TRIZフォーラム
 
翻訳のノウハウ:
   詳細資料: 翻訳推敲例 (その4)
  中川  徹 (大阪学院大学)  2004年6月21日
     [掲載: 2004. 6.30]
For going back to the English page, press: 

本ページは MannのTRIZ教科書『Hands-On Systematic Innovation』を翻訳出版したプロジェクトにおける、翻訳のノウハウの詳細資料をまとめたものです。より全体的なことはつぎの親ページを参照下さ い。

    
Mann のTRIZ教科書『TRIZ  実践と効用 (1) 体系的技術革新』 の出版案内と資料    [2004. 6.30掲載]
     翻 訳とデスクトップパブリッシングのノウハウ  (中川 徹)   [2004. 6.30掲載]


   このページには実際の翻訳推敲例とその説明を具体的に記述しています。順序は実際の試訳と推敲を行った順番であるため、章の順番はばらばらです。段落ごと につぎの5種のテキストを組にしており, それぞれフォントの色を替えて区別しています。



    (a)  原文    (黒字):   Darrell Mann の原文の英文。 
    (b)  初期試訳 (黒字):   知識創造研究グループの担当メンバ   (2002年11月〜2003年 2月)

              試訳者の補足 (灰青色字)赤字は試訳者自身が問題を感じている部分を示す。
    (c)  推敲訳 (青字):   中川  徹   (2002年11月〜2003年2月)
    (d)  推敲意図の説明 (緑字):   中川  徹  (2002年11月〜2003年2月)。 上記(b)を(c) に推敲した意図の説明。
    (e)  最終稿 (茶色字):  中川  徹  (2004年4月〜5月)  





13.

Problem Solving Tools -

Trends Of Evolution

第13章   問題解決手法−技術進化のトレンド

13章

問題解決ツール

技術進化のトレン ド

13

問題 解決ツール − 技術進化のトレンド


Warning; the future is always closer than it appears*1  

Faith Popcorn *2  

警告;兆候が見えるよりも、未来は常に近くに 来ている。*1  

フェイス ポップコーン(Faith Popcorn*2  

警告、未来は見か けよりも常に近くに来ている。*1  

ポップコーンの信 念*2 

[推敲意図の説明]

*1  than it appears」は, 「未来が (見かけ上) そのように見えるよりも」というこ とです。

*2  出典が分からな いのでどう訳せばいいのか困りますね。通常の人名とは思えない。「フェイス」と訳すとどうしても「顔」の方を思い浮かべる。上の訳でいいのかどうかよく分 かりませんが。

警告: 未来はいつも見かけより近くにある

Faith Popcorn [女性運動家]

 

The trends part of TRIZ is for many emerging*3   as one of the most powerful elements of the whole. The technology trends uncovered by the original TRIZ researchers*4  , plus the new trends uncovered during the research underlying this text*5   have two primary roles in their technical context (the second book in this series will discuss their relevance to business issues*6  ); the first as a strategic system evolution prediction tool*7  , the second as a tool to help solve problems. This chapter examines both roles before ending*8   with a collection of 35 technology trends to use as a reference*9  , and a pair of short sections describing implications and uses of employing the trends in combination*10  , and why sometimes the trends can appear to work*11   in the opposite direction to normal. The five main sections are thus:-

TRIZのトレンドの部分は、TRIZ全体の 中で最も有用な要素の一つとしてたくさんのことが明らかになってきている*3  。この教科書の下での研究*5  で明らかになった新たなトレン ドに加えて、独自に(研究を行っている)TRIZ研究者達*4  によって明らかにされた技術の トレンドは、これらの技術的な観点で2つの主要な役割を有している(このシリーズの2冊目の本が商業的に発行される際に*6  議論されるであろう);第1は 進化予測の手段の戦略的なシステム*7  と して、第2は問題解決を助ける手段として。比較用として*9  の 35の技術トレンドの集合および、関係を記述した短い文節と、トレンドの適用とを組み合わせた*10  一組の記述でこの章は終わる が、その前に両方の役割を調べる*8  、 また研究をしていると*11  時 々トレンドが正常とは反対の方向に見えるのはなぜか、ということを調べる。5つの主要な節はこのようになる:−

TRIZの進化ト レンドの部分は、われわれの多くにとって、*3  TRIZ全体の中 で最も有用な要素の一つとして新たに興りつつある。もともとのTRIZ研究者たち*4  が明らかにした技 術進化のトレンド、および本教科書の基礎をなす研究*5  で明らかにした新 たなトレンドは、技術的な観点からは二つの主要な役割を持つ。(本シリーズの第2巻で、ビジネス的 側面*6  との関連を議論す る。) 第一の役割はシステムの進化を予測する戦略的なツールとして*7  であり、第二は問 題解決を助けるツールとしての役割である。本章ではまずこれら二つの役割を検討し, 最後に*8  35の技術進化の トレンドを参照用として*9  示す。また、その 間に二つの短い節を設けて、技術進化のトレンドを組み合わせることの意味と使い方*10  、および、進化ト レンドがときどき通常とは逆の方向に進むように*11  見えるのはなぜ か、ということを記述する。五つの主要な節はつぎのようである。

[推敲意図の説明]

*3  ここの「for many」 が紛らわしい。中川は, for many of us」と解釈した。「われわれの多くにとって」という意味の挿入句である。主の構文 は、「The trend part of TRIZ is emerging」である。ここの記 述は, 著者のDarrell Mann が 最近「進化トレンド」の活用に非常に力を入れており, 新しい応用を開拓していることを反映して いる。

*4  original TRIZ researchers」の「original」は、「もとの」「本来の」という意 味。

*5  the research underlying this text」 は、「the research lying under this text」と同じことであり、「この教科書 (の文面) の元になっている (基礎をなしている) 研究」のこと。

*6  relevance to business issues」 で, issues」 というのは訳しにくい語。「課題」「問題」「案件」「事項」といった意味。「ビジネスの問題との関連」あるいは「ビジネス的側面との関連」といった訳でよ いであろう。

*7  as a strategic system evolution prediction tool」は, Mann特有の長い修飾語から構成されている。「as a strategic tool for predicting the system evolution」と同義と考えられる。この解釈は第2の役割の記述との対比でもサポートされるし, 以下の節の項目の記述からもサポートされる。

*8  ここで言ってい ることが輻輳していて, 適切に訳すのに骨がおれる。主要な構文は、「This chapter examines both roles before ending with A, and a pair of short sections」。この前半は明瞭であり, 「二つの役割を検討し, そして最後にA を載せている。」ただ, 後半部分の文法的な説明が曖昧である。実際の節の記述の順 でいうと, 「二つの役割, 二つの短い節, そして A」となっているので, そのように訳した。

*9  to use as a reference」というのは, 「参 照用に」あるいは「辞書/参考書/ハンド ブックとして」といった意味である。

*10  employing the trends in combination」 は、「トレンドを (個別に使うだけでなく) 組み合わせて使うこと」の意味。「implication」 は「意味合い」「意味していること」。

*11  the trends can appear to work in the opposite direction」では, work」の (意味上の) 主語は「the trends」である。「反対 方向に働く」「反対方向に動く/進む」ように見えるというのである。

TRIZの技術 進化のトレンドの部分は、多くの人たちにとってTRIZ全体の中で最も強力な要素の一つとして浮上しつつある。もともとのTRIZ研究者たちが明らかにした技術進化のトレンド、そしてそれに本書の基礎をなす研究で明らかにした新た なトレンドをプラスしたものは、二つの主要な役割を技術的文脈で持っている (: 本シリーズの続巻で、われわれはそれらの「ビジネス的問題との関連」を議論する予定である)。第一の役割はシステムの進化を予測する戦略的なツールとしてであり、第二は問題 解決を助けるツールと しての役割である。本章では [まず進化のトレンドの基本的な解釈を述べ]、上記の二つの役割を検討し、最後に35の技術進化のトレンドを参考資料として 示す。また、その間に二つの短い節を設けて、技術進化のトレンドを組み合わせることの意義と使い方、および、進化のトレンドがときどき通常とは逆の方向に 進むように見えるのはなぜか、ということを記述する。そこで、6つの主要な節はつぎのようである。


1)      System Evolution Strategy

2)      Trends As A Problem Solving Tool*12  

3)      Trends in Combination

4)      Trends in Apparent Reverse*13  

5)      Trends Reference. *14  

1)システム進化の戦略

       2)問題解決手法*12  としてのトレンド

       3)組み合わせのトレンド

       4)明白な*13  逆転のトレンド

       5)参照の*14  トレンド 

1) システム進化の戦 略

       2) 問題解決ツール*12  としてのトレンド

       3) 組み合わせたトレ ンド

       4) 逆転して見える*13  トレンド

       5) トレンドの参照資料*14  

[推敲意図の説明]

*12  tool」はここではたしかに「手法」でもよいのですが, 他 の多くの所で「ツール」としていますので, 「ツール」で統一しておきたいと思います。

*13  apparent」は, 「見かけ上そのように見え る」の意味にとるのがよいと思います。

*14  reference」は訳しにくい語ですが, 「参 考文献」「参考資料」などで, 辞書やハンドブックなどの資料集のことです。ここでは, いわゆる文献の書誌情報ではなくて, 参考に すべき中身そのものを指しています。「参照資料」というのもまだぴったりしていませんが。
 


Before starting with these topics, however,
*15   it will probably be instructive to introduce the generic trends*16   in order to obtain a grasp of *17  what they look like, what information they contain, and how we might make best use of them.

しかしながら、*15  これらのトピックスについて始める前に、それ がどう見えるか、得られる情報は何か、いかに最善に用いるか、を理解するために*17  一般的なトレンドを導入することが多分有用で あろう*16  

ただ、*15  これらのトピック スを書く前に、トレンドを一般的に紹介することが理解を助けるであろう。*16  それがどのような ものか、どんな情報を含んでいるか、そして、それらをどのように活用できるか, を把握しておくこ とが有益である。*17  

[推敲意図の説明]

*15  however」は, たしかに「しかしながら」と 訳されることが多いと思います。そして, 単純な「but (「しかし」) よりも強調されていると感じられ る場合が多いでしょう。しかし, それは, however」が文頭にあるような場合のことです。 この文のように (そして多くの用例で) 出 だしの句の後ろにある場合には, (この位置では「but」 を使えなくて) もう少し弱いことが多いように思います。出だしの句を言い始めたのだけど, それ が前に言ったことと違っていることに気がついて, 違っていることを認識してもらうために, however」と言っている。これが「弱 い」のは, 発音においても明白で, こ の「however」は前の句に続けて発音されることからも分かります。そのような意味から, 「しかしながら、」よりもずっと弱くして, 「た だ、」としました。

*16  ここも文が長く なるので, 一旦区切りました。まず何をするのかを明確に言って, それからその説明をしているのです。原文は文を区切ってはいないのだけれども, 全体的なことを言ってからその目的を言うという形になっていることは明白です。

*17  ここでは目的を 述べています。ただ, 文を切ったあとの訳で, ...するのが目的である。」と書くとなんだかぎくしゃくするので, ...しておくことが有益である。」としました。もう少しよい言葉があるかもしれ ませんが。

 
13.1  進 化のトレンドの一般 的な読み方・使い方と二つの例外

まず最初に「一 般化したトレンド」を紹介することが、理解を助けるだろう。それが「どのようなものか?」、「どんな情報を含んでいる か?」、そして「それらをどのように活用できるか?」を把握しておこう


Figure 13.1 illustrates an example of one of the trends. The trend is one known as ‘space segmentation’. Like all of the other TRIZ trends, this space segmentation evolution pattern has been observed through analysis of how systems*18   across a wide variety of industries have evolved. Like the other trends illustrated later, this trend works in a left-to-right fashion, *19   with the direction of evolution generally seeing*20   monolithic things evolving into hollow things, which then evolve into things with multiple hollows, which in turn evolve to things featuring capillary-type spaces, which then finally evolve such that the cavities are filled with some kind of active element.

図13.1にトレンドの一つの例を示してい る。トレンドは‘空間分割’として知られているものである。他のTRIZのトレンドの全てと同様に、系*18  がいかに幅広く工業の発展に関わってきたかと いう分析を通して、この空間分割の進化パターンは捉えられてきている。後述する他のトレンドと同様に、このトレンドは左から右への流れ、*19  単一の物が中空性の物へ進化し、それから複数 の空洞を有する物へ進化し、細管型の空隙を特徴とする物へと進化をとげ、それから最終的には中空はある種の活性要素で満たされることになる、というように 一般的に進化の方向をとる。*20 


図13.1にトレ ンドの一つの例を示す。これは「空間分割のトレンド」として知られているものである。この空間分割の進化パターンは、
TRIZのその他のトレン ドの全てと同様に、幅広い種々の工業においてシステム*18  がどのように発展 してきたかを分析した中で観察されてきたものである。後述する他のトレンドと同様に、このトレンドは左から右へと進む。*19  一般に進化の方向 は、*20  単一の物が中空性 の物へ進化し、それから複数の空洞を有する物へ進化し、さらに細管型の空隙を特徴とする物へと進化をとげ、それから最終的に中空がなんらかの活性要素で満 たされる。


[推敲意図の説明]

*18  system」は基本的には, 「システム」と訳す ことにしたい。

*19  ここも文が長く なるので, 一旦ここで文を区切る。区切る位置は, 文 頭からひとまとまりのこと (特に原則的なこと) を 言い終わったで区切る。そしてその後の, 具体例や説明は別の文にする。

*20  この後半の文で も, はじめの所で言っている全体的なことを, き ちんと最初に訳すとよい。もとの訳ではこれが文の末尾にきてしまっており, 文として理解しにく くなる。日本語の文はこの元の訳のような語順になることが多いが, だからそれがよい訳文になる わけでない。 原文の持つ論理構成をできるだけ崩さないで, 日本語としてもわかりやすくなるよ うに, 訳出に努力いただきたい。


13.1.1  進化のトレンドの一般的な読み方・使い方

13.1にトレンドの一つの例を示す。これは「空間分割のトレンド」 として知られているものである。この空間分割の進化パターンは、TRIZのその他のトレンドのすべてと同様に、「幅広いさまざまの産業で諸システムがどのよ うに発展してきたか?」 を分析した中で観察されてきたものである。後述する他のトレンドと同様に、このトレンドは左から右へと 進む。一般に進化の方向は、中実の固体 [単一の物] が中空の物へ進化し、それから複数の空洞を持つ物へ進化し、さらに毛細管型の空隙を特徴とする物へと進化をとげ、それから最終的にそれらの空隙がなんらか の活性要素で満たされるように進化する。


11.

Problem Solving Tools

Physical Contradictions

問題解決ツール

物理的矛盾

11

問題解決ツール − 物理的矛盾

 
Jack can’t see he can’t see

and can’t see

Jill can’t see Jill can’t see it.*1  

and vice versa*2 

R.D.Laing, Knots*3

ジャックは、見ることができず、見ることができない ことを理解することができない。

ジルは、ジルがそれを見ることができないことを理解 することができない*1  その逆も同じ。*2 

B.D.レイング、ノッツ*3

ジャックは、自分が見れ ないことを知らず、

ジルがそれを見れないこ とをジルが知らないことを知らない。*1  

その逆もまた同じ。*2 

 

R.D.Laing, 結び目*3 

[推敲意図の説明]

*1  二人の盲人の物語と思 われる。生まれつきの盲人 (ジャック) にとって, 見る経験がないのだか ら, 自分が「見れない」こ とを理解できない。また, 相棒のジルがやはり目 が見えず, ジルにその自覚がない ことを, ジャックは知らない。

*2  上記の文のジャックと ジルとをすべて入れ替えても成り立つことをいう。

*3  氏名は, 常識として知られてい るような人々はカタカナで表記し, そうでない人々はもと の綴りで英語表記とする。ここの「Knots」は作品の名前と思わ れる。正式な訳があるかもしれないので, 後日調査の必要あり。

ジャッ ク は、自分が分からないことを分からず、

ジ ルがそれ を分からないことをジルが分からないことを分からない。

そ の逆もま た同じ。

R.D.Laing, 結び目  [英国の精神科医 (1927-1989)]

 

Physical contradictions involve those situations in which we desire different properties of a certain parameter. *4   This definition includes situations where, for example, I want an object to be ‘big and small’, ‘present and absent’, ‘hot and cold’, ‘heavy and light’, *5   and so on.  In each of these situations, the Matrix from the previous chapter is not going to help us to solve the contradiction*6   – the boxes in the diagonal from top left to bottom right is full of blanks. *7 On the other hand, what we will see here*8   is that challenging a physical contradiction will use exactly the same*9   40 Inventive Principles as used for technical contradictions; the only difference now is that we will require a different strategy*10   to determine which of the Principles are more likely than others to help us to solve our problem.
 

物理的矛盾は、われ われがある1つのパラメーターで、異なる特性を要求する場合の問題に関係する。*4  この定義は、例え ば、あるオブジェクトが「大きい、かつ小さい」、「存在する、かつ存在しない」、「暑い、かつ冷たい」*5  などを要求する問題 を含んでいる。これらの問題につい ては、前の章からのマトリックスでは、矛盾を解決する助けにはならない。*6  対角線中の箱(セ ル)は、左上から右下までの、すべて空白であるからである。*7 他方、われわれがこ こでわかることは、*8  物理的矛盾へ挑戦す ることは、まさに技術的矛盾のために使われるのと同じ、*9  40の発明原理を使 用することになるであろうということである。ただ一つの違いは(今や)、どの原理が他のものよりわれわれの問題を解くうえで、手助けになりそうかを決め る、違う戦略(方策)*10  が必要だということ である。

物理的矛盾とは、われ われがある一つのパラメーターについて、異なる性質を要求する状況に関係する。*4  この定義に含まれる状 況とは、例えば、あるオブジェクトについて、「大きく、かつ小さい」、「存在し、かつ存在しない」、「熱く、かつ冷たい」、「重く、かつ軽い」*5  などと要求する場合で ある。これらの状況におい て、前章のマトリックスは、われわれが矛盾を解決するのを助けてくれない。*6  左上から右下への対角 線上にある枡目は、すべて空白なのだから。*7他方、本章で明らかに していくのは、*8  物理的矛盾に挑戦する のに、技術的矛盾に対して使ったのと全く同じ*9  40の発明原理を使用 することである。ただ一つの違いは、問題を解くに際して、どの原理が他のものより助けになりそうかを決めるのに、違う方策*10  がいま必要なことであ る。

[推敲意図の説明]

*4  ここは章の出だしで, Physical Contradictionsの説明を始めており, その言葉を定義しよう としています。(つぎの文で, This definition」と言っていることか ら明らかです。) そこで, 定義文らしく, 「物理的矛盾は」の代 わりに「物理的矛盾とは」と書き出しました。

*5  ここの「hot」は, あるオブジェクトに関 する性質ですから, 「暑い」でなく「熱 い」の語を選びました。また, 「熱い、かつ冷たい」 でなく, 「熱く、かつ冷たい」 としました。「重く、かつ軽い」は訳出が落ちていたものです。

*6  もとの訳で, この一つの文に助詞 「は」が3回使われています。 「は」はその語を強調する働きをしますので, これを繰り返すとどう しても文章が重くなります。一つの文で, 二回以上使わない努力 をするのがやはり大事だと思います。その文だけを見ているとずいぶん苦労しますが, 前後をつけて読み流し てみると, 「は」を省略しても意 外と困らないことが分かります。

*7  原文の 」で文を区切り, 後続部分を理由の説明として訳してあるのは適切だと思いま す。「左上から右下へ」の部分は, 「対角線」を直接的に説明 (限定)していると解釈されますので, 「対角線」の前に出しました。四角形の「対角線」はこの他 にも「左下から右上へ」のものがあるからです。文末は「すべて空白なのだから。」と短く止めました。もとの訳が少しくどいのと, この文が前の文を説明する補助的な文だからです。

*8  原文の「what we will see here」の「here」というのは, 必ずしも今直接言って いることを指していません。そうでなくて, これからこの章で見て いく (分かるうにしていく) ことを指しています。 この点がはっきりするように, here」を「本章」と訳しま した。

*9  exactly the same 40 Inventive Principles」では, exactly」は「the same」を修飾・強調してい ますので, 訳としても「全く同じ40の発明原理」というよ うにひとまとめにしました。

*10  strategy」は, ここでは, もとの訳の ( )の中を採用して 「方策」としました。 「戦略」よりも適切かと思います。

物理的矛盾は、われわれがある一つのパラメータについて異なる性質 [複数の値] を欲する状況に関係する。この定義に含まれる状況とは、例えば、あるオブジェクトが「大きく、かつ小さい」、「存在し、かつ存在しない」、「熱く、かつ冷 たい」、「重く、かつ軽い」などと欲する場合である。これらの各状況では、前章の [矛盾] マトリックスは矛盾を解決する助けにならない。左上から右下への対角線上にある枡目はすべて空白なのだから。他方、本章で明らかにしていくのは、物理的矛 盾に挑戦するには技術的矛盾に対して使ったのと全く同じ40の発明原理が使用できることである。ただ一つの違いは、問題を解くに際してどの原理が助けにな りそうかを決めるのに、違う戦略が必要なことである。


The basis of this strategy is separation, and the search for different times, places or conditions
*11   at which*12   we might want the different properties laying at the heart of the contradiction. *13  In a coffee cup, for example, *14   we might identify a ‘hot and cold’ contradiction – we want the cup to be hot on the inside in order to keep the coffee hot, *15   but we would also like the coffee cup to be cold on the outside*16   so that we don’t burn our hands when we try and pick it up. This represents an example of a physical contradiction separate-able in space; in that there are physically different places*17   where we want the two different attributes hot and cold. *18  

If we can find a means of ‘separating’ the contradiction like this*19  , then we have the basis for both a better understanding of the problem, and also a means of tapping into the successful strategies of others who have successfully ‘eliminated’ the contradiction. *20    (Note; *21   we will use the term ‘eliminate’ in this chapter in the same way we used it in the last one – that is, as a direction and long term destination.) *22  

この戦略(方策)の 基本は「分離」である。そして、違った時間、場所、あるいは状態*11  を探すことである。 それには、*12  矛盾の中心に横た わっている、わわれが探している違った特性があるであろう。*13  コーヒーカップで は、例えば、*14  「熱くて冷たい」と いう矛盾に納得するであろう。われわれは、カップがコーヒーを熱く保つために内部が熱いことを望む。*15  しかし、同時に、 コーヒーカップを持ち上げようとする場合に、手をやけどしないように、外部が冷たくあることを望む。*16  これは、空間的に分 離できる物理的矛盾の例を表わす。そこでは、われわれが望む2つの異なった、「熱くて冷たい」という属性をもつ*18  、物理的に異なる場 所がある。*17  このように矛盾を 「分離」という手段を見つけることができれば、*19  われわれはその問題 についてよりよく理解すること、および、成功裡に矛盾を「除去した」他の人の成功した戦略(方策)を利用する手段の両方を得ることになる。*20  (ノート:*21  本章では、「除去す る」という用語は、最後の章で使ったと同じ意味で使用する。すなわち、方向と長期の目的地?として。) *22 

この方策の基本は「分 離」である。異なる時間、異なる場所、あるいは異なる条件*11  を探して, そこでは、*12  異なった性質が矛盾の 核心に存在しているのをわれわれは求める。*13  例えば、コーヒーカッ プでは、*14  「熱く、かつ冷たい」 という矛盾を見つけるだろう。すなわち、コーヒーを熱く保つためにカップの内側は熱くあってほしい。*15  しかし、同時に、コー ヒーカップの外側は冷たくて、 *16   カップを持ち上げても 手にやけどしないようであってほしい。これは、空間的に分離 できる物理的矛盾の例を表わす。空間的に、物理的に異なる場所があり、*17  われわれはそこに熱い と冷たいとの二つの異なる属性値を求めている。*18  このように矛盾を「分 離する」手段を見つければ、*19  問題をよりよく理解す る基盤ができる。そしてまた、矛盾をうまく「除去した」先人たちの成功した方策を利用する手段を得る。*20  (注:*21   「除去する」という用 語は、本章でも前章と同じ意味で使用する。すなわち、方向と遠い先の目的地を示すものとして。) *22 

[推敲意図の説明]

*11  原文で, different」は一度だけしか言っ ていないが, times, places, or conditions」のすべてに掛かって いることは明瞭である。ところが日本語の場合には, 時間, 場所, 条件のそれぞれを複数 に表現することが難しいので, 「異なる」がこれらす べてに掛かっていることが明確でない。そこで, (本章の後の方で説明し ていることを踏まえて) 「異なる時間, 異なる場所, あるいは異なる条件」 というように繰り返した。

*12  原文「at which」。このように関係代 名詞が前置詞とともに用いられているときは, 訳すのがなかなか難し い。もとの訳で, 「それには, ...特性がある..」としており, 最後まで読むと「それ には」というのが, 「その異なる時間にお いては」という意味であることが分かるが, この語を読んでいる段 階では, 「そのためには, ...  (する必要がある)」と感じられる。推敲 訳では, 「そこでは」と訳し た。また, この後半の節が前の語 を限定しているので, 文を「。」で区切らず, 「、」で区切っただけ にした。語順を原文のままに保つのに, 少し苦労している。

*13  原文の「laying(他動詞lay, 横たえる) lying(自動詞lie, 横たわる) の誤りであろうと考え る[要著者確認]。原文の「want」も訳しにくい。犯人 を探したりするときの「want」の意味と同じであろ うと思う。

*14  原文の「for example」は, 文頭ではなく, In a coffee cup」の後ろにある。その 点で, もとの訳は「語順の保 存の法則」に従っている。ただ, この場合に,

「例」として上げてい るのは, 「熱くて冷たい」こと よりも, 「コーヒーカップ」そ のものがまず最初である。そこで, 「例えば、コーヒー カップでは、...」とした方が自然であ ると思う。

*15  もとの訳で, 「われわれは、... を望む」というのが, やはり固い表現であ る。「われわれ」という主語はこの場合に特定の人を指していないから, 省略して, ... であってほしい」と訳 した。

*16  原文では, 「内側は熱く (... その趣旨), しかし, 外側は冷たい (... その趣旨)」という語順になって いる。もとの訳は, 日本語的な修飾関係で 表現して, (...のために) 内側は熱く, しかし, (...のためには) 外側は冷たい」として いる。推敲訳は, 語順としては, 一見不規則であり, 折衷的である。第1文では, 目的の記述が短いので, (... のために) 内側は熱く」とした。 そして, 2文は, できるだけ対比を鮮明 にしたいので, 「しかし, 外側は冷たく ( ... その趣旨)」の形式にした。特に, 2文の趣旨の説明が長い のでこ形式が適当であると判断した。本章の後ろの方では, これらの2文の対比が重要であり, そのために同じ形式に することが求められる。しかし, ここはまだほんの導入 部分だから, ガチガチした対比より も, すっと読んで分かりや すいことが大事であると思う。

*17  原文の「in that」は, in the space」であると解釈され る。また, 「二つの場所がある」 ということがここの論理の中心だから, それをできるだけ明確 にするために, 推敲訳のようにした。(もとの訳の「そこで は」が, 「この例では」と理解 されるのを避けたかった。)

*18  原文の「attributes」の使い方 (およびその訳し方) に注意が必要である。 attribute」はデータベースなど の用語として「属性」と訳することが多いが, それが「性質のカテゴ リ」を意味しているのか, 「性質の値」を意味し ているのかの訳出に注意しておきたい。ここでは, 「熱い」という (温度であらわされるよ うな) 値と, 「冷たい」という値と を表している。「熱くて冷たい」という一つの値ではない (attibutesと複数だから) , 「熱くて冷たい」とい う (一般的なカテゴリとし ての) 「性質」でもない。そ こで, 本書の訳では, 性質のカテゴリを表す ときに「属性」という用語を使い, 性質の値を表すときに は「属性値」を使いたい。この区別は, (USITでSickafusが繰り返し言っている ように) 大事なことだと思うが, Mann自身は十分に区別して いない。この点に関しては, 後日「訳注」をつけた いと思う。

*19  separating」は, ここでは後ろに目的語 を持っている動詞だから, 「分離」でなく, 「分離する」と訳し た。「If we can find ...」は, もとの訳の「見つける ことができれば」が原文に忠実であるが, ...することができる」と いう表現が多く出てくると語調が長くなる。「... することができる」は, 一般にもっと簡単に「...できる」と訳すのがよ い。そこで, この場合に「可能動 詞」を使って, 一旦, 「見つけられれば」と 直してみたが, 少し分かりにくいので, 簡単に「見つければ」 とした。「can」を完全には訳してい ないけれども, これで全体として正し く意味が伝わると思う。

*20  原文で「successful」が (形容詞と副詞で) 2回出てくる。「成功し た」と訳すよりも, 「うまく」 (「巧く」の意味) と訳す方が滑らかにな ることが多い。ただ, 2回同じ言葉を使うのを 避けたかったので, 推敲訳のようにした。

 *21  原著における注を, この例のように (: ... )」の形式にしておきた い。これに対して, 訳注を [訳注: ... ]」の形式にする。

*22  ここの著者の意図は, 矛盾の「除去」を文字 通り完全にできる場合もあるが, それが文字通りにはで きない場合もある。それでも, 考える方向として「除 去する」という言葉を使い, 説明をしているのだと いうことである。なお, the last chapter 」は, ここでは「最終章」で はなく「前章」を表している (last week」などと同じ)

 

この戦略の基本は「分離」である。矛盾の核心にある異なった性質 [属性値] を望んでいるような、異なる時間、異なる場所、あるいは異なる条件を、われわれは探す。例えば、コーヒーカップでは、「熱く、かつ冷たい」という矛盾を見 つけるだろう。すなわち、コーヒーを熱く保つためにカップの内側は熱くあってほしい。しかし同時に、コーヒーカップの外側は冷たくて、カップを持ち上げよ うとしたときに手をやけどしないようであってほしい。これは空間的に分離できる物理的矛盾の一例である。物理的に異なる複数の場所があり、われわれは熱い と冷たいという二つの異なる属性値[訳注]を望んでい る。このように矛盾を「分離する」手段を見つければ、問題をよりよく理解する基盤ができ、また、矛盾をうまく「解消した」先人たちの成功した戦略を利用す る手段の基盤を得る。(注:「矛盾を解消する」という用語は、本章でも前章と同じように、方向と遠い先の目的地を 示す意味で使う [10.1.1節参照]。)

[訳注] 原文ではattributesという語を使っており、通常は(データベースなどの用語として) 「属性」と訳される。ただ、この語が「性質のカテゴリ」を意味しているか、「性質の値」を意味しているかに注意が必要である。ここでは、「熱い」という (温度であらわされるような) 値と、「冷たい」という値とを表している。「熱くて冷たい」という一つの値ではない (attributesと複数だから) し、 「熱くて冷たい」という (一般的なカテゴリとしての) 「性質」でもない。そこで、本書の訳では、性質のカテゴリを表すときに「属性」という用語を使い、性質の値を表すときには「属性値」を使う。この区別は、 (USITでSickafusが繰り返し言うように) 大事なことだと思うが、著者自身は十分に区別していない。



本 ページの先頭
『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』出版案内
翻 訳とDTPのノウハウ
翻訳推敲例(その 1)
翻訳推敲例(その2) 翻訳推敲例(その3)


総合目次  新着情報 TRIZ紹介 参 考文献・関連文献 リンク集 ニュー ス・活動 ソ フトツール 論 文・技術報告集 教材・講義ノート フォー ラム Generla Index 
ホームページ 新着情報 TRIZ紹介 参考文献・関連文献 リンク集 ニュース・活動 ソフトツール 論文・技術報告集 教材・講義 ノート フォーラム Home Page

最終更新日 : 2004. 6.30   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp