TRIZ 研究ノート  (史料)
Matrix 2003』へのわれわれの寄与
  Boris Zlotin and Alla Zusman
       (Ideation International 社、米国)

  寄稿:  2005年 1月12日
   訳:   中川   徹 (大阪学院大学) 、 2005年 1月13日
  [掲 載: 2005. 4. 5]
For going back to the English page, press: 

編集ノート   (中川  徹、2005年 3月28日)

本稿は、『Matrix 2003』を翻訳・出版するための交渉の過程において、寄稿された資料である。原書および訳書は以下のようである。

原書: "Matrix 2003: Updating the TRIZ Contradiction Matrix" by Darrell L. Mann, Simon Dewulf, Boris Zlotin, and Alla Zusman, CREAX Press, ベルギー, 2003年刊。
訳書: 『
TRIZ 実践と効用 (2)  新版矛盾マトリックス (Matrix 2003)』, 中川  徹 訳、後藤一雄編集、創造開発イニシアチブ刊、2005年4月。 [出版案内:  ]

原書は、4名の共著になっており、そのうちの Darrell Mann と Simon Dewulf による研究のアプローチとその成果は、2003年3月のTRIZCON2003国際会議で 2編の論文として発表されている (本ホームページに、英・和で掲載ずみ)。それは、Altshullerの特許分析の方法を現代化した上で、1985 年から現在までの米国特許を緻密に分 析して 矛盾 マトリックスのデータを完全に刷新した ものであった。

一 方、Ideation 社の二人、すなわち、Boris Zlotin と Alla Zusman の研究がこの本にどのように寄与しているのかは、いままで公表されていず、推測するしかなかった。追加の発明原理 (特殊化/組合せ発明原理) が両名の寄与であろうことは容易に推測できたが、それ以上には分からなかった。Boris Zlotin と Alla Zusman は、TRIZ創始者アルトシュラーの直弟子であり、その緻密な研究と執筆・普及活動で、旧ソ連においてもまた冷戦終了後に移住した米国においても、常に世 界のTRIZの研究を牽引する存在であった。

その両名の筆で、矛盾マトリックスの研究の背 景を知ることができるのは、貴重なことである。われわれには「意外」と感じられることが記されており、(初心者向きの解説ではないが) 深い味わいがある資料 (「史料」) である。

2004 年 4月のTRIZCON2004 国際会議の会場において、Boris Zlotin と Alla Zusman が、この『Matrix 2003』の著書を購入した人たちにサインしているときの嬉しそうな表情が印象に残っている。この二人の著者にとっても、非常に大きな研究の成果であった のだと、私はこの寄稿を読んで初めて理解できた。




Matrix 2003』へのわれわれの寄与

             Boris Zlotin & Alla Zusman  (Ideation International Inc.)
2005年 1月12日 


もとの「矛盾マトリック ス」と40の発明原理が持っていた限界の主要なものは、(おそらくあなたもご存じのよう に) つぎのようである。

上記のような限界と、あまりにも 多数の [TRIZの] ツールを扱わねばならない必要性を反省して、1980年代末までにわれわれは「普遍的なオペレータの体系」を開発し始めた。それは、すべてのTRIZの知 識ベースツール (すなわち、40の発明原理、分離原理、76の発明標準解、進化のパターン/ライン、など) を一つに統合しようとするものであった。1990年代の初めまでに、「オペレータ体系 (System of Operators)」 が準備できており、TRIZの他のすべての知識ベースツールを置き換えてしまうことができるようになっていた。そういうわけで、われわれがTRIZを米国 に導入し始めたときに、われわれは、矛盾マトリックスと発明原理とを、1970年代半ばにアルトシュラー自身が置いた位置、すなわち歴史的な文脈、にまで 後退させることを望んでいた。
  [中川訳注 (2005. 3.28):  この「オペレータ体系」という考え方の意図は、われわれの論文 (中川  徹・古謝 秀明 ・三原 祐治: 「TRIZ の解決策生成諸技法を整理してUSITの 5解法に単純化する」、2002年11月、ETRIA国際会議発表) とよく対応するものである。われわれには USITが提供する枠組みがあったので、その再編成の結果 (すなわち、USIT オペレータの体系) はずっと明快なものになった。]
しかしながら、予期しなかったほ どに、矛盾マトリックスが米国とヨーロッパで非常な人気を得た。その理由は、矛盾マトリックスの単純性と、多くの場合にそれが最新のツール であるとして (ときには、知識を欠いていたから、またときには、意図的に) 紹介されたからであった。この人気の好結果が市場を規定した。

しかし、不幸にも、それは多くの場合にダメージを与えた。そのダメージはつぎのような状況で起こった。TRIZのセミナーが非常に成功して (注意: 特定のトレーニングに合わせて、矛盾マトリックスを使うのに最も適した教育的な事例を特別に用意することは、それほど難しいことではない)、受講者は高揚 した気持ちで職場に戻った。ところが、自分の問題については、矛盾マトリックスに入ることすらできないことに、彼らは気がついた。がっかりしたユーザの多 くは、「この数十年の間に導入された多くの他の技法と同様に、所詮、TRIZも実際的な価値をもっていなかったのだ」と、決めてしまった。


最初のうちわれわれは、矛盾マトリックスと古典的TRIZ全体の弱点を説明し、もっと有効な諸ツールを提供することよって、この状況に対処しようとした。そののちわれわれ は、抗うことをやめて、この要求を利用しようと決めた。それは、新しい矛盾マトリックス (それを「Super-Table」と呼んだ) を開発し、もとのマトリックスの欠点を (少なくとも部分的に) なくし、さらにつぎのような効用をもつものにしようとしたのである。

これらの効用は、以下のような新しい有用な特徴によって、達 成された。

取り扱いを簡単にするために、われわれは古いマ トリックスをいじらずに、そのまわりに新しい表 (50×50) を構築した。すなわち、下記のモデルのように、既存のものに新しいパラメータと発明原理を追加したのである。

 
(原:  この表で第0列は、ユーザがそのパラメータを向上させる何らかの方法を探しているだけで、その結果と して悪化させる可能性がある他のパラメータを知っていない、という状況に対応するためのものである。)

もうひとつの重要な知見は、「普 遍的 [発明] 原理 (Universal Principles)」 を同定し分離したことである。当初からわれわれの研究で分かっていたのは、発明原理には性格の違うものがいろいろあり、いくつかのやり方でそれをグループ に分割できるだろうことであり、その一つのやり方は適用性でグループ化することであった。例えば、一方では実際上普遍的な発明原理 (逆発想や分割などの原理で、非技術的な問題をも含めて、どんなタイプの問題にも適用できるだろうもの) があり、他方には、(熱膨張の原理など) もっと特殊で、適用性がずっと限定されているものがある。普遍的原理を同定することで、われわれはそれらをいつも試してみることができるようになった。

われわれの研究でまた、パラメータの対ではなく、特定の一つのパラメータに 対して使える発明原理を同定した。そして、大多数の場合に、発明原理は単一パラメータでうまく使えることを、われわれは見出した。この結果、一つず つのパラメータの改良のために推奨する発明原理のリストを創り出すことができた。

そしてついに、われわれの仕事は、Darrell Mannのチームが行った非常に重要な仕事 と、組み合わされた。

まとめると[『Matrix 2003』に対する] われわれの寄与は、適用性の向上と適用問題範囲の拡張であるということができ、つぎの事項によるものである。


本ページの先頭
 『TRIZ 実践と効用』シリーズ
『新版矛盾マトリックス (Matrix 2003)』出版案内
Mann & Dewulf  論文 (2003)



English page

 
総合目次  新着情報 TRIZ紹介 参 考文献・関連文献 リンク集 ニュー ス・活動 ソ フトツール 論 文・技術報告集 教材・講義ノート
フォー ラム Generla Index 
ホームページ 新着情報 TRIZ紹介 参考文献・関連文献 リンク集 ニュース・活動 ソフトツール 論文・技術報告集 教材・講義ノート フォーラム Home Page

最終更新日 : 2005. 4. 5.   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp