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編集ノート (中川 徹、2015年12月17日)
本ページは、藤田孝典著『下流老人』をテキストとして、その第5章を、「札寄せ」ツールを使って「見える化」したものです。本ページの趣旨については、親ページ(日本社会の貧困を考える、[A] 高齢者の貧困化)を参照ください。
原著第5章の構成は以下のようです。 (目次の各項から、「見える化」の図へのリンクを張っています。)
『下流老人−一億総老後崩壊の衝撃』、藤田孝典著、朝日新書520、朝日新聞出版、2015年 6月30日刊、pp. 149-175。
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人 -- 個人に依存する政府
4. 介護保険の不備 − 下流老人を救えない福祉制度、ケアマネジャー
この第5章で著者は、社会福祉に関連する現在の制度と政策の問題点を検討しています。その観点を上記のように8つ挙げてそれぞれを議論しています。各項目の議論は比較的短いですから、「見える化」の作業は前章ほど難しくありませんでしたが、予定以上の日数がかかってしまいました。いろいろな議論をどれだけ圧縮して記述して、その論旨を(文章より以上に)明確にできるかが苦心したことです。以下にまず「見える化」した図を掲載して、本ページ末尾に私のまとめと感想を記します。
「見える化」した図(要約版)を、以下にHTML(画像)版で掲載します。
また、本章の要約版のPDF(3頁)、および詳細版のPDF(5頁) を収録します。
いままでの全章の要約版をまとめたPDFもあります。(詳しくは親ページを参照ください)
本ページの先頭 | 目次 | 「見える化」要約版の先頭 | 1. 家族制度と年金 | 5. 住宅 | 8. 労働環境 | 貧困ビジネス | |
第5章「見える化」要約版PDF | 第5章「見える化」詳細版PDF | [A] 高齢者の貧困化(親ページ) | 日本社会の貧困(親ページ) | 英文ページ |
『下流老人』(藤田孝典著) 「第5章 制度疲労と無策が生む下流老人 -- 個人に依存する政府」
「見える化」ノート(要約版)、「制度と政策の問題点」、中川 徹、2015年12月17日
まとめと感想(中川 徹、2015.12.17):
8つの検討項目のうち、著者が最初にかかげているのが高齢者の収入の面、すなわち年金のことです。本書でいままでたびたび議論しているように、必要な支出額に比べて、年金は僅かです。貯蓄を前提にしているより以上に、子や孫などの家族と共に、あるいは家族に支えられて生活していることを想定した制度設計になっているからだといいます。
たしかに、家族の状況は随分と変わりました。戦後の70年間で、農村などから都会への人口移動があり、核家族化が進み、自分たちもまたその子ども世代もそれぞれの職業を求めて独立・流動して行きました。企業活動・経済活動が広域化するに伴って、自分たちも、子どもたちや親戚たちも、(全国や海外にまで)分散して住む状況が起こっています。高齢者を抱えた家族が他の家族・親戚から離れて孤立していることはもちろん、高齢者世帯が(一人あるいは夫婦だけで)孤立して暮らしているのはあたりまえのことです。著者が言うように、家族が互いに支えあうこと、家族の生活で自然に行われる「無償の福祉」が、家族メンバーが少なくなるにつれて減少しています。
さらに問題なのは、いま、現役世代、そしてさらに若者世代が、経済的に厳しい状況にあり、高齢者を支える生活上・経済上の余力を持たないことです。雇用が不安定になり、(望まない)非正規雇用が増大して、平均給与が下がっている中で、現役・若者世代自身が自分たちの老後のための備えがまったく不十分になってきています。このような状況は、企業側の(もうけ主義の)論理と、それに乗っている政府の政策が生みだしています。−この点の広い認識と方向転換が必要だと著者は言います。私も同感です。
医療の項で、「無料低額診療施設」というのがあることを、私は初めて知りました。現在、全国で約600の病院などがこのサービスを提供しているとのことです。-- 厚生労働省のホームページでこのキーワードで検索してもこのような制度、サービスの説明はほとんどありません。行政の消極的スタンスが分かります。
住宅の項で、「高齢者が住宅を失わないようにするにはどうすべきか、をまず検討しよう」という指摘は、大事なことと思います。家賃負担が軽くなれば、生活困窮者がずっと楽になる、低年金でもやっていけるようになる、というのはそのとおりでしょう。全国で空き家がものすごく増えている(7軒に1軒)、それなのに高額のローンを組んで新築マンションが建てられ、民間の賃貸家賃が高くて多くの人が生活に困窮している。私が住んでいる千葉県柏市ではいまタワーマンションと(狭い敷地の)戸建住宅の新築ラッシュが目立ちます。それなのに、高齢者が安心して住めるような、(高価でない)集合住宅や施設はなかなかできません。本章の最後に著者が書いている「無料低額宿泊所」の貧困ビジネスの実態も、本当にひどいことです。―これらのことは、考え方と政策を変えれば、いろんな解決策があるはずのことと思います。
労働環境・労働条件の件も重要なことです。基本的な権利は労働基準法で守られているはずなのに、労働者派遣法がそれに抜け穴を作ってしまった。企業の営利主義、人を使い捨てにする考えが、日本の多数の国民を貧困にしてしまっている。--最近のニュースで驚くのは、外食産業の雄であるマクドナルドのパートの時給が国が定める(地域別の)最低賃金だけだとのこと、また渡辺美樹参議院議員の経営する和民が新入社員を酷使し入社2ヶ月で自殺に追いやったこと。もっと裏でいわゆるブラック企業が蔓延していることが透けて見える状況です。
原著者が本章の最初と最後に書いているまとめは、非常に明確です。両者は結局同じことを言っています。
・ 下流老人を生み出しているのは、現在の社会システムであり、個人の能力不足や怠惰のせいではない。
・ 現在の「過度に経済優先、弱者切り捨て」の社会システムと政策を正さなければ、下流老人も日本の貧困問題も解決しない。
・ さらに、人間疎外(人権無視)にならされた、わたしたちの意識と感情を正す必要がある。この後、第6章「自分でできる自己防衛策」(生活保護の知識を含む)、第7章「一億総老後崩壊を防ぐために」(政策の個人的アイデア)を記述しています。これらの「見える化」を進めると、問題の全体像が分かり、解決のための議論・考察ができるようになるでしょう。
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最終更新日 : 2015.12.19 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp