TRIZフォーラム: 学会参加報告(13):
ETRIA "TRIZ Future 2005" Conference: 
欧州 TRIZ協会主催 TRIZ国際会議

    2005年11月16〜18日, グラーツ, オーストリア
     中川 徹 (大阪学院大学)
     2005年12月29日 (英文)  [掲載: 2006. 1.13]
     概要和文 (2005年12月30日)  [掲載: 2006. 1.13]
 

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今回のETRIA 国際会議には日本から沢口学氏 (産業能率大学) と小生が参加した。学会で発表された論文を全編レ ビューして, 詳細な学会参加報告を英文ペーに掲載する。和文ではその概要だけをここに報告する。

 

会議名称:  ETRIA "TRIZ Future 2005" Conference
                        (TRIZ Future 2005: 欧州TRIZ協会主催 第 5回TRIZ国際会議)
日時:   2005年11月16日〜18日 
会場:    グラーツ, オーストリア  (Stadt-halle)
主催:   ETRIA (欧州TRIZ協会)    Web site:  http://www.etria.net/
共催:   レオーベン大学産学共同研究所    http://www.auusseninstitut-leoben.at/
            オーストリアTRIZセンター  http://www.trizzentrum.at/

参加者:   130人  (うち、オーストリア   人)
プログラム概要:
              11月 16日 (水)    Tutorial  + シンポジウム  (基調講演, 発表)
              11月 17日 (木)    シンポジウム (基調講演, 発表)
                11月 18日 (金)    シンポジウム (基調講演, 発表) 

(1) 参加者 130名はETRIA として過去最高。発表の応募 (アブストラクト) は70件あり、委員会が 50件を採択、他はポスターとした。Proceedings (540頁) には、基調講演 4件 (内予稿添付は2件)、論文46件、ポスター9件を掲載。他にチュートリアルが初級と中級用に計2件あり。一般発表は各件予定30分で、 2トラック制で行なった。基調講演1件と一般発表 9件が、発表者欠席のため取りやめとなった。発表応募数は過去最高であり、それだけTRIZの方法についても実践についても普及してきているといえる。 

(2) 基調講演: Larry Smith (米国) [A2]: フォード社での10年以上のTRIZ推進経験を踏まえて、TRIZの推進を妨げている種々の要因を解消・打開する努力の必要を説く。Simon Litvin (米国) [A3]: 2005年7月にロシアで行なったTRIZマスター達約20人の討論を紹介し、この数年やや停滞しているTRIZを本腰を入れて改良していく必要を認めたことを話す。その中で、TRIZが(狭い意味の) 技術課題だけでなく、企業のビジネスの課題に技術面から大きな視野で挑戦していく必要を述べる (Litvinは一般発表 [16] でさらに敷衍した)。また、TRIZがより現実に則して企業の技術問題の解決に当たるべきことを述べる。-- 昨年のVictor Fey の基調講演「Don't Touch TRIZ!」を間違いであるとして、多数のTRIZマスターたちが正したことに意義がある。

(3) TRIZの企業内推進に関しては、Jung-Hyeon Kim (韓国) [1] の発表で、サムソン電子が非常に積極的にTRIZの導入・普及・実践活動をしているのが注目される。欧州では中小企業でのTRIZ導入の努力が進んでいる。

(4) TRIZの効果の実証に関して、Klaus-Juergen Uhrner (ドイツ、KACO社) の発表 [3] が目を見張らせるものであった。同社の30年間の発明 (特許など) 全164件の歴史を、アルトシュラーの「発明のレベル」の判断基準を用いて詳細に分析した。彼は1996年にTRIZを独自に学んで実践を始め、2000年から他の4人がTRIZ実践に加わった。導入前は、全社で年平均 3件の発明。このうち、彼自身を含め3名が新人時代にレベル4以上の発明をして、それが同社の事業 (自動車用のガスケットとシール) を世界レベルにした。ただ、その後はレベル3以下の発明が継続しただけだった。TRIZ導入以後、発明は年平均9件 (3倍) になり、それらはほとんどすべてレベル3以上で、レベル4以上の発明も続々出てきている。レベル3以上のものはTRIZで矛盾を克服した解決策である。彼自身を含めて、発明の創造力がTRIZの導入により格段に向上したことを、データで実証できた。--この実証データはすばらしいものである。日本の企業でも (後数年して) 同様の実証ができることだろう。

(5) TRIZの方法に関しては、Ellen Domb (米国) [25] の「コスト問題をTRIZで扱う方法」が重要である。コスト問題は非常に包括的な問題であり、本来はきちんと分析しないと的を得た解決ができないものであるが、TRIZの初心者の多くがコスト問題を手がけようとすることも事実であるため、「TRIZ初心者ができるコスト問題へのTRIZ技法の使い方」を明確にしようとしている。9画面法、機能分析、矛盾マトリックスと40の発明原理、Effectsデータベースと進化のトレンド、究極の理想解などについて、コスト問題のための使い方を、説明している。Valeri Souchkov (オランダ) [41] の根本矛盾分析の方法も明快で使いやすい。Simon Dewulf (CREAX, ベルギー) [10] が、新しい方法とそのツール (DIVA: Directed Variation) を提唱しており、今後の発展が注目される。

(6) TRIZの適用事例については、Valery Krasnoslobodtsev (米国) [8] が、韓国のサムソン電子で行なった「ロボット掃除機の改良」の例が具体的でかつ詳細である。単純化したARIZを用いており、技術的矛盾から物理的矛盾を導出して、それを分離原理で解決する過程を、4件の改良課題に対してそれぞれ丁寧に説明している。

(7) 新製品の開発のためにTRIZを戦略的に用いる方法、また、技術の将来予測にTRIZを用いる方法が、今回の国際会議での重要なテーマであった。Darrell Mann (英国) [17] は、「技術革新が成功するのはいつか?」という問題を論じている。有効なビジネスモデルができていることがまず絶対条件である。真のブレークスルーを主要プレーヤが行なった場合、あるいは先行技術の隠れた欠点を明確にできた場合は「いま」技術革新が起こる (起こせる) という。そうでない場合は、「そのうちに」 (またはだめ) になるという。Hansjuergen Linde (ドイツ) [30] の方法 (WOIS) は注目されるが、今回の発表は概要説明で昨年度の発表とあまり変わらなかった。Markus Wellensiek ら (ドイツ) [37] が、新興技術の発展性について、かなり数量化して予測する方法を作っている。既存技術との対比で考えることが一つの鍵である。

(8) 新製品開発などの戦略的な実施のためには、TRIZだけでなく、他の諸方法をも統合して、全体的な枠組みを明確にすることが必要であり、有効である。Sergei Ikovenkoら (米国) [14] は、トヨタ生産方式 (あるいは Lean Engineering) を解説した上で、そこで生じる個々の問題の解決にTRIZを適用することが、迅速に良質の解決策を創り出す方法であることを事例で示している。彼らはこのアプローチを (明示していないが) 日本企業でのコンサルティングとして行なっている。日本で、トヨタ生産方式を提唱し実践している人たちと、われわれTRIZ実践者とが、相互に理解し、協力することが必要であり、有効であることを学ばされる。Johannes Pfister (ドイツ) [24] は、30年に渡るコンサルティングの経験から、諸技法の中の主要なものを取り出してきて統合した、技術の開発と改良のための全体的な枠組みを示した。Deming の PDCAサイクルを修正して、「Plan - Design -Do - Study」サイクルを提唱している。それは単なる技法の集積ではなく、全社の技術開発と製品の改良・維持の全体的活動を示し、プロジェクト管理の要点を技法面から明確にしている。計画の段階でも、設計の段階でも、TRIZが (他の技法と協調して) 使えることを示している。杓子定規に使うのでなく、全体を知った上で、課題と段階に応じて、適切に使っていくべきであると考える。

(9) 特許とTRIZの関係もいくつか発表された。その中で、Sergei Ikovenkoら (米国) [36] が発表した、「特許戦略の立案と実施の方法」が重要であり、その中でのTRIZの諸技法の有効な使い方を論じている。大きなスケールで企業の特許戦略のさまざまな選択肢を議論していることが参考になる。

(10) TRIZと教育の関係については、大学レベル、中学・高校レベルでのよい発表がなかったのが残念である。小学校、さらに幼稚園での、TRIZを基礎にした創造性教育が、ロシアやベラルーシで研究されており、随分明確になってきている。将来のために学習し、検討していくべきであろう。

(11) TRIZのビジネス・経営面への応用や社会的応用などの発表は今回はなかった。この面では、米国の方が実践的であるといえる。

(12) 中国からの論文 3件とイランからの論文 3件が、欠席のため発表されなかった。この両国からの発表は欠席になることが多いので注意を要する。またそれとともに、これらの国での、TRIZの研究と実践が確実に興りつつあることにも注目すべきである。

(13) 韓国は11名参加、発表 5件。日本は 2名参加、発表 2件。日本からの参加と発表がもっと積極的になるとよい。内容的には発表できるものが多数あるのだから。「日本は takeするばかりで、giveしようとしていない」という批判が起こる可能性がいつも存在する。要注意である。また、「日本は十分に take さえしていない」といえなくもない。

(14) 本報告は、「Personal Report」であり、中川個人の責任と判断で記述している。今回のグラーツでは、学会のまとめのセッション中にETRIA会長の Denis Cavallucci から 「ぜひまた書いて下さい」といわれ、会場から拍手をいただいた。学会後1ヶ月半かかって、ようやく執筆を完了した。多数の発表から、本当に優れたものを適切に紹介することが、この報告の役目であると思っている。

(15) 上記に紹介したもののうち、以下の論文について、その和訳と『TRIZホームページ』への掲載の許可を申請し、各著者から快諾をいただいた。「To Do List for TRIZのページは長くなる一方であるが、読者の方で翻訳を協力いただける方があれば、ぜひお願いしたい。
L. Smith[A2] , S. Litvin [A3], K. Uhrner [3], J. Pfister [24], E. Domb [25], M. Wellensiek et al.[37] , P. Schweizer [39], V. Souchkov [41], L. Meierhofer [42]

(16) 次回はベルギーで開催の予定。11月頃。日時、場所など、近く発表されるであろう。

 

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 最終更新日 :   2006. 1.13.    連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp