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編集ノート (中川 徹、2015年11月23日)
本ページは、藤田孝典著『下流老人』をテキストとして、その第4章を、「札寄せ」ツールを使って「見える化」したものです。本ページの趣旨については、親ページ(日本社会の貧困を考える、[A] 高齢者の貧困化)を参照ください。
原著第4章の構成は以下のようです。
『下流老人−一億総老後崩壊の衝撃』、藤田孝典著、朝日新書520、朝日新聞出版、2015年 6月30日刊、pp. 125-147。
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
1. 放置される下流老人
2. 努力できない出来損ないは、死ぬべきなのか?
3. イギリス、恐怖の「貧困者収容所」法
4. 下流老人を救済することは税金のムダ?
5. 全体像が把握できないと下流老人は差別されて見殺しにされる
6. ひっそりと死んでいく下流老人たち
7. 言われなければ助けないという制度設計
8. 絶対的貧困と相対的貧困の違い
9. 生活保護バッシングに見る「甘え」を許さない社会
10. 自己責任論の矛盾と危うさ
11. 「真に」救うべき人間など一人もいない
本章で著者は、「下流老人の問題が(今まで述べたように) 深刻になって来ているのに、どうして何の対策も講じられていないのだろう?」と問題提起をしています。そして、その背景に、私たち国民の無理解/無自覚があり、それが下流老人たちに我慢を強いており、福祉行政の「言って来なければ助けない」というスタンスが状況を悪化させていると、指摘しています。著者が行っているNPOの生活保護者支援活動に対して、(励ましの意見もあるが) 多くの否定的、反対意見が寄せられてくるといい、それらの声に一つ一つ対応して論じています。しっかりした議論ですが、関係者が複数あり、議論が輻輳しています。
本章の「見える化」作業は、今までの章以上に難航しました。ここで実施した方法は、以下のようです。
(a) いつものように、本文を読んで抜書きする。抜書きの詳しさは、いままでの倍程度。
(b) 抜書きの各文を札(ラベル)にする。否定的意見、下流老人当事者の考え・振舞い、行政の立場、著者の応答、論拠とする基本的な考え方、その他「地の文」などを色分けして分類する。論理関係を示すように(局所)配置する。
(c) 全体構成がやや行ったり来たりしているので、一部の前後を組み替えて、より論理的に、分かりやすく、全体を再編成する。
(d) 枠を使って札のグループ化を行い、論理的な関係(原因-結果、判断など)、また問題と解決策の関係などを、矢印で明示する。[この段階で、全体の詳細「見える化」版PDF ができた。
(e) 詳細記述の札(ラベル)を削除して、簡略化し、全体の論理をより分かりやすくする。簡略で分かりやすい「見える化」要約版PDF が完成した。
(f) 本ページに、完成した「見える化」した図を、HTML(画像、要約)版 と PDF(要約)版 (詳細版)で示す。
再編成して「見える化」した構成は、以下のようです。
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日 --- 意識と理解の問題
[1] 貧困が見えにくい
[3] 貧困は自己責任か? --- 貧困が起きることは、自由主義社会の宿命である
[4] 社会福祉(生活保護)を受けるのは「甘え」だと考える風潮 --- 憲法に保証された権利である
[5] 生活保護は税金のムダ使いか? --- 税金の本来の意義
[6] 生活保護の水準は? --- 憲法が保証している「健康で文化的な最低限度の生活」
[7] 日本の社会福祉制度 --- あるのによく知られていない、使われていない
[8] 日本の福祉行政のスタンスの問題 --- 「本人が言わなければ、教えない、助けない」
[9] 「下流老人よりも子どもが先」か? --- 個別視野の議論による財源の奪い合いの弊害
[10] 解決するべき方向の考え方 --- 領域を跨る総合的な政策とその中の各領域の解決策
「見える化」した図(要約版)を、以下にHTML(画像)版で掲載します。
本ページの先頭 | 「見える化」した目次 | 「見える化」要約版の先頭 | [0] はじめに | [3] 「自己責任」と「甘え」 | [7] 福祉制度と行政のスタンス | ||
第4章「見える化」要約版PDF | 第4章「見える化」詳細版PDF | [A] 高齢者の貧困化(親ページ) | 日本社会の貧困(親ページ) | 英文ページ |
『下流老人』(藤田孝典著) 「第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日」
「見える化」ノート(要約版)、「意識と理解の問題」、中川 徹、2015年11月25日
まとめと感想(中川 徹、2015.11.26):
何回も読んだこの第4章ですが、「札寄せ」を使って「見える化」をして、著者が言っていることを改めて明確に理解することができました。まとめと感想は以下のようです。
(1) 著者がNPOを通じて実践している活動に、一般の人々からいろいろな意見、特に批判的な意見が寄せられている。著者はそれらに一つ一つ応答して、下流老人(および生活困窮者一般)を救済すべきことを述べている。その応答は、丁寧でかつ、しっかりした考え方と信念に基づいている。
(2) もっとも基本的なことは、「自立した生活をし、自立した豊かな生涯を送る」という社会的規範(道徳)があり、そのために、健康・教育・家庭・職業などあらゆることに努力し、精励・忍耐してきているのが、私たちすべての日々の生活であり、生涯である。しかし、それがいろいろな要因で暗転し、身体的・精神的・家庭的・社会的・経済的などの面で破綻し、(特に経済的に) 自立した生活ができなくなる人が出てくる。そのような人に対して、「その人が努力しなかったからだ」「その人の自己責任だ」「援けてもらおうとするのは甘えだ」と考えるのは、私たち日本社会では広く広がっている。その意識が、下流老人など生活困窮者を蔑視することになり、その人たちを社会の隅に押しやり、孤立化させてしまう。
(3) このような状況を、「当事者個人個人の観点でなく、社会全体からの観点で見直すべきだ」というのが、この著書の最重点である。資本主義の世界、自由社会・競争社会では、貧困が生じるのは宿命である。富める者ができ、(相対的に)貧する者ができる。しかし、より根本の人類の規範として、「基本的人権」を尊重するべきである。日本国憲法では国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保証している。それを実現するために、(富める者から貧しいものに富を再配分するための)税制があり、(救済の具体的なやり方を規定する)社会福祉制度がつくられている。だから、下流老人など生活困窮者は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるだけの(生活保護などの)援助を受ける「権利」があるのだ。社会に、貧困者を救済することを積極的に求めていくことができるのだ、という。国民全体にこのような意識改革ができることが大事なことである。
(4) 日本の社会福祉制度は、多岐に渡って作られているのだけれども、国民に十分に知られていず、利用されていない。生活困窮者の制度捕捉率は、厚生労働省の調査でも15〜30%しかないという。広く使われていない大きな理由は、行政の消極的なスタンスにあるという。福祉制度のほとんどすべてが、「申請主義」になっており、「本人が言ってこなければ、教えない、援けない」というスタンスになっているからだと指摘している。このスタンスは、「福祉予算を抑制したい」という政策を表している。
(5) 福祉の財源は限られている。そして、下流老人や介護の問題だけでなく、現役層の雇用の不安定、就職難と非正規雇用の増大、シングルマザーの困窮、子どもたちの貧困など多くの問題が同時に生じている。これらの各領域ごとに要求があり、予算の奪い合いが起きている。「下流老人対策よりも、子どもの貧困の救済が先だ」などの意見もある。これらの、「個別領域の視野での要求と議論は間違っている」と著者はいう。多様な問題は相互に関連しているのだから、その全体を考えた解決策(政策)が必要なのだ、そのための全体的な考察とシミュレーションをしていくべきだ、と著者は主張している。--- そのとおりだと、わたしは思う。
(6) この「見える化」の作業も第4章まで来た。7月初めに、「東海道新幹線焼身自殺放火事件」の老人の心境を簡単な図にしたときから比べれば、随分と問題の理解が深まったし、「見える化」の方法も活用できてきた。藤田孝典さんの本書は、実にしっかりした構成と内容を持った本だと、再認識している。あともう少しやり上げて、高齢者の貧困の問題をきちんと「見える化」して、多くの人たちの考察と議論のお役に立てるようにしたいと思う。
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最終更新日 : 2015.11.29 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp