TRIZフォーラム

翻訳とデスクトップパブ リッシングのノウハウ
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Mann教科書翻訳プロジェクトの経験
  中川  徹 (大阪学院大学)  2004年6月30日
     [掲載: 2004. 6.30]
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   このたび、別掲のように、Darrell MannのTRIZ教科書を翻訳 (監訳) して、『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』 を (株) 創造開発イニシアチブから出版しました。その翻訳・出版に至る経過は、同書の「監 訳者まえが き」に記述したとおりで、四苦八苦しつつユーザレベルのデスク トップパブリッシング (DTP) を実践したものでした。その以前に Yuri Salamatov のTRIZ教科書を翻訳 (監訳) して、日経BP社から『「超」発明術TRIZ シリーズ5  思想編: 「創造的問題解決の極意」』を出版していましたので、そのときの経験を土台にしました。それでも、20人弱の有志メンバで、専門の編集者なしで、 460 ページの大冊をきちんと翻訳出版するのは、予想していた以上に大変なことでした。翻訳プロジェクトの皆さんに改めて感謝する次第です。ここに翻訳および出 版に関わることのいろいろな経験とノウハウをまとめて 掲載し、今後の参考にしたいと思います。

   ここにまとめるのはつぎのような項目があります。
    (1)  体制作り
    (2)  翻訳・出版の方針作り  (「ガイドライン」)  (詳細資料: 
DTPの進め方」、「原稿作成における注意事項」)
    (3)  翻訳のしかた  (詳細資料: 「翻訳推敲例 (その1)  (その2)  (その3)  (その4)
    (4)  編集と表現
    (5)  情報共有のしかた
    (6)  索引の作り方



本ページの 先頭
体 制作り
翻 訳・出版のガイドライン
翻訳のしかた
編 集と表現
情 報共有
索 引作り
DTPの進め方
原稿作成の注意事項

翻訳推敲例(1)
翻訳推敲例(2)
翻訳推敲例(3)
翻訳推敲例(4)



(1)  体制作り


 まず最も大切なことです。プロジェクトの状況に依存して実態はいろい ろ変わるでしょう。通常, つぎのような役割をする人たちが必要です (役割の重複は可)。
今回の Mann 教科書の翻訳・出版においては、ボランティアベースで20名弱のプロジェクトを作り、通常の場合の出版社と専門編集者を欠いたままで、その役割をプロジェ クト内メンバが代行して遂行しました。メンバが別組織 (別企業) に属し、遠隔地にいるままでプロジェクトを実施したことが、本ケースの特徴です。


 
(2)  翻訳・出版の方針作り

今回のプロジェクトがスタートした時点 (2002年10月) で、つぎのような方針を作りました。


MannのTRIZ教科書 の和訳のためのガイドライン (草案)

                                   2002.10. 7  大阪学院大学  中川 

(1) 内容 (著者の意図) を正しく訳出することを第一の重要方針とする。

(2) 訳文は日本語として読みやすく, 分かりやすいことを第二の重要方針とする。

(3) 用語については, できるだけ統一性を持たせ, 標準的なものを用いる。

(4) 訳出・校正・推敲などの作業は, すべて電子ファイルをベースにして, 効率的に行う。



これらの方針は基本的に有効でした。ただ、「編集者」の存在を前提としており、編集者からいろいろな助言を得られ、詳細な指針と 技術的なやり方を明示して貰え、また編集者が直接原稿にもタッチして貰えるものと想定していました。しかし、プロジェクトの後半になってもプロの「出版 社」と「編集者」が得られないことになり、自分たちでやらざるを得ないことになりました。この段階で、 『最新 Windows DTP 標準テキスト』 (黒田聡, 永山嘉昭著, 日経BP社刊) を勉強して、大いに参考になりました。

2003年 2月末の段階で、上記のガイドラインに以下の3項目を追記しました。



5) 原著に対して, つぎの点で改良する。

        (a) 章番号だけでなく, 節番号を (階層的に) 付与し, 著書の構成を分かりやすくする。
        (b) 索引を設ける。

(6) 情報共有とネットワーク推敲・校正
        情報共有のためのサーバを三菱総研内に設置して, チームが共通に使う。
        各担当者は適当な作業の区切りごとに, その作業成果を共有サーバに登録する。
        第 3稿完成まではMS Word によるファイル単位で登録, 推敲コメントの登録を行う。
        第 3稿完成後, PDFファイルに変換し, PDFベースでのネットワーク校正を行う。

(7) フォーマットと表記法の統一
        レイアウトを統一するために, 「テンプレート」を作成し, そのやり方に従う。
        フォーマットの統一をやりやすくするために, MS Word での入力法 (表記法) は, 別途作成する基準に従う。
 


また、別ページに詳細資料として掲載しましたように、「本プロジェクトにおけるDTPの進め方」、および「原稿作成における注意事項」 を書き、メンバに周知しました。ここでの問題点は、原稿作成の環境として、Windows上でMS Wordを使うのですが、メンバ各人が会社や自宅で使用しているもののバージョン  (Windows 98SE/NT/Me/2002/XP および Word 97/2000/2002 など) が違うために、操作や表示に違いがあり、原稿の見かけが異なる  (だから、ある人が直したものが、別の人には違うように  (悪化して) 見える) ことでした。 またこの段階で、フォーマッティングのために「テンプレート」を作成したのですが、有効に使えず、さらに後になってから作成し直す結果になりました。

この段階から情報共有サーバを三菱総研内に立ち上げてもらい、いろいろな段階の原稿をメンバ全員が共有できるようになりました。共有サーバはそ の後(2003年9月から), 「サイボウズ」というソフトで運用され、各人が常時登録可能となって、非常に迅速で便利な情報共有を行うことが可能になりました。 

全体の進捗は、第1稿が2003年3月末に全編揃い順調でしたが、その後が難産でした。第2稿の相互チェックのやり方が難しく、コメント担当者 がずいぶんの時間を掛けてやるか、そうでなければ目についたことだけをコメントするかになり、全体的な質の向上があまり上がらなかったのが実情です。また この状況の結果として、これ以後の翻訳の推敲が事実上監訳者一人に掛かり、全編の翻訳の推敲を三度 (2.6稿, 3.5稿, 4.5稿)  シーケンシャルに繰り返しました。もちろんその結果として、全体の統一性や品質レベルが保証できたわけです。




(3)  翻訳のしかた

翻訳のしかたの方針に関しては、前項の「ガイドライン」に書いたとおりです。しかし実際には難しいことが一杯あります。

その第一の問題は、「原文をどれだけ正しく読み取れるか?」です。今回の原書は表現が柔らかで、単語自体は難しくないが、口語的な表現もあり、 文が長く、長い文をあたかも一つの名称のように扱っていたりして、節や句の係り受けなど文の構造の読み取りが難しい場合が多くありました。そのような状 況で、大体の意味は分かるが、構文がすっきり分かったとは言えない段階で、なんとか訳そうとすると、推定して意味をつなぎ、「意訳」をしようとすることに なってしまいます。今回の翻訳作業では、このような安易な「意訳」をできるだけなくし、意味がすっきりしない所は別の色のフォントで表示しておいて、後段 階で再検討するなどとしました。

翻訳の第二の問題は、日本語としての読みやすさです。原文が長く、文の構造が複雑であると、それだけ日本語の文としても分かりにくい表現になっ てしまいます。できるだけ原文の記述の順序を保持して訳すように、適当な所で文を切って訳すように、などと注意をしてきました。

この第一と第二の点を両立させるための基本的なやり方は、まず (少し硬くて直訳的でもよいから) 文の構造を適切に捉えて、かつ、できるだけ文を短く切って「文頭から」翻訳することでした。また、初稿・第2稿・第2.6稿の段階までは、段落単位で英語 の原文とその 和訳文を並べで表示し、その翻訳の正確さを期することにしました。こうすると同じ画面で両者を読み比べながら作業ができ、能率的です。日本語部分だけにし たのは第3稿以降です。これ以後は、日本語としての論理や滑らかさ、読みやすさを大事にして推敲しました。

実 際の翻訳のノウハウを簡単に伝えることはできません。今回のプロジェクトの初期段階で、訳者の皆さんに各章の初めの部分を試訳してもらい、その推敲例を作 りました。翻訳の要領を伝え、やり方をできるだけ揃えて、初稿の質を高くしようと意図したものです。この推敲例が「翻訳の実際のノウハウを伝える」という 目的には最もよいと思いますので、「原文 - 初期試訳 - 初期推敲例 (推敲意図の説明つき) - 最終稿」という組にして、別ページに掲載します。各章の最初の1ページ程度ずつだけですが、苦心していることが分かっていただければ幸いです。(この詳細 資料で、章の順序がばらばら (特に後ろの章が先) なのは、実際に試訳とその推敲例を作った順番に対応しているからです。同じモチーフが繰り返され、少しずつ説明も変わっていますので、敢えて実際に実施し た順序で並べました。)
       翻訳推敲例 (その1)  (その2)  (その3)  (その4)

ここに最も典型的な例を一文だけ挙げておきます。推敲例の形式と議論の内容が分かるかと思います。


[原文]   The four parts can be done in any sequence, although it is useful to begin with a Benefits Analysis as this helps set the theme for all subsequent activities.

[初期試訳]  利益分析はこれ以降のすべての作 業に対しテーマ設定の手助けをするので利益分析から始めるのが役に立つけれども、四つの部分の順序はどれからでもできる。

[初 期推敲例]  これ ら四つの部分はどんな順序ですることもできる。ただし, 利益分析から始めるのが有用である。なぜなら、 利益分析がその後のすべての活動に対してテーマを設定するの を助けるからである。

[推敲意図の説明]  この原文は 3つの節(A-B-C) から構成されており, もとの訳はこの3つを完全に逆順に (C-B-A) 訳しており, 推敲訳は原文と同じく前から (A-B-C) 訳している。これは, なぜ「語順の保存の法則」が重要なのかの非常に良い例に なっている。原文は, 大事なこと, 原則的なことから先に言い, 後ろにその補足・例外・理由・詳細などを付け足して言って いるのである。すなわち, 「基本原則(A) - 例外事項の注意書き(B) - その例外を勧める理由(c)」の構成である。ところが、もとの訳文では, 「特定項目の意義(C) - 特定項目の推奨 (B) - 緩和した原則(A)」といった構成になる。もとの訳文は、いかにも日本語的な 表現であるが、原文の持つ論理性を曖昧にしてしまう。推敲訳は原文と同じ順序で述べ, 各節を区切った文にし, またその間の関係を各文頭の接続詞で明示して((A)。ただし, (B)。なぜなら, (C)), 論理性を明確にしようとしている。もとの訳の日本語的表現 では, (C)ので(B)けれども、(A)」となっており, 3つの節の区切りが明瞭でない部分があり, また, 節の間の関係がすべて節の最後部の接続助詞で示されてい る。推敲訳のようにすると, 日本語の表現であってもきちんと論理性を保てるのである。

[最終稿]   これらの4つをどんな順序で行ってもよいが、効用分析 から始めるのが有用である。なぜなら、こ れが後続のすべての活動に対するテーマを設定するからである。





(4) 編集と表現
ここに本来は書くとよいことがいろいろありますが、今回は「編集者」不在で実施したために、「ノウハウ」として推奨できるものを 持合せていないのが実情です。前項(2) の「和訳のためのガイドライン」で示したことが基本ですが、その肉付けが今回はきちんとできていません。以下にいくつかの点だけを補足します。

本来は、執筆開始 (翻訳開始) の時点で、主要な用語、仮名遣い、カタカナ表現、表記法、フォーマット、書式テンプレートなどについて、一般原則とその具体的な例やリストを明示するのが よいのです。そうすればいろいろな担当者の作業で手戻りが少なくて済むでしょう。今回はこれらを一部試みましたが、大部分は後手にまわり、また最後まで十 分明確な指針を出せず、担当者が常識としてもっている範囲で処理をしたのが実情です。

用語については、TRIZは新しい分野だといってももうすでに日本で7〜8年の蓄積がありますから、比較的しっかりしてきているといえます。方 針と して、できるだけカタカナ用語を多用しないようにしました。「モノ-バイ-ポリシステム」の代わりに「単一-二重-多重システム」と訳し、「スーパーシス テム/サブシステム」の代わりに「上位システム/下位システム」と訳しているなどです。カタカナ用語は時流に合って一見「カッコイイ」と見えますが、論理 が上滑りしてしまう危険がありますから。

仮名遣いおよび漢字/かなの使い分けには本来指針が必要です。『必携用字用語辞典』 (三省堂編修所編, 第四版) などが編集者の間ではよく使われるとのことです。今回は一部に助言を貰いましたが、あまり明確な基準を作れていません。

カタカナ表現の表記法の統一も本当は大事な項目です。例えば、「ユーザー」か「ユーザ」か、「アイディア」か「アイデア」か、「トリーズ」か「トゥリー ズ」か、といったことです。これには技術分野、理化学分野、マスコミなどの分野に依存して、いくつかの大きな基準 (流儀?) があって、必ずしも簡単ではないようです。今回は訳者間でばらつきがあり、それを必ずしも十分に統一し直せていません。

さらに細部の表記法についても、統一するのは大変です。前述のように、『Windows 標準DTP教科書』を勉強して、「原稿作成の注意事項」を作りました。そこでは、句 読点を「、」と「。」にすること、半角/全角の使い分けなどの詳細を記 述しています。これらの規定内容は必ずしも各担当者の日常的な用法と一致していませんから、どうしても慣れによる誤記が混入してきます。また、フォントを 替えると文字間隔などが微妙に違い、見た目の良し悪しが変わってきます。

この点で上記の「注意事項」から敢えて変更したことがあります。まず、前提として、フォントは日本語・英語ともMS P 明朝を採用し、微妙な字間の調整はこのフォントのデフォールトを採用しました。その上で小生が好まなかったのが、全角の〔 〕と( )です。これらに関し てはすべて半角の [  ] と ( ) を使うことにし、 通常の文字と外側で接するときは半角の空白を挿入し、句読点と接するときや何にも接しないときには半角空白の挿入をやめるというルールにしました。こう いった微細なことも不統一になると粗が目立ってきます。

フォー マットの確立も、後手に回ってしまいました。節見出しのスタイル、通常の段落のスタイル、箇条書きのスタイル、図や表のタイトルなど、できるだけ早 い時期に指定し、原稿作成時に統一して使えるようにテンプレートに作って渡しておくと良かったのです。こういったことは「編集者」が指定するはずの作業で す。

図の作成はずいぶん大きな作業でした。原書の原稿はMS Wordで作成されており、図もWordのオブジェクトとして作成されていましたから、本来は Word または PowerPoint で作業し、図中のテキストを英語から日本語に置き換えれば良いはずでした。ところが、原図をコピーしてくると、テキストが単語単位でばらばらに貼り込まれ ているように見えるのです。誰かがPowerPointできちんと作業し直して、それを日本語版のWordに貼り付けたのに、違う担当者が作業しようとす るとまたばらばらになっているように見えました。後で分かってきたのは、これは Windows および Word/PowerPointの新旧のバージョンの間のソフト的な不統一/不具合によるものでした。ただ、各メンバが遠隔で別々に作業していますので、 誰がどんな操作をしてどんな問題が起きているのかを互いに適切に認識できなかったのです。この問題の後で、メンバの一人が図を一手に引き受けて推敲・修正 してくれました。その際、使い慣れていて能力的に高いAdobe Illustratorを使用しました。その結果統一性のある図ができました。ただし、作業負担が一人に集中し、また、他のメンバが簡単に修正できない状 況になったことは今後の課題です。恐らく、適切なWindowsとOfficeのバージョンを指定して、それで一貫してやるのがよいのだろうと思っていま す。

最終的な段階で、図および表をテキストのどの位置に配置するかというレイアウトの問題がでてきます。本書では (原書同様) 図のまわりのテキストの回り込みをしていませんので、比較的簡単です。それでも、テキストの行数の変動に応じて図の最適配置が違いますので、ページ中程に あってテキストと共に浮動する形式と、ページの上端または下端においてテキストの行数変動に依存しない形式とを使い分けて、配置を決めました。図の配置に 関しては、関連テキストの直後 (あるいは前ページ下端や次ページ上端)  に適切に配置するように、原書以上に気を配っています。(原書にはこの配置が不適切なために理解のしやすさを損ねている所がごく一部にあります。)

なお、通常の意味の「翻訳」の範囲を越えて、原書を改良した点があります。それは,  節の見出しに階層的な番号をつけたことです。また、それをしてみると、章の初めや節の初めなどに下位の見出しが省略されていて、原書の節見出しがきれいな 階層構造をなしていない部分があることが分かりました。そのような場合には、適切な下位の節見出しを補いました。また、これをベースに原書よりも詳細で分 かりやすい目次を作成しました。

 表現に関して補足すべきは、本文中の主要なキーワードを太字のゴシック体にして強調表示したことです。この際、「このページ/段落でのトピッ クスを適切に表現するもの」という観点からキーワードを選びました。要するにそのページをぱっと開いたときに、「そこで何を議論しているのか、議論の主題 がどのように展開しているのか」を分かるようにするのが主たる目的です。新しくでてきた用語/キーワードをすべて太字にしようというのではありません。



(5) 情報共有のしかた

今回のプロジェクトでは、違う企業に属し、遠隔地にいる20名弱のメンバが、3〜4回しか顔を合わせた打合せをしないという状況 で、翻訳出版を遂行しました。それができたのは、(MS Wordという共同のワープロソフトの他に) 電子メールによる相互連絡と、サーバによる情報共有が可能だったからです。

特に、2003年9月以後使用可能になった「サイボウス」という情報共有サーバのソフトが非常に使いやすく、大いに有効でした。情報共有サーバを創造開発 イニシアチブが (実際には三菱総研のサーバ内に) 立ち上げ、全メンバがパスワードを使ってファイルの書き込みと読み出しができます。そのファイル転送が非常に速く、快適でした。

実際の運用には、主要メンバごとにフォルダを作り、あるいは原稿の版ごとにフォルダを作って、各人の作業ができるとそのファイルをサーバに登録する。ファ イルの形式は自由で、Word, PowerPoint, Excel, Access, PDF, Illustrator, GIF などのものを必要に応じて入れました。必要 なら関係者にメールで登録したことを連絡し、つぎの担当者がそれをダウンロードして作業をするようにしました。オフィスからでも自宅からでも常時アクセス 可能で したから、非常に便利で強力でした。

作業用のWordファイルと共に、最終段階ではPDFファイルを作成・登録し、迅速・簡便なチェックを行うことができました。(サイボウズには遠隔共同作 業のためのもっと多くの機能があるようですが、われわれはその一部しか使わないで、それでも大きなメリットを得たのです。)



(6) 索引の作り方
今回の訳書で、(原書の簡単な索引を越えた、詳細な) 索引を 作り、非常に便利なものができました。ここにはその作成のノウハウを記述しておきます。

索引作りは、原稿が最終段階に近づいた頃に開始します。原稿のページの割り振りがもうほんの少ししか変わらないという段階でやればあまり手戻りなくできま す。ただし、それでは最終段階での印刷発注に索引だけが間に合わないという状況を生じますから、その1-2ヶ月前から開始し、途中で一度だけ(下記の (c) の終了前の段階で) 所在ページの 確認の手戻りを行うほうがよいのかもしれません。

下記のような段階を踏んで実施しました。

(a)   テキストを読みつつそのページを参照したい諸観点を判断し、各観点を1行の (複数) キーワードで抜き書きします。この複数キーワードは、行単位での並べ替えを意識して、観点を階層的に表現したものです。もちろん入力順の欄、章番号の欄、 ページ番号の欄をつけておき、データベース (MS Access) に入れます。[今回は約2230観点をリストアップしました。(ページあたり 4〜5件)]

(b)  上記のデータベースを「観点」の項目欄を鍵にして並べ替えを行い、キーワードの不統一を直し、中 項目主義の索引の階層構造を意識して, 各行の記述を上から順にローラー作戦でチェックして、さまざまに整えます。

(c)   (b)でチェックした全体を再度自動的に並べ替えると、より索引の構造と近いものが顕れます。そこで (b)と同様の作業をあと2回ほどつづけます。この段階で, 中項目主義の索引の基本的な構成がほぼ決まります。また、索引の小項目のレベルをどこまで表示するかを判断して、その境目にマーク 例えば「/」を入れます。このマークの後ろは表示されない補足情報として扱われます。このマークを入れてから自動的に並べ替えると、小項目の単位で関連す る行がまとまって表示されるわけです。

(d)   (c)のデータベースをコピーして、新しいデータベースを用意します。これに、小項目までを示す欄を作り、その小項目の参照ページ (複数) を書き込む欄を作り、重複した不要な行は削除します。すると、新しいデータベースの各行は、「中項目タイトル-小項目タイトル, 参照ページ (複数)」で構成されます。

(e)   このデータベースを項目記述の欄で並べ替えた上で、テキスト形式 (改行付き) でファイル出力して、Wordファイルに取り込みます。

(f)    このWordファイルを、最終的な印刷形式 (例えば、10ポ 26字  二段組) を意識しつつ形式を整えていきます。特に、中項目タイトルの下に、各小項目タイトルを段下げして表示します(2行目以後の中項目タイトルは省略します)。 小項目タイトル中に中項目のキーワードがくりかえされる場合には、略記記号 (例えば「〜」)を使います。また、項目の配列順は、正しい五十音順になるように、手作業で修正していきます。

(g)   最終的にはすべて手作業で索引として整えます。主要な中項目のキーワードを太字ゴシック体にし、小項目キーワードでも重要なものは太字ゴシック体にする。

上記の作業において、五十音順の並べ替えを正しく自動的に行うことは残念ながら不可能でした。 Accessでは漢字をすべて音読みで扱うので、正しい読みには並びません。一方、Excelでは、インポートしたキーワードは音読み、入力したキーワー ドは入力時の読みを覚えて使います。これらが混在するとごちゃごちゃの順番になってしまいます。結局、索引項目をひとまとまりずつ手作業で注意して移動さ せるのが、実際的な作業法でした。

索引の使いやすさを決めるのは、その基本から言えば、「あるキーワードで引いたときに適切な ページに誘導する」ことがどれだけできるかです。しかし、もっと根本的には、「読者がどんな観点から索引で検索するだろうか?」を適切に考えて作成するこ とが大事です。また、「ある観点から索引を見たときに、そのまわりに関連するいろいろな観点が記載されていて、興味がつぎつぎに誘発される」ことが大事で す。この誘発を起こさせるために、関連項目をグループにまとめた「中項目主義の索引」が有用なのです。

今回の索引を作るのには、原稿をほぼ完成させてから、集中的に作業をして丸3週間掛かっています。索引の作成者は本文の記述内容をよく理解してから作業を 始めるべきです。




なお、和訳とは逆に、英語で発表するための心得としては、小生が1997年に書きましたつぎのものも参考にしていただければ幸い です。
英語で発信す るために」  中川  徹, 1997年 5月28日  [『TRIZホームページ』 1999. 9.27掲載]

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最終更新日 : 2004. 6.30   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp