決者」, 「問題の当事者」, などが考えられるが, まだぴったりしないので, そのままにしている。

*6  ここの構文は中川訳で明確に分かると思います。「what these steps are」と「in what sequence they should be carried out」とが二つの疑問文の節で, details」を説明する中身になっています。原文で carried outの後ろのコンマが文法的には少し奇妙です。上記の二つの疑 問節をそれぞれ   で囲み, ここのコンマを除くと, より明確になると思います。

*7  -」以下は大抵別文にすると良いようです。「endorsing」は訳しにくい。もともとは手形などの裏書きに承認の署名 をする, 是認するという意味ですが, ここでは, 自分の変種だけを承認するという意味で, 「主張する」と意訳しました。

*8  原文は the systematic creativity process ですが,   の位置を変えて「体系的創造プロセス」としました。要する に本書全体で主張している方法論のことです。固有名詞的に扱います。

*9  ARIZ-like ARIZ的」でもいいですが, 少し日本語的でないので, like ARIZ」に置き替えて考え, ARIZに似ている」としました。

*10  原文の「somewhat」は, 語調を和らげるための挿入です。「いくぶん」で正しい訳で すが, 前後の繋がりがわかりにくくなる ので, 敢えて訳しませんでした。「いく ぶん」の他に, 「いくらか」「少しばかり」「ある程度」なども考えられま すが, 論旨を分かりにくくするだけのよ うに思います。

*11  hope」は, 希望的に, 楽観的に, 肯定的に思う/考える意味です。日本語で「望む」と訳すのは必ずしも適当 でありません。「望む」は英語では「wish」であり, hope」とはまた違います。ここの「hope」は単に「考える」と訳しました。考える中身を書いている ので, 読者は著者が「希望的に」考えて いるのだと自然に理解できるはずだからです。「期待する」と訳す場合もありますが, ここでは強くなりすぎるでしょう。

*12  complement」は「補完する」 (「保管する」は変換ミス)

 

   TRIZの 世界で、発明問題解決のアルゴリズム (ARIZ) ほど議論を引き起こすものはない。概念レベルでは意見の相違は ほとんどない。すなわち、ARIZは 「複雑な」問題に取り組むために存在しており、そしてそれは体系的な一連のステップを通して、たいていは漠然とした始まりから一つの成功する結末まで問題 解決者を導くものであると想定されている。しかしその後、これらのステップがどんなものか、そしてそれらをどの順番で実行するかという細部になると、ずい ぶん大きな不一致をきたす問題になる。ほとんど全てのTRIZ専門家たちがこのテーマに関して自分 流の方法を主張しているほどである。本書の第2章に記述しほとんど全ての他の章にもつながっている 「体系的創造性プロセス」 もまた、その視野と動機においてARIZに似ていると言えよう。しかしわれわれの体系的創造性プロ セスはARIZのどの変種よりもさらに高度で総括的なレベルで機能する。そのようなわけで、ARIZが体系的創造性プロセスを補完するのに有用な一つのツールであり、体系的創造性プロセスに置き換わる ものではないと、われわれは見なしている。


This chapter describes a simplified version of
ARIZ. The description fits with the manner in which we expect to see the tool used
*13  ; that is as a fall-back option*14   if, after a user has been through the necessary problem definition steps, arrived at the ‘select solve tool’ part of the process (Chapter 9), and discovered that they do not know how to proceed. In other words, we will use ARIZ*15   as the emergency back-up to help us when we are stuck.

この章はARIZの簡易版について述べています。ここではわれわれがそのツールが使われているところを見 るように*13  記述していま す。それはもし、ユーザーが必要な問題定義のステップを終わって解決ツールを選択するプロセス(第9章)に到達したときどのように進めたらよいかわかって いないことを発見した場合の万一のそなえ*14  になります。 いいかえれば、われわれはARIZ*15  行き詰まった ときの救急補助具として使うことができるでしょう。

本章 にはARIZを簡略化して記す。それは, われわれが期待するこのツールの使い方*13  に対応する。すなわち, 他に手がないときの選択肢としてである*14  。ユーザーが問題定義の必要なステップを完了し, プロセスの「解決ツールを選択する」段階(第9章)に到達し たが, どのように進めばよいか分からない場合に使う。いいかえれ ば、行き詰まったときの緊急補助具として, われわれはARIZ*15  使うだろう。

[推敲意図の説明]

*13  ここの構文はややこしいですが, 言い換えると, We expect to see that the tool is used in the manner」がここのwhich節の中身です。「ツールの使われ方」とすることも考えまし たが, 「使い方」の方が日本語として素 直なので, これを採用しました。

*14  fall-back optionであることを訳出して, 分かりやすくします。(「語順の維持」の法則)。「fall-back option」は, 「万一の備え」も良い訳ですが, 「他に手がないときの選択肢」と訳出しました。このような 訳は, 中川が愛用している「Longman 現代英々辞典」(Longman Dictionary of Contemporary English) を読んで, それから考えたものです。(この辞典については, TRIZホームページ』に載せた「英語で発進するために」という エッセイに書いています [19999月掲載])

*15  ここで, we will use ARIZ というのを, できるだけひとまとまりにして訳すのが分かりやすいと思い ます。「ARIZを」と言ってから 「使う」というまでの挿入が長いとどうしてもわかりにくく なる。ひとまとまりに訳すには, これを文の前に持ってきて, 文を区切るようにする方法と, ここのように後ろにまとめてしまう方法がある。ここでは後 ろにまとめるやり方で, 十分スムーズになっていると思う。

この章ではARIZを簡略にした版を記す。それはこのツールの期待される使い方 に対応する。すなわち、他に手がないときの選択 肢である。ユーザが問題定義の必要なステップを完了し、プロセスの「解決ツールを選択する」段階 (9) に到達したが、それから先にどのように進めたらよいか分からない場合に使う。いいかえれば、われわれがARIZを使うのは、行き詰まったときに助けてくれる緊急バックアップ [「最後の砦」] として使うのである。


The chapter is split into three basic parts. The first and shortest part provides a very brief background on the history of ARIZ
*16  . We will use this solely for the purposes of setting the context for the second part *17  – a step-by-step description of the ARIZ*18   we think best fits into its emergency back-up role within systematic creativity. *19   The third part will then feature a case study example of the process in action. *20  

この章は3つの基本的パートに分 かれています。最初の短い章はARIZの歴史に基づく非常に簡単な背景を述べます。これは、システマティックな創造性*19  において救急 補助具に最適と考えられるARIZの段階的説明である*18  2番目の章の 背景としてのみ使います*17  。そして3番 目のパートはそのプロセスにおける実際のケーススダディを例として取り上げます。*20  

本章 は3つの基本部分から成る。最初の短い部分はARIZの歴史に関する非常に簡単な背景知識を与える*16  。これは第2部の文脈を設定するためにだけ使う。*17  2部は、ARIZのステップを順次記述しており、*18  体系的創造性プロセス*19  において緊急補助の役割に最適とわれわれが考えるものであ る。そして第3部にARIZプロセスの実際のケーススダディを例として取り上げる。*20

[推敲意図の説明]

*16  ここの on」は, 「基づく」でなく, 「関する」。また, provides a background」は, 直訳は「背景を与える」だけれども, 「背景について述べる」あるいは「背景知識を与える」がよ い。

*17  やはり「 - 」のところで文を区切ってしまうのがよい。「-」の前だけをまず訳す。そして, -」の後に, 直前の語 (ここでは, 「第2部」) を補足して, 後ろを一つの文の形にする。「語順の保存」の法則。

*18  ここも, これだけをまず訳してしまう。「a step-by-step description」は訳しにくい。「段階的説明」, 「逐次的説明」なども考えられが, ここでは, ARIZのステップを順次記述した」と訳した。「段階的」は, もう少し違う意味 (例えば, 「段階的な詳細化」など) に取られる可能性があるので。

*19  原文で「systematic creativity」とだけ なっているが, the systematic creativity process」のことであり, いつもどおり「体系的創造性プロセス」と訳した。

*20  ここの「the process」は, the systematic creativity process ではなく, ARIZ のことである。これを明瞭にするために, ARIZプロセス」と訳した。

本章は三つの基本部分からなる。




17.

Problem Solving Tools

Trimming

問題解決ツール

トリミング

第17章
問題解決ツール − トリミング

 

Going, going…

さあ次ないか、さあ次ないか...(オークションの慣用 句)*1 

*1 適切な訳だと思います。( )の挿入もあるとよいでしょう。

さあつぎないか、さあつぎないか... [オークションの慣用句]

 

Trimming (or ‘pruning’ or ‘part-count reduction’) is one of the conceptually more simple*2  of the TRIZ tools. In several senses it may be seen as something that is not unique to TRIZ - being one of the triggers in Osborn’s*3   SCAMMPERR model (the ‘E’ there to represent ‘Eliminate something’), and a large element of the Design for Manufacture and Assembly work of Boothroyd and Dewhurst (Reference 17.1) *4  . The tool also has links to the ‘Trimming’ trend described in Chapter 13. The trend describes how systems eventually evolve to contain fewer and fewer components, while managing to maintain or in some instances actually increase functionality. *5   The trend also contains a note of caution*6   that sometimes in the evolution of a system it is correct to ‘trim’ components, while at other times it is not possible. This examination of the ‘trimming’ tool, then, *7  considers itself only in that scenario where the reduction of part count in a system is a viable option.

 トリミング(あるいは「プルー ニング(剪定)」 または、「部品点数削減」)は、TRIZのツールの中で、概念上は、もっともシンプルな*2 もののひとつである。いくつかの意味で、トリミングはTRIZ固有でないように見える。―オズボーン*2  SCAMMPERRモデル(こ れら頭文字の中の「E」が「何かを除去する」eliminateを表している)が 1つのきっかけであり、またBoothroydおよびDewhurst(参照17.1) *4  の著作である “the Design for Manufacture and AssemblyDFMA)”が大きな要素となっている。また、そのツールは、13章で述べた技術進化のトレンドの中のトリミングトレンドと密接に関係している。機能性を 維持しようとしながら、また、いくつかの例では、実際に機能性を増やしながらも、トリミングトレンドは、いかに技術が、部品点数を減らす方向で進化してき たかを示している。*5  トリミングト レンドは,システムの進化の中で,部品をトリミングすることが正しい場合もあるし,一方ではトリミングが不可能な場合もあるという注意書きを含んでいる*6  。トリミング ツールの検証は、*7  システムの部 品点数削減が有効な選択であるというシナリオの中でのみ、考える。

 ト リミング(あるいは「プルーニング(剪定)」または「部品点数削減」)は、TRIZのツールの中で、概念上は、最も単純な*2ものの一つである。いくつかの意味で、トリミングはTRIZ固有でないように見える。オズボーン*3  SCAMMPERRモデル(これら頭文字の中の「E」が「何かを除去する(eliminate)」を表している)が一つのきっかけであり、またBoothroydおよびDewhurst(文献17.1) *4  の著書“the Design for Manufacture and AssemblyDFMA)”の大きな要素である。また、このツールは、13章で述べた技術進化のトレンドの中の「トリミング」トレンド と密接に関係している。このトレンドは、技術システムが、機能性を維持しながら、あるいはいくつかの例では実際に機能性を増やしさえして、部品点数を減ら す方向で進化してきた様子を記している。*5  トリミングトレンドには注意書きがあり*6  、システムの進化の中で、部品をトリミングすることが「正し い」場合もあるし,他方トリミングが不可能な場合もあるという。そこで, 「トリミングツール」の本章での検討は、*7  システムの部品点数削減が有効な選択であるというシナリオの 中でのみ、考える。

[推敲意図の説明]

*2  原文の more simple most simple」の方が適切と思われる。元の訳「もっともシンプル」でも 良いが, カタカナ言葉を避けて, 「最も単純」とした。

*3  人名をカタカナにするか原語にするかは, 時としてデリケートである。基本は, 周知の人, 常識として一般人にも知られている人の名をカタカナで表現 し, その他の人, 特に, 文献を調べるときに必要になる人の名は原語て表現するのが 良いようです。このような原則があるのだということは最近知りました。(Salamatovの教科書の訳本はこの点で不統一です。) ここの元の訳はこの点でも適切であると思います。TRIZでいうと, アルトシュラーはカタカナで, その他の人はすべて原語で書くということになります。

*4  Reference 17.1」は, 「参照」よりも, 「文献17.1」とするのが良い。

*5  この文は, 語順を維持して訳すのがちょっと難しい (分かりやすくしにくい) ので, やや長い文ですが, 推敲例のように訳してみました。部品の削減は, 単純にやると機能の削減につながるけれども, 技術の進化では, 機能を維持あるいは増大させながら, 部品を削減しているのだという論理がはっきりするように訳 す必要があります。「managing」は, 「努力してなんとかやり遂げている」というニュアンスで す。この文の訳は原文を完全にはなぞらずに, ほんの少しずつ意訳を入れています。日本語として分かりや すくするためです (そうでないと訳しづらい) 

*6  「注意書きがある」という部分をまず訳してしまっていま す。その方が読者にとって分かりやすいから。

*7  ここの「this examination」が ちょっと分かりにくいのですが, 「本章での検討」と解釈しました。

トリ ミング (Trimming)」(あるいは「プルーニング (剪定)」または、「部品点数削減」) は、TRIZのツール群の中で概念上は最も単純なものの一つである。いくつかの意味でトリミングはTRIZ固有でないように見える。それは、オズボーンの SCAMMPERRモデルのヒントの一つ (これらの頭文字の中の「E」が「何かを除去する (eliminate)」を表している) であり、またBoothroydとDewhurst (参考文献 1) の著書『生産コスト削減のための製品設計 (DFMA)』の中の大きな要素である。またこのツールは、第13章で述べた技術進化トレンドの 中の「トリミング」のトレンド (27) と関係している。このトレンドは、技術システムが機能性を維持しながら (あるいはいくつかの例では実際に機能性を増やしさえして) 部品点数を減らす方向で進化してきた様子を記している。トリミングのトレンドには注意 書きがあり、「システムの進化の中で部品をトリミン グすることが「正しい」場合もあるし、他方、トリミングが不可能な場合もある」という[13.1.6節参照]。そこで、「トリミングツール」の本章での検 討は、システムの部品点数削減が実現可能な選択肢であるというシナリオの中でだけ考える。

In a bid*8   to maximise the useful effect of the tool, we will describe what is an amalgam of best practice*9   from other similar innovation strategies. Following this description, a second section of the chapter will examine*11   some of the rules we need to be aware of when evaluating the what, where and how of trimming*10  . A third section provides two simple case study examples of ‘trimming’ in action.

トリミングツールの有用な効果を 最大化することを目指して*8  、他の同様な イノベーション戦略から集めたベストプラクティスの融合体*9  にも触れる。 これ以降、この章の第2部では,トリミングの目的、場所、方法*10  を評価する場 合、私たちが知る必要があるルールのうちのいくつかを検証する*11  。第3部では、実際に使われたトリミング例のうち、2つの簡単なケーススタディーを紹介してい る。

トリ ミングツールの有用性を最大化することを目指して*8  、他の同様な技術革新戦略から集めた最も良い実践法の融合体*9  にも触れる。その後、本章の第2節では,トリミングの対象・場所・方法*10  を評価する場合に、われわれが知る必要があるルールのうちの いくつかを検討する*11  。第3節では、実際に「トリミング」を行った2つの簡単なケースス タディを例として紹介する。

[推敲意図の説明]

*8  In a bid to ... 」は, ... を試みて」でもよいですが, 元の訳の「...を目指して」が適切だと思い, そのまま残しました。

*9  「イノベーション」はできるだけ避けて, 「革新」または「技術革新」にしたいと思っています。「ベ ストプラクティス」も同様で, カタカナ言葉だと, キャッチフレーズとして分かった気になるが, 本当のところは分かっていない危険があると思います。訳が 難しいのですが, ここでは「最も良い実践法」としました。

*10  what, where, and how of trimming」を, きちんとした日本語で表現しようとした元の訳はすばらしい と思います。ただし, what 「目的 (why) ではなく, 「対象 (何をトリミングするか) 」とするのが正しいと思います。

*11  examine」はよく出てきて, 訳しにくい言葉です。「検証」(verify) ではなく, 「検討」とするのが良いと思っています。

トリミングツールの有用性を最大化することを 目指して、本章をつぎのように構成している。




18. *1  

Problem Solving Tools

Ideality/Ideal Final Result

18*1  

問題解決のツール

理想性/究極の理想解

18

問題 解決ツール − 理想性/究極の理想解

 

“Its like, how much more black could this be? And the answer is none. None more black.” *2  

Nigel Tufnel in Spinal Tap. *3  

「それは、これがどのくらいより黒くなれるかっていうような事だろう?
その答えは無いよ、黒が一番ってことだ。」*2  

(訳 者注(灰青字で示します):これはスパイラルタップという映画の登場人物ニーゲル・タフネルのせりふです。スパイラルタップという売れないロックバンドの メ ンバーが繰り広げるドラマです。ものすごく意訳すると、「究極以上のものはあるかい?それは究極以外には無いよ。」とひねって見ました。)*3  

「こ れがどれだけもっと黒くなれるかって? その答えはノーだ よ。これ以上黒いものはないよ。」*2  

映画スパイ ラルタップのニーゲル・タフネルのセリフ*3  

[推敲意図の説明]

*1  いままで気がつきませんでしたが, 18章」という訳は分かりやすいのかもしれません。要検討。

*2  元の訳でもよく意味が通ります。ほんの少しずつ直した訳に してみました。

*3  この出典はよく分かりましたね。ただし, 訳注でごとごと書くのでなく, 推敲例のように必要最小限で補足しておくのがよいと思いま す。

「これがど れだけもっと黒くなれるかって?その答えはノーだよ。これ以上黒いものはないよ。」

Niger Tufnel  ([映画] 「スパイナル・タップ」より)
 

Chapter 8 examined the use of the Ideality and Ideal Final Result (IFR) concepts in the context of their application in a problem or opportunity definition context*4  . In this chapter we examine aspects of both*5   that are relevant to their use in a problem solving context – that is *6  their application in the role of helping to generate solutions.

8章では、理想性と究極の理想解(IFR)の概念を使うことを、ある問題あるいは意図的に定義した文脈*4  が適用される 関係の中で検討しました。本章では、我々はある問題解決の 文脈中でこれらの使用に関連した両方の局面*5  について検討 します。−それは*6  解決策の生成 を支援する役目として適用されます。

opportunity definition contextの訳し方? bothの指すものはIdealityIFRか? 最後のthatがどこに掛かるか疑問残 る)

8章で検討したのは、理想性と究極の理想解(IFR)の概念を、問題定義あるいは機会定義という文脈*4  で適用することであった。本章では、これら二つの概念を*5  問題解決の文脈で適用するのに関連した側面を検討する。すな わち, *6  理想性と究極の理想解の概念を、解決策生成支援の役割で適用 することである。

[推敲意図の説明]

*4  原文は, problem definition or opportunity definition の文脈 のことを言っています。「problem」は「困っている問題」ですが, TRIZの適用目的はそれだけでなく, opportunity」すなわち「これからの好機, チャンス」に適用することも大事です。(このような認識は, TRIZの認識として最近次第に拡大してきています。) この原文は, use of the concepts in the context of their application in a ... context」となっていて, やや冗長な感じがします。重複を避けて少しあっさり訳しま した。

*5  原文の「both」は, 二つの概念のことです。また, この直後のthataspectsに掛かります。

*6  原文の「 - that is ...」は, ここでは, 通常 , i.e. ... 」と記述されるものと同じだと思います。きちんと言えば, このthat their use in a problem solving context」です。

理想 性 (Ideality)」と「究極 の理想解 (Ideal Final Result, IFR)」という二つの概念については、すでに本書の第8章で、「問題または機会を定義する」という目的での適用について検討した。本章ではこれら二つの 概念を「問題を解決する」目的での適用について検討しよう。理想性と究極の理想解の概念を、「解決 策を生成する」ことを助ける役割に適用するのであ る。

In all, there are three main aspects of Ideality and IFR*7   that offer problem solving tools. These are:-

1)      structured thinking questionnaire

2)      ‘self’ solution trigger tool*8  

3)      connection to resources and system hierarchy tool*9  

Each of the three will be described individually in the following sections:

全体として、問題解決ツールを提 供する理想性とIFR*7  には三つの主 な局面があり、

これらは次の通りです。

1)          構 造化思考のための質問用紙(質問表)

2)          ‘セ ルフ’解決トリガーツール*8  

3)          リ ソースへの接続とシステム体系化ツール*9  

この三点はおのおの以下のセク ションで個々に述べられるでしょう。

triggerはそのままトリガーとしました。)

全体 として、問題解決ツールを提供する理想性と窮極の理想解 (IFR) *7   には三つの主な側面がある。すなわち、

1)  構造化思考のための質問表

2) ‘セルフ’-解決策を導くツール*8  

3)  リソースへの接続とシステム階層のツール*9  

これ らの三点を以下の節でそれぞれ個別に述べる。

[推敲意図の説明]

*7  IFR などの略号は, 原文で使っている場合にも, できるだけ避けて, 日本語できちんと書くようにしたい。

*8  self solution」あるいは「self-X solution(「ひとりでに実現されるという理想的な解決策」) は、Mannの説明が光っている項目です。ここは, そのような解決策を導くツールという意味です。

*9  hierarchy」は「体系」でなく「階層」 (あるいは「階層関係」など) と訳すのが良い。「system」と必ずしも同じ概念ではない。

理想性と究極の理想解 (IFR) には、問題解決のためのツールという側面で見ると主なものが三つある。すなわち、

これらの3点を以下の節でそれぞれ個別に述べる。






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最終更新日 : 2004. 6.30   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp