TRIZフォーラム: 通信: USITトレーニングセミナー
USIT法トレーニングセミナー(3日間)の試行報告(2)
 中川  徹 (大阪学院大学) 
  2000年 2月 8日 
  [掲載: 2000. 2. 9 ] 
  [英訳(中川)を掲載: 2000.3.23]
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はじめに

1月末の 3日間, 下記のようにUSIT法のトレーニングセミナーを行った。

    名称 :  「USITトレーニングセミナー  -- 簡易化TRIZによる創造的問題解決 -- 」
    主催 :  三菱総合研究所 知識創造研究部
    講師 :  大阪学院大学  教授  中川  徹
    日時 :  2000年 1月26日(水) 〜 28日(金)  (3日間)
    場所 :  三菱総合研究所 2階大会議室 (東京・大手町)
    参加者 :  12名 (公募により, 国内諸企業から参加)

国内でのUSIT法のセミナーは, 企業内研修セミナーとしてはすでに 2回の経験をもっており, その第 1回については本ホームページで報告している。今回は, 参加者を公募し, 多様な企業の技術者が参加して, 実地問題で問題解決のグループ演習を行った点で, 新しいものである。

前回のUSITセミナー報告と同様に, 現在は技術的内容を報告することはできないが, 技法およびセミナーのやり方などの一般的なことをまとめて報告しておきたい。なお, この報告は企画と講師をした小生の観点からのものであり, 参加者から別途報告や感想が寄稿されると幸いである。
 

1. セミナー開催の経過

本セミナーの企画は, 昨年10月に小生から三菱総合研究所知識創造研究部の堀田部長に提案して始まった。「TRIZを本当に普及させるには, TRIZの教科書とソフトツールだけでなく, 問題解決の技法の部分を易しく教えることが重要であり, そのためにTRIZを簡易化したUSITをまず普及させることが望ましい」という小生の意見に対して, ともかくUSITをよく知ろうということで企画されたものである。個別企業内での研修でなく, どの企業にも開かれたものを開催して, 理解するための機会を作ることが適当であると考えた。そこでまず,12月10日に三菱総合研究所の知識創造研究会 創造手法分科会で約45人の人達に 3時間の講演をしてUSITの全容を話した。そして, その聴講者をベースにして, 3日間の実習を計画したのが今回である。

三菱総合研究所知識創造研究部が主催して, 参加者の募集をはじめ一切の準備が行われた。多様な企業の技術者が参加し, 実地の問題をできるだけ率直で建設的に議論できるようにすることが最大の課題であったが, 次項に述べるような守秘義務の誓約を全参加者がすることを予めアナウンスし, 参加者の事前了解を求めた。定員15名で参加者を募集し, 12名の参加を得た。
 

2. 演習テーマの持ち込みと秘密保持誓約

本セミナーでは, できるだけ実地の問題を扱って, USIT技法を使って真剣な問題解決を図ることがねらいである。教科書問題 (「正解」が一つあり, それが分かっているという問題) は, どうしてもわざとらしさがあり, 問題の背景がぴんと来ないものが多い。本当に解きたいと思い, 解決策が分からずに四苦八苦している問題を扱うことにより, 技法を身をもって体得したいと考えるからである。

そのためには, 参加者が解きたいと思う実際の問題を持ち込むのがベストである。しかし, 問題を持ち込むことで自分の企業機密が漏れるのは困るし, セミナーで検討した結果が他の参加者 (さらには参加していない第三者)に流れてしまうのではメリットがない。実際の問題を持ち込むとその提案者にメリットがあるようにすることが, 今回のような多数企業が参加して行うセミナーを成功させる鍵であると考えた。

これに関連して, 「TRIZの普及を妨げている矛盾」の存在の認識があった。それは, 「初心者がTRIZを習得するには, 優れた事例を学ぶことが大変有効である」が, 「(企業内の事例は) 優れた事例であればあるほど公表されない」, だから, 「初心者は優れた事例を学ぶ機会がなく, 初心者のままに留まる」。

この矛盾は, TRIZが西側に渡って以来顕著になったものである。「優れた事例が公表されない」のは米国において最も顕著である。ただ, 米国には, ロシアから移住した沢山のTRIZ専門家がおり, またすでに多数の米国人TRIZコンサルタントが育っている。彼らからの直接の指導を受けることにより, 米国の企業技術者たちは公表されたTRIZ事例がなくても, TRIZを習得する道をすでに持っているのである。

ところが, 日本においては, TRIZ専門家がまだあまり育っておらず, 直接の良い指導を受ける機会が少ないから, 「公表されている優れた事例が極めて少ない」現状では, TRIZ初心者が技法を習得できる機会が少ない。その意味で, 上記の矛盾は日本において (米国よりも)一層顕著であると考えられる。日本国内で優れた事例を作り, それが公表されるしくみを作ることは, 日本におけるTRIZの普及のために大事なことである。

これらのことを考えて今回新しくつくったセミナーのルールが, 下記の要点の「秘密保持誓約書」である。その土台には, 大岡越前守の「三者一両損」の智恵があるのを読み取っていただきたい。

「秘密保持誓約書」の骨子:

     以下の事項を, 研修参加者の全員, 講師, 事務局参加者が, 署名・誓約した。

1. 問題提案者は、企業機密に直接的に係わる問題は持ち込まない。問題テーマは、参加者が企業機密の開示を要求されず、企業機密を開示しないでも技術的問題を突っ込んで議論できるようなテーマとし、このような問題を提案する用意があることを、参加の条件とする。

2. 本研修で実際に扱う問題は、参加者が持ち込んだ問題を基本として、本研修の場で調整する。

3. 参加者(講師・事務局を含む)は、他の参加者が持ち込んだ問題の技術的詳細と討論成果に対して、本研修終了後 6ヶ月間の守秘義務を負う(自社内の報告も禁止)。

4. 参加者は、本研修による成果の取扱いに関し次の事項に同意する。

(1) 問題提案者(とその所属企業)に、本研修終了後6ヶ月間の独占的使用権を認める。問題提案者は、この間に特許申請などの処置をとることができる。ただし、本研修の成果に関わる権利の全部または一部を第三者に譲渡してはならない。

(2) 問題提案者以外の参加者(講師・事務局を含む)の発想・発案が上記の成果に重要な寄与をした場合には、「発明者」として氏名を連名・明記する。ただし、このような参加者は、「発明」の権利を一切、問題提案者とその所属企業に譲渡し、対価を請求しない。

(3) 本研修終了後6ヶ月が経過した後は、参加者(講師・事務局を含む)は、問題の技術内容も含めて、本研修の中身を報告 ・公表 できる。ただし、公表に際しては、問題提案者に事前の了解を求め、不必要な情報を開示することがないように配慮する。

(4) 本研修終了後 6ヶ月が経過した後は、本研修の成果を参加者(講師・事務局を含む)が自己使用すること、特に、本研修の成果をベースにしてさらに発展させることは、自由とする。


この誓約書の骨子は, 募集段階で明示され, 各参加者は事前にこれを了解の上で申込んだ。また, セミナーの最初の30分でこの趣旨を再度説明した上で全員が誓約書に署名した。

本報告ももちろんこの秘密保持誓約に基づき, その範囲内で記述しているものである。
 

3.  問題の選定

実際に扱った問題 4件は以下のようにして, 参加者全員の合意のもとに選択された。

(1) 参加者全員から, 提案する問題が事前にA4 一枚の説明書として事務局に提出された。

(2) セミナー初日の午後の最初に, 各人 4分の持ち時間で, 自己紹介と提案問題の説明を行った。

(3) 講師は, 「問題を選択する上でのポイント」をつぎのように説明した。
        切実な問題であること。 それを解決すると大きな利益が得られること。
        その問題に対する技術的知識を提案者本人が持っていること。
        その問題に対する一般的・技術的バックグランドが他の参加者にあること。
        問題の焦点がある程度明確であること。問題間の分野のバランスが取れていること。

(4) 講師は, 取り上げる件数として, 4件 (±1件)が時間的/人数的に適当であろうと述べた。

(5)  「ぜひ問題を取り上げて欲しい」と思う人に挙手を求めたところ, 3名が挙手した。

(6) 各参加者に 2票を与え, 他の参加者のテーマで自分が参加しても良いと思うものに挙手投票した。
        その結果, 5票1件,  4票 1件, 3票 2件となり, 2票はなく, 残りテーマは1票または0票であった。

(7) そこで, 3票以上のもの 4件を採用することとなった。 上記(5)の3件はすべてこの中に含まれていた。


 選定された問題は, つぎの 4件である。問題提案者(○印)とグループ演習のメンバを下記に示す。

 A.  成形品をリサイクルのために選別しやすく破砕する方法
             ○ 今井 高照,  川嶋浩暉, 片岡敏光
 B.  洗浄液中の微細な泡を無くす方法
             ○ 高山 明,     三原 祐治, 飯村満男
 C.  大電力半導体基板を熱歪みなく効率よく冷却する方法
             ○ 澤谷 賢二,  福澤英司, 前田繁幸
 D.  電子機器の発熱を自然空冷により効率よく放出する方法
             ○ 上野浩輝, 小永田正一, 大久保泰宏
なお, 参加者12人のうち 8人は三菱総研知識創造研究会のメンバで, TRIZを良く知り, USITについても講演やホームページでの予備知識を持っていた。一方, 残り 4名は比較的最近TRIZを知り, 学習を始めた人達であった。
 

4. セミナーの目標

技術革新のための創造技法TRIZの精神を学び, 特にコンセプト生成段階のために簡易化されたUSIT法のプロセスを, 講義と実地問題での共同演習を通じて, 学習・体得する。
 

5. プログラムの概要

実施したセミナーのプログラム時間割は以下のようであった。
 

第 1日:
  10:00 - 10:30     導入: 本セミナーのやり方について   秘密保持誓約書の署名
   10:30 - 12:40     講義(1) TRIZの概要  (50分),  講義(2) USITの概要 (70分)

   13:30 - 14:30     参加者自己紹介・持ち込み問題の説明,  演習実施テーマ 4件を選定, グループ編成
   14:30 - 15:20     小講義(3) USITにおける問題定義ステップ (50分)
   15:30 - 17:00     グループ演習(1) 問題定義  (4グループ並行, 各グループ 3人) (90分)
   17:00 - 19:00     グループ演習の発表・指導・討論 (各グループが全員に, グループ持ち時間30分)

第 2日:
     9:00 -   9:50     小講義(4) USITの問題分析ステップ (その1: 閉世界法) (50分)
     9:50 - 11:10     グループ演習(2) 問題分析 (その1: 閉世界法)  (80分)
   11:10 - 12:30     グループ演習の発表・指導・討論 (各グループ持ち時間20分)

   13:30 - 14:10      小講義(5) USITの問題分析ステップ (その2: Particles法と空間・時間特性分析) (40分)
   14:10 - 16:10     グループ演習(3)問題分析 (その2: Particles法と空間・時間特性分析) (120分)
   16:10 - 17:30     グループ演習の発表・指導・討論 (各グループ持ち時間20分)
   17:30 - 17:45     小講義(6) USITの解決策生成ステップ (15分)

   18:00 - 20:30     懇親会

第 3日:
     9:00 - 10:40     グループ演習(4) 解決策生成 (その1)  (100分)
    10:40 - 12:00     グループ演習の発表・指導・討論 (各グループ持ち時間20分)

    13:00 - 14:30     グループ演習(5) 解決策生成 (その2: 吟味と発展) (90分)
    14:30 - 15:30     グループ演習の発表・指導・討論 (各グループ持ち時間15分)
    15:30 - 15:45     小講義(7) TRIZ/USIT
   15:45 - 17:00     総括討論 (60分), アンケート記入(15分), 閉会


この時間割は, Sickafus博士のセミナーと小生の企業内研修セミナーの経験をもとにして, 少しずつ改良・適応したものである。そのポイントは以下のようである。

(a)  講義による座学よりも, 実際の問題解決による体験的学習に重点を置く。(特にTRIZ導入の経験が浅い日本では) セミナーは (講師が教えるものよりも) 参加者全員で作るものである。

(b)  第1日午前の全体的な講義の後は, USITの問題解決のステップに従って順次セッションを構成している。すべての問題に対してUSITの二つの問題分析法 (閉世界法とParticles法) の両方を順次適用し, また, 解決策生成ステップを 2セッション使っているのが今回の特徴である。これは, 異なる企業からの参加者が問題を理解するのに十分な時間をとる必要があると考えたためである。

(c)  各セッションは, そのステップのやり方を説明する小講義, グループに分かれた演習, およびグループ発表から構成する。特に, グループ発表は, 各グループの適当な一名が全員に対して説明を行い, 講師による指導,および全員による討論を行う。

(d)  問題は実地問題を扱い, 4件の問題を並行して解決を図る。全問題は2日半の間ずっと継続して検討する。

(e)  各参加者は一つの問題のグループに属する。各グループは, 問題提案者を含め 3名で構成。グループ内の運営はグループに任されるが, メンバは基本的に対等である。発表担当者も適宜交替した。

(f)  各参加者は自分が属したグループの問題の解決を図るとともに, 他のグループによる発表の討論に参加することにより, 全 4件のすべての問題について並行して学習する。このような並行学習は, 自分たちのグループの問題解決にも直ちにフィードバックでき, 良い効果を持った。


6. 講義の資料

USIT法の講義資料は, Sickafus博士の教科書やセミナー資料を参考にして, 中川が作成したものである。その素材の多くはすでに本ホームページで順次紹介してきている。

なお, 参加者の一人, 川嶋浩暉氏がUSITのワークシートを自作して試用しておられた。非常によく配慮されたワークシートであり, 感激した。今後さらに試用・改良して定着できるとよい。
 

7. USITの各ステップの共同演習の状況

USITの問題解決のプロセスは, いままで紹介しているとおりであるが, 分かりやすいように, その全体のフローチャートを掲げておく。共同演習の具体的な進め方や, USITのプロセスに対する研修参加者の反応状況は, 大筋において昨年に報告した企業内USIT研修と同様であった。ここでは, くりかえしを避けてできるだけ簡単に記しておく。
 
 

7.1 問題定義のステップ

問題定義の中心は, 問題設定の短い文 (1〜2行)を書くことである。これは, 一見簡単なことであるが, この問題定義によって, あとの全過程の方向が決まってしまうから, 非常に大事なステップである。問題を捉えるレベル, すなわち, 問題を解決しようとするレベルをどこに設定するのかが, 最も本質的な判断を要するところである。

実際, ほとんどの問題提案者は, 自分が事前に提出したA4一枚の説明書で問題設定ができていると思っていた。しかし, セミナーでの演習の中で, それぞれが焦点の当て方を変えていくべきことが分かった。各グループの対応は非常に違ったものであった。

 ・  一つのグループでは,問題定義ステップの最中に新しい問題設定が明確になり, 問題提案者がそれに柔軟に対応できたので, セミナーの全過程がつぎつぎと生産的に進んで行った。

 ・  別のグループは, 問題提案者の説明と方針を聞いてそれに従っていろいろと困難な問題を乗り越えるアイデアを出していったが, 第 3日の昼前になって, ひょっこり飛び出したアイデアがそれまでの目標を全く不必要にすることが分かった。今回の演習としてはそれまでの方針でともかくまとめることにしたが,問題提案者はこの新しいアイデアを採用し, 今後もう一度振り出しから検討する決心をした。

 ・  また, 別のグループは, 現在のシステムの制約を強く意識し, その枠内での解決を図ろうとしたために, 同分野の専門家が集まったグループであったが (あったために?), 最後まで斬新なアイデアを出すことができずに苦しんだ。

このような状況は企業の実際の問題においてもしばしば起こることであろう。問題設定のいくつもの選択肢を明確にすることはUSITでできるが, そのうちの何が本質であるかを判断する力は, 市場や技術の動向を大きく判断する「マネジャー」の素養に属すると思われる。

7.2 問題分析のステップ

問題分析の第一の方法である「閉世界法」は, 改良しようとする現在のシステムの本来の設計意図を「オブジェクト, 属性, 機能」の概念を用いて表現することから始める。TRIZの物質−場分析をはじめ,VEなどいろいろな技法でシステムの機能の分析が行われているが,USITの「閉世界ダイアグラム」の記述は明確な定義に基づき,システムのエッセンスだけを描こうとする。ただ,この明確な定義をうまく使いこなすためには, いろいろな記述例を見ることが必要であり, 事例の蓄積が必要になっている。また, 本来の設計意図だけでなく, 現在問題となっている点をも表現したいという要求があり, その表現法は今後の研究課題として残っている。

「閉世界法」の中の後半のサブステップである「定性変化グラフ」の記述において, 縦軸に選ぶ量の選択が大事であることが分かってきた。Sickafusの方法では, 「問題となっている (悪い) 効果」を選択しているが, (いくつかの事例で記述して分かったのは) それと同時に「システムの本来の機能」を縦軸に選んだ同じ形式のグラフをも併用するのがよい。これらの2種の縦軸は, 分析の中で常に同時に考慮すべきことだからである。

[なお, 「閉世界ダイアグラム」と「定性変化グラフ」に関しては, イスラエルのSIT法を起源としていること, そして, イスラエルのSIT法では独自の意味づけを持っていることを, 小生は最近知った。 この点に関しては, 近日中にイスラエルのDr. Horowitzらの論文を和訳・紹介することを計画している。]

USITの問題分析の第二の方法である「Particles法」については, 参加者の多くが, 使いやすく, アイデアが豊富に出てくると評価した。理想解をはじめにイメージし, 「任意の行動ができ, 任意の性質を持つ魔法のParticles」に託する形で, その実現法をブレークダウンしていく方法である。AltshullerのSmart Little People法をSickafusが改良したものである。

「空間・時間特性分析」 (SickafusのUniqueness分析) は, 実施する度にその有効性の認識が増大してきている。空間および時間を表わす横軸を適切に選んで記述したグラフは, 非常に雄弁であり, 多くのことが再認識できる。ただ, その「横軸」の選択はケースごとにさまざまであり, いまのところは分析者の洞察に依存している。この分析は, TRIZにおける「物理的矛盾」の解消のための「空間/時間による分離の原理」に通ずるものである。Altshuller自身が, 「技術的矛盾」とその解消のための「矛盾 (解消) マトリクス」を開発した後に, 後年にはあまりそれを強調せず, 「物理的矛盾」とその解消のための「分離原理」に重点を移したと言われていることにも対応するのであろう。

7.3 解決策生成のステップ

今回のセミナー では, 解決策生成ステップを第 3日の午前・午後に渡って継続して行った。 解決策生成技法をさまざまに使ってみて有効性を理解するのに, 1セッションでは短か過ぎると考えたからである。この 2セッションでは, つぎのようなステップを辿ることを意図していた。

まず午前中では, 最初に, Particles法と空間・時間特性分析の結果をベースにして, USITの解決策生成技法 (4種の技法と一般化の技法) を自由に使って, 全体的なアイデアを出す。ついで, 閉世界法の分析結果をも加えて考察し, この段階でグループ発表を行い, 指導・討論する。ついで, 午後に, 吟味段階として, オブジェクト・属性・機能の概念を一層意識して使い, アイデアを広げ, 漏れを無くす。さらに発展段階として, 得られた多数の解決策を簡単に評価し, 有望・重要と思われる解決策 (複数) を選んで, 明確化・補強・副次的問題の解決などを考える。そして, グループ発表をして, 指導・討論・まとめを行う。

実際の研修では, 意図したように技法を使い分けて進めることはなかった。グループのテーマによって, 閉世界法での分析結果のほうが使いやすかったり, Particles法の結果のほうが使いやすかったりしたからである。この段階になるとグループの進行状況の差が顕著になり, 新しいアイデアを求めて四苦八苦のグループがある一方で, 複数のグループでは, どんどん出てくるアイデアを書き留めながら逐次整理・体系化していくような進行状況であった。

USITの解決策生成技法を個別に意識して使うことの習得度がまだ不足していると感じている。このためには,閉世界ダイアグラムのしっかりした記述例を持ち,同時にそれをフルに使って解決策を生成していくことの例示が必要であると思っている。TRIZの多数の技法 (40の発明の原理や76の標準解など)をわずか 4種に圧縮したのがUSITの解決策生成技法であり, その関連を示しつつ, 同時に簡略化したことの効果を見せられるものを作っていきたいと考えている。
 

8. トレーニングセミナーの評価

今回のUSITセミナーは, 小生にとっては 3回目のものであり, 研修用テキストがかなり揃ってきて, 研修の方法も逐次改良され, 定着しつつある。 開始前には, 複数企業からの参加者の即成グループである点で不安があったが, 実際にセミナーを進めていく過程でそれが障害になったことはほとんどなかった。 (秘密保持誓約書のおかげで) 参加者は自由で活発に発言し, 大いに協力的であった。TRIZを社内で推進しつつあるパイオニアの人達が多かったから, 大変有益な議論ができたことを喜んでいる。

グループの編成は基本的に各参加者の希望をベースにして行い, 全グループが他企業のメンバーで構成されている。特にうまく機能したグループは, 参加メンバーが関連はあるが異なる専門を持っていたグループである。問題提案者とは異なる観点から, 異なる専門知識を用いて, 適切な質問やコメントやアイデアがいろいろ出されていた。意外にうまく行かなかったのは, 他企業メンバーではあっても, 専門がかなり近い場合であった。問題提案者がいままで苦労してきている内容が分かり過ぎるために, 思い切ったコメントができないで, 一緒に悩んでしまうような感じがあった。このあたりのことは, 一つの企業の一部門の中だけで問題解決を図ろうとするとより顕著になる恐れがあることである。

各参加者が自分のグループ内で問題解決を図りつつ, 同時に 4件の問題の進行を並行して学び・討論できたことは大いに有効であった。 4件のすべてを各人が理解することができたからである。今回, 問題件数を 4件にしたことは時間配分 (特にグループ発表のための時間の確保) の点からもちょうど良かったと思っている。 (時間的にはかなりきつかった。特に休憩時間を十分取れなかった。)
 

9. 今後の進め方

USITの企業内での利用法は, Dr. SickafusのFord社内での活動が非常に優れたモデルである。Fordでは, 毎月 1回のUSITトレーニングセミナー (3日間)を行い, また常時社内コンサルティングを積極的に行っている。技術部門から持ち込まれた企業の切実な問題について, USITのエクスパートと技術部門の人達とが共同のチームを作り, 週1回程度のペースで4〜5回のミーティングを開き, USITのプロセスに従って問題解決をして報告書を作っている。

このモデルを日本の企業で実施するにはつぎのようにすると良いであろう。 ともかく社内に 1人または 2人のUSIT習得者を育てる。 その人が (または社外専門家の協力を得て) USITの社内教育を (必要とする技術部門の人達を対象に)行う。また, そのUSIT習得者が技術部門の具体的な問題に対して, 技術部門と共同して問題解決に当たる。問題解決のためのチーム (あるいはミーティング)は, USIT習得者 1〜2名 + 技術部門4〜5名程度が良いであろう。技術部門のメンバーは一つの部署のメンバーよりも, 関連する複数の部署からのメンバーで構成し, ある程度異なる技術的背景を持つ人を集めると良い。

なお, TRIZの中でのUSITの位置づけについては, 本ホームページに最近書いた通りであり, つぎの表で表わされる。

 
     TRIZ  = 方法論 + 知識ベース 学習・適用のための素材
方法論(a) 技術を見る新しい見方 TRIZ教科書
方法論(b) 問題解決の思考方法 簡易化技法 USIT
知識ベース 方法論(a)による事例集  ソフトツール (TechOptimizer)
また, 製品/技術開発の中でのUSITとTRIZの位置づけについては, つぎのように考えている。

   (1)  USITは, 問題の所在が明確になり, なんらかの新しい解決策のコンセプトが求められる段階で使う。
           技術の詳細を扱わず, 問題の制約に関しても一旦外して, できるだけ自由に考える。
           ソフトツールなどを直接には扱わない。

  (2)  USITでの解決策生成のアウトラインをベースにして, TRIZによる考察を行う。
           TRIZのソフトツール (TechOptimizerなど)を用いて, 技術の知識ベースを活用して検討する。
           TRIZの技法を要所要所で使ってみる (発明の原理, 76の標準解の適用など)。

  (3) USIT/TRIZの段階の後に, 技術的検討・ビジネス的検討を行う。
           複数の解決策の中から有望・重要なものを選択していく。
           田口メソッドなどの利用も考えるべきこと。この点は最近のKowalickの記事を参照されたい。

  (4) なお, 上記(1)の前に, 「今何が問題なのか, 何が要求されているのか」を考えるステップは別に必要である。
          USITは技術的な問題がある程度明確になってきた段階で使うのがよい。

このようなUSITの位置づけは, TRIZそのものを完全な形で普及させようとするよりもずっと容易であると思われる。

TRIZの専門家が育っていない段階でも, 上記の(2)は独自に試行できるし, 場合によっては, (2)の過程をスキップしてもよい。(USITはTRIZの簡易版であり) TRIZの智恵はUSITの中ですでに十分に活用されているのである。

また, もう一つの方法は, (Ford社の例のように)USITのプロセスを週1回のミーティング形式で行うなら, その期間に並行してTRIZの知識ベースをソフトツールで検索したりして, USITの中での自分の考えを補強・増幅することである。この方法は, 考えるプロセスにはUSITを土台にし, TRIZのソフトツールを技術知識のサポートに使うことを意味する。
 

TRIZおよびUSITを企業で実際にどう使っていくのがよいのか, いろいろな実地の状況の中で今後とも工夫し, 実りの多いものにしていきたいと考えている。今回のUSITセミナーの具体的な事例は, 技術的内容も含めて 6ヶ月後に順次公表していけるようにしたい。
 

参考文献:

[1]  「USIT法研修セミナー参加報告 (講師: Ed Sickafus, 1999 年 3月) 」, 中川徹, 本ホームページに掲載, 1999年 3月
[2]  「USIT法企業内研修セミナー(3日間)の試行報告」 , 中川  徹, 本ホームページに掲載, 1999年 8月

                                               以 上
 
 
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Seminar の報告 (99.3)
国内第1回USITセミナー
の報告 (99. 8)
適用事例
(1)
適用事例
(2)
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最終更新日 : 2000. 3.23    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp