Darrell Mann : ICMM Book  第5章 矛盾

『イノベーション能力成熟度モデル (Innovation Capability Maturity Model (ICMM)) 入門編』

   第5章 (休憩1) 矛盾

Darrell Mann (Systematic Innovation, 英) 著 (2012年、IFRプレス)

中川 徹 和訳(大阪学院大学&クレプス研究所) (2021年 2月 14日)

掲載:  2021. 2.16

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  編集ノート (中川 徹、2021年 2月14日)

 Darrelll Mann の本の第5章です。本ページの記述は第1章と同様で、詳細目次、導入のための簡単な解説、そして本文です。訳文中の、( )は著者の挿入句など、[ ]は訳者の補足です。

本章は、イノベーションを起すための中核である、「矛盾」の問題を定義し解決する方法を、わかりやすく簡潔に説明しています。「矛盾」の問題の扱いに不慣れな人にはもちろん、いままでに学んでいた人にも、驚くほど明快な説明です。


 

 本章の詳細目次

第5章 (休憩1) 矛盾

5.1 問題を定義する方法: 「A or B」 でなく 「A and B」を考える

5.1.1 「A or B」の議論は、問題定義が間違っている     

5.1.2 イノベーションを起す二つの方法: 新しい機能・属性の提供 と 矛盾の解決 

5.1.3 「A or B」でなく、「A and B」の問題定義へ    

5.1.4 「イノベーション能力の旅」における矛盾  

5.2 矛盾の課題を策定し、矛盾を解決する方法: 普遍的テンプレートの利用

5.2.1 テンプレートによる記述法とその意味       

5.2.2 矛盾を解決する方法(1) 「A and not A」の問題を「分離」によって解決する  

5.2.3 矛盾を解決する方法(2) (「B or C」でなく) 「B and C」の問題を「12の戦略」で解決する

5.2.4 矛盾を解決する方法(3) 問題中の前提(理由付け)を「なぜ?本当に?」と挑戦する

5.2.5 矛盾を解決するための心構え 

 

 


 

 本章への導入 (中川 徹、2021. 2.14)

私たちの周りには、「A か Bか?」で真っ向から対立している問題がいっぱいあります。集中化−非集中化、手取り足取り−自由放任、など [目下の問題では、「新型コロナウイルスの感染拡大徹底抑止 対 経済優先」の対立でしょう]。Aだけ、Bだけでは良くないことは明白で、(A+B)/2も満足できる解決にはなりません。何らかのやり方で「Aも Bも」ができないでしょうか?

このような、「矛盾の問題」(あるいは、トレードオフ、妥協、対立、ジレンマ、などと呼ばれる問題)を解決したのが、イノベーションを起しているのです。イノベーションを起した方法の90%が、矛盾の解決によるもので、残りの10%は新しい機能・属性の提供だとわかりました。システムが成熟してS-カーブが平坦になるのは、何らかのやり方で改良しようとしても、別の面で悪くなるために、改良ができないからです。矛盾を明確にし、解決したときに、イノベーションが起こり得ます。

「A か Bか?」ではなく、「Aも Bも」という問題設定にすると、目が開けます。あなたは、他の人やことで、「すごい!」と思ったことがあるでしょう。それはきっと、「Aなら、Bはだめ」と思っていて、「Aであり、Bも」という実例を見たからでしょう。あなた自身もそのような成功をしたことがあるでしょう。5歳くらいの子どもだった頃には、いろんなことを知らなかったから、いろいろ自分で考えてやってみたりしました。大人になって、知識が増えると、人は(考えなくて済むから)、考えるのをさぼります。子供の創造性と大人の知識を結合したところに、「効果的な創造性」があります。

組織のイノベーション能力(ICMM)のレベルを一段ずつ上げる場合にも、いろいろな矛盾に出会いますが、その矛盾の現れ方が、(組織によらず)段階ごとに共通している(普遍的である)ことが分かってきました。

矛盾の問題を解決するために、著者はまず、矛盾問題を定式化するための、簡潔なテンプレート(5つの楕円とそれらを結ぶ6本の線分)を作りました。究極の矛盾を A と not A とし、A が必要な理由をB、 not Aが必要な理由をC、そしてBとCはともに理想の結果Dのために必要なのだ、と表現します。そして、「A か not Aか」ではなく、「Aも not Aも」、また、「Bか Cか」ではなく、「Bも Cも」を目指す議論をしようというのです。以下。具体的には(イノベーションプロジェクトなどを)「外注するか、内注するか」を例にして説明しています。、

矛盾を解決する方法の第1は、「Aも not Aも」の問題です。このときには、時間的に分離して考えると、「Aも not Aも」が成り立つ時間帯があるのでないか?空間的に分離して、 「Aも not Aも」が成り立つ場所があるのでないか?と考えます。さらに、システムを逆にする、システムの一部を変える、システムの周りを変える、別のシステムに移行する、などの方法をも考えます。

矛盾を解決する方法の第2は、「Bか Cか」ではなく、「Bも Cも」を目指すことです。これには、全世界の特許や科学技術やビジネス事例の研究から抽出した戦略(TRIZでは40の発明原理を使うのですが)をまとめた12の戦略を順次適用してみよと言います。(システムやその一部を)分割する、統合する、適応させる、不均等にする、入れ子にする、代替する、逆にする、前後にする、フィードバックする、仲介する、(サイズや時間の)スケールを変える、形を変える、という12の戦略です。思いつくままにアイデアを書き留め、あとでそれらをいろいろに組合わせて、よい案を作って行きます。

矛盾を解決する方法の第3は、「Aを必要とする理由は、B」、「Bを必要とする理由はD」などの論理に挑戦して、別の考え方・やり方・実行法を見つけ出すことです。問題を設定していた時に考えていた(仮定していた)ことに、見落としがあり、今まで考えていなかった解決策があったのだ、と気がつくのです。

以上の矛盾解決の諸方法は、一見すると大変そうですが、一つ一つは実はいままでに見たことがある、やったことがあるような方法です。そして、やればやるほど簡単にできるようになります。「矛盾」の問題は、多くの場合に、何か月も何年も沢山の人がどうにもできなかった問題かもしれません。それをこれらの方法で解決するように挑戦する、そして、イノベーションの核になるステップチェンジのアイデアを得るのです。

 

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本章の目次

導入(中川)

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5.1.1 A or Bの議論は間違い 5.1.2 矛盾の解決は、イノベーション事例の90% 5.1.3 A and B の問題定義 5.1.4 ICMMとの関連 5.2.1 矛盾の問題のテンプレート

5.2.2 A and not Aを解決する方法

5.2.3 B and Cを解決する方法

5.2.4 矛盾の前提に挑戦する方法

5.2.5 心構え

 

 

編集後記

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 原著第5章の和訳

 

第5章 (休憩1) 矛盾

 

「深淵に降りることによって
私たちは人生の宝を取り戻す。
あなたがつまづくところに、あなたの宝がある」
Joseph Campbell

 

 

5.1  問題を定義する方法: 「A or B」 でなく 「A and B」を考える

 

5.1.1  「A or B」の議論は、問題定義が間違っている

人類という種は、解決するべき良い問題を定義するのが、随分下手な傾向があります。ビジネスリーダーたちも例外ではありません。そのため、組織が両極端の間で、しばしば乱暴に、揺れ動いているのが見られます。CEOの一人は「多様化が必要だ」とみんなに言っています。それから2番目のCEOがやってきて、「統合せよ」と言います。同じことがどこでもあります。

・ 集中化 − 非集中化        
・ 手取り足取り − 自由放任        
・ トップダウン − ボトムアップ        
・ 短期的焦点 − 長期的焦点        
・ 人員採用 − 人員削減        
・ 買い取り − 売却        
・ 知財の保護 − 知財を保護せず        
・ 外注 − 内部調達
・ 革新 − 最適化        

もし、こんなに沢山の無駄な血、汗、涙、そしてお金が、みんなのコストになっていなかったら、それはすべてとても面白いでしょう。これらすべての種類の「A or B」の議論の問題は、それらが常に間違った問題であることです。私たちは、このような行き止まりの方向に私たちを導いたことについて、2500年ばかりのソクラテス的思考を非難することができます。「AまたはB」の議論に対する最良の答えは、決して(A+ B)/ 2ではありません。なぜなら、そのような状況では、Aは幸せ(満足)でなく、Bも幸せでないからです。この種のトレードオフの解決策は、すべての人を妥協させたものです。確かに、私たちは「中庸」や「最適」などの表現を使用して、物事をより良く聞こえるように努めていますが、実際には、私たちの思考が実は弱かったという事実をなだめるためだけの言葉です。

 

5.1.2  イノベーションを起す二つの方法: 新しい機能・属性の提供 と 矛盾の解決

350万件のイノベーション研究のデータ点は、世界の「成功したステップチェンジャーたち(すなわち、イノベーターたち)」の行動について、非常に興味深いことを私たちに教えてくれます。これまでのところ、彼らはイノベーションを起す方法を2つしか見つけていません。それらは:

(1) お客さんに新しい機能または属性を提供します。お客さんたちが以前に持っていなかったものです。

(2) 通常、「トレードオフ、妥協、パラドックス、難問、対立、ジレンマ、矛盾、その他いろいろ」に呼ばれるものを特定し、それを完全に解消する方法を見つけるか、少なくとも「最適な」解決策に対してステップチェンジ(階段状の変化)の進歩をさせる。

二つのオプションのうちの第2は、二つションの中ではるかに最も普及していて永続的なものです。すべてのイノベーションの90%近くが、まさにこの種の矛盾を飛び越す仕事をしてきました。

矛盾の解決がしていることは、あるSカーブから別のSカーブにジャンプする手段を私たちに与えることです。Sカーブの上部が平坦になっている理由は、改善が必要なものを改善しようとするのをやめたからではなく、何かが起こって私たちが行きたい場所に到達するのを妨げたためです。私はAが欲しいのですが、Bが私を妨げます。

そして、それから?ええ、通常、私たちは立ち往生しています。

しかし、もはやそうではありません。イノベーションの巨人たちが、私たちの前に大地を踏み締め、私たちのためにいくつかのハードワークをしました。彼らは、トレードオフと妥協にうまく挑戦する方法を見つけたのです。

 

5.1.3 「A or B」でなく、「A and B」の問題定義へ

さて、もし -- (もしあなたが矛盾を解消する方法に精通していないなら、随分大きな「もし」なのですが) --- もし、それが本当なら、それは実に私たちに、「ソクラテスの遺産である「黒か白か」どちらか一方という世界のすべてを、考え直し始めるように」促します。私たちはいくつかの非常に異なるタイプの問題を定義する必要があるでしょう。「A or B (AかBか)」ではなく、「A and B (AもBも)」というタイプの問題定義です。

(1) 「すごい!」と思った経験はありますか?

一つの実験としていまからやってみてください。最近あなたに「すごい!」という反応を起させたものを考えてみてください。一つの新製品、映画の一つ、音楽の一曲、あるいは、飛行機の旅かホテルでのスタッフメンバーの義務をはるかに超えたなにかの行動、など、なんでもよいのです。

さて、何かを考えたら、なぜあなたがその反応をしたのかを考え始めてください。

この時点で非常に高い可能性があるのは、次のような考えです。あなたにその反応を起させたのは、あなたが一つのことを予期しており(たとえば、「ライアンエアーのデスクのスタッフは失礼で役に立たない」)、そしてその予期を混乱させる何かが起こった(「私が私の壊れやすい、特大のギターを飛行機に持ち込むのを、彼らは大騒ぎをせずに許してくれました」)。

ここで、(他のすべての「すごい!」も同様に)一つの矛盾が解決されました。

この種の「すごい!」の瞬間はそれほど頻繁には発生しない傾向がありますが、それでもたとえば、数百万人に例を尋ねると、随分大きなデータベースを非常に迅速に構築できるほど、十分に発生します。「誰かが、どこかで、すでにあなたの問題を解決しました」という宣言文は、私たちが本書ですでに数回か書いたものです。それに、関連する宣言文を追加できます「誰かが、どこかで、すでにあなたの矛盾を解決しました」。

(2) あなた自身が解決した問題を思い出しましょう

さらに一歩進んでみましょう。過去にあなた自身が解決した問題について考えてみてください。その「解決策」があなたの頭に浮かんだ後、あなたは自分自身に大いに満足しました。「それはどこから来ましたか?」

さて、それがどこから来たのか。私たちはみんな、さまざまな角度から問題を見て、画期的な解決策を導き出すことができる能力を、生まれつき組み込まれています。しかし残念ながら、その能力は、私たちの教育システムと私たちの人生経験の組み合わせによって、私たちから押しつぶされる傾向にあります。

(3) 5歳の子どもの創造性 + 大人の知識 = 効果的な創造性

5歳の子どもに、「飛行機の重さをどのようにして測る?」などの難しい質問をしてみなさい。すると、あなたがエアバスA380と言う前に、その子から12の「解決策」を得るでしょう。5歳の子供たちが持っている大きな利点は、「Yes, but (はい、しかし...)」の概念を理解していないことです。そのため、最もばかげて聞こえるアイデアでさえ(私たちに)説明することを恐れません。彼らがしていることは、生来組み込まれたブレークスルーの問題解決能力のすべてにアクセスしているのです。

彼らに欠けているのは、問題を実際に解決するために必要な、航空宇宙のすべてのドメイン知識です。航空宇宙エンジニアはドメイン知識を豊富に持っていますが、彼らは前者 [生来の能力] を忘れてしまっています(あるいは、彼らの上司たちがそれを押しつぶしてしまったのかもしれません)。

もし私たちが何とかしてその二つを組み合わせることができるなら、私たちはきっとどこか [新しい境地] に到達しているでしょう。私たちはそれを「効果的な創造性」と呼びます。つまり、重要なドメイン知識を新しい視点から見て、「はい、しかし...」を記録し、それでいてそれらを超えて考えるために、その生来の創造性を活用します。

そうして、あなたは「はい、しかし...」問題を解決しました。私たちはみんな [創造性を] 持っていますが、私たちは解決するのに時間を使っているよりも、はるかに多くの時間を解決しない [でいること] に費やしているので、私たちは [問題を解決] 「しない」([創造性を持た] 「ない」)方に向かっていく傾向があります。歳をとるにつれて、ますますそうなります。

(4) どうすれば、集中化し、同時に、非集中化できるか?

非常にそうなので、ときどき [こんなことがあります]。私がマネージャーのグループと一緒に作業していて、問題を「どうすれば、集中化し、同時に、非集中化できるか?」と定義したときに、彼らのたじろいだ音がきこえました。

「それは本当の(真面目な)質問ではありません」というのが、たじろいだ後の沈黙を通して、だれかがあえて声を上げたときに、私が最初に耳にする言葉です。

ただし、実に10分以内で、彼らはみんな、そのような逆説的な宣言を真実にする(実現する)ための、大いに可能性のある手がかりを数件思いつきました。

 

5.1.4 「イノベーション能力の旅」における矛盾

話を私たちのICMM(イノベーション能力成熟度モデル)のレベルに戻しますと、いままでの話が言いたいのは、イノベーション能力の異なるレベルのそれぞれで、一つ以上の「はい、しかし...」の矛盾が生じるだろうことです。そして、そのような矛盾が生じたとき、私たちがするべきことは、トレードオフを考えるのをやめ、矛盾に向かって走り始めることです。Niels Bohr をもう一度引用しましょう。

「私たちがパラドックスに遭遇したのは、なんと素晴らしいことでしょう。
いまや、私たちは進歩を遂げるという希望を持っています。」

私たちにはそれができます。私たちは、私たちのレベル間の「旅」を真に達成可能な目標にする道程の半分まで来ました。

私たちの考え方にもう二つの考えを記録すると、自分たちの仕事をさらに容易にすることができます。

まず最初に、「イノベーション能力の旅」の解明中に私たちが見つけた最高の発見の一つは、すべての組織が「旅」の各段階で同じ基本的な矛盾を経験していることです。実に、この理由で私たちが構築を検討しているモデルが、「普遍的」と呼べる権利を持つのです。だから、 「誰かが、どこかで、あなたが見つけた問題をすでに見つけただけでなく、それらを解決もしました」。もちろん、それらの特定の文脈はあなたのものとは異なりますが、それらが分野的にどれほどあなたのものから遠く離れていても、彼らはあなたのためにいくばくかのハードワークをしたのです。「ICMMの旅」の仕事は、まずそれを見つけに行き、あなたがそれを有意義に利用できるような方法で提示することでした。

第二に(おそらくより実質的なことで)、単にあなたに、課題の定義をもっと生産的にやるように頼み、また解決策を思いつくのを(通常のブレーンストーミングセッションように)ランダムにやるように任せるのではなく、(私たちは)「正しい」課題をできるだけ効果的に策定するプロセスを支援するために、普遍的なテンプレートを構成することができました。他の人々の解決策の大規模なデータベースを持っているおかげで、あなたの思考プロセスをできるだけ直接的かつ効果的に導くために、最も可能性の高い戦略をランク付けしたリストとして提供することもできました。

 

5.2  矛盾の課題を策定し、矛盾を解決する方法: 普遍的テンプレートの利用

[訳注: 本節の原文の例示において、テンプレートの図5.2と説明の後半は一致しているのですが、説明の前半がずれています。訳書では、図5.2の例と対応するように、前半・後半をすべて統一し、「外注−内注」の例を扱いました。たとえば、イノベーションプロジェクト(の一部)を外注するか、社内で行うかといった問題です。]

 

5.2.1  テンプレートによる記述法とその意味

最初にテンプレートを見てみましょう。

図5.1は、空白(未記入)のバージョンを示します。注目すべき主なものは、5つのバブル(楕円)と6本の接続線です。左端の楕円は常に同じように埋められます。それは私たちに「理想的な」結果が何であるかを考えさせるものです。単純に「収益性の高いビジネス」[以下の事例では、「成功するビジネス」] というのでもよく、私たちの「ICMMレベルの旅」の場合には、「レベルXにすばやく痛みなく到達したい」ということでしょう。

図5.1: 矛盾を定義するためのテンプレート

右側の二つの楕円は、私たちが解決したい矛盾を記入する場所です。「A」と「not A」のラベルで示すように、ここで探しているのは、一方が他方の正反対である宣言の一対です。たとえば、集中化と非集中化、または、多様化と統合。[以下、例題として、「外注する」と「社内で仕事を続ける」という矛盾の場合を扱います。]

最後に、テンプレートの中央部に二つの楕円があります。ここで探しているのは、「なぜなら(because)」と「必要とする(requires)」の矢印を使用して左側と右側に接続できる二つの宣言文です。たとえば、「A」の楕円に「外注する」と記述した場合、外注するという私たちの願望に関連する「なぜなら」宣言文を探しています。したがって、 「私たちは外注したい、なぜなら、生産を中断しないから」がその例です。次に、ここの論理をテストするための最終チェックとして、左側の理想的結果の楕円に移動します。「私たちは生産を中断しないようにしたい、なぜなら、それは私たちが理想的な結果(「ビジネスを成功させる」)を達成するのを許すから」。これは理にかなっているようです。

図5.2は、すべてを記入したテンプレートの一例で、「外注する」と「社内で仕事を続ける」との矛盾の場合です。たとえば、イノベーションプロジェクト(の一部)を外注するか、社内で行うかは、ICMMのレベル1から2、あるいはレベル2から3の「旅」において、典型的にみられる問題の一つです。

図5.2: 矛盾を定義するテンプレートの記入例(「外注−内注」の場合)

この時点では、私たちは私たちの「外注−内注」の矛盾に対する解決策はまったくありませんが、完成したテンプレートがしたことは、解決策を得るための6つの可能な方法を提供してくれたことです。6つとは、楕円の各ペア間に形成された6つの接続線のそれぞれに関連しています。

各線分は一つの仮定を表しています。私たちがするべきことは、これらの仮定のそれぞれに挑戦し、それらを偽にする状況や解決策を見つけることです。

 

5.2.2  矛盾を解決する方法(1) 「A and not A」の問題を「分離」によって解決する

第1の線分(図の右端に「1」のラベルが付いています)が最初で、多くの場合、自明なことが最も少なく、かつ最も強力な [矛盾] であるためです。私たちの特定の問題の場合、この線分は非常に矛盾した仮定を述べており、私たちが「外注する」、かつ、「私たちのイノベーションプロジェクトを組織内に留める」と言っています。ほとんどの人にとって、これは問題を定義する新しい、また疑いなく非常に奇妙な方法でしょう。初めて読んだときには、まさに、ばかげているように聞こえます。古典的なケース「あなたがケーキを持っていて、かつ、食べてしまう」ことはできない [と同様です]。(ケーキには、「たやすい仕事」という意味もありますが)。ただし、文字どおり、私たちが示唆したように、「誰かが、どこかで、まさにそのようなことを行いました」。

彼らがしたことは次のとおりです。

1) 彼らは尋ねられた: 私たちは矛盾を空間的に分離できますか?この戦略を使用して矛盾を解決することは、「どこで」の質問をすることを意味します。外注について、どこで考えることができますか?どこで私たちは外注を考えることができませんか?したがって、非常に簡単な例を挙げると、私たちは一時的な建物を現場で指定し、そこに社内と社外の人員を組み合わせて持ち込むことができるでしょう。あるいは、プロジェクトの(たとえば)重要ではない部分を外注することもできます。    

2) 彼らは尋ねられた: 私たちは矛盾を時間的に分離できますか?この戦略を使って矛盾を解決することは、「いつ」の質問をすることを意味します。どんなときに外部委託できますか?特に外部委託してはいけないのはどんなときですか?そこで再び、もう一つ別の簡単な例として、私たちは一年のうちの予め分かっている忙しい時期にプロジェクトを外注することを選ぶことができます。あるいは、シャットダウン期間中にいろいろな物を社内に持ち込みます。    

3) システムを変更することで矛盾を分離できますか?これは三つの戦略の中で最も一般的であり、一般に、私たちの現在のやり方を見て、何をどのように行うかを変更するさまざまな方法を探求する必要があります。    

a. システムを上下逆に、または逆向きにすることはできますか?
b. ズームインして細部を確認し、そのうちの1つを変更できますか?
c. ズームアウトして全体像を見て、そこで何かを変更できますか?
d. 別のシステムに移行できますか?

 

5.2.3  矛盾を解決する方法(2) (「B or C」でなく) 「B and C」の問題を「12の戦略」で解決する

第2の線分も対立についてです。これを解決するための鍵は、どのようにしてBとCの両方を持つことができるかです。私たちの特定の問題の場合には、「生産を中断せず」、同時に、「イノベーション作業を自分で行うことから得られる暗黙知を確実に取得する」ことです

対立を解決するのを助けてくれるのに、うまくいくことが知られている可能な戦略は、ごくわずかしかありません(私たちの350万件のデータと抑制されていない5歳児の研究に基づきます)。以下に列挙します。

A. 分割 − システム内の何かを、物理的または時間的に分割するには、どうすればよいかを考えます。

B. 統合 − システム内またはシステム周辺のどのようなものを、組み合わせることができるかを考えます。

C. 変化(適応) − 常に同じである何かを取り上げ、それがさまざまな異なる状況に適応(調節)できるょうに、シフトさせるにはどうするかを考えます。

D. 不均等 − 何かを分割して異なるサイズのものにしたり、等しくないさまざまの形にしたりするやり方を考えてください

E. 入れ子 − 何かを他の何かの中に入れるやり方を考えてください

F. 代替 − システムの一部を取り除き、それを別のもので置き換えるやり方を考えてください

G.  − 何かを上下逆さまにしたり、内外を逆にしたり、または向きを逆にするやり方を考えてください

H. 前後 − 何かを、あなたが現在やっているよりも、早くまたは遅くを行うやり方を考えてください

I. フィードバック − 現在測定していない何かを測定する方法を考え、その測定結果を使って異なる振る舞いを促すというやり方を考えてください。

J. 仲介 − あなたのシステム中に、(おそらく一時的な)物理的または時間的な仲介者を、追加するやり方を考えてください

K. 再スケーリング − システム内の何かを、はるかに大きくまたは小さくする方法、または、はるかに速くまたは遅くするやり方を考えてください

L. 形を変える − 何かの形を変えるやり方を考えてください

原則として、あなたが解決しようとしている問題に関連して、12の異なる戦略すべてについて順番に考えるのが有用です。12の戦略すべてから手がかりを生成することは不可能かもしれませんが、それがあなたの目標であるべきです。この段階では、あなたが生成するアイデアの質をあまり心配する必要はありません。数を出すことが最も重要なのです。品質は、後に、さまざまなアイデアを組み合わせることを検討し始めたときに、もたらされます。一つのアイデアが、それ自身ではばかげているように見えるかもしれません(ただ逆説的に、最初は最もばかげたように見えるアイデアが、最後に最も強力な解決策に変わることが、しばしばあるのです)が、私たちがそれを他の(一つまたは複数の)アイデアと組み合わせると、それが突然、あなたが探していたブレークスルーになるのです。

 

5.2.4  矛盾を解決する方法(3) 問題中の前提(理由付け)を「なぜ?本当に?」と挑戦する

図5.1の他の4つの線分については、少し異なる方法での検討を必要とします。ここでも、私たちが行った仮定に焦点を当て、それらにどのように挑戦するかを考える必要があります。これらの仮定のそれぞれに関して、ここでの重要な質問は「なぜ?」です。

・ 「生産を中断しない」が「外注する」を必要とするのは「なぜか?」。
・ 「暗黙知を獲得する」が「社内で仕事を続ける」を必要とするのは「なぜか?」。
・ 「ビジネスを成功させる」が「生産を中断しない」を必要とするのは「なぜか?」。
・ 「ビジネスを成功させる」が「新しいイノベーションプロジェクトから暗黙知を獲得する」を必要とするのは「なぜか?」。

非常にしばしば、これらの仮定を掘り下げて考え始めると、私たちが気が付くのは、私たちの世界モデルが最良のものではなく、また、解決策が自動的に現れ始めることです。また、他のときには、さらにもう少し深く掘り下げて、さまざまに異なる観点から仮定を再検討する必要があることもあります。これが必要なときには、上記の12の戦略を見て、それらが私たちに、仮定の背後にある論理を破る方法について、何を教えてくれるかを見ることは、よい考えです。

 

5.2.5  矛盾を解決するための心構え

もし、このすべてが大変な作業のように聞こえ始めているのなら、まあ、一方ではたしかにそうです。私たちの脳は [歳を重ね、成長するとともに] 進化して、素晴らしく怠惰なものになりました。私たちは何かについて一生懸命考えて、それをどのように行うかを考え、その結果、私たちがどのようにそれをしたかを思い出すことができ、そしてまた、その次にそれが起こったときには、私たちは考える必要がなく、ただそれをするだけです。私たちが小さな子どもだったとき、私たちはみんな大いに「創造的」でした、なぜなら、私たちはあまり何も知らなかったので、沢山のことを考え出さねばならなかったからです。

私たちが歳をとってきて、「沢山のことを知っている」ようになると、私たちが解決しなければならない新しい問題が少なくなります。私たちは「すでに解決策をもっている」のですから。したがって、私たちは歳をとるにつれて、問題を考え抜く習慣から卒業していきます。[本書の] これらのアイデア生成戦略で私たちがやろうとしているのは、創造的であることがまったく普通のことだった、自分の子ども時代に戻ることです。あなたのこころ(知性)の奥深くには、ここに説明した [問題解決の] 戦略はすべて既に存在しています。あなたは子供の頃にそれらを使用しました。ここでの要点は、これら [の戦略] がまだなお適用可能である、私たちが大人になり、責任が大きくなって、もっと困難な多数の問題に直面している今になってもなお、適用可能である、ということです。

やればやるほど簡単になります。最初は大変な作業かもしれません。困難の多くは実に、あなた自身の頭の中での葛藤から生じているのです。一方では、「これはうまく働かない」または「変更(変化)する必要などない」と言っているあなた自身と、他方で、問題解決の戦略のどれか(ただ、ときにはその戦略が「ばかげた」あるいは明らかに非生産的な方向を指し示すかもしれない)に従って進んでいるあなた自身との、葛藤です。

私たちが私たちのクライアントのために(一緒に)難しい問題を解決するときに、一般的なルールにしていることの一つは、可能性のある解決策を生成するときに一つの問題に対して「最小限50の手がかり(アイデア)」を課すことです。そのルールを課す理由は、「質ではなく量」の効果を確実にするためです。そして、私たちがそうする理由は、50の解決策の「手がかり」が書かれたものが目の前に置かれていると、組み合わせの可能性が非常に多くなることが、わかっているからです。

そして、たしかに、「間違った」アイデアも書き留めるように自分自身を強制することも、このプロセスの一部です。

これは、もう1つの「直感に反する」非常識的なものを、私たちの増えつつあるリストに追記しているのです私たちの「ICMMの旅」はそれら(非常識的なもの)でいっぱいのようです。もう1つだけ[次章で] 見てみる必要があります。

 

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導入(中川)

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5.1.1 A or Bの議論は間違い 5.1.2 矛盾の解決は、イノベーション事例の90% 5.1.3 A and B の問題定義 5.1.4 ICMMとの関連 5.2.1 矛盾の問題のテンプレート

5.2.2 A and not Aを解決する方法

5.2.3 B and Cを解決する方法

5.2.4 矛盾の前提に挑戦する方法

5.2.5 心構え

 

 

編集後記

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最終更新日 : 2021. 2.16     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp