TRIZ/USIT論文
TRIZの解決策生成諸技法を整理して
  USITの 5解法に単純化する
 中川 徹 (大阪学院大学),
 古謝秀明・三原祐治 (富士写真フィルム) , 
  2002年 9月 4日
 ETRIA国際会議投稿論文:   TRIZ Future 2002, ストラスブール (フランス), 2002年11月6〜8日; 訳 2002年 9月 8日  
  [掲載:  2002. 9.18; 英文掲載:  2002.11.19; 英文スライド掲載:  2002.11.19]
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編集ノート (中川  徹, 2002年 9月 8日)
 

追記 (中川, 2002.11.19)
本論文をETRIA国際会議にて発表した(11月6-8日)。論文を英文で掲載し, また, 発表に使用したスライド (33枚) をPDFファイルで掲載した(2002.11.19)。本論文はTRIZ Journal にも掲載の予定である (2003年1月見込み)。

 
本ページ先頭 0.要約, 1. はじめに 2. TRIZをUSITに写像する 3. USITの解決策生成法 4. 討論 参考文献 英文論文 英文スライド
USIT解決策生成法 (a) 一覧 同 (b) 簡略版 同 (c) 本版 [論文付録] 同 (d) 拡張版 TRIZ諸技法 英文(c) 本版



要約:

問題解決の解決策生成技法として, TRIZは多種の技法や原理を提供している。40の発明原理, 76の発明標準解, 技術システムの進化のトレンド, 分離原理などである。これはTRIZの内容の豊かさを示すものであるが, それはまた, 理解を困難にし混乱させる欠点にもなっている。本研究は, TRIZのこれら全ての解法を, USIT (統合的構造化発明思考法) の枠組みで再整理した。USITの解決策生成法は5種だけである。オブジェクト複数化法, 属性次元法, 機能配置法, 解決策組み合わせ法, および解決策一般化法である。TRIZの非常に多様な解法をUSITのこれら5種の解法に極めてスムーズに写像できた。USITの解決策生成法はTRIZ起源の諸方法によって大いに強化され, 明確なガイドラインをもっている。このようにして, 本研究はTRIZを再整理し, より簡単で有効な問題解決プロセスにしたのである。それがUSITである。


1.  はじめに

創造的な問題解決のための方法論として, TRIZ (「発明問題解決の理論」のロシア語の略称) [1-5] は, より自由で広い思考法, 科学技術知識の検索法, 問題の分析法, および解決策の生成法などの, 極めて広範な特長をもっている。解決策生成方法だけに限っても, TRIZが持っている技法や原理は非常に多い。その中には, 40の「発明の原理」, 76の「発明標準解」, 技術システムの進化のトレンド, 分離原理, などがある。これはTRIZの豊富さと卓越した強さを示す。しかしながら, そのように膨大な諸方法や知識ベースは, 理解することが容易でなく, TRIZの学習に混乱を来すことさえある。このため, ロシア生まれのTRIZの, 1990年代以降の西側諸国に対する普及は, 不幸なことに, TRIZの信奉者たちが期待したのに比べるとずっと遅れている [6]

企業へのスムーズな浸透を意図してTRIZを単純化しようという試みは, 1980年代にイスラエルで始まり, SIT (「体系的発明思考法」または「構造化発明思考法」) が作られた [7,8]。その後1995年に, フォード自動車社の Ed Sickafus が, SITを取り入れてさらに発展させ, USIT (「統合的構造化発明思考法」) を開発した [9]。USITは1999年以後日本に導入され, 改良されてきた [10,11]。本論文は, TRIZの解決策生成技法の全体を, USITで, もっと単純, 統一的, そして効果的に使えることを示そうとするものである。

問題解決の全体プロセスは, USITによれば, 3主要フェーズに分けられる。問題定義フェーズ, 問題分析フェーズ, そして, 解決策生成フェーズである。前の2フェーズは, 第3フェーズのためにさまざまな準備をしているのであり, 第3フェーズで何らかのブレークスルーを達成して, 新しい革新的なコンセプトを実際に獲得したいのである。本論文は, この最終のクリティカルなフェーズである解決策生成に焦点を絞る。

本研究では, TRIZの解決策生成法の諸原理や諸ルールの全体を, USITの枠組みで再整理した。文献 [11] に記述しているように, USITの解決策生成法はわずか 5種である。オブジェクト複数化法, 属性次元法, 機能配置法, 解決策組み合わせ法, そして, 解決策一般化法である。これらは, 「オブジェクト-属性-機能」の概念を基礎にしており, TRIZの非常に多数の個々の原理/解法をうまく受容できることが分かった。このようにして, USITの本来の単純さを失うことなく, USITは大幅に強化され, TRIZの解決策生成諸技法の全体と同等な内容になった。

本論文は, どのようにしてTRIZを再構築したか, その結果得られたUSITの解決策生成法はどのようなものか, それをどのように学び, どのように創造的問題決に適用できるかについて, 論じる。

2. TRIZの諸方法をUSITの枠組みに写像する

2.1 新しい枠組みとしてのUSITの基礎

他のどんな技術システムとも同様に, USITも進化しており, Sickafus が開発した原型 [9] から, 中川が改良した現在の日本版 [11] に発展している。USITの全プロセスは, 図1のフローチャートに図示した。問題解決をしようとする者は, このフローチャート*1に従って, 記憶可能な簡単なガイドラインに沿い, ハンドブックやソフトウェアツールを必要とせずに, 順次進んでゆけばよい。
 
 

図1.  USITにおける問題解決プロセスのフローチャート

注*1:  問題分析段階で並行に記述されている二つの方法は独立に選択してよい (すなわち, A, B, A->B, B->A という 4パターンがある)。解決策生成段階の5方法は, 独立に, また, 何度でも, 必要と考えるだけ繰り返せばよい。
解決策生成段階の 5方法は, [11] に記しているように, つぎのようである。
  1. オブジェクト複数化法:  システム中のすべてのオブジェクトに適用 (演算) し, それを「複数化」する。ここでいう「複数」は (英語での意味で)  1以外の任意の数を意味する (つまり, 0, 2, 3, ... , ∞, 1/2, 1/3, ..., 1/∞, など)。
  2. 属性次元法:  システム中のすべてのオブジェクトのさまざまな属性に適用 (演算) し, そのオブジェクトの「次元」を変更する。すなわち, 属性を活性化/脱活性化し, 属性を空間・時間について変化させる。
  3. 機能配置法:  システム中のすべての機能に適用 (演算) し, それらの機能をシステム中のオブジェクト群 (新たに導入するオブジェクトも含む) に「配置」 (再配置) する。また, 新しい機能の導入も考える。
  4. 解決策組み合わせ法:  複数の解決策 (または解決策の要素) に適用し, それらを, 空間的に, 時間的に, 部分としてなど, さまざまのやり方で組み合わせて, 新しい一つの解決策を作る。
  5. 解決策一般化法:  各解決策の中の, 技術的/特殊な用語を, 平明/一般的な用語で置き替える。
このうちの最初の3方法は, オブジェクト, 属性, 機能のそれぞれに作用 (演算) する。先行する問題分析の段階で, 問題解決者は, 問題とするシステムを ,「オブジェクト-属性-機能」の概念を用いて十分に分析しておく必要がある。その分析が, これら3解法の適用をスムーズにする。

第4の解法に関して, 発展の歴史についての注釈が, 特にUSIT教科書 [9] の読者のために, 必要であろう。Sickafusによる「トランスダクション」 (変換) 法は, 本論文では二つに分解して, (エネルギー変換機能の意味での) 機能配置法と, (二つの機能を連結する意味での) 解決策組み合わせ法とに入れている。また, Sickafusによる「ユニークネス」 (特異性) 法は, その主要部を問題分析段階の「空間・時間特性分析」に移し, 残りの部分を (空間・時間での特異性を利用した解決策の意味で) 上記の最初の 4解法に分散させた。現在の第4方法, すなわち解決策組み合わせ法は, 広い範囲の解決策生成法をカバーするように [11] で導入したものであり, TRIZの分離原理が支援する諸方法に対応している。

第5方法の解決策一般化法は, 心理的惰性 (特に技術用語による心理的惰性) を打破することと, 解決策の探索を体系化することとを意図している。Sickafusの教科書 [9] の「一般化 - USITの一プロセス」の章は読むに値する。 [注 (2002. 9.18): この章の翻訳・掲載の許可をSickafus博士から頂いたので, 近日中に本サイトに掲載予定である。]
 

2.2  解決策生成フェーズのためのTRIZの諸方法

問題解決の多様なフェーズと側面に対して, TRIZは膨大な知見, 技術, 知識ベース, 事例, などを集積しているので, 解決策生成フェーズのためのTRIZの諸方法として本論文で何を取り上げるべきかについて, われわれは予備的な議論をしておく必要がある。

Darrell Mann 著の最新のTRIZ教科書 [5] が, この議論のための土台として最も適当であろう。彼は, 問題解決の (TRIZの) プロセスをつぎの 4フェーズに分割しており, それぞれを特徴づけるツールを列挙している。

USITの考え方でいうと, フェーズ (III) は問題分析と解決策生成の二つのフェーズに分割すべきである。われわれは, フェーズ (III) のツール群を以下の 4グループに分類した。 よって, 本研究でわれわれが詳細に検討したいものとして, 最も重要な解法 (より正確には, 解法集) が 3種ある。すなわち, 発明原理, 発明標準解, および技術進化のトレンドである。あと 3種の方法 (すなわち, 分離原理, トリミング, および究極の理想解) は, どちらかというと個別的であり, 後で別個に扱うことができよう。

リソースおよび知識/効果・事例ベースは, 性格として手続きではなく, 解決策生成を支援するのに使うべき知識である。そこで, 本研究の写像作業においては, これらを一旦横に置いておいてもよいであろう。

USITは問題解決のための全体的な手続きとして提案されているものであるから, それはARIZを置き替えるものであり, Salamatov [2] や Mann [5] が推奨する同様な全体的手続きを置き替えるものである。

2.3  TRIZの解決策生成諸技法の出典とそれに対するコメント

TRIZの解決策生成の 3種の主要方法に関して, 以下の出典を用いた。

発明原理および進化のトレンドの用語は, TRIZの初心者にも大抵理解できるものである。トレンドの言明は, われわれの文脈では, 単なる観察を述べたものでなく, 指導原理と見なすべきであることに注意されたい。

一方, 発明標準解は, 物質-場分析による問題の定式化を基礎にして, TRIZに特有の用語を使っている。このため, それらの簡単な説明をしておく。

物質-場モデル (略称 SFM) においては, 問題のシステムの焦点を鋭く絞り, 二つの「物質」 (S1とS2) および一つの「場」 (F) で表現する必要がある。ここの「物質」は, 「なんらかのもの」を表す総称的用語で, USITでの「オブジェクト」と本質的に同じである。TRIZにおける「場」はTRIZ特有の総称的用語であり, 相互作用, 力, エネルギー, 物理的場, 機能, などを表す。よく定義 (設計) されたシステムでは, 物質S2が一つのツールとして, 対象としての物質S1に, 相互作用Fを作用させる。「環境」という用語は, システム中のS1, S2以外のすべての要素と, そのシステムの周りにあって, 容易にアクセスできる任意のものを意味する。問題となるシステムのささまざまのケースでは, (物質-場モデルの) 3要素のどれかが, 欠如/不適当/不十分/過剰/有害 などである。発明標準解は, このようなケースを特定した上で, 適切な解決策のガイドラインを (示唆として) 述べるものである。
2. 4  Sickafusによるヒューリスティックス

USIT教科書 [9] で Sickafusは, USITの解決策生成法の詳細な記述に加えて, 21のヒューリスティックスを列挙している。それらは, TRIZの諸方法と彼自身のUSIT技法とを合体させて, 発明原理と同様なスタイルで記述しようとした Sickafus の試みを反映しているように見える。そこにはいくつかのユニークな観点が含まれているので, われわれはそれらも同時に本研究の枠組みで分類することにした。

Sickafusのヒューリスティックスとそのサブ項目とを, 文献 [9] に現れている順に番号づけ, ここでは[H5a], [H5abc] などのように引用した。これらのヒューリスティックスは観点そのもの (例えば, 「事象の (起こる) 速さ」, 「周期性」 など) に強調点があり, そのため, 積極的な操作と消極的な操作の両方 (例えば, 導入する/除去する, 増大させる/減少させる, など) をそのサブ項目として併記している。そのような正逆の思考は心理的惰性を破るために重要であるけれども, われわれのガイドラインは (進化のトレンドの言明と同じように) 最も適切な方向を指し示すべきであり, 逆思考は, 全体の文脈に対して適用される備考として扱うのがよいと考える。

2.5  写像, 再分類, および記述のプロセス

TRIZの 3方法 (すなわち, 発明原理 [P], 発明標準解 [S], 技術システムの進化のトレンド [T]) の原典, およびSickafusのヒューリスティックス [H] のリストは, それらの最下層のサブ原理/サブ解法 (例えば, [P1a], [S1-1.8.1], [T1], [H1a] など) で扱った。サブ原理の一つ一つについて, その意味を吟味し, USITの5種の解決策生成法の上に写像した (振り分けた)。この写像は 1対多を許しているので, TRIZの一つのサブ原理がUSIT法の複数の箇所に写像されることがある。例えば, 局所的性質原理の [P3c] は, オブジェクト, 機能, および組み合わせ法の 3箇所に写像され, [P3d] は属性と組み合わせ法の2箇所に写像された。このようにして, 4つのソースのすべてのサブ原理は, USITの枠組みの中でそれぞれ適切な候補位置を見出していった。

ついで, これらすべての (TRIZ起源の) サブ原理/サブ解法を, USITの枠組みで階層的に再グループ化した。USITの 5種の解決策生成法は, もともと, それぞれ数項目のサブ解法を持ち, 簡単なガイドラインを持っていた [11]。本研究により, さらに数項目のサブ解法の導入が必要となり, また, さらに下層のサブ解法およびそれらの記述という形で内容をずっと強化できた。USITのサブ解法のそれぞれに対して, あるケースでは4種のソースのすべてからの寄与があり, 別のケースでは, 3種, 2種, 1種のソースの寄与, そしてまた特殊なケースでは寄与無し (すなわち, USITに独自のものであることを示す) であった。

ついで, (実際には, 再グループ化の作業に並行して, 繰り返し,) USIT法のガイドラインを階層的に記述して, 再整理したTRIZ起源のサブ解法たちの意図をカバーするようにした。TRIZの諸原理や諸方法は非常にまちまちの抽象化レベルで記述されているけれども, われわれは抽象化のレベルを一定に保ち, 解決策生成のためのヒントとして最も示唆に富むように努力した。重要なことは, USITのサブ解法の意味が, そこに写像されているTRIZ起源のサブ解法に限定されないことである。後者 (写像されているTRIZ起源のサブ解法たち) は, それぞれのUSITのサブ解法のガイドラインに対する網羅的でない例示とみなすべきものである。

3. USITの解決策生成法

3.1  USITの解決策生成法一覧

上記のようにして本研究で得たUSITの解決策生成法は, 表1にその概要を示す。表中に *印で示したサブ解法は, TRIZ起源のサブ解法を導入・統合した結果として, 本研究で大幅に強化, あるいは新規に導入したものである。

USITの解決策生成法の全貌を付録に掲載した。短いガイドラインを, 5種の解法および32のサブ解法のそれぞれに記した。サブ解法の大部分は, さらにもっと詳細の記述をもち, 適用のガイドラインと示唆に富む例が示されている。この詳細化した(サブ) サブ解法のレベルで, TRIZ起源の諸方法 (発明原理 [P], 発明標準解 [S], および 進化のトレンド [T] ) のサブ解法をいくつか引用している。

USITの解決策生成法のさらに拡張した一覧で, TRIZ起源のサブ解法の記述を含めたものを, 『TRIZホームページ』 [12] にオンラインで発表する予定である。そのような一覧を用いると, より明確なUSITの枠組みに留まりつつ, TRIZの諸方法の豊富な知識ベースとその絶えず蓄積されている事例にアクセスすることができる。

3.2  TRIZの副次的諸方法をUSITに統合する

前記の2.2節の議論に関係して, TRIZの中のいくつかの副次的な方法をいかに扱ったかを, ここにコメントしておきたい。

表1.  USITの解決策生成技法の一覧 (目次)

(1)  オブジェクト複数化法

    (1a) そのオブジェクトを消去する (ゼロにする)   (単純化, 「トリミング」)
    (1b) そのオブジェクトを, 多数 (2, 3, ... , ∞個) にする
    (1c) そのオブジェクトを, 分割 (1/2, 1/3, ... 1/∞ ずつ) する
    (1d) 複数のオブジェクトをまとめて一つにする
    (1e)* 新しい/変容させたオブジェクトを導入する
    (1f) 環境中のオブジェクトを導入する
    (1g)* 固体のオブジェクトを, 粉体, 流体, 液体, 気体などのオブジェクトで置き換える

(2)   属性次元法

    (2a) 有害な属性を, 使わない (関係しない) ようにする
    (2b)* 新しい有用な属性を, 使う (関与する) ようにする
    (2c) 有用な属性を強調し, 有害な属性を抑制する
    (2d) 空間に関する属性を導入・拡張し, また,  (有害/有用な) 属性およびその値を, 空間的に配置/変化させる。
    (2e) 時間に関する属性を導入・拡張し, また,  (有害/有用な) 属性およびその値を, 時間的に配置/変化させる
    (2f)*  オブジェクトの相を変える, 相変化を利用する, 内部構造を変える
    (2g)* ミクロのレベルの属性・性質を使う
    (2h)* システム全体としての性質・機能を向上させる

(3) 機能配置法

    (3a)  ある機能を, 別のオブジェクトに担わせる
    (3b) 複合した機能 (複数の機能) を分割して, 別のオブジェクトに担わせる
    (3c) 二つの機能を統合して, 一つのオブジェクトに担わせる
    (3d)* 新しい機能を導入し, オブジェクトに担わせる
    (3e) 機能を空間的に配置する/変化させる, また, 空間での配置/移動/振動の機能を利用する
    (3f) 機能を時間的に配置する/変化させる
    (3g)  検出・測定の機能を実現する
    (3h)*  適応・調整・制御の機能を導入/拡張する
    (3i)*  同種の機能を別の物理原理 (形態) で達成する

(4)   解決策組み合わせ法

    (4a) 機能的に組み合わせる
    (4b) 空間的に組み合わせる
    (4c) 時間的に組み合わせる
    (4d) 構造的に組み合わせる
    (4e) 原理レベルで組み合わせる
    (4f)* スーパーシステムに移行する

(5) 解決策一般化法

    (5a) 用語の一般化と具体化を繰り返し, 解決策を連想的に膨らませる
    (5b) 解決策の階層的な体系を作る

注:  *印:  本研究で大幅に強化 あるいは新規に導入したもの





3.3  USITの解決策生成法の図示に関するノート

付録において, USIT解決策生成法には, そのサブ解法のレベルで, 単純なイラストをつけている。そこでは, 図2に示すようなシンボルを使っている。

図2.  USITの解決策生成法の図示に用いたシンボル:
          楕円: 対象オブジェクト;  長方形: オブジェクト (あるいはツールオブジェクト);
          長方形内の色とパターン: 属性;  矢印: 機能









図2の左端に示したのは, USITにおける基本的なシステムの表現である。上のオブジェクト (これはシステム中で最も大事なオブジェクトであり, そのため最上部に楕円で示す) が, 下のオブジェクト (長方形で示す) から, 一つの機能 (矢印で示す) を受ける。オブジェクトを示すには, 楕円 (対象オブジェクトを表す) あるいはより普通には長方形 (TRIZでは時としてツールオブジェクトと呼ぶ) を用いる。オブジェクトの属性をオブジェクトシンボル中の色やパターンで示す。図2のなかほどには, いくつかのパターンが, 固体, 粉体, 液体, 気体, そして, 有害な属性, 空間的に変化している属性, およびミクロレベルの属性を表現しているのが分かるであろう。機能の性格を矢印のスタイルで表現する。図2でいくつかの矢印が表しているのは, 有益な機能, (有益だが) 不十分な機能, 過剰な (だから, むしろ有害な) 機能, 有害な機能, そしてさらに異なるパターンの (互いに異なることを示す) 3つの機能である。付録中の図示は, 「オブジェクト-属性-機能」のスキームでの抽象的な思考を刺激するようにデザインしている。それらは, 各サブ解法での解決策生成の図式を正しく示唆 (例示) しようとしているが, 各サブ解法の全範囲をカバーするものでないことに注意されたい。
 

3.4  USITの解決策生成法一覧の使い方

USITの解決策生成法一覧の最も重要な使い方は, TRIZの解決策生成フェーズの全貌を学ぶことである。伝統的な教科書では別々の専門の章で教えられているTRIZの多くの方法を, ここでは統一的に学ぶことができる。TRIZの学習者/実践者にとっては, TRIZのサブ解法の記述を含んだ拡張版 [12] が最も教育的で自己学習に適しているであろう。

USITの初学者のためには, サブ解法レベル (例えば, (1a), (1b) など) までの簡単なガイドラインで十分であろう。より理解しやすくするために, さまざまの簡単な例や図示を追加すべきである。この目的のために, 付録には, サブ解法の代表的な操作スキームを単純な図式で示している。

USITを真剣に学ぶ人には, 付録に示した一覧の全体を提示し, 説明すべきである。多数の事例を示すべきであり, それには, すでにTRIZで蓄積されている事例が助けになる。TRIZの学習は, USITを理解しうまく適用するのに必須ではないけれども, 奨励すべきである。

実地の問題解決のためのUSITセッションにおいては, (表1に示す) 概要の表が簡単な参考資料として有用であろう。USITの精神では, 自分たち自身の頭の中の知識を使うのがよいと考える。USITの学習者が解法一覧の全体を一旦学んだ後は, 概要表を備忘メモとして使い, それに頼りすぎないことが可能であろう。

図1に示したUSIT手続きは, (本研究の結果によっても) 変更せずに適用できる。USITによる問題解決は, 以前よりもはるかに強力になったに違いない。さまざまのサブ解法をオブジェクト, 属性, 機能, そして予備的な解決策に適用することによって, 複数の (むしろ多数の) 解決策コンセプトを得られるであろう。システム中の要素に対してサブ解法の操作を網羅的に試みることは, もちろん必要ではない。

USITとTRIZソフトウェアツールとを相補的に使うことを, われわれは提唱してきた [11]。USITを, 問題解決の主導プロセスとして, また, 人間の思考のガイドラインとして, 特に, 企業での問題解決のグループ作業において, 使うのがよい。一方, TRIZのソフトウェアツールは, 基本的に, 科学技術知識や, 解法適用の典型事例, 諸性質や諸機能のチェックリストなどを, 補うための知識ベースとして用いるのがよい。USITの解決策生成法一覧において, 知識ベースツールから補うことが効果的であるようないくつかの点を, 読者は見出すであろう。(これとは異なり,) ソフトウェアツールにわれわれの思考プロセスをリードさせたり, グループ作業のセッションでソフトウェアツールを主要なツールとして用いたりすることは, 有効でないとわれわれは考える。

4. 討論

解決策生成フェーズに対するTRIZの諸方法のすべて (すなわち, 発明原理, 発明標準解, 進化のトレンド, 分離原理, トリミング, セルフ-X原理を含む) が, USITの枠組みで再構成され, USITの 5種の解決策生成法にスムーズに統合された。これらの解決策生成法は, 図1のフローチャートに示すような簡潔な図式のUSITプロセスで使うことができる。USITのプロセスは, ARIZや, TRIZの枠組みの中で提唱されているその他の多数の全体的手順よりも, 学習と適用が容易である。

TRIZの諸方法の再構築と統合は, それらを問題解決に適用することをずっと簡単にした。例えば, 発明原理, 発明標準解, および進化のトレンドを, 同時にまた強化されたしかたで使うことができる。

本研究のUSITの解決策生成法を使うために前もって必要なことは, (問題とする) システムの関連するオブジェクト, 属性, および機能を理解し, システムの空間および時間的特性を理解することであろう。そのような前提知識は, あらかじめ, 問題定義フェーズおよび問題分析フェーズで準備しておかねばならない。

そのような前提知識がどのようにして得られるかを, 考えてみよう。伝統的なTRIZにおいては, 解決策生成法の一つ一つが, それぞれ固有の問題分析ツールを持っている。すなわち, 発明原理が矛盾マトリックスを持ち, 発明標準解が物質-場分析を持ち, そして, 分離原理がARIZを (分析ツールとして) 持っている。これらの対になったツールが分離しているために, 各方法での分析 (すなわち, 前記の前提知識の獲得) は, その思考の広がりの点で不十分になってしまっている。かくて, 解決策の生成が困難で技巧的 (トリッキー) になり, TRIZの全体プロセスの学習が困難になっている。

そこで, 本研究でTRIZの解決策生成の諸方法を統一したことは, 次のステップとして, 問題分析フェーズでのTRIZを統合し単純化することを, 促している。この目的に対してもまた, USITがすでによい提案を提供しているというのが, 本研究の著者たちの理解である。

図1に示すように, USITは問題定義段階と問題分析段階の明確なプロセスを持っている。閉世界法が, 問題解決をしようとする者に, 問題のシステムの「オブジェクト-属性-機能」の関連を見つけるように促し, そして, 空間・時間特性分析が, 問題システムの空間と時間に関する特徴的な性格を認識させるようにする。さらに, Particles法が, 理想解とそれにアプローチするための方法についてのイメージを作る。このようにしてUSITは, 解決策生成のための前述の前提知識を, スムーズで一貫したやり方で準備するのである。

本研究のUSIT解決策生成法一覧は, まだUSIT学習者に提示していない。それを, できるだけ単純で理解しやすいやり方で示すように注意すべきである。以前, 本研究の初期段階で, 発明原理からUSIT解法への写像を, マトリックスの形式で作った。それをUSITの実践セッションで技術者たちに見せたところ, 彼らは実践の場で使うには重たすぎると言った。この経験は, あまりにも膨大なツールを与えることをわれわれに警告している。そのためわれわれは, 本研究の情報を, 3.4節に記したような段階的なやり方で, 提示し, 使用することを計画しているのである。
 

5.  結論

本研究では, 発明原理, 発明標準解, 進化のトレンド, 分離原理などを含む, TRIZの解決策生成の諸解法の膨大な全体を, 再構築してUSITの簡単な5種の解決策生成法にした。その結果は, 付録の表に示したようであり, 短くて分かりやすい適用ガイドラインを含んでいる。USITの全手続きは単純で適用容易だから, TRIZのエッセンスを学び, 企業の場での実地問題解決にそれを適用する実践的な基礎を, 本研究が提供した。

参考文献 *2

[1] Altshuller, Genrich S., (1999) 'The Innovation Algorithm', Technical Innovation Center, Worchester, MA, USA, ISBN 0964074044 (E).

[2] Salamatov, Yuri, (1999) 'TRIZ: The Right Solution at The Right Time', Insytec B.V., Hatten, The Netherlands, ISBN 90-804680-1-0 (E); 中川  徹監訳, 三菱総研訳: "超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」 ,  日経BP社刊, 2000年11月。[同出版案内と資料: TRIZホームページ, 2000年11月]

[3] Ideation International Inc., (1999) 'Tools of Classical TRIZ', Southfield, MI, USA, (E).

[4] Savransky, Semyon D., (2000) 'Engineering of Creativity: Introduction to TRIZ Methodology of Inventive Problem Solving', CRC Press, Boca Raton, FL, USA, ISBN 0-8493-2255-3 (E).

[5] Mann, Darrell, (2002) 'Hands-On Systematic Innovation', CREAX Press, Ieper, Belgium, ISBN 90-77071-02-4 (E).

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[7] Horowitz, Roni, (2001) 'From TRIZ to ASIT in 4 Steps', TRIZ Journal online, Aug. 2001 (E); 中川  徹訳: 「イスラエルのSIT法とその利用(1) TRIZからASITへの 4ステップ」, TRIZホームページ, 2001年 9月

[8] Horowitz, Roni, (2001)  'ASIT's Five Thinking Tools with Examples', TRIZ Journal online, Sept. 2001 (E); 中川  徹訳:  「イスラエルのSIT法とその利用(2) ASITの五つの思考ツールとその適用例」, TRIZホームページ, 2001年12月

[9] Sickafus, Ed. N., (1997) 'Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent', Ntelleck, Grosse Ile, MI, USA, ISBN 0-9659435-0-X (E).

[10] Nakagawa, Toru, (2001) 'Learning and Applying the Essence of TRIZ with Easier USIT Procedure', ETRIA World Conference: TRIZ Future 2001, Nov. 7-9, Bath, UK, (E); TRIZホームページ, 2001年11月; 和訳:  「TRIZのエッセンスをやさしいUSIT法で学び・適用する」, TRIZホームページ, 2001年 8月

[11] Nakagawa, Toru, (2002) 'Experiences of Teaching and Applying the Essence of TRIZ with Easier USIT Procedure', TRIZCON2002: Fourth Annual Altshuller Institute for TRIZ Studies International Conference,  Apr. 30 - May 2, St.Louis, MO, USA; TRIZホームページ, 2002年5月 (E); 和訳:  やさしいUSIT法を使ってTRIZのエッセンスを教え・適用した経験, TRIZホームページ, 2002年1月

[12] 中川  徹編, 『TRIZホームページ』 (英文名: "TRIZ Home Page in Japan"), WWW サイト,  URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ (日本語), http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/eTRIZ/ (英語)

[13] Karasik, Y. B., (2000) 'On the History of Separation Principles', TRIZ Journal online, Oct. 2000.

[14] Mann, Darrell (2001) 'Ideality and 'Self-X'', ETRIA World Conference: TRIZ Future 2001, Nov. 7-9, Bath, UK, (E); 中川 徹訳: 理想性と「セルフ-X」, TRIZホームページ, 2002年3月

*2:  (E) は英文, (J) は和文を示す。
 

著者について:
 

中川  徹:  現職: 大阪学院大学情報学部教授。1997年5月に初めてTRIZに接して以来, 当時在職中の富士通研究所においてTRIZの導入に努めた。1998年4月に現職の大学に移り, TRIZを日本の産業界と学界に導入することに努力している。1998年11月に公共的なWWWサイト『TRIZホームページ』を創設し, 編集者を勤めている。特に最近は, TRIZのエッセンスをやさしく実現するUSITの普及を進めている。 -- 1963年に東京大学理学部化学科を卒業後, 同大学院博士課程で学び (1969年理学博士), 1967年に東京大学理学部化学教室助手。物理化学の研究, 特に, 高分解能分子分光学の分野で実験と解析を行った。1980年に富士通株式会社に入社し, 国際情報社会科学研究所にて, 情報科学の研究者として, ソフトウェア開発の品質向上の研究などに従事した。その後, 同研究所, さらに富士通研究所企画調査室において研究管理スタッフとして仕事をした。  E-mail:  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp

古謝 秀明:  1981年慶応大学大学院応用化学科修士過程修了, 同年富士写真フィルム株式会社に入社。磁気記録研究所で磁性体と無機添加剤の研究をし, 1989年より生産技術部でVE (Value Engineering) の推進を担当。1997年にTRIZ, 1999年にUSITを学び, 2000年に三原と共にUSITの社内トライアルプロジェクトの推進を開始した。現在までに20数件の社内USIT実地適用プロジェクトを指導した。Email: hkosha@ashi.seigi.fujifilm.co.jp

三原 祐治:  1946年生まれ, 1971年北海道大学大学院化学専攻修士課程修了, 同年富士写真フィルム株式会社に入社。同社足柄研究所にて, 感光材料の基礎研究, 商品開発を経て, 現在, LAN管理およびTRIZ/USITの普及を担当。TRIZを1998年に学び, 2000年に中川のUSIT3日間トレーニングセミナーでUSITを習得。2000年より, 社内でTRIZ/USITの適用プロジェクトを推進し, USIT教育を行う。また, 2000年と2002年に三菱総合研究所知識創造研究会創造手法分科会の主査を勤める。Email: yuuji_mihara@fujifilm.co.jp


 
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最終更新日 : 2002.11.19    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp