USIT講義ノート:
USIT ニュースレター と ミニ講義  (第3集) 
Ed Sickafus (Ntelleck, USA),
第11号 2004年 4月 4日 〜  第18号 2004年 5月24日
  訳: 中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授), 2013年 1月
    

和訳掲載号: (11)〜(18); 同 英文原文PDF   [掲載: 2013. 1.30]

 For going back to the English page, press: 

  編集ノート (中川 徹、2013. 1.28)

9年ぶりにUSITニュースレターの和訳掲載を再開します。USITの開発者 Ed Sickafus 博士のミニ講義の連載は、非常に面白く、深い洞察があり、示唆に富みます。訳出しながら同博士の思想と思考を学び直して、実に有益だと思いました。今回は、(11)〜(18)の 8編をまとめました。英文原文も PDFでこの『TRIZホームページ』に掲載しています。

USITニュースレターについて、また Sickafus博士の著述については、親ページを参照下さい。(第1次 、第2次 )

USIT Website: http://www.u-sit.net/

Dr. Ed Sickafus:   Email: NTELLECK@u-sit.net

 
 (号) 原著発行年月日   ミニ講義 の 内容 掲載日(和訳) 英文原文 (PDF)
(11) 2004. 4. 4 ミニ講義(11) ユニークネス分析--問題解決の技法 2013. 1.30 2013. 1.30
(12) 2004. 4. 8 ミニ講義(12) 質疑応答 (中川 徹教授): 問題の選択と問題の定義 2013. 1.30 2013. 1.30
(13)  2004. 4.19 ミニ講義 (13) 問題解決 (解決策生成) の諸技法 2013. 1.30 2013. 1.30
(14) 2004. 4.26 ミニ講義 (14) 問題解決 (解決策生成) の諸技法 (2) 複数化 2013. 1.30 2013. 1.30
(15) 2004. 5. 3 ミニ講義 (15) 問題解決 (解決策生成) の技法 (3) 次元法 (Dimensionality) 2013. 1.30 2013. 1.30
(16) 2004. 5.10 ミニ講義 (16) 問題解決 (解決策生成) の技法 (4) 機能配置法 (Distribution) 2013. 1.30 2013. 1.30
(17) 2004. 5.17 ミニ講義 (17) 問題解決 (解決策生成) の技法 (5) 連結法 (Transduction) 2013. 1.30 2013. 1.30
(18) 2004. 5.24 ミニ講義 (18) 問題解決 (解決策生成) の技法 (6) 一般化法 (Generification) 2013. 1.30 2013. 1.30
本ページの先頭 NL-11: ユニークネス分析 NL-12: 質疑応答 (中川 徹) NL-13: 解決策生成技法-複数化(1) NL-14: 複数化(2) NL-15: 次元法
NL-16: 機能配置法 NL-17: 連結法 NL-18: 一般化法 前のページ (第2集) 次のページ (第4集) ニュースレターの親ページ

 


    USITニュースレター  No. 11   (2004年 4月 4日)   Ed Sickafus

USIT (統合的構造化発明思考法) は, 構造化されていないブレインストーミングが行き詰まってしまったときに, 革新的な解決策のコンセプトを発見するために問題に対する常套的ではない見方を作り出すのに使う問題解決の方法論である。」

読者の皆さん:

ミニ講義-10で分析フェーズが完了したが、それは定性変化グラフを通して解決策生成フェーズへと導くものでもあった。今回の講義では、問題解決の技法として「ユニークネス分析 (空間・時間特性分析)」を考察しよう。

ニュースレターの次号は、読者からのフィードバックで、よくある質問についての問題を扱う予定である。

ミニ講義-11

ユニークネス分析--問題解決の技法

出版業者の問題の続き−  「新聞用紙上のインクがきたない。なんとかしろ。 」

復習: ミニ講義-10は定性変化グラフの構築を完了し、望ましくない効果をもたらしている属性の傾向を特徴づけた。さてつぎに私たちは、USITの解決策生成技法に進もう。定性変化グラフから2つの解決策生成技法が導かれたことを思い出そう。

ユニークネス分析-- 解決策生成技法として

ユニークネス分析は、問題を吟味して、他の同様な問題状況から[この問題を]区別するものが何かを特定するように薦める。 (私が教えてきてしばしば出会ったことは) このユニークネス分析を使っていくつかの問題を解決する経験を持たないと、この方法に少しのハードルを感ずるだろうことである。問題の機能と効果について、一次元の空間特性の図と一次元の時間特性の図からはじめることを私は薦める。これらを使って、ものごとがどこでいつ起こるかを特定するとよい。

まず機能と効果を、空間と時間の中で位置づけて箱として記述し、その上でそれらの[機能と効果を表す]箱を新しく配置し直すことを試み、それによって示唆される解決策コンセプトを考察する。私たちは、箱を複数化し、箱を分割し、部分を分離し、部分を混合し、また、箱を分離したり、重ね合わせたり、逆転させたりして、箱の位置を変えることができる。

私たちの出版業者の問題は新聞のオフセット印刷に際して現れたものである。印刷のプロセスを簡単につぎのようなステップの系列として表すことができる。[原注(1) 後記]

・ 回転する金属板上の画像は、まず、画像がない所に水をコーティングし、ついで、画像がある所にインクをコーティングする。

・ その回転板はもう一つのローラ (「ブランケット」と呼ばれる) にそのインク画像を転写する。そのローラは高速の紙と接して回転し、インク画像を紙に転写する。

・ 紙はさらに、切断、折り畳み、収納などの他の段階に送られていく。

・ そして紙がユーザに送られる。

・ ユーザが紙を受け取るとき、もしまだインクが乾いていなければなすりつけられる可能性がある。

図1。[空間的特性]: 2つの界面がインクのボリュームを決めている (空気とインクの界面(紫色の破線)とインクと紙の界面(赤色の破線))。インクの「乾燥」は、蒸発、固化、および結合によって起こる。「固化」は、「乾燥」に関連して、バルクのインクで起こるすべての過程を意味している。 これらの3つの過程は異なる場所で起こる。

図2。 機能と効果の時間プロット: 切断される所まで、紙はローラーによって連続して転送される。空気が「シンク」として機能するというのは、インクに接触する空気中で気化した分子を集めることを意味する。

図(1)と(2)の比較がこのシステムのユニークさを示している。すなわち、蒸発、固化、および結合の3プロセスは、異なった場所で、同時に起こる。インクがなすりつけられるという苦情を排除するためには、それを最初に扱うときまでにインクを乾いた状態にする必要がある。図(2)の下の行に箱で示した最初の5工程は、(人との接触がなく)機械で自動的に行われる。最後の2工程、すなわち、ユーザへの輸送と紙の使用は、(十分に乾かないうちに)なすりつけられるという望まないことが起こる機会である。

[原注 (1)]: 金属板に水をつけた後にインクを付ける (上記のリストの最初の項目を参照)のは、金属板がこれらの2つのタイプの分子に優先的に弱い結合を形成するように敏感にされているから巧くいくのである。プレートの領域の一部は親水性であり、他の領域は疎水性である。 これは、(以前の議論で想定していたのとは違って)インクは水溶性コロイドの形ではないことを含意している。水は極性分子だから、インクを (無極性の)油ベースの (疎水性) コロイド懸濁液にすることによって、容易にそのような区別をすることができる。

オフセット印刷についてこのような理解を得たのは、最近になってwww.howstuffworks.comを見てからである。いつものことであるが、問題を深く分析するにつれて、より多くを学ぶ。私は、この新しい情報の観点から以前の私のコメントに戻って修正するつもりはないが、今後のコメントにはこの新情報を使うようにしよう。(以前に「水」と言っていたところを「液体」という語で置き換えるとよいであろう。)

図(2)の「インクを紙に転写する」箱を分割することは、インクをジェットに分割し、ジェットを液滴に分割し、液滴を効果的に乾燥するように分割する (または形成する) ことを想起させる (極限にまで分割する)。

解決策[12]: 小さな液滴を高速で放出するインクジェットを使う。小さな液滴が紙に当たると、液は紙の薄く広い領域に即時に広がり、面積/体積比の大きなインク跡を形成して、蒸発を加速させるであろう。

解決策[13]: 沸点近くまで加熱したインクのマイクロジェットを使い、インクの蒸気圧を上げて蒸発速度を早くする。インク跡の液相の蒸発は、気化熱としてエネルギーを奪うので、インク跡は急速に冷却されるだろう。

解決策[14]: 熱い小滴は、インクの液相として、水の代わりに溶けたワックスを使うことを思い付かせる。 これはインク成分を蒸発させる必要がなく、ワックスの固化を許す。ワックスのマイクロ小滴を使用するなら、液滴の温度を紙の着火温度以上に高くしても紙が燃える危険はないだろう。余分なエネルギーの大部分は、薄いインク跡の露出表面から、熱伝導で周りの空気中に速やかに逃げていくだろう。

「インクの紙への転写」の箱を分割して、高温の水性インクの高速の液滴とするに際して、継続した小液滴の間の空間は蒸発する分子をできるだけ高速に排出する必要がある。

[そこで] 解決策 [15]: インクジェットと紙の間の空気を、大気圧以下に維持する。このためには、ジェットノズルを紙に近づけ、各ノズルは(開口の)筒状の真空室で囲まれているようにする (すなわち、真空の筒内にノズルを仕込む)。

解決策[16]: 過熱したワックスベースのインクの場合には、周りの空気を大気圧以上に加圧して密度を増加させ、さらに冷却して熱伝達を良くする。

解決策[17]: このためには、インク跡を形成すると同時に、ジェットノズルの周りの筒状のものから圧縮空気を吹きつけるとよい。

解決策 [18]: Squeegee (へら状のもの) でインクをつける場合には、水性インクを過熱したワックスベースのインクで置き換えるとよい。

おそらく最も自明な解決策コンセプトは、図2で、インクを付けた後の「紙送り」の箱に関連している。

解決策[19]: この箱の時間的な長さを、インクを乾燥させるのに必要な長さまで、どれだけでも増加してよい。切断・折り畳みまでの、紙送りの距離を空間的に伸せばよいのである。紙を階段状に往復させるパスを使えば、この拡張した乾燥セクションの実効床面積を小さくすることができる。

[原注:] 私たちは、解決策コンセプトを生成する創造的プロセスを、解決策にフィルターをかける試みで決して中断しないように教えている。 しかし、このミニ講義の形式では(私は目に見えない読者と会話することができないので)、読者が心配するだろうことにコメントをしておくことがやはり必要であろう。私は二つの心配があるだろうと思う。

1. 「インクジェット技術は、オフセット印刷の高速の紙送りの技術に決して追いつけないだろう!」 -- 追いつけるかもしれないし、追いつけないかもしれない。 これは工学の規模拡大の問題であり、別の問題として取り上げるべきことであると思う。そこではまた、もっと多くのアイデアを作ることが保証されている。(解決策コンセプトが新しい問題を生じさせるのは、驚くべきことではない。)

2. 「ノズル技術はこの問題の閉世界の中に入っていない!」 -- たしかに、入っていない。しかし、われわれが構造化された方法論を使っているのは、構造化されていないわれわれの心に創造的な能力を呼び起こすためだということを思い出そう。 アイデアは閉世界の中にも外にもあるだろう。

演習:

あなた自身の楽しみと驚きのために、ユニークネス分析の他の方法も適用してみなさい。図(1)、図(2)の各箱に、複数化、分離、混合、重ね合わせ、および反転の各方法を適用し、それらの方法があなたの心に新しいアイデアを閃かせるかどうかを試してみなさい。

フィードバック:

ニュースレターの発行が2ヶ月中断したことをお詫びします。やむを得ない事情にありました。あなたの関心が継続している旨を確認くださると幸いです。受け取りましたいくつかのメールの抜粋です(時間順):

William: 「面白い」
Matt: 「非常に面白い。快復されたとのこと、嬉しく思います。」
Carlos: 「もちろん、関心を持っています。」
John: 「私はニュースレターに興味を持っていますが、ウイルス(インターネットか南アフリカの) を送らないでください。」
Marty: 「もちろん、USITニュースレターとMini講義に興味を持っています。 しばらくなくて、淋しかった。」
Cal: 「もちろん、ニュースレターを続行したいと思います。いつもおもしろくて、刺激的です。」
Yasuhiko: 「私はいつもUSITニュースレターに興味を持っています。特にミニ講義が面白い。」
Motoi: 「私は中川教授が和訳されているあなたのUSITニュースレターとミニ講義を読んでいます」
Jayant: 「私はニュースレターに非常に関心があります。そのまま続けてください。」

これらの他にも多くのメールが来ましたし、まだ続々と来ています。激励いただき、ありがとうございます。

その他

数人の読者から、ニュースレターのバックナンバーが入手可能かという問い合わせがありました。必要な号番号 (NL_xx) を明示して、メールで請求ください。

フィードバックと提案をNtelleck@u-sit.netに送ってください。

To be creative, U-SIT and think.    (創造的であるには、座ってUSITで考えよう)

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月22日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 12  (2004年 4月 8日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義-11では問題解決の技法の一つとして「ユニークネス分析」について議論し、なすりつけられたインクの問題について例示した。今回の講義では、なすりつけられたインクの問題から脱線して、いくつかの全体的な問題について議論する。

・  次号は、もう一つの休暇を取りますので、1週間ほど遅れるでしょう。

ミニ講義-12

質疑応答 (中川 徹教授): 問題の選択と問題の定義

ニュースレターの今号は、私の友人で、ミニ講義を日本語に翻訳している中川徹教授との質疑応答の議論に割きたい。これらの質問をし、また、その質疑応答をこのニュースレターで公表することを許可された、同氏に感謝します。ミニ講義に関して、これらの点やさらに他の点についてもっと議論したいと思われるなら、メールを下さい。

Ed 様

あなたのニュースレターの3号と4号の日本語訳を、1月29日に[ 『TRIZホームページ』に] アップロードしました。ただし、英語ページにはそのアナウンスをしていません。

徹さん、アップデートありがとう。また、USITに関心を持ち続けてくれていてありがとう。これらのニュースレターを翻訳するのは、きっと随分の労力を要しているのだろうと思います。 あなたの読者の人たちが、あなたの努力に感謝していることと確信しています。

(1) カードパズルが面白かったので、日本語版の最後につぎのように追記をしました。

-------------------- 以下は 中川の拡張 (2004. 1.27) -------------------

上記の最後の説明を読むと、n枚 と 3n 枚ということが本質ではないことが分かる。そこで、最初の問題をもっと一般化するとつぎのようにできる。

『ある任意枚数 (M枚) のトランプを渡され、そのうちある枚数 (n枚) だけが表向き、残りは裏向きであると教えられる。これを二つのグループに分けて, 両グループにある表向きのカード枚数が同じになるようにせよ。-- ただし、これを目隠しして、 あるいは暗室で行うこと。』

これに対する解決策は以下のようにできる。 「渡された全体 (M枚) から任意のカードを n枚取り出して別グループにし、その別グループ全体をひっくり返す。」

これでうまくいく理由は、別グループに入った表向きのカードが x 枚であったとすると、元のグループには n-x 枚の表向きが残っている。別グループの n 枚全体をひっくり返したので, そこは x 枚が裏向き、n-x 枚が表向く。 ここの中川の拡張は、問題の「簡単化 (Simplify)」が、問題を「小さくする」ことによって起こると同時に、[一旦ある種の洞察/解決策を得た後は] 余分な個別条件 (13枚とか, 3倍とか) を取り払うことによっても起こることを示している。この後者の部分は、もっとも端的には、「すっきりさせる」という言葉で表現できるものである。一般的にし、抽象的にしているので、難しく感じる場合もあるが、一旦理解すると、簡単で単純である。面白いと思ったので蛇足をつけました。

Yes, あなたのコメントに関して:

私は、そして他の人たちも、このパズルについて自由に議論したときに、同じように代数的な導出をしました。私がニュースレターでそのことに触れないという選択をした理由は、このレベルの理解ができるのは、問題を直観的に解決した後か、あるいは解決策を見た後でだけできることだからです。いつものことですが、数学は、きれいで、簡潔で、論理的な表現を与えますが、それは (問題解決の) 事後のことです。
(別の例として、このニュースレターの最後に書いた簡単な表形式の解決策を見てください。)

しかし、私の意見では、それは私たちが最初に問題に取り組むときの方法ではありません。私は、最初はスケーリングを使って直観的に解決しました。(反復している物を最小化する方法であり、私がパズルを解くのに頻繁に使うやり方です。) スケーラブルであることは、特定のサイズが重要でないことを意味し、数学的な一般化に通じます。

私の選択にはさらにもっと理由があります:
ミニ講義で私が記述し、例示しようとしているのは、構造化された問題解決方法論を使うことですが、それと同時に、それに関わる精神的なプロセスを明らかにしようと試みているのです (それは私自身の精神プロセスであり、結局のところそれだけしか吟味できないからです) 。

私はUSITを、考えを思いつくための精神的な手がかりを与える方法であり、厳密なアルゴリズムだとは考えていません。構造化された問題解決を教えようとするときには、いつも高圧的な [やり方になるという] 問題があります。理論はきちんとしていて論理的ですが、人の心はそうでないからです。

予め決められた構造に従ったプロセスを行なっている最中に、われわれの心は飛び跳ねまわり、思い浮かんだ新しいアイデアに飛びついてしまいます。 この自発性は妨げられるべきでないと、私は信じています。問題解決セッションの始めから終わりまで、いつでも解決策が飛び出してくるものです。

既定の構造に従って問題を分析しているときにも、同様なことが起こっています。分析の途中で満足な解決策が得られると、われわれは分析を中断してそれを考えます。 しかしまたすぐに、われわれは新しい洞察で分析をやり直していることに気づくでしょう。問題定義、分析、および解決策生成のすべての部分が、ごちゃまぜの繰り返しになり、新しい洞察に従った不断の改良を伴ってさらに繰り返されるものです。

私は、問題定義の段階でも分析の段階でも、「汚いインク」の問題を改良しようとする私自身の繰り返しの試みをお見せしました。解決策生成の際にも、さらに多くの繰り返しがきっと起こるでしょう。

これらの経験から、私は、USITを有用な構造であって、拘束するための構造ではないものとして使うようにしています。私の心がいつも創造的であるような機会を見つけるように努めています。

言い換えると、学生たちが、USITやその他の構造化システムを、あまりにも束縛的に捉え過ぎていて、方法に服従することが必要条件であるかのように思い込む傾向があると、私は思っています。その結果として起こる不幸な状況は、学生たちが方法を「回答を作り出すアルゴリズム」であるかのように考え、「方法を使って、自分がアイデアを思いつく心理的な能力を助長する助けにする」というように考えないことです。

そこで、私のミニ講義では、私が問題解決の3つの異なったフェーズについて話しているのに、私がそれらの間を (適切な敬意を払わないで) 行ったり来たりしているように、あなたには見えるでしょう。

私がUSITを始めたときには、3つのフェーズ (問題定義、分析、および解決策生成) を方法論での主要見出しとして区別しませんでした (文書としてはこの区別を導入したのですが)。ただ、私はすぐ、学生たちが、彼らが学んでいることを心の中で簡単に組織化できるように、意味のある見出しを必要とし、求めていることを知りました。そこで、私は方針を変えたのです。 しかし、学生たちはまだなお、一つのレシピに従うことによって魔法が起こらないかと探しているように見えます。

(2) あなたに質問したいと思います。 あなたの話を終えた後で、適当なときに答えていただけないでしょうか? (あなたの邪魔をしたくないので)

ちょっとも邪魔ではありません。他の読者たちも同じ疑問を持っているかもしれませんから。ミニ講義が進む中で、そのような疑問をはっきりさせることができれば、きっとすべての読者に益になるでしょう。 あなたの洞察に富んだ質問が非常に重要と思いますので、その質問にニュースレターの一つの号を割きたいと思っています (もちろん、あなたの許可があればですが)。

あなたの「考えられる根本原因分析のツール」の記述は非常におもしろいです。しかし、特に多数の属性を列挙しているとき、あなたは既に問題分析の段階に踏み込んでいるのでないかと思います。 あなたは「根本原因」が「よく定義された問題」に対する必須の条件の一つであると言い、問題解決の焦点を絞るのに必要だと言います。問題定義の段階でそれほど多数の属性を列挙するのは自然なことでしょうか?

Yes。
考えられる根本原因のツールは、原因として考えられる諸属性を特定するための分析ツールです。問題宣言文に含まれるべき根本原因を検証するのに必要な原因属性を特定するのに困難がある場合なら、このツールが役に立ちます。

そのツールを使っていると、あなたは、自分の仮定を検証するために、属性のトレンドをも特定していることに気がつくでしょう。それはさらに分析しているのであり、後に、定性変化グラフを使ってもっと徹底的に取り組む内容です。

私の経験では、考えられる根本原因ツールをここで使うことが、問題定義を助けてくれます。 (さらに分かってきているのは) ここでそれを使用しておくと、定性変化グラフのためにそれをもっと徹底して適用するときに、さらにもっと多くを学ぶだろうことです。その上、このツールを問題定義の段階で使用すると、私はいつも何らかの解決策コンセプトを見つけ出しています。

「フィルタ」についての記述はまた、非常に興味深く、明確です。 あなたはそこで、どのように「問題を選択するか」、そして次に、「どのように問題を定義するか」を説明しています。

「汚い新聞用紙の問題」においては、「問題選択段階」は何で、どのようにそれを行なったのですか?
そして、「問題定義段階」は何で、どのようにそれを行なったのですか?
そしてその後に、「問題分析段階」があります。

私には、出版社のボスが、問題を直観的に選択して、それを解決するように問題解決チームに単純に指示したように感じられます。そして、チームが問題を「よく定義する」ために作業をしています。 チームが「インクのなすりつけられる可能性」が基本的な問題だという考えに達したとき、彼らがこの問題の「考えられる根本原因」に達したのだと、私は思います。

「考えられる根本原因分析のツール」を使って詳細に考察することは、おそらく「問題分析段階」でするべきことで、定性変化グラフのオプショナルなステップ (あるいは、閉世界法のオプショナルな初期ステップ) としてするのがよいのではないでしょうか? (あるいは、図中の4つの効果を「考えられる根本原因」であると言ってもよいかもしれません。)

まず最初に、この問題は私が作ったものだということを言っておきます。ミニ講義を始めるにあたって、講義中でその概念を例示する (また演習問題を示す) のに一つの問題を並行して使いたいと思いました。 また、私は自分の企業経験から、問題解決者が直面するような現実的な状況を提示したいと思いました。

マネジャたちは通常、技術者たちに、慎重に言葉を選んでチャレンジングな問題を突きつけます。その挑戦は、マネジメントの観点から、問題、時間的制限、技術者が使用を期待できるリソース、より詳細な情報のコンタクト先のリスト、および結果の納期などを明確に定義したものであるべきです。

「よく定義した問題」についての、マネジャの観点と、技術者の観点とは、通常、まったく違ったものです。マネジャの観点は、よく意図したものですが、事実と逸話と、熱意を生むように設計した誇張とのミックスであることが多いものです。

それで私は、「われわれの新聞用紙上のインクが汚い。なんとかしろ!」というのを選びました。この宣言文は、読者である技術者たちを問題定義の課題に導くための、現実的な設定を提供しています。

なお、 この問題は私があまり経験していない領域から選んでいます。 そのことは、私がミニ講義の一つ一つを書くときに新しい発見をするのを可能にし、以前の推論を改良する必要があり、また、次のミニ講義を書くのを楽しみにしてくれます。

ひとつ追記しておきたいことは、もし「単一」の望ましくない効果を使ってよく定義された問題を構築し、その後に、その効果がさらにいくつかにブレイクダウンできることが分かったなら、もとの問題は(USITの意味では)よく定義された問題とは言えず、問題定義を再度やり直す必要があることです。

「問題選択」の段階は何で、それをどのように実行したのか?」

問題選択というのは、問題解決のリソースを振り向けるべき最善の課題を確立する過程のことです。関連情報を集めた後に、正式な問題選択の段階が始まります。それは、チーム、または個人の問題解決者が腰を下ろして、問題宣言文を最初に書いたときに始まるのです。それについで、取り組むべき単一の基本的な問題を求めて、情報を紐解く過程が続きます。その過程は:

1) 問題宣言文を書く。最初のものはかなり入り組んでいてもよいが、その後で簡単化される。

2) スケッチを描く。

3) 問題宣言文をばらして、できるだけ多くの望ましくない効果に分解する。

4) それらをランク付けして、最も重要なものを一つ選択する。

5) それをさらにばらしてみる。

6) もうそれ以上にばらすことができない単一の望ましくない効果が見っかったら、やめる。

「問題定義段階」は何で、どのように実行するのか?

問題定義とは、よく定義された問題を定式化することを意味する。その過程は:

1) 取り上げるべき問題を見つけたので、スケッチを調整する。

2) オブジェクトの数を最小限にして、選択した単一の望ましくない効果を含むのに必要なものだけにする。

3) 根本原因を特定する。

前に書いたように、3つのフェーズ(問題定義、分析、および解決策生成) は、方法論を形式的に提示するときにだけ区別されるものです。方法論の実践においては、それらは継続しており、区分されてはいないのです。それらの間で多くの繰り返しを行い、自分の思考を断えず更新し、明確化していきます。更新の過程は、問題の言葉遣いを変更し、関連するスケッチをやり直し、理解の改良点を記録していくのです。チームや個人は、問題宣言文とスケッチの、言葉と図による表現を、問題解決の全過程に渡って自分の前に張り出しておくとよいのです。

どうぞよろしく、中川 徹

徹さん、こちらこそよろしく。
あなたの質問に完全には答えていないことを私は知っています。それでも、あきらめないでください。上記のコメントに応答してくれれば、私も再考してみます。上記の答えは、あなたの質問を通して考えた私の応答です。

質問してくれてありがとう。おそらく何人かの読者がコメントするでしょう--それは最も歓迎することです。洞察のある質問に再度感謝します。       Ed

 

カードパズルの解決策を例示する、簡単な表形式の答え。

    与えられたもの ...  
束 #1
束 #2
1
 全体で N 枚のカードのうち、n 枚が 表向き
 
 
2
 全体 N枚 の中から任意の n枚のカードを取り出し、束#2 とする 
(表向きと裏向きとあり)
N - n
n
3
  表向きのカードの書く束での枚数は  
n - u
u
4
  束#2 のカードの全体を反対向けると、表向きのカード枚数は
n - u
d = n - u

 

その他:  USIT教科書の頒価

Chuck Cronanが、私を悩ましていた問題を解決してくれた。いままで、USIT教科書の支払い額が余分に送られてくる場合があった。 なぜだか分からなかった。 Chuckがつぎのように報告してきた:

「あなたが理由を発見したかどうかを知りませんが、理由が分かりました。二つのウェブサイトで、別の値段の広告が載っています。

http://www.u-sit.net/OrdrngInfo.html           $44.50
http://ic.net/~ntelleck/OrdrngInfo.html         $84.50 

Ellen Dombのレビュー:  http://www.triz-journal.com/archives/1999/02/e/     $82 + 送料。

これらはまだすべてアクティブです。Domb は ic.net のページを参照しているので、修正を必要とするのは ic.net の方です。」

Chuck ありがとう。
第一のurl が正しい (価格 = $44.50)。 ic.net の url はすでに廃棄したアドレスです。

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月22日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 13  (2004年 4月19日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義-11では、問題解決の技法の一つとして「ユニークネス分析」を議論し、「汚いインクの問題」でそれを例示した。今回の講義では、残りの解決策生成技法を紹介しよう。

・ 今後1ヵ月は旅行の予定はありません。

ミニ講義-13

問題解決の諸技法 (解決策生成の諸技法)

これまでのミニ講義で私は、USITによる問題解決の最初の二つのフェーズについて議論した。すなわち、問題定義と問題分析である。第三フェーズは最終段階であり、問題解決の段階、すなわち問題解決のツールや技法を適用する段階である。

[訳注(中川): 第1〜第3フェーズの全体を「問題解決 (Problem solving)」と言っているので、この第3フェーズを問題解決 (problem solving) というのは適当でない。Sickafusはここに「solution (解決)」 という言葉を使うことが多いが、もっと普通には「solution generation (解決策生成)」と呼んでいる。和訳では、「解決策生成」を標準的な言葉として使う。]

もちろんご承知のとおり、すでに私は十個をはるかに越える数の解決策コンセプトについて議論してきた。それらと、あなたのアイデア、そして他のミニ講義読者が作ったアイデアを加えると、われわれは解決策コンセプトを生成するのに立派なスタートを切ったといえる。われわれがすでに解決策コンセプトを見つけてきたのに、どうしてこの最終フェーズを「問題解決 (解決策生成)」というのだろう、と疑問に思われるかもしれない。

われわれはまたすでに、問題定義をし (少なくとも問題についてのわれわれの理解を深め)、そして問題の分析をもしてきている。おまけに、問題定義をする間にも、問題の分析をしてきているのだ。そしていままた、われわれが解決策コンセプトの生成を試みている間にも、問題の定義や分析を改良する機会があるのを、見ることだろう。

私の意見では、これは単純に、われわれの脳の働き方 (少なくとも私の脳の働き方) を反映しているのである。われわれが自分の脳を、望んでいる論理的なパス (すなわち、USITのフローチャート) に従うように方向づけしている最中にも、われわれの脳は見かけ上制御を離れて飛び回っている。その途中の各ステップで、われわれは、問題の理解、分析、解決 ([解決策の生成]) が相互作用をし、そのことがわれわれが作る全体像を改良する機会になっていることを知る。

これがわれわれの心の自然なプロセスであるように見えるから、それを押しつぶすのではなく、奨励するのがよいと、私は思う。すなわち、問題解決の進行に際して、三つのフェーズを混合させることは、最終的によりよい成果をつくり出すように私には見える。

しかしそれなら、なぜわれわれは問題解決に三つのフェーズを持っているのか?その理由は、全体プロセスに論理的な秩序を与えることである。われわれが道に沿って、焦点を絞って進み、いまどこにいて、仕事を十分に達成するのにしなければならないことで残っているものが何かを、知っているようにさせることである。しかし、各フェーズの間の境界は、われわれの心の探索プロセスの障害になったり、邪魔になったりすることを意図するものでない。

ユニークネス分析 ([空間・時間特性分析]) を問題解決 ([解決策生成]) のツールとして議論した(ニュースレター-11)。 しかし、それは、(機能の働きを空間と時間にプロットする) 分析ツールとして、解決策コンセプトを探す前に使い始めたものである。ユニークネス分析は、論理的には、焦点を絞った問題分析から解決策生成技法の適用への移行として働くものであると、私は思う。

[訳注 (中川): 中川はこれを問題分析の方法の一つとして位置づけている。]

つぎに、解決策コンセプトを生成する技法として、次元法 ([属性次元法])、複数化、配置 ([機能配置法])、連結 (トランスダクション)、および一般化 について、見て行こう。問題を攻撃する特定のポイントの違いで、それらは区別される。すなわち、

次元法 (Dimensionality) は属性に焦点をあてる。

複数化法 (Pluralization) はオブジェクトに焦点をあてる。

配置法 (Distribution) は機能の配置に焦点をあてる。

連結法 (Transduction) は属性と機能を鎖のように結びつける。

一般化法 (Generification) は、初めはこれらのどれにも焦点をあてないが、既知の (あるいは生成してすぐの) 解決策コンセプトを吟味して、それがなぜ、どのように働いているか (すなわち、基本的な現象論) を発見する。

解決策の諸技法を適用する順序は重要でない。一つの解決策コンセプトのかすかなアイデアが心に浮かんだなら、それを追求するのがよい。

あなたのかすかなコンセプトがどんな面に最も関係しているかに応じて、解決策生成技法の一つを選んで使えばよい (オブジェクト、属性、機能、あるいは 属性-機能-属性の連結性)。 もし、どの技法から始めてよいかがまったく分からなければ、好きな技法から始めればよいし、フローチャートに書いてある順番に使ってもよい。

オブジェクトと属性と機能は、問題定義でも分析でも相互に結びついているから、解決策生成においても相互に関係している。 その結果として、ある特定の解決策生成技法を使って見つかった解決策コンセプトは、[その技法に] ユニークであるわけではない。他の技法を使っても同じ考えを思いつくかもしれない。また、違う問題解決者が、違った観点から、同じ解決策コンセプトを発見するかもしれない。 ある特定の解決策コンセプトを分析して、その同じコンセプトを他の技法でも導くことができないかを見つけることは、有益な演習になる。

複数化 (Pluralization) [オブジェクト複数化法]

複数化はオブジェクトに向けたものであり、二つのアプローチを持っている。すなわち、オブジェクトを複数にすることと、オブジェクトを分割することである。複数化は、あなたにつぎのように考えるモードにすぐに入らせる。 「もし私がこの一つのオブジェクトを多数 (あるいはより少なく) 持っていて、違う使い方ができるとすれば、一体どんなことができるだろうか?」   これはオブジェクトの多数のコピー (乗算、複数化、多数化) あるいはその部分の多数のコピー (除算、分割) を意味している。

複数化 (乗法) はオブジェクトの複数のコピーを提供し、それによってそれらの機能を空間的に配置したり、新しい機能をサポートできる新しい接触点を作り出したりすることができる。 オブジェクトやその部分を違うように使うということは、それらのもつ属性やそれらがサポートする機能を、活性化あるいは不活性化することを含む。

分割 (除法、Divison) はまた、オブジェクトやその部分を消去することをも許す。
オブジェクトや属性や機能を、より多くあるいはより少なく持つということは、その極限として無限大とゼロとを含めて考えるべきである。ゼロというのは、オブジェクトやその部分を取り除くことを意味する。

汚いインクの問題に複数化法を適用する

汚いインクの問題では、われわれはオブジェクト数を最小化しているので、複数化すべきオブジェクトは三つある。空気、インク、および紙である。

「より多くの空気」は、強制空気乾燥の例で使われているのをわれわれは見た。
「より少ない空気」は、局所的な減圧において使用された。

「より多くのインク」ではどんなことができるだろうか?

私がこの線に沿って考え始めたとき、インクの属性を極限にまでするという考えを思いついた。 (それがなぜここで思い浮かんだのかは分からない。) インクが濡れていることは、それがなすりつけられる (汚す) 要因である。それは粘性という性質を可能にする。 そこで、私が思いついたのは、

解決策 [20]: インクの濡れ (湿り) を極端にして濡れゼロにすること、すなわち、完全に乾いたインクである。すなわち、紙の上にまず文字や写真を粘着性の物質の薄い層の形で印刷し、ついでその粘着表面の上に乾燥した粉末インクを吹きつける/撒くようにする。過剰の粉末を撒けば、粘着性の結合を完全に飽和し、印刷されたインクの乾いた表面だけが残るようにできるだろう。 余分な乾燥インク粉末は、吹き飛ばすか振るい落とすことができるだろう。[原注1]

[原注1] 私がこの原稿を読み直したとき、この解決策コンセプトはすでに議論していたのでないかと思った。 そこで私は、ミニ講義をずっと辿ってみて、おもしろいコメントを見つけた。ニュースレターNL_06、p2/2 解決策 [2]。
これは蒔いておいた種子に誘発されて過去の経験を思い出した一つの例である、と私は思った。 このケースで、その種子というのは、多量のインクのアイデア、あるいは濡れ/乾きの矛盾と何らかの関連があるアイデアの一つの効果であっただろう。

液体 [のインク] をつけた薄い層について考えたとき、紙の表面はミクロのスケールで見るとどんなになっているだろうかと、私は思いを馳せた。それは粗いに違いない。そして、よりミクロのスケールで見れば、表面はより粗くなるだろうと、私は予測した。そして、私は心の中で、表面からの蒸発で始まる、液体の乾燥のメカニズムについてレビューしてみた。 ミクロのスケールで考えると、水の分子がインクの微小液滴の表面にゆっくりと拡散し、蒸発していくというイメージが思い浮かぶ。液滴の属性で、その蒸発をサポートしているものの一つは、表面積/体積比である。 この比率が高ければ高いほど、蒸発するための表面がより多くなり、拡散して表面に達するまでの体積がより小さくなる。

これから導かれたアイデアは、インクのミクロ小滴を支持する局所点を提供する表面のミクロな粗い場所の数を増すことである。

解決策 [21] インクで書くプロセスでは、インクのミクロな小滴をミクロ的に粗い紙の表面に、真っ黒からかすかなグレーまでのグレーの (あるいは色濃度の) 階調をつくり出すようにスペースを開けて適用する。 それから、インクのついた紙をローラで圧力をかけ、インクを粗い隙間に広げるとともに、紙とインクのミクロ構造を望ましい滑らかさになるように平らにする。 その結果、インクの局所的な表面積/体積比が [増大して] 蒸発による乾燥を助けるだろう。

複数化法の論拠

Dr. Roni Horiwitz らは、SITにおいて、複数化を 「閉世界」でのイノベーションと関連づけるアイデアを開発した。[原注2]

[原注 2] 簡単な歴史をUSIT教科書に記述している。『統合的構造化発明思考法(USIT)--発明の方法』参照。 
[訳注:  ==> 本『TRIZホームページ』にこの章を和訳掲載し、議論している。 ]

閉世界の概念は限定した数のオブジェクトしか許さないが、複数化はそれらの多数の (無限大までの) コピーを許容する。 これを許す論拠は、少なくとも工業的な環境では、当該オブジェクトは問題状況においておそらく容易に大量に入手可能である (おそらく、無料のことさえある) ことであろう。そのような容易に入手可能なオブジェクトを使用するのは革新的でもありうる。他方、新しい (異なった) オブジェクトを閉世界に導入することは革新的でない。

解決策生成技法のための用語

ここで使っている用語、すなわち、dimensionality (次元性、[属性次元法])、pluralization (複数化)、distribution (分配、[機能配置法])、transduction (連結)、generification (包括化、[一般化法])、uniqueness (特異性、[ユニークネス分析] ) などは、新しくUSITを学ぶ人たちにとってときとして煩わしいものである。表現しようとするプロセスに対して、有用で単純な比喩となるように私が選択したものである。 あなた自身の用語を選択することは自由である。 しかしながら、これらの講義が終わるまで、その決定を待つようにあなたに薦める。その時までには、それらが果たす役割をあなたが評価するようになるだろう。

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月23日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 14  (2004年 4月26日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・  ミニ講義_13では、解決策生成技法の一つとして複数化法 (乗算) の使い方を示した。今回の講義では、複数化法のもう半分 (すなわち、除算 (分割)) について議論する。

・   原稿をボランティアでレビューしていただけませんか? 末尾の (8) 参照。

ミニ講義-14

問題解決の諸技法  (解決策生成の諸技法)  (2) 複数化

複数化法 (Pluralization)

ニュースレター13のミニ講義で、問題解決技法 (解決策生成技法) の一つ、複数化法 (pluralization) を紹介した。そのうちの一つのツール、乗法 (multiplication、多数化) について議論した。今回の講義では、[複数化法の中の] もう片方のツール、除法 (division、分割) を取り上げる。

複数化法は問題状況中のオブジェクトに向けて [作用させる]。それは、乗法か除法かを使って、それらのコピーを作るようにさせるものである。それらのコピーを新しい位置に動かすことができ、また新しい属性を活性化 (あるいは、非活性化) して、新しい機能をサポートできるようにする。コピーの数は極限にまで取ることができ、それはゼロを含む (そのオブジェクトを取り除くことを意味する)。

汚いインクの問題に除法 (分割) を適用する

われわれの閉世界でわれわれが取り扱っているのは、三つのオブジェクト (すなわち、インクと紙と空気) である。私が最初に思い浮かべたアイデアは、紙の分割を考えることであった。紙を分割して、欄や行にすることができ、ずたずたに切り裂いたり、粉砕して細かい粉末にすることもできる。欄や行に分割することは、紙をただの2次元オブジェクトと見ていることだという考えが私に衝撃を与えた。それで、私は厚さについて考えてみた。紙をいくつかの層に分割できるだろうか? できないことはない。

解決策 [22]:   2層にしたラミネート紙を製造し、インクで書くべき層はその支持層よりも低密度にする。これによって、インクで書くべき層の吸収性(属性)を増加させ、インクの乾燥を速めることができるだろう。

解決策 [23]: 粉末にした紙の粉を支持層上に散布して、吸収性の層を作る。

解決策 [24]: 紙のインクで書くべき層を、インクに関する表面張力を改良する ([すなわち、表面張力を弱める]) 添加物で処理する。例えば、水性インクに対して親水性の添加物を使う。 これらの結合は水分子を液相から取り除いて界面に移す。

解決策 [25]:  解決策 [24] と解決策 [12] (NL-11) とを組み合わせて、インク小滴の表面積/体積比を増大させ、親水性分子の結合をより多く可能にする。

[気がついてみると、いま] 私は、除法 (分割) の概念とその適用例とを同時に手当たりしだいに掴もうとしているようだ。[そこで] まず除法 (分割) の概念だけを列挙して、その後に適用例を考察することが、助けになるだろうと思う。そこで私はつぎのようなサマリを作った。そこではわれわれの三つのオブジェクトの相 ([気体/液体/固体]) が顕著な特性として注目されている。

気体 (空気) の分割: 分割なし、セル、流れ、層、分子。
液体 (インク) の分割: 分割なし、セル、流れ、ジェット、ガス中の小滴、液体の中の小滴 ([液体コロイドなど])、固体中に包含されている液体、分子。
固体 (紙) の分割: 分割なし、断片、多層板 (合板)、粉末、繊維、粒子、分子。

(上記の分割で) 固体は初め薄いシートの形をしているとして扱っている。

この分割コンセプトのリストは、定性変化グラフ (NL-10) で特定した諸属性のリストと比較することができる。そのような比較により、属性のいくつかを活性化する機会が明らかになるだろう。

インクの粘性 (NL-10) を考えると、分子レベルでインクの物理的構造を変更することを示唆する。 この目的で分子が活性化されるためには、何らかのきっかけ (source) が必要である。分子レベルでのガスの分割は、真空槽の圧力を下げるのに使用されているような、ゲッタのアイデアを私の心に思いつかせた。一つの例はチタニウムゲッター・ポンプであり、熱フィラメントからチタニウムが昇華し、真空槽の壁に蒸着する。そしてチタン原子が槽壁で気体分子と結合する。その結果、真空槽の圧が下がる。それなら、液体の表面で気相分子を使って、液体の特定の分子と反応させて不溶性分子を作らせ、液体の粘性を増加させて、実効的に液体を「乾燥させる」ことができないだろうか?

解決策 [26]: インクに可溶性の添加物を入れ、空気に反応性のものを加えて、それらを反応させて不溶性の分子をつくり、その結果、インクがまみれる性質を減少させる。インクで書くローラーから紙が出てくるときに、調整した空気を紙に吹きつけることができよう。

液体の小滴への分割、ゲッタ、および気体-液体の反応添加物は、疑似コロイドのコンセプト (ただし、NL-09の 解決策 [11] とは異なるコンセプト) を私に思いつかせた。コロイドは、化学物質のミクロ粒子が、別の化学物質の気相、液相、または固相の連続相の中に分散したものである。私は液体中にミクロな気泡があるものを考えている。

解決策 [27]:  インクがローラーに適用された (NL-11) ときに、反応性のガスで、水 (あるいは、インクに流動性を与えている他の成分) に親和性のあるものを、インク中に射出してインクを発泡させる。そのような小さな気泡は、その気体-液体界面ですぐに反応し始めるだろう。 これは、高速の新聞プリンタに適切であろう。それはインクが、乾燥プロセスを加速しつつ、ローラーから紙まで流れるのに十分な時間を許すだろう。

乗法 (多数化) と除法 (分割) は同様の結果を作り出すことができる

乗法と除法に関して、それらがときどき冗長な結果を与えることに、USITのクラスでしばしば質問される。 すなわち、二つの方法が同じ解決策コンセプトを導くことができる--それなら、なぜ両方を持っているのか? 一つの回答は冗長性のためである。 この冗長性はわれわれの脳にいわば二度目のチャンスを与える。違った見方で同様な領域を訪問するのである。

例えば、2体のものが接触している。 一つは、固く、接触点で鋭くとがった先を持っている。他方は弾性体であるが、同じ接触点でほとんど座屈直前のストレスを受けている。 この望ましくない効果を修復せよ。

根本原因は接触点でのストレス(応力) である。すなわち、単位面積あたりの力である。力を減少させるか、接触面積を増大させることが望ましいだろう。これを達成するには、与えられた負荷を支える点の数を多数にするか、あるいは、負荷を分割してストレスの少ない多数の領域に担わせればよい。
これら二つのコンセプトのうちの一つを見ると、もう一つのコンセプトに気づかず、他の誰かがその効果を逆方向から見る、あるいは別方向から見て初めて気づくだろう。一人の人は、鋭い物を長さ方向に分割して見、それらの部分が空間的に分離されて負荷を広げるようにするかもしれない。鋭い物の先端を広げて鈍い形にすることは、一つの自明な選択肢である。鋭いものの端を広げて、共通のシャフトから出ている複数の指のような突起にすることは、別の選択肢である。 別の人が、歪みが掛かっている物を分割して、接触点で固くなるように合板加工するかもしれない。もちろん、ここで言っている、最初の人ともう一人の人が、実は同じ人で、異なる時間や異なるムードで見たのかもしれない。

 

(8)  その他      原稿をボランティアでレビューしていただけませんか?

私はいま、約19,000語の原稿で、レビューして貰える段階にきたものを持っています。この原稿を批判的にレビューして下さるボランティアの人で、構造化した問題解決に経験のある人を二人ばかり見つけたいと思っています。そのテーマは技術的問題を解決するための発見的方法 (ヒューリスティクス) の理論的導出です。それは公理を土台にして、一貫した抽象的なツール (すなわち、問題解決のためのヒューリスティクス) を導出するものです。物理世界の問題を例にして、新たに導出したヒューリスティクスの分析と応用を例示しています。しかし、そのヒューリスティクスは抽象的で図式的な比喩で表現しています。その原稿の読者対象は、構造化した問題解決の使用と理解に馴染んでおり、あるいは深い興味を持っているような、問題解決者です。

もし関心がありましたら、 Ntelleck@u-sit.net に返事をください。

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月24日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 15  (2004年 5月 3日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義14は問題解決技法 複数化 (pluralization) について簡潔な議論をし、終了した。

・ 今回の講義では次元法 (Dimensionality) について議論する。

ミニ講義-15

問題解決の技法 (解決策生成技法) (3) 次元法 (Dimensionality)

前2回のミニ講義では、解決策生成技法の複数化法 (pluralization) (すなわち、乗法 (multiplication、多数化) と 除法 (division、分割) を含む) について議論した。
今回の講義は次元法 (Dimensionality、次元性) という技法について検討しよう。
これら二つの技法を説明している順序は、USITフローチャートに示した順序とは逆になっている。その意図は、解決策生成技法を使用する順序はあなたが自由に選んでよい、ということを強調するためである。

次元法 (Dimensionality)

複数化法がオブジェクトに焦点を合わせているのに対して、次元法は属性に焦点を合わせる
属性が解決策コンセプトを見つけるツールになる。それには、属性を活性化したり非活性化したりして (つまり、オン / オフして)、どんな新しい機能がアクセスできるかを見るという、簡単なプロセスを使えばよい。

われわれに関心がある属性は、われわれの閉世界中のオブジェクトを特徴づける属性で、活性なものと非活性なものとの両方である。
もし、あるオブジェクトが活性な属性を一つだけしか持っていなくて、あなたがその属性を非活性にするなら、そのオブジェクトはもはや存在しないから、それを取り除くことである。このことに注意しなさい。

われわれがいままで考えた活性な属性をつぎの表に示す。 これらは非活性化を考える潜在的な対象である。

認識している活性な属性
インク
空気
1
滑らかさ 表面張力 湿度
2
密度 蒸気圧 温度
3
転送速度 拡散速度 流速
4
パッケージ圧 溶媒和の度合い  
5
吸収 砕けやすさ  
6
結合: 吸湿性  
7
     ・ 物理的強度 粘性  
8
     ・ 表面張力 濡れ性  
9
     ・ 化学的活性 接触  
10
水への親和性 結合:  
11
透過性      ・ 濡れ性  
12
疎水性      ・ 表面張力  
13
       ・ 化学親和力  
14
       ・ 物理的強度  
15
  蒸気圧  
16
  温度 (低い)  
17
  「しみ能力」  
18
  飽和  
19
  濡れ  
20
       ・ 濡れ過ぎ  
21
       ・ 乾燥速度  
22
       ・ 蒸気圧  
23
       ・ 温度  
24
       ・ 溶媒和  

われわれが考えてきていない属性にはどんなものがあるか?それらを活性化するとよいかもしれない。
この時点で、非活性な属性でわれわれが考えつくものを迅速に列挙してみることは、演習として有用である。特定のオブジェクトについて連想する諸属性を単に列挙すればよいのである。その属性が [今の問題に] 関連性があるかどうかはどうでもよい。 後になってから、新たに活性化した属性によって何か有用な機能が支持されないかを探すプロセスで、われわれは関連性について真剣に取り組むだろう。 この演習 (すなわち、関連性について心の中での取り組み) が 新しいアイデアを思いつかせる。私の最初の考えを表2 に記述した。

非活性な属性
インク
空気
1
電気伝導率 電気伝導率 電気伝導率
2
熱伝導率 熱伝導率 熱伝導率
3
硬度 非ニュートン流動 比熱
4
テクスチャ 比熱  
5
切り裂き強度 色 (紙に対するコントラスト)  
6
セルロース量    
7
繊維構造    
8
比熱    

私が紙の引き裂き強度を記入したとき、私は新聞からクロスワードパズルを破り取ることを考えていた。そのプロセスを考えながら、[新聞紙の] セルロース繊維がお互いにどのように結合しているのだろうかと考えた。紙はセルロース繊維と水スラリー (粘土状のもの) から作られているのだから、セルロース繊維の表面は水への親和性を持っているはずで、吸着された水が結合する役割を果たしているはずである。

解決策 [28]: 紙の一番外側の領域で水が必要な含水量よりわずかに少ないなら、適用されたインクがその余分な水の一部を紙に提供して、必要性を補い、インクと紙および繊維同士の局所的な結合に関わるだろう。これは、水の一部を束縛し、将来なすりつけられる可能性を取り除くだろう。

このアイデアは (前回のニュースレターで議論した) 紙の密度の問題とは異なる。

粘性は私に液体剪断速度について思いつかせ、それが Dr. Craig Stephan との最近のメールでの会話を思い出させた。それは、非ニュートン性流体の一種、thixotropic 流体に関するものである。非ニュートン性流体は、dilatant な 振る舞いと rheopectic な振る舞いを思い出させる。

Dilatant 流体は、剪断速度とともに粘性が増加する。
解決策 [29]: インク組成を dilatant 流体にして、ゆっくりと適用された「smearing 」タイプの剪断以外のときは、smearing を防ぐようにする。

Rheopectic流体の粘性は、剪断の持続時間と速度の両方で増大する。
解決策 [30]: インク組成を rheopectic 特性を持つ流体にして、smearing を防止する。

インクの色は、紙の地色とコントラストをなす必要があり、活性な属性の一つである。色が非活性化されても、コントラストはまだ必要である。 しかし、インクが色を持っていないなら、一体どうしたら [コントラストを] 作れるだろうか?

(感熱式プリンタの昔からの) 明らかな解決策は、紙に潜在的な、熱敏感属性を備えさせ、コントラストの色を紙に予め組み込んでおくことである。そして局所的に熱をあてると、形とコントラストを持った文字が現れる。液体インクというオブジェクトが消去されているから、なすりつけられるものはなにもない。

このような熱的性質の使い方は、電気的性質を使った類似のものを示唆する。
もしインクが、濡れない液体中にインク粒子を分散させたコロイドであれば、その液体を紙に接触させても紙にくっつくことはない。コロイド中に分散したインク粒子を、電場の存在下に、紙-液体の界面に移動させることができるだろう。電場はまた、インク粒子を液体から紙に移動させることをも助けるだろう。インクの粒子は電荷を持っているか、あるいは双極子モーメントを持っている必要がある。

解決策 [31]: 潜像を持っているローラーと紙を支えているローラーの間を通るコロイド性のインクに対して、電場を適用する。誘電体上に電荷で描いた画像として潜像を作る。

解決策 [32]: コロイド懸濁液から乾燥インクを析出させるのに、蒸気圧を有効に使えるだろう。濡れないコロイド懸濁液の薄い層を紙上につくり、レーザビームを使って望む文字を紙上に描く。局所化されたレーザエネルギーは、プリントすべき領域でだけ溶媒を蒸発させる。残りの液体は排出されるであろう。 コロイドの層を貫くように予め適用された電場は、紙-コロイド界面へとインク粒子を拡散させる。

 

8.   その他:     あなたの解決策コンセプトを寄稿下さい。

いまや私たちは解決策コンセプトに十分踏み込んできたので、今後の進行の中で、あなた方の解決策を考察するのもおもしろいだろう。 あなたの解決策コンセプトを私に送って下さい。このニュースレターの他の読者の皆さんと共有しましょう。 特に、今までに議論した技法を使って導き出したコンセプトを送ってきてください。私たちの背景が異なれば異なるほど、違った解決策コンセプトが出てくるでしょう。 そのような違いはみんなの人に興味深いことでしょう。

本講義は、USITのバックにあるツールと哲学を例示するうに意図しています。それらは包括的であることを意図していない。すなわち、「解決策空間」にはあなたが探検すべき余地が多く残してあります。あなたはどんなものを見つけましたか?

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月25日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 16  (2004年 5月10日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義-15では、問題解決技法として次元法 (Dimensionality) の簡潔な議論をし、終了した。
今回の講義では、諸機能を閉世界中のオブジェクトに配置すること (Distribution、機能配置法) について考察しよう

ミニ講義-16

解決策生成技法としての機能配置法 (Distribution)

出版業者の問題の継続: 「新聞用紙の上のインクが汚い。なんとかしろ!」

解決策コンセプトを生成するための技法の一つとして、機能の配置 (Distribution of functions) について、今回のミニ講義の話題とする。

実はわれわれは、閉世界ダイヤグラムを構成したときに、この演習のための準備を始めたのである。われわれはそこで、われわれの問題の閉世界中にある各下位オブジェクトについて、最も重要な機能を一つずつ特定した。 問題状況についての非常套的な見方を継続して探索している中で、われわれはいま機能の配置に注目する。 ここでのアイデアは、支持的な諸機能を閉世界中の他のオブジェクトに担わせ、どんなアイデアが思い浮かぶかを見ようというのである。

諸機能を閉世界中のオブジェクトに順次担わせて、そのすべての組み合わせを検討しようというのである。 閉世界中のオブジェクトを最小限の組に選び、また、各下位オブジェクトについて支持機能をただ一つだけ選択したことは、この演習をする際の利点として明白である。オブジェクトの数とそれらの機能の数を減らしていなかった場合に、一組のオブジェクトのすべての可能な機能の組み合わせをすべて検討するという課題の困難さを考えてみるとよい。

汚いインクの問題の三つのオブジェクト (インクと紙と空気) は、つぎのような単純な閉世界ダイヤグラムを作った。

解決策コンセプトの生成のために [機能] 配置法を使うには、支持する諸機能 [有用機能] を他のオブジェクトのすべてに (一度に一つずつ) 移しかえてみるとよい。

そこで、(汚いインクの問題の場合には) われわれはつぎのように質問する: 「空気はどうしたらインクを局所化できるか? そして、インクはどうしたらインクを局所化できるか?」 心の中でこれらのコンセプトと格闘すると、きっと驚くほどに生産的であろう。

空気はどうしたらインクを局所化できるか?

もしわれわれがこの具体的な質問について単純に考え直感的な回答を探索したなら、空気がインクを望ましくない位置に吹きつけて、困難とトラブルが起こることをわれわれはつぎからつぎに思いつくだろう。

ここは、オブジェクト名の一般化 (generification) を使うべき素晴らしい機会である。それをすると、われわれはすぐに、重要なことに焦点を合わせるようになるだろう。すなわち、 二つの流体 (一つは液体、他方は気体) の局所化 (位置) の属性である。 そして、われわれは局所化の現象論を理解し始めることができる。

そこで、われわれはまず、上記の閉世界ダイヤグラムに示された機能を、一般化した用語で理解することからはじめよう。

固体はどうしたら液体を局所化できるか?

局所化をサポートしているオブジェクトの属性を吟味するのに、二つの観点から見ることができる。
その第一は具体的な見方であり、インクと、インクの局所化をサポートしている紙の属性の対を考える。そして第二は一般化した見方であり、液体と、その液体の局所化をサポートしている固体の、属性の対を考える。

固体上に液体の局所化をサポートしている属性の対を、表(1) に列挙する。(原注*) 局所化された液体の望ましい構成は、固体上に薄く、パターン化してコーティングした液体である (新聞紙の印刷の一般化したモデル)。

(原注*) 属性の対の記述の順は、私に思い浮かんだ順である。

  液体の属性 固体の属性 現象論
1 粘性 慣性 粘性は液体を薄い層として塗布することをサポートする。一方、固体の慣性は流体フローの垂直成分に反応するが水平のフローは許容する -- 1次元の局所化。
2 双極子 双極子 双極子-双極子相互作用は、2分子間の静電引力の弱いファンデアワールス力の基礎である--液体-固体界面での結合で、1次元の局所化
3 表面張力 表面張力 例えば、固体上のパターン化した親水性領域は、液体中の水分子を引きつけ、固体上に液体のパターンを形成することができる--2次元の水平方向の局所化。
表面張力はまたパターン化した液体の厚みに影響する。なぜなら、表面張力は局所化された液体の表面自由エネルギーを最小にするから。
4 表面張力 有孔性 液体にアクセスできる固体の有孔性は、その孔に浸透する液体を局所化する--3次元の局所化 (次項 5参照)
5 粘性 有孔性 表面張力で液体が固体の孔に浸透していくには、液体の粘性は十分低くなければならない (前項 4 参照)
6 粘性 圧縮性 粘性液の塗布に際して、液体と固体の間の圧力が、固体を圧縮して永久的な凹みを作り、その結果液体の水平方向のフローを制限する「封じ込め壁」を作るかもしれない--2次元の局所化
7 表面張力 表面張力 液体の表面張力が大きいと、固体上に液体の小滴の形成をサポートするだろう--2次元の局所化
8 分散 慣性 液体を圧力をかけて広げているときに、固体上に小さな液滴が分散すると、液体がカバーできる領域が小さくなる --2次元の局所化

特定された属性の組を読み、あなた自身で属性の組を見つけると、あなたはきっといろいろな解決策コンセプトを思いつくだろう。以下に私が思いついたアイデアを記す。

解決策 [33]: (表の3項から) インク中の着色粒子の密度を増す。これによって必要なインクの厚みを最小限にし、乾燥を速め、後に汚れる機会を少なくする。

解決策 [34]: (表の4項から) インクを適用する前に、紙の表面領域を局所的に膨らます。

解決策 [35]: (表の 5項から) 粘性の低いインクを使用し、インクが紙の孔に染み込むようにして、インクの適用された厚さを最小にする。

解決策 [36]: (表の 7項から) インクで書く際に、インクと紙の間に鋭い衝撃を適用する (インクで書く間、インクと紙をローラーの間でサンドイッチにする)。 そして、インクをdilatant 流体として構成する。

解決策 [37]: (解決策 [36] から) インクが部分的に乾いた後に、もう一つのローラーの組で鋭い衝撃を与える。

一つの考えは、極限にまでインクを展して、それを利点として利用することである。

解決策 [38]: (表の 7項、8項から) 粘性のあるインクを微小液滴で十分に距離を離して適用し、そのインクを圧力をかけて展ばし液滴間の空間を満たす。これによって、余分なインクの量を減少させ、乾燥時間を短くできる。

上記の解決策コンセプト [34]〜[37]は、紙がインクを局所化することに基づいている。 解決策コンセプト[38]では、インクが隣接する液滴に接触するように広げられ、インクがインクを局所化する。 この効果を使ってインクの厚さを最小化するように最適化するのは、適用する圧力とインクの粘性に関連する。 このアイデアが浮かんだのは、固体が液体を局所化することを考えていた間であった。

さてつぎに、気体が液体を局所化することを考えよう。

気体はどうしたら液体を局所化できるか?

われわれは再度、液体の局所化をサポートできる属性の組を特定することを試みよう。思い浮かんだ二つの組を、表2 に示す。

  液体の属性 気体の属性 現象論
1 組成 組成 気体は液体と反応して、液体の表面張力を増加させることができる--2次元の局所化
2 蒸気圧 温度 予熱した気体で液体の蒸発速度を速める。それによって、後になすりつける剪断力がかかったときに、広がる傾向を小さくできる。

解決策 [39]: 液体と反応する成分を持った気体を適用し、液体の表面張力を増加させて「液体をその場所に保持する」。

上記の表で、属性について異なった点が強調されていることに注意されたい。機能とそれをサポートする属性についての以前の分析では、望ましくない効果に焦点を向けていた。ここではわれわれは、閉世界ダイアグラムを吟味して、有益な機能のための属性の対を探している。閉世界ダイアグラムではシステムが適切に働いていると仮定していることを、思いだされたい。

一般化の演習は、われわれが基本的な現象論を紐解くことを可能にし、それによって、新しい洞察を探すようにわれわれの想像力をかき立てる。

表に示唆している現象の信頼性にについてあなたは疑問に思うかも知れない。--私もそう思う!
これらの考えはそのときどきで突然思いついたものであり、 (私にとって) 考えられることというだけの理由で記録したものである。

私の理論は、われわれはプロの技術者として自分の直感を信じることができるということである--ある程度だが。したがって、われわれの直感的なアイデアをどんどん記録することによって、分析と解決策コンセプトの発見のスピートを上げることができる。「魔法」のようなアイデアを許さないというのが、われわれの唯一の制限である。アイデアはそれを言いだした人にとって考えられうる (尤もな) ものでなければならない。

すべての解決策は、USITプログラムを終了した後で、信頼性 (真実性) テストにかけなければならない。 信頼性 (真実性) テストは、文献探索、専門家との議論、数理モデリング、および実験室での研究を必要とするかもしれない。
USITをチームで使うときには、あらゆる解決策コンセプトの提案について、他のチームメンバーが即座に精査するという利点 (あるいは欠点) が組み込まれている (もちろんわれわれはUSITの間はコンセプトにフィルタをかけることを無くそうとしているのだが)。

現象論を推論する際に達成できる分析の深さは、個人に依存する。有用なアイデアを掘り出すように記憶を最大限に使うとよい。ただし、その現象の名前を知らないのを心配しないでもよい (それらは後で調べることができるのだから)。 黒い大きな、頭の白い鳥が、飛行中に瞬間的に宙返りをして、巣を守ろうとして突進してくるミサゴに、その恐ろしい鉤爪を見せるということを知っているのは、その鳥の名前がハクトウワシであることを知っているのよりも有用である。(ところで、その妙技は、望ましくない効果に対する閉世界の解決策だと私は思う --賢いワシだ。)

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月26日   (掲載: 2013 1.27)


    USITニュースレター  No. 17  (2004年 5月17日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義-16は問題解決の技法として配置法 [機能配置法] を簡潔に議論し、終了した。
今回の講義では、属性-機能-属性のリンクを形成し、新しい解決策コンセプトを発見する方法 [transduction、変換法、連結法] について考察する。

ミニ講義-17

解決策生成技法としてのTransduction (トランスダクション、変換法、連結法)

出版業者の問題の継続: 「新聞用紙の上のインクが汚い。なんとかしろ!」

Transduction (トランスダクション) と transducer (変換器、トランス) は、transduce から派生した語であり、それはエネルギーを一つの形体から別の形体に変えることを意味する。
USITでの transduction は、一つの属性から別の属性への、一つの機能を経由した変換 (あるいは連結) のことである: A-F-A (属性-機能-属性)。
ここで使われている transductionは、一つの属性を文字どおり物理的、化学的、あるいは生物学的に消滅させて、もう一つの属性を生成することではない。 むしろ、transduction は一つの観点であり、それが人の心に新しいアイデアの合図を送る。

二つの属性 (互いに接触している二つのオブジェクトからの一つずつの属性) が相互作用して一つの機能をサポートし、それが第三の属性 (もとの二つのオブジェクトのうちの一つかあるいは第三のオブジェクトからの属性) を変更あるいは維持する (USIT教科書参照)。
図で分かるように、この相互作用のモデルは、二つのA-F-A リンクを持っている。A1-F-A3 およびA2-F-A3である。

いま私が気がついたのは、これまでに「インクがなすりつけられる (smearing)」 というコンセプトについての図的な比喩を一度も描いていなかったことである。粘性と流れという言葉でだけそれを捕らえてきた。簡単なスケッチを描いてみて、何か新しい観点が生じるかどうかを見よう。

長方形でインクの断面図の一部を表現し、並行四辺形で長方形のインクがなすりつけられた状態を表現しよう。

しかし、このスケッチはわれわれの出版業者の問題をうまく捉えていない。出版業者の心配は、手や衣服にインク汚れがつくという読者の苦情である。したがって、なすりつけが続いて、インクがちぎれて、インク粒子 (液体または固体の) が離れるところまでを、スケッチで捉える必要がある。
離れたインクを小さな正方形で表し、切り離しの剪断力がすでに緩和されていることを表現している。

このスケッチは問題をよりよく表している。インクをなすりつけてもインク粒子が離れなければ問題でない、ということが明白になった。離された粒子が問題なのである。

この観察は、インク粒子を互いに保持させて、離れることを防げばよい、という考えに導く。
この時点まで、インクについての私のイメージは、連続した液体相で、顔料粒子を分散して含むものであった。液体の粘性が乾燥によって徐々に増大するが、それが十分でなく、望ましくないなすりつけが起こる。

いま、(「離された粒子」から) 思い浮かんだのは、液相のインクの小さなセルで、剪断の際に互いに滑り、分離の際に離れるもの、を考えることである。
実際、それらのセルは固相のインクを含むことができるだろう。その固相粒子が小さくて、紙上に「流れる」ことができるだけ潤滑されて滑りやすければよいのである。
この場合、セル中の相は変わらねばならないわけでない。それらの界面の滑りやすい性質が、セル-セル結合に変わることができればよいのである。それによってセルが分離するのを防げるだろう。

このコンセプトにとってのわれわれの目標は、滑りやすさ属性を粘着属性に変えることである。
この種の分析が、トランスダクションに導く。われわれの現在の望ましくない効果は以下のように図示できる。

インクの粘性は (それが流れるの必要なのだが) 、紙への結合力と相互作用する。そして、剪断力が続くと、インク粒子がついには分離するようになる。紙への結合強度は、インクのパターンを作るためにインクを局所化するのに必要である。インクの滑りやすさの属性を、分離を防ぐのに有用な何かの属性に変換できるだろうか?

必要とされる属性は、ある種のインクセル - インクセルの結合強度である (それが何を意味するにせよ)。
この不明の属性が、分離 (局所化の不足)の属性、すなわち、不十分なインクセル-インクセル結合強度の属性を置き換えるだろう。
新しいA-F-A (属性-機能-属性) リンクをつぎの図に示す。

セル-セル結合強度は二つの疑問を引き起こす。セルとは何か? そして、セル-セル結合強度とはなにか? これはわれわれの問題に新しい観点を与える。

もしインクを連続した固相であると考えるなら、剪断によって分離が起こるとき、破断線がセルを形成するだろう。したがって、セル-セル結合強度は、壊れたセル間を何らかのやり方で保持するものであろう。

解決策 [40]: 固相インクの組成を、剪断モードでは低い [高い?] 破断強度を持つようにして、破断セルが粗い境界を形成しやすいようにする。 これによって、鍵と鍵穴タイプの結合が多くでき、インクの分離を抑えることができるだろう。

もし、セルが予め分離した構造を形成していると考えるなら、それらは物理的なセルか、あるいはある種のネットワーク構造や格子構造であるかもしれない。 インクのカプセル化をここで思い浮かべた。

解決策 [41]: インクを液体を封入した微小ピルで構成し、その薄いプラスチック膜が粘着性の表面を持つようにする。プラスチック膜内の内容液体が流れをサポートし、粘着性の表面がセル-セル結合をサポートする。

解決策 [42]: インクを解決策 [41] のように構成するが、プラスチック薄膜の表面は、最初は粘着性が小さく、空気に触れてすぐに粘着性を増すようにする。これにより、最初インクが容易に流れ、その後に強い結合を生成するように処理ができる。

解決策 [43]: インクを2成分で構成し、混合すると重合するようにする。このポリマーは、柔軟なネットワークを構成して、そのネットワークのセル中にインクを保持するように、ごく少量を使用する。


われわれは、USITをレビューするこのミニ講義のシリーズの終わりに近づいてきた。残っているツールで説明すべきものは、解決策生成技法としての generification (一般化) である。 USITに関して、議論すべきトピックスや質問で、興味深いものをあなたは持ってないだろうか?

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月27日   (掲載: 2013 1.27)

 


    USITニュースレター  No. 18  (2004年 5月24日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

・ ミニ講義-17は問題解決技法としてtransduction (トランスダクション、連結法) の簡潔な議論をし、終了した。 今回の講義では、コンセプト [の一般化] によって刺激されるコンセプトについて考察する。

ミニ講義-18

解決策生成技法としての一般化法 (Generification)

出版業者の問題の継続: 「新聞用紙の上のインクが汚い。なんとかしろ!」

Generification (包括化、一般化) 

本講義シリーズの初期に導入したUSITの一つの概念は、まず最初に、その問題についてすでに知られている解決策をすべて列挙し、またその列挙の演習の際に思いついた解決策をすべて書き出すことであった。 その演習の意図は、すでに知られていること (USIT演習の始めの段階で知られていること) にまず注目して、それによって問題解決者が [その後] 新しいコンセプトを自由に探索できるようにすることである。

それにはいくつかの教育学的な価値がある。一つは、学生たちがすでに知られていることを一生懸命に自分で考え出そうと試みて、本当は新しいコンセプトを発見するのに使えるはずの時間を無駄にすることを避けられるだろうことである。これは能率に関する大きな問題である。また [第二に]、それは驚きと喜びを作り出し、それによって方法論の有効性をより説得力あるものにすることを意図している。 経験者に対しては、すでに知られているコンセプトを一般化することによって新しい解決策コンセプトを見つけるための土台を用意する。

一般化法 (generification) の背後にある理論は、既知の解決策、そして(その演習の間に) 突然生成される解決策コンセプトの大部分は、直感的なタイプのブレインストーミングから生じたものだということである。 これはそれらのコンセプトを貶めるものではない。 むしろそれは、そのような解決策が、低い枝に成っている果実を摘んでいるようなものであることを意味している。[だから] それは、あまり容易に手が届かない果実がまだ沢山摘まれないで残っていることを意味している。 それは、廃坑の下流の川底で、貴重なわずかの物質を求めて、鉱脈の端を浚渫するプロセスに似ている所がある。

しかし、それはまた、USIT演習の間に見出された解決策コンセプトを一般化することをも含んでいる。これをする理由は、何らかの解決策の機会が見落とされているのでないかと、十分にチェックすることである。

一般化法 (Generification) は、(どんな出所のものであれ) 知られた解決策を分析して、それがなぜどのように働くのかを見つけるためのプロセスであり、それによってその解決策を改良する。これには同じUSIT分析の先行する段階で生成した解決策のアイデアを含む。だから、一般化法は最後に適用すべき解決策生成技法である。

一般化法の適用

われわれは汚いインクの問題に対して、いまや43件の解決策コンセプトを持っており、そのうちの10件はUSITを適用する前に知られていたものである。 これらすべてのどれでもが一般化を適用すべき機会である。

簡単な出発点は、解決策コンセプトのあなたの最終リストを読み直して、それぞれの解決策コンセプトをサポートしている基本的な属性が何かを再考してみることである。この過程で、新しい直感的な解決策が思い浮かぶかどうかを見よ。人の直感はUSITの演習をやった後では、やる前よりももっと有効になっているはずである。なぜなら、非常に多くの効果や属性を特定してきたのだから。この演習をしているとき、あなたは自分が批判的な分析を発展させていることに気がつくだろう。

解決策 [1] (NL-06) をまず取り上げて、このプロセスを例示しよう。

解決策コンセプト [1] は、印刷プロセスにおいて通過する紙を加熱するものであるが、その熱はどこに行くのだろうと私は考えた。私は新聞紙の厚さや印刷されたインクの厚さがどれだけかを知らないが、紙そのものはその上に印刷されたインクよりもずっと厚いだろうと思う。私は今日の新聞の一つのページを取り上げ、親指と人差し指で軽く挟んでゆっくりと滑らせてみた。 紙の厚さを容易に感じることができたが、タイトルの大きなフォントを通るときでも [印刷による] 紙の厚さの変化を検出することはできなかった。 したがって、新聞紙はインクよりはるかに厚い。 だから、紙を加熱する際にエネルギーが浪費されそうである。

インクがなすりつけられる可能性を減少させるためには、ずっと薄いインクを加熱して、インクからその余分な湿気を出させてしまうことだけが必要なのである。 これが示唆するのは、

解決策 [44] : 紙の表面に赤外線を反射する成分を与え、インクには赤外線を吸収する成分を与える。これにより、輻射加熱に際して、インクの方にエネルギー吸収の選好性が生まれる。そして、インクで書いた紙がすぐに加熱ランプの下を通るように処理ラインを設定する。

この解決策の基礎を考えたときに私に思い浮かんだのは、長波長赤外線は短波長のものに比べるとより深く浸透するが、長波長輻射の方が、加熱にはより効率的だということである。湿ったインクの下の乾いた紙にまで浸透する輻射は無駄になる。 そこで思いついたのが、

解決策 [45]: 紙をローラーの円周に沿って移動させているとき、円周に接するように赤外線ビームを紙に照射する。これは深く浸透することを最小にして、表面吸収の範囲を長くするので、乾燥速度が向上する。

有効性はローラーの曲率半径に依存するだろう。

解決策 [46]: 小さい直径のローラーと薄いビームを使い、接線方向の放射の効率的な吸収を可能にする。

適用されたインクの厚さは、インクの乾燥の際に脱着する水分子が拡散するパスを含んでいる [パスは厚さ方向にあるから]。もし乾燥時間が厚さの非線形関数であれば、より薄いインクは乾燥時間を短縮するだろう。これが示唆するのは、

解決策 [47]: インクを2段階で適用し、各回の後に赤外線加熱を行なう。

今日ではカラー写真の新聞印刷に高精度位置決めが使われており、薄いインクを複数回印刷する高精度位置決めは、実際に可能であろう。

一般化法の使用は、USIT実行の間に解決策コンセプトのフィルタリングを許容しないことの、もう一つの理由を示している。 優れたアイデアがここでもまた生成されるからである。 この声明が仮定しているのは、もちろん、いろいろなアイデアが予めフィルターに掛けられていず、一般化のために保持されていることである。

解決策コンセプト [44] 〜[47]は、解決策 [1] の一般化から生まれた。解決策 [1] から [47] まで、あなた自身が一般化を試みるように残してある。 大いに楽しんでください。

つぎはどこに?

一般化がこのUSITの概論で議論すべき最後のUSITツールである。

次回 (および次々回) のニュースレターでは、追加のコメントと観察について述べたい。ただ私は短い休暇を取るので、一週間欠号するだろう。

それに続いて、私は新しいモノグラフを完成させているはずである。それは、問題を分析し、新しい解決策生成技法を適用する、新しいアプローチの理論について議論したものである。種々の形の構造化問題解決を使っている技術者は、この理論的な開発が興味深く、またすぐに適用できることが分かるだろう。USITに馴染んでいる人たちは、この新しいアプローチにUSITが強く影響していることをすぐに認識するだろう。

 

このミニ講義に対して、今後の話題、あるいは具体的な質問を、示唆してくれるようにお願いする。

 

5.  問題解決のトリックと関連雑録

数字の楽しみのために、つぎの URL を訪問してみよ。 http://digicc.com/fido/ [訳注 (2013. 1.28 中川):  このURL はまだ生きている。]  指示に従って、つぎに右下隅のキャラクタをクリックする。

このトリックがどのように働いているかを理論的に解析するのは面白かった。

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 1月28日   (掲載: 2013 1.27)

   

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最終更新日 : 2013. 1.30   連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp