TRIZ/USIT 論文: TRIZ シンポジウム 2009論文
コード・ケーブルを絡まなくする方法: 諸事例の体系的分類による考察
中川 徹、伊藤 智之、塚本 真庸  (大阪学院大学)

日本TRIZ協会主催 第5回日本TRIZシンポジウム、2009年9月10-12日、国立女性教育会館、埼玉県比企郡嵐山町

掲載:2009.11.23

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編集ノート (中川 徹、2009年11月22日)

本論文は、大阪学院大学での卒業研究 (伊藤智之 2007年1月、塚本真庸 2009年1月) をベースにして、その後の発展を含めて中川がまとめたものです。

第5回TRIZシンポジウム (2009年9月10-12日) で、オーラル発表をしました。本和文ページには、そのときの和文論文のHTML版、和文論文PDF、和文スライドPDF を掲載します。また、英文ページには、英文論文のPDF 版、英文スライドPDF 版を掲載します。

なお、基本的に同一の論文を、ETRIA TFC 2009 (2009年11月5-7日、ルーマニア Timisoara ) でも、発表しました。このとき、査読委員のコメントを受けて、概要と序論の一部を推敲しました。そこで、英文ページには、このETRIAでの発表論文の、英文論文のHTML版、英文論文PDF版、英文スライドPDF 版を掲載します。

(6月〜7月が両方の学会の論文原稿提出時期になり、TRIZシンポジウムの開催準備とも重なっていましたので、同一論文を発表させてもらいました。TRIZシンポジウム2009 が初出、ETRIA TFC 2009 が改良版ということで、両者に意義がありますので、わずかの違いですが、上記のように両方を掲載・記録しておきます。)

目次:

1. はじめに

2. 事例の収集

3. 分類と体系化のための準備の考察

3.1 何が問題なのか?
3.2 問題が起きる原因は何か?
3.3 解決策の諸方法のボトムアップの整理
3.4 システムの単純化と基本観点の導入

4. コード、ケーブルを絡まなくする方法の体系

4.1  (A) 一本のコード、ケーブルについて、長さを調節し、絡まなくする
4.2  (B) 複数のコード、ケーブルについて、束ねる、まとめる、統合する
4.3  (C) 機器とコード、ケーブルの接続部を標準化し、着脱容易にする。また接続機能の小モジュールを使う。
4.4  (D) 機器の機能、構造、方式、配置などを見直し、コード、ケーブルをシステム内外に収納する。

5. 考察

5.1 体系的に分類することの意義
5.2 問題の根源
5.3 TRIZ/USITの考え方の利用

参考文献

表1.  コード、ケーブルを絡まなくする方法

 

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[1]  和文論文 (TRIZシンポジウム発表)

コード・ケーブルを絡まなくする方法: 
諸事例の体系的分類による考察

中川 徹、伊藤 智之、塚本 真庸 (大阪学院大学)

概要

コードやケーブルが複雑に絡まって困ることは、家庭でも、事務所や工場などでも広く見られる問題であり、その解決法を考えた。特に本研究では、世の中で広く使われているさまざまな方法やその材料などを広く調査し、それらの事例を体系的に分類することを試みた。ボトムアップでの分類の後に、段階的にスコープを拡大しつつトップダウンで再編成した。その結果、(A) 一本のコード、ケーブルについて、長さを調節し、絡まなくする。(B) 複数のコード、ケーブルについて、束ねる、まとめる、統合する。(C) 機器とコード、ケーブルの接続部を標準化し、着脱容易にする。また接続機能の小モジュールを使う。(D) 機器の機能、構造、方式、配置などを見直し、コード、ケーブルをシステム内外に収納する。という体系を得た。最後に、このような体系的分類の意義を考察した。

 

1. はじめに

パソコンをはじめ、テレビやオーディオ機器のまわりなどで、コードやケーブルなどが複雑に絡み合うのは日常的に見る光景である。それらをすっきりさせる方法を考えたいというのが、本研究の基本的な問題意識である。

このテーマは、2006年初夏に、卒業研究のテーマとして、伊藤智之が提起したものであった。大阪学院大学情報学部の中川ゼミでは「創造的な問題解決のための思考法」を共通テーマとして、TRIZ (発明問題解決の理論) やUSIT (統合的構造化発明思考法) の習得と活用を目指している。卒業研究では各学生が具体的な問題を取り上げて、ゼミでのグループ討論を通じて、その問題解決を図っている。

このテーマに関しても、学生が提起した具体的な事例 (すなわち、自分のデスクトップパソコンの周りのコードの絡まりの問題) ついて、具体的な何らかの新しい解決策/解決の道具を見出すことが一つの可能なやり方であった。しかし、われわれはそのアプローチを取らなかった。

本研究では、コードやケーブルが複雑に絡まって困るという問題は、どこにでもある、非常に広範な問題だと認識して、ずっと広い視野から問題の解決を考えてみるアプローチを採用した。

すなわち、コードやケーブルが絡まって困るという問題状況は、台所でも、事務所でも、実験室でも、工場でも、あるいは装置の内部でも、広く見られることである。問題は古くからあり、非常に広範に見られるから、人々はすでにいろいろな工夫をし、道具や方法を作ってきたに違いない。いろいろなところを調べると多様な解決策があるに違いない。だから、絡まなくする方法を何か一つ考えようとする前に、もっと全体的なことを調べて、考察することが、より有益であろうと考えた。

そこで、本研究で行なったのは、「コード・ケーブルを絡まなくするための方法」として、世の中のさまざまな所で使われている方法やその道具・材料・製品をできるだけ多く集めて、それらを整理することであった。

その整理のしかたが、本研究の焦点である。われわれはさまざまな解決策を、「方法」の観点から、すなわち、「何をどうする」という機能の表現の観点から、分類することにした。

このような解決策を収集した結果と、それらの解決策を分類した結果をここに示す。

そのような分類によりどんなことが新しく分かるのか、そのような分類からなにか新しい解決策の指針が得られるのか、を論ずることが、本研究のより深い目標である。

分類というのは、体系化の基本手段である。分類の観点を明確にすることによって、いま扱っている解決策の体系を明確化できる。分類の観点は、階層的で、多次元的にあり、分類の細部になるとまた新しい観点が必要になる。このような、分類の観点およびそれに対応した分類項目というのは、解決策の方法の新しい問題意識とそれに対応した新しいアイデアを明確化することに等しい。

TRIZおよびUSITが、このような分類に対する新しい観点の導入を可能にし、より深い認識に導いたことを以下に具体的に述べる。

2. 事例の収集

本研究では、「コードやケーブルを絡まなくする」という目的のために使われているさまざまな方法を観察、収集し、そこで使われているもの (装備品、製品など)を集めることを始めた。

この調査は、つぎのような場が典型的で有効であった。

本研究で、コードやケーブルといっているのは、基本的には (内部に) 金属線をもち、電気や信号を通させることを目的としたものを考えている。また、コードの語もケーブルの語もいろいろなものに重複して使われているので、本研究ではコードとケーブルを区別せずに、同義であると考えている。

なお、調査を進めるにつれて、「コードやケーブル」という対象を限定的に考えないで、より広い範囲のものを参考にするとよいことも理解してきた。

すなわち、ワイヤ、ロープ、紐、糸、チューブ、ホース、パイプなど、材質や形状やサイズなどが違うためにいろいろと違う面があるが、複雑になり、絡まりあうという点では同様の問題を持っている。そこで、これらのものを扱うための方法もいろいろ参考にできる。(例えば、漁網のロープを絡まらせずに高速に投入する方法や、消防の放水用ホースの収納のしかたなどを参考にできる。)

また、園芸で植物の茎を支えたり、多くの枝を束ねたりしているのも、問題としては共通した部分がある。そこで、コードやケーブルと言ってすぐに連想される電気や通信といった分野だけでなく、より広い分野での解決策や工夫が参考にできる。

一つ一つの例について、製品の現物、その写真、使用状況、その写真、さらに観察の記録・記述などを作っていった。各件をカード化するように努めて、蓄積した。

つぎに行なったことは、各事例について、より詳しく観察することである。どのような場合に、どのような対象に対して利用するのか。その道具/小物/材料は、どのような仕組みで働き、そのためにどのような構造、形状、材質などを持っているのか。特長、制約、欠点などは何か。その改良版はどのように発展しているのか、などを考えた。

3. 分類と体系化のための準備の考察

上記のような諸事例の収集と分類は、いろいろ手戻りしながら行なったのが実際であるが、それをもう少し整理して述べると、以下のようである。

3.1 何が問題なのか?

USITによる問題解決の手順に従えば、まず、何が問題 (困ること) なのかを、より明確にしなければならない。つぎのような項目がある。

この問題状況を模式的に描くと、図1のようである。

図1. コード、ケーブルが絡まっている問題状況

そこで、解決すべき課題は、概括的には「機器の周りでコードやケーブルが複雑に絡まるのを防ぐ」と表現されるが、その内容は、上記のようなさまざまな問題の解決を含んでいる。

3.2 問題が起きる原因は何か?

上記の問題の原因はつぎのように多様である。

3.3 解決策の諸方法のボトムアップの整理

多くの事例を集めてきた段階で最初に行なったのは、各事例の方法を、「何をどうする」という表現でボトムアップに整理していくことであった。伊藤智之の卒業論文 [1] の段階では、その項目の第1階層はつぎのようであった。

これらの第1階層の下にさらに細部の分類がある。

これらはボトムアップの分類だから、第1階層でさえ上記のように12項目あり、体系性・網羅性に疑問が残り、説得性に欠ける点があるのは否めない。

3.4 システムの単純化と基本観点の導入

そこで、もっと説得力のある分類の観点を導入する必要を感じた。そこで導入したのは、システムを模式的に考え、単純なものから順次積み上げていく思考である。すなわち、整理すると、つぎのような4段階のスコープで問題のシステムを考えるとよいことが分かった。

A.  (二つの機器をつなぐ) 一本のコード、ケーブル

B.  (いくつかの機器をつなぐ) 複数のコード、ケーブル

C.  (いくつかの機器をつなぐ複数のコード、ケーブルにおいて) 機器とコード、ケーブルとの接続部

D.  複数の機器をつないでいる複数のコード、ケーブルからなるシステム

上記のA〜C の段階において、( ) 内のものには注目していないことが、ここで重要なことである。すなわち、A では、一本のコード、ケーブルだけを取り出して考察し、 (複雑なシステムの中で) コード、ケーブルの絡まりをなくすための工夫をしようと考える。

これら段階的な思考を模式的に以下に示す。

A. 一本のコード、ケーブルでの改良

図2に、問題の状況に対する第一段階のスコープとその解決策の方向を図式的に示した。ここで機器を点線で表しているのは、それに注目していないことを示している。

図2. スコープA: 一本のコード、ケーブルとその改良の方向

一本のコード、ケーブルに対する解決策の方向は、コード、ケーブルの長さが調節でき、無駄な長さがなくなって、絡まなくなることである。それには、伸び縮みする、巻き取る、折り畳んで短くするなどがある。また、絡まりやすい性質 (くにゃくにゃ曲がるなど) を無くすことも、一法である。なお、長いコードを短いコードに置き換えるといった解決策もあるが、それはコードと機器との接続が容易に着脱できること想定しており、Cの段階に回す。

B. 複数のコード、ケーブルについての改良

第二のスコープは、(いくつかの機器を接続している) 複数のコードやケーブルを対象として扱う場合である。その状況、および解決策の方向を図3に示す。

図3. スコープB: 複数のコード、ケーブルとその改良の方向

この解決策の基本方向は、近接し、並行して (あるいは逆並行に) 走っている複数のコード、ケーブルを束ねることである。この方法は、コード、ケーブルに沿って何箇所か束ねる、ある距離に渡って束ねまとめる、そして、複数のコード、ケーブルを統合したコード、ケーブルにするというように発展する。

なお、ここで、束ねたものをどこかに固定する、コードやケーブルの配置を整理するといった解決策も出てくるが、それは機器 (の配置) を含めたシステム全体のスコープが本質であると考え、後のスコープD に回した。

C. 機器とコード、ケーブルの接続部の改良

第三のスコープは、機器とコード、ケーブルの接続部に関するものであり、ここでの接続の着脱の容易さを確保することにより、問題を解決していこうとするものである。その模式図を、図4に示す。

図4. スコープC: 機器とコードケーブルの接続部とその改良の方向

この解決策の基本的な発想は、機器とコードやケーブルとの間の接続部を標準化し、着脱を容易に、交換を容易にしようとするものである。この接続部は、一般にコネクタと呼ばれており、その標準化や改良の努力が広くつづけられている。これらを積極的に用いて、システムをモジュラーに構成し、柔軟性、拡張性などを確保することが大きな方向である。また、接続機能に特化し、小規模な追加機能 (スイッチ、多分岐など) を加えた小モジュールの利用も薦められる。

D. いくつかの機器とその間のコード、ケーブルとをシステムとして検討する

いままでは、一つ、あるいは複数のコード、ケーブルについて、そしてそれらと機器との接続部について、部分的に焦点をあてて検討してきた。この第四のスコープでは、問題としているシステムの全体を取り扱う。この状況と指針の例を図5に示す。

ここでは、A〜C の扱いをした上で、あるいは A〜Cの扱いを前提にしつつそれらよりも先行して、機器の機能や構造や配置を検討し、それに応じてコード、ケーブルの全体配置を決定、調整する。

解決策の指針としては、まず問題となるシステムの機器を機能、構造、配置などの面から再検討することである。一つの機器を、他の機器に併合する、統合するとよい場合があり、あるいは一つの機器を分割したり、一部を取り出したりするとよいこともある。これらの機器全体を一つのシステムとして再構成、再配置し、あるいは一つのユニットとして移動容易にすることもある。

図5. スコープD: いくつかの機器とその間のコード、ケーブルとをシステムとして検討する

もう一つの重要な観点は、コードやケーブルなどによる接続の方式を変えることである。現在の技術におけるその焦点は、電波または赤外線などを使った無線であり、物としてのコードやケーブルを無くすことである。電池などを使って電源線を無くすことは、機器の再編と併合の例とも考えられる。

さらに典型的な方法は、どうしても必要な (そして複雑な) コードやケーブルを、システム内および周りに適切に配置、固定し、特に人間が活動する領域から隠して、見えなくし、あたかもなくなっているかのように見せることである。この方法は、装置内部に収めたり、デスクの下や後ろに収めたり、床下、天井裏、共同ダクトなどに収めたりして、広範に使われている。

4. コード、ケーブルを絡まなくする方法の体系

前節の考察をベースにして、収集した諸事例を再整理し、また考えられるいろいろなケースを追加して、「コード、ケーブルを絡まなくする方法の体系」を作った。その結果を次頁の表1に示す。

この表1の結果は、スコープを段階的に拡大して考察したために、さまざまな方法の位置づけが明確になり、それだけ体系性ができ、網羅性ができている。また、いくつもの重要な方向性を指摘できた。それらの多くは、すでによく知られており、使われている技術であるが、それらを「コード、ケーブルを絡まなくする」方法の中に適切に位置づけたことに意義がある。以下にその方向性のいくつかを指摘しておきたい。

4.1  (A) 一本のコード、ケーブルについて、長さを調節し、絡まなくする

「伸び縮みさせる」(A1) ことは、実際には電話コードのらせんのような形での実現であり、その伸縮率は大きくない。長いものと短いものを取り替えることは、着脱が用意でないとできないことであり、(C1) で扱う。

余分の長さをコンパクトに収納することが、より実際的であり、巻き取り(A2)または折り畳み(A3)がよく使われる。金属線を内蔵するコードやケーブルでは、鋭く折り畳むことはできないから、折り畳み式ではあまり整然とした形にならない。巻き取り式がしばしば使われるが、とぐろを巻く形式にするとねじれが生まれる。そこで、逆回転を取り入れるために、コードの途中を掴んで両方向に同時に巻き取っていくやり方が (細いコードの場合に) 採用されている。

図6. 巻き取り式の例とその内部構造の模式

もう一つは、8の字の形に巻くことである (漁網のロープの巻き取り方)。これは比較的太いコードで、局所的に曲がらない(A4) 場合にも適用できる。ただ、8の字収納を自動化した小型の装置をまだ知らない。

4.2 (B) 複数のコード、ケーブルについて、束ねる、まとめる、統合する

複数のコード、ケーブルを処理する最も普通の方法は、 束ねて、ばらばらにならないように止めること(B1) である。簡便だからさまざまなもの (ベルト状のもの) が作られ、使われている。一箇所、あるいは複数箇所で束ねるだけでなく、ある距離に渡って束ねること(B2) が適切なこともある。

ここで面白いのは、弾力性のあるプラスチック製のらせん形のベルトである (図7) 。らせんが閉じていないからコードの束に横から取り付けることができ、自分の弾力性で保持し、束ねる太さも距離も自由に調節できる。

図7. コード、ケーブルを束ねる方法の例

複数のコード、ケーブルをまとめて一体化する(B3) のも大事なことである。電源コードの2本の線が横にくっつけてあるのは常識である。数十本の信号線をよこに並べてくっつけたベルト状の配線が、筐体内などで使われている。さらに複合させて、多芯の、重層化したコードやケーブルが多く使われる。USBケーブルで電源線を取り込んでいるなどの例を、今後も参考にしていくとよいと考える。

4.3 (C) 機器とコード、ケーブルの接続部を標準化し、着脱容易にする。また接続機能の小モジュールを使う。

接続部に標準化したコネクタをつけて、着脱容易にすること (C1) は、もちろんよく使われている方法である。機器にコネクタをつけ、コード、ケーブルの両端にもコネクタをつける。これによって、機器の取り替えが容易になり、適切な長さのコード、ケーブルを使って、配線の整理も容易になる。

このコネクタをベースにして、接続機能に特化し、少しの付加機能を備えたモジュール (C2) がさまざまに作られていて、便利になっている。例えば、電源用のテーブルタップは、多分岐、スイッチ(オン/オフ)、雷防止フィルタなどの付加機能を取り込んでいる。

図8. 多分岐接続モジュールの事例

またこれらのモジュールの構造で特に空間配置に多様性、融通性をもたせること (C3) も、実際的で大事なアプローチである。

4.4 (D) 機器の機能、構造、方式、配置などを見直し、コード、ケーブルをシステム内外に収納する。

これは複数の機器と多数のコード、ケーブルを含めたシステム全体を考えるアプローチである。単純にコードやケーブルが絡まるのを防ぐという発想ではなく、もっと根本的にシステムを改良すると、コードやケーブルの問題が根底から解決できることがある。

一本のケーブルで多重の通信を行なうマルチプレクサ方式 (D1) もこの範疇である。システムの主要機器を固定し、ユニット化して、その中でコード、ケーブルの配置を最適化する (D2) とよい。配置を設定した上で、コード、ケーブルを要所で固定する(D3)。

無線の方式を採用して、コードやケーブルでつなぐのをやめる(D4) のは、現在の技術の発展方向である。

さらに、以上のさまざまな対処をした上で、どうしても残ってくるコードやケーブルを整理し、システム内やデスクの下部、床下 (フリーアクセスフロア) の配線などにして、邪魔になるコードやケーブルを隠して見えなくすること (D5) も広く行なわれている。

5. 考察

5.1 体系的に分類することの意義

以上のように、本研究では、最初は茫漠としていた「コードやケーブルを絡まなくする方法」というテーマに対して、事例を集めてそれを (ボトムアップに) 整理し、さらに問題解決のプロセスを取り入れつつ、考察する観点の枠組みを明確にし、段階的に拡大することによって、方法の体系を (トップダウンに) 明確にすることができた。

このような方法の体系を整理したことのメリットの一つは、いろいろな技術の発展の方向を共通のものとして理解することができることである。そのような理解を持っていると、新しい、面白い製品に出会ったときに、その本質をよりよく理解することができる。そして、そのような理解は自分の問題での新しい解決策を考え出すバックグランドを培うことになる。

例えば、電源用のテーブルタップは、一つの供給元 (例えば壁のコンセント) から電力を一本のケーブルでもってきて、分岐した多数の供給元を作っている。もとの所から個別にケーブルでもってくると多数必要で絡まりあってしまうから、ほぼ共通の所までを1本のケーブルにしてその後で多数に分岐しているのが一つの智恵である。下記の図に示すものは、この考え方で共通のものだと理解できる。

図9. 多分岐接続モジュールのモデルとその種々の実現例

5.2 問題の根源

さて、今回リストアップした「コードやケーブルを絡まなくする方法」は、その基本的な考え方のレベル (例えば、表1の体系の第2階層 (A1、B2など)) はよく分かっており、また具体的な商品も多く出回っている。しかし、それでもなお、われわれの周りで多くのコードやケーブルが複雑に絡まる状況が続いているのは、なぜだろうか?。

例えば、電源コードの絡まりを防ぐには、電源コードを短くしておき、必要に応じてコネクタを活用して延長することが考えられる(C1、C2)。

コネクタに対しては、互いに矛盾した要求がいろいろある。すなわち、繋ぎやすいことが基本的な要求であり、(電気・信号などが) 確実に繋がり、かつ、誤った繋がり方が起きないことが必要である。しかし、それと同時に、外しやすいことが必要である。それでいて、勝手に外れてはいけないという要求がある。これらの矛盾した要求を解決した具体的でコンパクトなものが要求されている。

電源コードのコネクタにも、いろいろな工夫が施してあると同時に、上記の要求に十分答えていない点がある。そのため、コードの中間でのコネクタ接続は「不必要には行なわないのが賢明だ」とみなされている。  

装置の多くは、2〜3m の電源コードを備えている。多くの場合に、通常設置されている状況では、コードが1〜2mの余裕をもち、装置の後ろで遊んでいて、複雑に絡まる原因を作っている。保守のために動かすには、余裕が要る。装置の配置替えをすると余裕が要る。コンセントから遠い場合を考えて余裕が要る。いろいろな顧客の状況を考えると長さに余裕が要る。

このようなことから、1〜2mで良いはずの電源コードは2〜3m に設定され、短い電源コードにはほとんどお目にかからない。短い電源コードの場合にはいざというときに延長コード (テーブルタップなど) が要るが、それがいつもある (常備されている/持ち歩いている) とは限らないのが大きな難点だからである。

結局のところ、われわれは将来の変化に対応できるためのゆとりとして、コードやケーブルの長さに余裕をもたせることを選んでおり、それが余分の撓みになり、とぐろを巻き、複雑に絡み合う原因になっているといえる。

5.3 TRIZ/USITの考え方の利用

今回のアプローチは、TRIZやUSITの具体的な方法を使ったという事例ではないが、その考え方は随所に活用されている。例えば、

なお、技術のいろいろな現場では、多くのノウハウがあり、その一部は記述されているだろう。非専門家であるわれわれは、そのような文献や仕事を参照できなかった。この点の不十分さはご容赦いただきたい。

参考文献

[1] 伊藤智之「創造的問題解決の思考法の適用事例:コードやケーブルを絡まなくする方法」、大阪学院大学情報学部卒業論文 (2007年1月)

表1. コード・ケーブルを絡まなくする方法の体系

A. 一本のコード、ケーブルについて、長さを調節し、絡まなくする
  A1. 伸び縮みして長さを調節する 入れ子、ゴムのように
A2. 巻き取って、長さを調節する らせん式、巻き取って収める、本体に巻きつける、8の字巻き
A3. 折り畳んで、長さを調節する コードを折り畳んでまとめる、蛇腹式
A4. コード、ケーブルの絡まりやすい性質をなくす 局部的に折れ曲がらないように、ねじれが残らないようにする
B. 複数のコード、ケーブルについて、束ねる、まとめる、統合する、止める、整理する
  B1. 複数のコード、ケーブルについて束ねる 束ねて、ねじる。結ぶ。引っ掛ける。あなにはめる。くっつける。枠に入れる。
束ねて、弾力性で自ら閉じている。らせん形で弾力性があるもので止める。巻きつけて止める。
B2. 複数のコードやケーブルを、長い距離に渡って束ねて止める 長い距離に渡って、束ねて、枠に入れる。らせん形で弾力性があるものに入れる。巻きつけて止める。
B3. 複数のコードやケーブルを、まとめて一体化する、統合する 三つ編みにする。互いに巻きつける。互いに側面でくっつける。
複数のコードやケーブルを統合して、新しいコード、ケーブルとする (複合ケーブル。多芯ケーブル)
C. 機器とコード、ケーブルの接続部を標準化し、着脱容易にする。また接続機能の小モジュールを使う
  C1. 機器およびコード、ケーブルの接続部を標準化し、着脱容易にする 機器の接続部に標準化したコネクタをつける。
コード、ケーブルに標準化したコネクタをつける。
C2. 接続機能に特化し、別機能を付加した小モジュールを使う スイッチ (オン/オフ)、スイッチ(切り換え)、多分岐、アダプタ、フィルタ、ねじれ取り
C3. 接続部や接続機能モジュールの形(空間配置) を使い分ける 縦型と横型、真っ直ぐ型と折れ曲げ型、自由度のある型
D. 機器の機能、構造、方式、配置などを見直し、コード、ケーブルをシステム内外に収納する
  D1. 機器の機能、構造などの面を見直し、機器の併合、統合、分割、分離などを検討する 複数のコードやケーブルの機能を統合して、一本に (マルチプレクサ通信方式)
D2. 機器およびコード、ケーブルの配置を見直し、全体をユニット化したり、最適化したりする  
D3. 機器およびコード、ケーブルの配置を整理し、設定した上で、コード、ケーブルを止める、固定する 複数のコードやケーブルを、その経路に応じて、整理する
空間における配置、配線ルートを立体的に設定する、変える
装置内あるいはシステム内の基板、台座、主要部品、などに止める、固定する。
デスク、床、壁、天井、などに止める、固定する
D4. コード、ケーブルを無くして、見えなくする コード、ケーブルを基板に埋め込む。複数装置を一体化する。電池を使う。
機器間の通信を無線にして、コードやケーブルをなくす
D5. 複雑なコード、ケーブルの配線を隠して、見えなくする シャーシの中に。配線部をボックス内に。デスクの下や後ろに。頭上から配線。
床下配線。天井裏に。配管・配線用ダクト。共同配管・配線溝。

 

 

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最終更新日 : 2009.11.23    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp