Darrell Mann : ICMM Book  第8章 ICMM の5つのレベル

『イノベーション能力成熟度モデル (Innovation Capability Maturity Model (ICMM)) 入門編』

第8章 ICMM (イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベル

Darrell Mann (Systematic Innovation, 英) 著 (2012年、IFRプレス)

中川 徹 和訳(大阪学院大学&クレプス研究所) (2021年 2月 21日, 3月15日)

掲載:  2021. 2.23; 3.20

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  編集ノート (中川 徹、2021年 2月21日; 3月15日)

 Darrelll Mann の本の第8章です。本ページの記述は第1章と同様で、詳細目次、導入のための簡単な解説、そして本文です。訳文中の、( )は著者の挿入句など、[ ]は訳者の補足です。

2月23日には、8.2節まで掲載しましたが、3月 日に残りの8.3節の一覧表を掲載し、本章の全ページの掲載を完了しました。


 

 本章の詳細目次

第8章  ICMM (イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベル

8.1 ICMMの5つのレベル

8.1.1 ICMM レベル1: 種を蒔く(Seeding)
8.1.2 ICMM レベル2: チャンピオンを作る (Championing)
8.1.3  ICMM レベル3: 管理する (Managing)
8.1.4 ICMM レベル4: 戦略化する (Strategising)
8.1.5 ICMM レベル5: 挑戦する (Venturing)

8.2 一歩下がってもう一度全体を見る

8.2.1 イノベーションプロジェクトのスケールの異なる5つのタイプ
      プロセスのイノベーション、 製品・サービスのイノベーション、
      ビジネスユニットのイノベーション、 組織経営のイノベーション、
      社会のイノベーション、  
      ICMMの能力レベルで扱うとよいイノベーションのタイプが異なる
8.2.2  複雑なもの(Complicated) 対 錯綜したもの(Complex)
8.2.3  いくつかの書籍と諸方法  

8.3  ICMM(イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベルを要約する  (2021.3. 掲載)

8.3.1 ICMM レベル1: 種を蒔く(Seedomg) 要約表 
8.3.2  ICMM レベル2:  チャンピオンを作る(Championing)  要約表
8.3.3  ICMM レベル3:  管理する(Managing)    要約表
8.3.4  ICMM レベル4   戦略化する(Strategising)   要約表 
8.3.5  ICMM レベル5   挑戦する (Venturing)  要約表


 

 本章への導入 (中川 徹、2021. 2.21)

いままで1章〜7章で準備が整いましたので、本章がICMMモデルの本体、すなわち、組織のイノベーション能力が、5つのレベル(水準・段階)で表されること、各レベルの特徴、次のレベルに達するために克服するべき矛盾などを、記述しています。

レベル1 「種を蒔く」: 組織の経営陣はコミットせず、形の上だけで誰かに「イノベーション」の責任を負わせた段階です。この段階では、担当者の周りで(組織の主流とは距離をおいて)、小さくてもよいから成功の実績を創ることが大事です。

レベル2 「チャンピオンを作る」: 経営陣の認識が少し進み、イノベーションを担当する専任者ができ、活動を始めています。ツール群、メソッド群などの導入が行われ、組織内サポータのネットワーク作りもしています。専任者は「チャンピオン」として、成功事例を継続的に発信していくこと、特許出願の数などの客観的な計測値を示していくことなどが求められます。イノベーションが重要なビジネスプロセスであるとの認識を組織全体に広げていくことが大事です。

レベル3 「管理する」: 明確なイノベーションプロセスが実施され、リスクを抑えながら(管理しながら)進むことを可能にする段階です。「早く失敗し、前向きに失敗する」という考えが有効です。上級管理職が前のめりになり、ハイプ(誇大広告/誇大評価)と幻滅を起す危険があります。組織は、日々のビジネスを行い、同時にイノベーション能力の構築をしなければなりません。

レベル4 「戦略化する」: イノベーションが組織の経営戦略として、経営陣に認識されており、イノベーションの職務がキャリアアップの道と評価されています。イノベーションによって、ビジネスの将来の成功を実現することができると認識されています。大きな広い視野で、何をするべきかを考えることができなければなりません。

レベル5 「挑戦する」: 領域的には融通無碍、体制的には臨機応変の状況でしょう。組織として、コアスキルの外の領域にも積極的に取り組むことができます。状況が目まぐるしく変化する時期にも、比較的安定な(平衡的な)状況にも対応することができます。
             [訳注: レベル5 のタイトルVenturing を、ベンチャーでなく、「挑戦する」と訳すことにしました。(2021. 3.15)]

「5つのタイプのイノベーション」を認識しました。それは、対象とするもの、対象のスケール、結果の影響のしかたなどが、セットになって、5段階に拡大して行きます。
(1)プロセスのイノベーション: 組織内の製造や処理のしかた、よりよく作る・行う、組織内にしか見えない。
(2) 製品/サービスのイノベーション: 顧客に提供するもの、異なる(新しい)ものやサービス、顧客に見える・訴える。
(3) ビジネスユニットのイノベーション: 顧客に提供する一式のもの、異なる売り方、組織内の大きな単位での活動、顧客の広い範囲に見える。
(4) 組織経営のイノベーション: 組織を組織化するしかた、組織経営のしかた、組織内にしか見えない。
(5) 社会のイノベーション:  社会の体制・組織化・活動のしかたなど、伝統的に政治家や政府の領域、社会のすべての人に見える・関わる。

組織のICMMの能力レベル(1〜5)に対応して、成功する(可能性のある)イノベーションのタイプ(1〜5)がほぼ決まります。各能力レベルは、自分よりも高度な(スケールの大きい)イノベーションタイプを試行しようとすると、たいてい失敗します。

ついで、著者は「複雑なもの(Complicated)」と「錯綜したもの(Complex)」を対置して議論しています。Complicatedというのは、複雑だけれども、要素にばらしていき、再構成ができるようなもので、人工の機械などはほとんどこの範疇です。Complexというのは、要素にばらそうとすると、多くのものを(知らずに)省略してしまい、本質的な理解を誤るようなものです。人間の心理や社会に関わるものはたいていこの範疇にあります。Complexな問題の扱いに大いに注意するべきだと著者は言います。

さらに、イノベーションに関わる多数の文献・読み物について論じています。沢山の著者や本がいろいろなことを推奨していますが、読者は自分の組織の状況(具体的には、イノベーション能力のレベル)に応じて、採用するべきことと、するべきでないことが異なることに、注意しなければなりません。著者は、本書(具体的には8.3節の表)に、レベルごとの推奨本を区別して示しています。イノベーションの諸方法についても同様だと、言っています。

8.3節には、以上の5つのレベルの各々について、次の観点から整理した「各レベルの要約表」をまとめています。
(A) McKinsey の組織モデルの7つのS (戦略、構造、システム、スタイル、スタッフ、スキル、共有価値)、(B) イノベーションの役割、(C) イノベーションの成功指標、(D) イノベーションのための方策、  (E) 支配的な矛盾、 (F) ハイプサイクルの特性、(G) マネジメントの教科書、 (H) イノベーションのツール。  各レベルの特徴を整理した、大きな表です。(2021. 3.20)

 

本ページの先頭

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本章の目次

導入(中川)

本文の先頭

8.1 ICMMの5つのレベル

8.2.1 イノベーションプロジェクトの5つのタイプ

8.2.2 Complicated と Complex

8.2.3 本の読み方の注意

8.3 ICMMの5つのレベルの要約表

8.3.1 レベル1 要約表

8.3.2 レベル2 要約表 8.3.3 レベル3 要約表 8.3.4 レベル4 要約表 8.3.5 レベル5 要約表   編集後記 英文ページ

 

 原著第8章の和訳

 

第8章   ICMM (イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベル

 

「風景を見ても誰も画家にはなりません。
あなたは絵を見ることで画家になります。」
Malraux

 

私たちはいままでで [イノベーション能力とその段階的向上に関わる] シーン(場面・舞台)を設定しましたので、これから、イノベーション能力の非連続的に異なる5つのレベルについて紹介しましょう。それらは、私たちの研究で、「イノベーションを提供しようとするプロジェクトを開始して、[結果として] 成功した組織とあまり成功しなかった組織とで、なにがどう違ったのか?」を探求した結果、明らかにすることができたものです。「非連続的に異なる」という表現を使うことにより、私たちは、 [イノベーション] 能力の各レベルがパラダイム的に他のレベルとは異なる、ということを示そうとしているのです。簡単に言うと(前述 [特に、第4章] の議論を念頭に置いて)、それぞれが別個の個別の(必要なすべてを備えた)S曲線を表します。

 

8.1  ICMMの5つのレベル

図8. 1は、5つの異なるレベルと、それらが次々と順次接続していることを示す図です。

図8.1: 組織のイノベーション能力の進化トレンド
[訳注: 原書ではレベル1を上にし、上から下に流れる表現ですが、
訳書では上下逆にし、下から上に積み上げる表現に変更しました。図8.4ともよく対応します。]

本章の目的は、5つのレベルのそれぞれの特性を記述し、さらに、それぞれのレベル中に発生する対立と矛盾、そして、それらの対立を解決することによって、組織がイノベーション能力のより高いレベルに、ステップチェンジによって移行する方法について、説明することです。

あるレベルから次のレベルへの「旅」の要約も提供されており、次のジャンプの開始を計画している前向きなリーダーが、[「旅」の] 途上でどんなことを予期するべきかを、知ることができるでしょう。なお、各レベルでの「旅」の詳細なロードマップは、この入門書(本書)に付属する一連の本に含まれる [予定です]。

私たちのイノベーション研究プログラム(たとえば、Ref. 6およびRef. 7を参照)中で明らかになった、他のトレンドパターンと一致して、ICMMの進行は、組織がパターンを [図8.1の] 下から上に進化するにつれて、理想性が高まるように、構築されています。したがって、レベル2の組織はレベル1の組織よりも能力があり、レベル3はレベル2よりも能力がある、などです。レベル5が表すイノベーション能力は、(歴史のこの時点で)地球上の革新的な組織の中で最も進んだパラダイムを表しています。

では、私たちは各段階をさらに詳しく [下から上に] 見ていきましょう。

8.1.1  ICMM レベル1: 種を蒔く(Seeding)

一つの組織が、(口にできるほどの)イノベーション能力を持つ前に、最初に行う必要があるのは、なんらかの早期の成功を達成することです。

典型的には、「より革新的」になる必要があると判断した組織は、だれか「哀れな不運な人」に、イノベーションに関連した肩書を与えることから、始めるでしょう。これは通常、上級管理職チームがそのマスターたち [株主など] に、会社が「何かをしている」ことを示すための方法です。

典型的には、これはまた責任を譲渡する機会でもあります。-- 幹部たちはほとんど誰も、この段階でイノベーション領域に伴う混乱とリスクを、歓迎する者はいません。それで、成功の責任を他の誰かに渡すことは、何かをしているように見えて、同時に、現状を混乱させるような重要なものは何も生じない、ことを保証する「素晴らしい」方法です。

イノベーション能力の [発達] 軌跡のこの段階では、部外者にとって、経営の推進力は「私の監視下では [めったなことは] させない」というねらいのように見えます。うまく機能しているように見える組織を、変更または混乱させたいと思う上級管理職はほとんどいません。

一般的に、この「種を蒔く」(レベル1)段階で、イノベーターの組織内活動は、(伝統的に)成功の可能性がほとんどまったくありません。しかし、彼らが渡された「毒杯」は、(その人の)キャリアにとっても組織にとっても、致命的である必要はありません。成功への鍵(したがって、イノベーション能力の進化の次の段階に到達する機会)は、なんらかの小規模な成功を達成することです。イノベーション「チーム」(一人か二人の非公式な社内起業家かもしれません)は、おそらく、彼ら自身の機会領域を見つける必要があるでしょう。ほとんどの場合、これらは会社の中核的な活動からある程度離れている必要があり、(イノベーションの試みを殺そうとする既得権益者がほとんどないように)脚光を浴びる所から離れている必要があります。

「共通の敵」を見つけることは、多くの場合、良い出発点です。小さいながらも厄介な問題で、多くの人々を悩ませていたり、問題が解決したら多くの人々が注目するようなもの [が適当でしょう]。重要なのは規模ではなく、成功です。言い換えれば、成功がどれほど「些細な」ものでもかまいません。重要なことは、それが人々、そして特に経営陣によって、ある種の具体的な違いを提供する成果と、見なされることです。

イノベーション能力 [を創ろうとする] イニシアチブ(新たな取り組み)の大多数が、この最初のハードルで失敗します。その理由は、イノベーターたちが大きくて重要なことに取り組むように、誘惑されている(または上級管理職に押されている)ためです。この種の経験を考えると、はるかに優れた戦略は、非常に小さなものから始めること、イノベーションチーム自身だけが知っている一つ二つの問題を取り上げることです。これらの目に見えない成功は、チーム内の自信を構築する方法として有用です。チームが(自分の)組織外のイノベーションストーリーを探し始めると、グローバルにほとんどのイノベーションの試みが失敗していることをすぐに学び始めます。いったん少数の成功事例ができると、やがてついには他の人々が気付くものができます。(たとえば、Samsungでは、最初のTRIZ成功事例の一つは、地味な製造コスト削減の問題でしたが、それが9,100万ドルの節約になったのです(Ref. 8)。)そうして、その組織は次の段階に進む準備が整います。…

多くの組織で、ステップチェンジを組織に導入することに成功した明らかな実績を持つ組織が、この最初のレベルに自分たちが分類されているのを見て、驚くことがよくあります。どんな組織でも、ビジネスを立ち上げて、成功を収めたものは、彼らのオリジナルなアイデア(またはその最適化されたもの)が(ほぼ定義上)「ステップチェンジ」を表していたから、成功したのです。ほとんどのスタートアップは失敗します。ジャングルを通り抜けた(スタートアップ)は、典型的には、正しいスタートのアイデアとかなりの幸運を持っていたものです。彼らがその芸当をもう一度繰り返すことができるかどうかは、議論の余地が大いにあることがわかりました。

一見成功している組織でさえ、(たとえば Dysonの場合。市場に新製品を投入した、かなり強力な実績を持ちますが、) [問題把握の] 初めから [市場での成功(投資を越える利益の獲得)という] 終りまでの、私たちのイノベーション評価基準に照らして等級付けすると、大きく不成功であることがわかりました。サイクロン真空掃除機は、Dyson社はそれによって正当に有名ですが、同社のすべての利益を生み出しているものです。同社が他の領域に多角化しようとした試み(洗濯機、ハンドドライヤー、「羽なし」ファンなど)はすべて、随分華々しくメディアに取り上げられましたが、それらに投資したお金を回収することはほとんど何もできていません。

逆説的ですが、もしその真空掃除機が他の組織で [創られていたとしたら]、それは ICMMレベル4の組織の仕事と見なされていたでしょう。その判断基準は、[Dyson式真空掃除機が] 現行の方法や手段(すなわち、フィルターバッグで空気をろ過する)から離れて外の領域を見、別の手段で要求されている機能を実現するという、レベル4の重要なアイデアを、非常に明確に示しているからです。もし、Hooverやその他の既存の真空掃除機メーカーが、サイクロン型の掃除機を最初に製造していたなら、それは彼らがレベル4で運用しているという証拠だったでしょう。

Dysonは、当時事実上新興企業であり、その後その芸当を再びやって見せるのにほとんど失敗したという事実から、それがレベル4でないことを意味します。ただ、Dysonをレベル1の組織として分類するのは、おそらく厳しすぎるでしょう。部外者の立場で彼らを見、彼らの膨大な量の知的財産権を分析し、会社の4つの壁の中で起こっていることの詳細を知らずに、[判断しますと] 同社をおそらくレベル2からレベル3への「旅」の途上のどこかに位置付けるでしょう。ここで、Dysonについて言及しました理由は、かれらのサイクロン真空掃除機が市場に投入された当初では、かれらは(非常に明確に)まだレベル1のイノベーション能力の会社であったからです。

 

8.1.2  ICMM レベル2: チャンピオンを作る (Championing)

いくつかの「経営取締役会での議論」により、イノベーションチームはいまや、言葉を広め始め、サポーターのネットワークを構築し、そして最も重要なことに、いくつかのツール群、システム群、またはメソッド群をインフラストラクチャに導入し始める、という準備ができているはずです。この「チャンピオンを作る」段階での主なねらいは、イノベーションが(空気のようで見えない)リスクの高い敵ではなく、重要なビジネスプロセスであるということを、組織全体で広く受け入れられるようにすることです。

この第2段階で必須のことは、イノベーションチームが、提供している改善(事案)の定量化を、開始できることです。測定が必要なのは多くの場合、(重要なものというよりも)測定が簡単なもの(特許出願の数は非常に簡単な実績)です。重要な機能は、チームが上級管理職に対して、チームは(目標に対して提供できる)予測可能な能力を開発していることを、示すことができることです。測定の信頼性の問題を解決することが、おそらくこの「チャンピオンを作る」フェーズで最も難しい課題です。通常、少なくとも1人の専任者が必要で、チャンピオン [としてイノベーションをリードすること] /ネットワーキング/測定の役割を担います。イノベーターたちとイノベーションチャンピオンが、いくつかの矛盾にぶつかる可能性が高いのも、この第2段階です。そのうちの以下の二つは特に重要で、[ICMMの] 次の進化段階に進む前に、解決する必要があります。

1) サポートを構築するためのネットワーキングに加えて、それに並行して、サクセスストーリー(成功事例)を提供し続ける必要があります。優れたアイデアの有効寿命(注目されている期間)が随分短くなる傾向があるためです。どんな優れたアイデアでも、一旦実装され、みんなが優れたアイデアだとわかると、それはたちまち新しい常識になります。    

2)… このことが、つぎに導くのが、この第2段階でのおそらく最大の対立です。すなわち、実装された(優れた)アイデアは「自明」に見え、その結果、チーム外の多くの人々の心に、「それを行うのに、イノベーションチームは必要なかった」という考えを、植え付ける傾向があります。残念ながら、この現象はどんなイノベーションの話にも(本質的に)内在しています。もし、ソリューションが「自明」と見えないなら、おそらくそれは十分良くないのでしょう。しかし、つぎの段階に進む前に、この対立を克服する必要があります。    

 

8.1.3  ICMM レベル3: 管理する (Managing)

イノベーション能力の進化の第3段階が始まるのは、明確なイノベーションプロセスが実施され、[そのプロセスに従うと] 目標が設定されたとき、プロセスが提供すると言ったものを、(信頼性をもって何回でも)プロセスが提供できる、高い可能性を持っている、ときです。「イノベーションプロセスでは失敗が「不可避」である(「失敗していなければ、限界にまでやっていない」)」と認識した上で、この「管理する」段階の重要な部分は、「イノベーションプロセスによって、リスクを管理できる」ことを、上級管理職チームに納得させることです。この種のデモンストレーションの良い例は、「速く失敗し、前向きに失敗する」という哲学を持つ組織で起こります。そこでは、「失敗」は実験として構築されており、それを通じてチームは将来のより大きな成功に向けて学習・構築します。

繰り返しますが、イノベーションチームが次の進化段階に進みたい場合、克服しなければならない矛盾がいくつかあります。

1) ハイプサイクルを管理すること(Ref. 4、図8. 2): 一連のサクセスストーリーが身についているので、上級管理職にとって [イノベーションプロジェクトに]参加したいという、成功を過大評価するほどの強い誘惑があります。

    図8.2: 組織のイノベーション能力の進化と 「ハイプサイクル」の関係

2) 能力のスケーリング [規模の調整] : イノベーションの流れを継続する必要があるため、組織内のますます多くの人々をイノベーションの枠に入れ始める必要があります。ここで避けられない問題は、組織が日々のビジネスを行い、それと同時に、イノベーション能力を構築しなければならない、ということです。この問題の背後にあるのは、イノベーションDNAの多くが従来のビジネスのDNAとは対極にある、という事実です。

この矛盾の大きさの [顕著な例] として、3M社へのSix Sigmaの破壊的な導入(Ref. 9)について考えてみてください。3M社は伝統的に常に非常にイノベーティブな企業でした(つまり、すでにレベル4の進化段階にありました)。しかし、Six Sigmaが会社全体に導入されたとき、「データはアイデアよりも重要だ」というメッセージが出され、その結果、新しいアイデアのフローを大幅に潰しました。結局、組織のイノベーション能力をレベル1に引き戻したのです。また、GE社の CEO Jeff Immelt が直面している困難、すなわち、Jack Welchの Six Sigma の遺産の後で、イノベーションの変革を起こそうと試みている際の困難、についても考えてみてください。    

 

8.1.4  ICMM レベル4: 戦略化する (Strategising)

スケーリングの矛盾と予測可能なプロセスの矛盾が解決されると、イノベーションチームは進化の第4段階(「戦略化する」)にいることがわかります。イノベーションはいまや、上級管理職のレーダー画面で非常に目立ちます。そしておそらく、そのチーム内でイノベーションに対してフルタイムの責任を持つ人がいるでしょう。イノベーションは、進化のこの段階ではもはや毒杯とは見なされておらず、実際、人々はイノベーションがキャリアアップの最高のチャンスのための「あるべき場所」として機能していると考え始めています。この第4段階で達成するべき重要な目的は、「予測可能なビジネス・プロセスによるイノベーション」から、「ビジネスの将来の成功を実現することができるイノベーション」へと、イノベーションを遷移させることです。言い換えれば、この段階でのイノベーションは、ビジネスの従来の扉の外に飛躍し、より広い文脈でビジネスの将来の位置を検討し始めます。

この第4段階で重要なテストは、図8.3に示すような図を示してそれについて話すことが可能になることです。

 

図8.3: 「管理するイノベーション」から「戦略化したイノベーションへ」の変換を示す

洗剤や洗濯機のメーカーにとって、この図は随分気の滅入る図であることでしょう。なぜなら、この図は、繊維が自分できれいにできる将来のある時点では、洗剤も洗濯機も存在しないという物語をかなりはっきりと描いているからです。この図を能力進化の第3段階の組織の人々に意味のある形で見せることは不可能でしょう。なぜなら、洗剤の化学者や洗濯機の機械エンジニアは将来的に場所がなくなると、この図は言っているのですから。能力進化の第4段階では、組織内の多数の人々にこれを示すことができます。なぜなら、彼らはより大きな世界観に開かれているため、図で強調されている脅威も潜在的な機会である可能性があるからです(「セルフクリーニングのシャツを着ている人に、どんな消耗品を販売したらいいのだろう?」)。

したがって、イノベーションチームがこの第4段階で開発する必要のある重要な新しいスキルは、シナリオプランニング、ストーリーテリング、および内部無形資産の管理です。「戦略化する」段階の重要なポイントは、「イノベーションのインプットが組織の戦略的計画プロセスに不可欠である」ということです。これが意味するのは、イノベーターたちが実質的に何でも承認するのに十分な権限と尊敬を持っており、そうするための十分な動機が与えられていることです。… そしてこれは通常、この段階で克服する必要のある主要な対立は、私たちが何が得意かを知ることと、お客様のニーズに真に応えるために、自分たちの現在の知識のサイロから抜け出すことができることの、両方が並行して必要となることです。

 

8.1.5  ICMM レベル5: 挑戦する (Venturing)

進化の第4段階を超えて、この第5段階に到達するのに成功した組織は多くありません。そこで、今までのところこの第5段階が「最終」段階です(間違いなく、将来さらに多くの段階があるでしょう。第10章のFAQを参照してください)。第5段階で起こっていることは、(ビジネス内での)多くのグローバルな現象の一般的な認識です。

a) 人間のシステムの進化は一般的に収束方向にあります(図8.3に示す円錐のメガスケールのバージョンのように)。そしてそのような世界では明らかに、現在のプレーヤー全員のための余地はありません。第5段階の組織は、コアスキル領域の外や他の領域に積極的に取り組むことができます。これは、さまざまな事業をスピンオフすることを意味するかもしれませんが、ベンチャーの仕事をRule Of Three (Ref. 5) の世界規模のバージョンに変える可能性が高いです。小売業Tesco、およびRichard BransonのVirginグループが、おそらく2つの最良の例で、新しい分野への(ベンチャーとしての)参入の必要性を理解し、それと同時に既存の顧客ベースと従業員との信頼性を維持している、という組織です。    

b) 世界が「断続した平衡」の期間を循環するという並行認識。言い換えれば、組織が認識していることは、イノベーションが本当に重要な時期(すなわち、現在およびおそらく今後20年間)と、競争が減速して安定性が日常茶飯事になる他の時期とが、(循環的に)あることを認識し、それに応じてビジネスを設計しています。    

ICMMレベル5の組織を説明するときに考慮すべき重要な言葉は、「必須」です。このレベルに達した組織は、彼らが活動しているエコシステムの「引き潮と満ち潮」を理解し、そのような動きを最大限に活用する方法を知っています。そのため、前述の平衡が断絶している時期には、いつでも、レベル5の組織は、事業を行う市場の不断の変化に対処するために必要なレベルの敏捷性を備えています。同様に、彼らは必要なスキルセット(有形および無形の両方)をイノベーションプロジェクトのチームに組み込む方法を知っています。彼らは臨機応変に必要な管理構造とプロトコルを構築することができ、おそらく最も重要なこととして、信頼できる将来のグローバルシナリオモデルを構築および維持することができ、それによって、いつでも利用可能なリソースの有効性を最大化することを可能にしています。

 

8.2  一歩下がってもう一度全体を見る

さまざまなICMMレベルについてのこの簡単な概要記述はこれで終わります。先に述べたように、ICMM哲学の「実行」部分の本体は、付随する「旅」の本のシリーズに記述する(予定です)。そのような詳細に進む前に、現在の「高度1万メートル」にもう少し留まり、イノベーション能力を構築するストーリーの、全体像のいくつかの側面を調べることが有益でしょう。私たちは、まず、3つの特別なトピックについて議論し、その後で、ICMMの5つの異なるレベル特性について表形式で要約し、この第8章を終りましょう。

3つのトピックスは以下のようです。

8.2.1  イノベーションプロジェクトの種々のタイプ    
8.2.2  複雑なもの(Complicated) 対 錯綜したもの(Complex) 
8.2.3  いくつかの書籍と諸方法

 

8.2.1  イノベーションプロジェクトのスケールの異なる5つのタイプ

下位のICMMレベルの組織の人々の一般的な認識は、「イノベーション」とは、ラボの風変わりな人々が行う仕事を意味します。彼らにとって、イノベーションとは技術的イノベーション(技術革新)を意味します。より高いレベルへの「旅」の一部には、イノベーション(すなわち、私たちの全体にわたる定義では、「成功したステップチェンジ(階段状の変化)」)は、組織のさまざまな部門からもたらされる可能性があり、もたらされるべきである、という認識が含まれます。(多くのものと同じで)イノベーションを、さまざまなタイプに分割・分類する方法は沢山あります。ICMMの世界では、5つの明確に異なるタイプ [すなわち、扱うもの/ことのスケールが異なる5つのタイプ] のイノベーション活動が特定されています。それらは図8.4に要約されています。

図8.4: イノベーションの明確に異なる5つのタイプ

(1) プロセスのイノベーション

図の下から始めると、まず「プロセス・イノベーション」があります。この文脈でプロセスが意味するのは、製造の操作、人事部門が継承計画活動をどのように行うか、または会社の食堂がどのように運営されるか、などです。組織がプロセスのイノベーション(革新)を検討する場合、(一般的に言って)それは仕事の現場で発生し、完全に組織のチーム内部に存在するため、(それがビジネスの効率と有効性にもたらすメリット以外の形では)外部の世界からは見えない可能性が非常に高くなります。

(2) 製品・サービスのイノベーション

図の下から2番目のボックス [製品・サービスのイノベーション] は、従来のイノベーション活動が行われているところです。これは文字通り、白衣の実験室の魔法使い、エンジニア、デザイナー、そして全体として、新製品を考案する仕事を任されたすべての人々の世界です。また、伝統的に、「製品」という言葉を使用する場合、文字通り、私たちが住む世界を構成する歯ブラシ、シャンプー、洗濯機、車、コンピューターチップ、およびその他の有形の物理的な物体を意味します。しかし、私たちのここでのより広い文脈での「製品」は、金融サービス組織の銀行、保険、または貯蓄商品のポートフォリを意味する可能性もあります。または電話アプリも。簡単に言えば、イノベーションタイプのこの2番目のカテゴリは、顧客に見えるものであり、顧客がやろうとしている仕事を成し遂げるのに役立ち、大まかに言って、顧客たちががあなたに払おうとしているお金と引き換えに、顧客たちが得るものです。

(3) ビジネスユニットのイノベーション

図の中央(3番目)にある [ビジネスユニットのイノベーション] は、「ビジネスイノベーション」の第1レベルと考えることができるものです。

このタイプのイノベーションは [「異なる売り方」のイノベーションでもあり]、Apple社が一貫した良い例を示しており、私たちは棚から既存の製品とテクノロジーを取り出し、それらをボルトで繋いで、新しいやり方で顧客に提供すればよいのです。Appleの製品に取り入れられた技術的イノベーションはほとんどありません。むしろ、彼らがこれまでに得意としているのは、テクノロジーの適切な組み合わせをまとめ、見た目に美しいデザインで提示し、シームレスな方法で一緒にパッケージ化して、それによって、顧客は最高レベルにやり上げられた便利さと、「すごい、それ欲しい」という興奮要因を提供されるのです。iPodは世界初のMP3プレーヤーではなく、技術的にも最高ではありませんでしたが、それは世界市場の80%近くを占めました。その理由は、Steve Jobsがビジネスイノベーションの先見性を持っており、本当のチャンスはMP3プレーヤーではなく、むしろ、消費者が音楽に簡単にアクセスできるようにすることだと、認識していたからです。iPodの「イノベーション」は、プレーヤーとiTunesをシームレスな全体に組み合わせることでした。

(4) 組織経営のイノベーション

その次は、図の下から4番目 [組織経営のイノベーション] で、別のタイプのビジネス・イノベーションです。今度は、事実上、経営幹部だけが設計し実施できるものです。第3レベルの「異なる売り方」タイプのイノベーションが顧客に見えるなら、この第4レベルのタイプはおそらくきっと見えないでしょう。これが関わるイノベーション(すなわち、「成功したステップチェンジ」)は、組織を組織化するやり方に関するものです。それは、チームがどのように集まりかつ分散するか、組織がどのように学習しかつ学習しないか、その [組織の] 目標・戦略・ビジョン・使命・目的がどのように進化するか、そして、企業が(株主・政府機関・補完者との)外部関係をどのように設計および管理するか、などに関することです。組織におけるこのレベルのイノベーションは、主にGary Hamel が彼の研究書『The Future Of Management』で話していることに関係します。実際、上級管理職への(武器を取れとの)呼びかけで彼は言っている:「多くの組織が、(技術的)イノベーションが難しいとわかった理由は、上級管理職チームが世界の見方を再発明する必要があるからだ、ということを多くの組織が認識するべき時がきた」と。

(5) 社会のイノベーション

最後に、図の一番上にあるのは「社会の(societal) イノベーション」です [「社会的(social) イノベーション」よりももっと大きなスケールの概念です]。定義上、これは組織周辺のエコシステム [生態系、システムとしての社会環境全体] で発生するイノベーションです。したがって、それは外を見て、組織の従来の境界壁をはるかに超えた場所や市場で成功するステップチェンジを行うことができるようにすることです。このレベルのイノベーションは、定義上、伝統的に政治家や政府の領域です(残念ながら、求められている仕事をするために必要なスキルを持っている人はほとんどいません)。しかし、私たちのますます相互に接続された世界ではより一層、「全体像」を見ることのできる賢者たちをもった任意の組織にとって、[このレベルのイノベーションが] 脅威にも機会にも、なっています。

(6) ICMMの能力レベルで扱うとよいイノベーションのタイプが異なる

以上で、私たちはこれらの5つの異なるタイプのイノベーション活動を定義しました。では、それを使って何をしようとするのか?

簡単に言えば、答えは、「5つのタイプのイノベーション [すなわち、成果] は、5つのICMMレベル [すなわち、イノベーションの能力]と、非常に強い因果関係がある」ということです。リンクは、[当然のことですが、能力→成果へと] 次のように機能します。

ICMMレベル1の組織は、第1の「プロセス」タイプのイノベーションの試みで成功する可能性が非常に高いです。しかし、より高いタイプのいずれかでイノベーションを試みた場合、ほぼ必然的に失敗します。

ICMMレベル2の組織は、プロセスタイプ(第1)と新製品タイプ(第2)のイノベーションプロジェクトの両方で成功する可能性が非常に高いですが、より高いタイプのいずれかでイノベーションを試みた場合、ほぼ必然的に失敗します。

ICMMレベル3の組織は、プロセス(タイプ1)、新製品(タイプ2)、および「異なる販売」(タイプ3)のイノベーションプロジェクトで成功する可能性が非常に高いですが、上位2つのタイプのいずれかでイノベーションを試みた場合、ほぼ必然的に失敗します。

ICMMレベル4の組織は、[第1から第4のタイプ、すなわち] 最高の「社会」/エコシステムタイプ以外のすべてのタイプのイノベーションで、成功する可能性が非常に高いです。

ICMMレベル5の組織は、どんなタイプのイノベーションプロジェクトでも、(本当に決心すれば)成功する可能性が非常に高いです。

(ここで明確にしておきますと、)これらの定義のそれぞれにおける「非常に良いチャンス」は、新しいものに伴う不可避の不確実性を考えると、イノベーションの失敗 [の可能性] が常に存在することを意味します。「非常に良いチャンス」とは、組織とイノベーションプロジェクトチームが、リスクを理解し、リスクのできるだけ多くを軽減する方法を考え出し、そして(何よりも重要なのは)、「失敗」から学んで(次の反復の機会には)はるかに高いチャンスを生み出すようにする方法を学ぶこと、ができることを意味します。

逆に、私たちが上記の定義で「ほぼ必然的に失敗する」と言うとき、それは必ずしも、100%の失敗を保証している、という意味ではありません。ICMMを創る前は、定義上、いかなるタイプのイノベーションプロジェクトについても、その成功を組織が保証するのを助けるような、計量方法や形式的な手順はありませんでした。ICMMレベル3の一つの組織が、幸運に恵まれ、社会レベルの [イノベーションの] 成功事例を作るかもしれません。しかし、そのキーワードは「運」でしょう。現在、ほとんどの組織にとって、イノベーションゲームをプレイすることは、ルーレット盤上で正しい数字を選択しようとするようなものです。[ルーレットなら] 平均して、あなたは約3% [の確率] で、あなた(のイノベーションイニシアチブ)がお金を得るまでに到達する、機会を得たのです。

ルーレットを続けてプレイするのに、あなたはICMMを必要としません。ICMM哲学の主な目的は、試行錯誤の当て推量をできる限り排除するのを助け、そして、イノベーションを芸術形式から反復可能な科学に変換するのを助けることです。…

[訳注 (中川 徹、 2020.2.23): この節の説明を最も端的に図示すれば、下図のように表せるでしょう。左半分がイノベーション能力の5つのレベル(図8.1で下から上に積み上げる形式にしたもの)、右半分がイノベーション成果の5つのタイプ(すなわち5つのレベル)(図8.4)、そして中央に能力から可能な成果への関係を矢印で示したものです。これを、図8.5とします。

図8.5 イノベーション能力の5つのレベルと、イノベーションの成果の5つのタイプ(5つのレベル)の関係  ]

 

 

8.2.2  複雑なもの(Complicated) 対 錯綜したもの(Complex)

…この議論は私たちをうまく導いて、イノベーションの世界を高度1万メートルから眺める、私たちの第2の観点に連れてきます。その世界は、(私たちみんなが生き残り、繁栄しなければならない)現実の世界と同様に、根本的に錯綜しています(complex)。それは数学的な意味で(つまり、複雑性理論と複雑な適応システム[が扱っているような意味で] )錯綜しています(complex)。

[訳注 (中川 徹、2021. 2.19): 著者は本節で、「Complicated」と「Complex」とを対比して論じているのですが、本節では明確に定義していませんし、両語は英語自身でも、また日本語に訳しても、一般の人が共通に区別して理解している概念になりません。著者の説明は後日次第に明確になってきており、また問題の解決を論じる場合の重要な概念になってきています。著者が意味すること(の私の理解)は次のようです。

著者は、ものごとの込み入っている段階を示すのに、simple(単純な)、complicated(複雑な)、complex(錯綜した)、chaotic(混沌とした、カオス的な)という4段階を区別します。

Complicated とは、いろいろな要素(もの/こと/性質/関係など)が絡み合って複雑だけれども、それらの諸要素をばらして考えることができ、諸要素から全体を再構成できるような状況を意味します。
Complexとは、諸要素がさらに絡み合い・「融け合って」、もともとの諸要素を組み合わせた以上の状況、諸要素をばらすことが困難な状況を意味します。たとえとして、「マヨネーズを、卵と油と酢と塩などの混合物だと言っても、それをばらすことはできないでしょう」といいます。
多くの場合に、ComplicatedとComplex とは区別されず、ひっくるめて(日本語では)「複雑な」と言います。著者が言うComplexを(Complicatedと区別して)表す適当な日本語がありませんが、ここでは「錯綜した」と訳しておきます(昨年10月には「輻輳した」と訳したのですが、修正します)。
通常の英語でも、Complicated と Complexとが十分に区別されてはいないと思われます。Complicatedを名詞にするときに、Complicatednessという語を使うことはほとんどなく、Complexityを使うのが普通だと思います。
Complexは、それでも一つのシステムとして内部的ななんらかの秩序を持っている状況です。

Chaoticはそのような内部的秩序を持たない(ように見える)、さらに複雑で混沌とした状況を意味します。

著者が本節で言おうとしているのは、「Complexなことを、Complicatedなことであるかのように扱うのは、間違いだ、多くの見落としを生む」ということです。]

 1990年代には、新しい数学的発見をビジネスの世界に適用することをテーマに書かれた、マネジメントの教科書が急増しました。もし、そのうちの何冊が、それらの本を読んだ人が属しているビジネスに、影響を与えたかと尋ねるならば、あなたは答えがどこかゼロ点のあたりであると結論を下さなければならないでしょう。組織は(一般的に言って)効率を重視して設計されています。組織は、顧客の要望を一旦理解すると、「継続的改善」の力を利用して、必要なものをますます低コストで、無駄を減らして提供できるように、して行きます。成熟した組織は「効率エンジン」です。組織はこれらの極めて重要な能力を、実行する必要のあるタスクを手続き化し、ますます小さなチャンクに縮小することにより、獲得して行きます。典型的にこれは、組織内の各ジョブをマニュアル(または一連の指示)に縮小することを意味します。これにより、事実上、新しい人が組織に加入し、能率を発揮できるように非常に短期間で学べるようになります。

この作業タスクを、管理可能で定義可能なレシピや手順やアルゴリズムへと縮小することは、すべて錯綜性(complexity) を消去 [しようと] しているのです。臨床医や財務リスクマネージャーやジェットエンジン設計者などに渡される手続きや手順書は、それらを格納するためにファイリングキャビネット全体を必要とする場合があるでしょう。しかし、本質的に、組織がこれらのファイリングキャビネットを埋めるために行ったことは、錯綜したもの(complexity)を一連のルールに変換するという、「あやまちをした」のです。確かに、それらは随分「複雑な(complecated)」ルールでしょうが、それらのルールが「偽(すなわち、真でない)」であると言ってよいのです。その理由は、それらが世界の地図を作成しているのだけれども、(Alfred Korzybskiの言葉を言い換えると)「地図は領土ではありません。現実が何であるかについての、私たちの現在の最良の推測にすぎません。」

私たちの現実は、私たちが錯綜した(complex)一つの世界に囲まれており、そこではすべてのものが他のすべてのものに接続されています。別の決まり文句の言葉で言えば、「英国のクリーブドンで蝶が羽ばたくと、実に竜巻が上海で引き起こされるに至る。」

単に複雑な(complicated) 世界で [あれば]、私たちがいつもやってきたことを続ければ、私たちは同じ結果を得続けるでしょう。それが、20年前のフォーチュン500企業群の50%以上で、もはや存在しない企業群に、起こったこと [やったこと] です。彼らはいつもやっていたこと、つまり「効率エンジン」を全開で操作すること、をやり続け、同じ結果が得られ続けると期待していました。ところがどういうわけか、不思議なことに、まったく異なるものを得た、という結果になったのです。その謎は、錯綜した(complex)世界の「ルール(法則)」は、「もしあなたがいつもやってきたことを続ければ、あなたが「以前に得たもの」を得続けるだろう」ということです。

ICMMレベルの用語で言うと、レベル1、2、および3の組織は、事実上一連の「旅」を経て来て、彼らの効率エンジンを着実に改良してきました。その結果、それらは「地図/領域の不一致」に捕らえられる可能性が最も高くなるでしょう。レベル3の組織は、世界を複雑(complicated)である、つまり、すべてを数とルールに還元することで管理できる、と考えています。それによって、彼らは現在行っていることを非常に上手に行うことができるでしょう。(Dyson社がその世界(業界)を混乱させた前の)Hoover社のように、チームに新しい真空掃除機のデザインを創るように依頼してごらんなさい。そうすれば、チームはすべての美しい彼らのデザインルールに従い、間違いなくエレガントな新しいマシンを作成するでしょう。しかし、誰かがやって来てそれらのルールを変更すると、彼らは完全に不意打ちを食らいます。あるいは、さらに悪いことに、[現行の] ルールが間違ったルールであったことを示したとしたら、...。

レベル4の組織は、この「複雑な(complicated)」世界から最初に飛び出して、「錯綜した(Complex)」世界に至るのに成功しました。レベル4の組織は、次のことを学びました。

  * 錯綜した(complex)システムには「根本原因」のようなものはありません。むしろ「諸原因の共謀」といったものがあるでしょう。

  * 真のDemingのやり方では、「最も重要な数は未知であり、知ることが不可能である」。そしてそれについて彼らが何をする必要があるかを。

  * 錯綜した(complex)世界でイノベーションを起こす唯一の賢明な方法は、実験を行って周囲の生態系を調査し、それらの実験で何が起こったかを適切に感知し、そして次の応答を設計することです。

  * イノベーションとは、組織内で支配的な常識となっているルールや仮定を破ることです。

これらのそれぞれは、非常に直感に反すると見なされることがよくあります。特に、リーンとシックスシグマおよび効率エンジンの構築を目指している [すべての]、「継続的改善」の世界において。ICMMのレベル3から4への「旅」は、これらすべての問題とそれ以上のものが、前進しようとする組織にとって、本質的にその頂点に達する場所です。しかし、それは、どのICMMレベルにいても、すべての組織に関連しています。なぜなら、私たちが好むと好まざるとにかかわらず、私たちは独自のエレガントな、ルールに基づき、データで満たされた、世界の地図を作成したいのだけれども、私たちがマッピングしようとしている領土は基本的に錯綜している(complex)からです。

その結果、レベル1または2の組織のチームが、錯綜性(complexity)や錯綜した(complex)システムの問題を、上級管理職チームとの話に有意義に持ち出すことさえ非常に困難です。しかし、もし彼らがイノベーションゲームで勝とうとするには、彼らは錯綜性(complexity)に対抗するのではなく、それと協働する必要があるでしょう。錯綜した(complex)世界において、もし何らかの信頼できるヒューリスティックがあるとすれば、おそらくリストの一番上は「それ[Complexity]が存在することを認識する」ことです。そして、ヒューリスティック2は、「川の水を押し戻そうとしない」ことです。レベル4および5の組織は、これらのヒューリスティックを身に着けています。下位レベルの組織内で成功しようとしている個人は、たとえ組織が(おそらく)対極の方向に進むように設計されていても、それら [二つのヒューリスティックス] をどのように使えるかを考え出す必要があります。

 

8.2.3  いくつかの書籍と諸方法

Thomas Edison が、「イノベーションは1%のインスピレーションと、99%の汗である」と述べたのは有名です。彼は創造性と実行の違いについて話していました。イノベーションプロジェクトの大部分は、初期の創造性段階ではなく、実行段階で失敗します。マネジメントの本の大部分が、後者ではなく前者に焦点を当てているように見えることを考えると、これはおそらく奇妙なことです。おそらくここでの問題は、創造性について書くことは本質的に興味深いことですが、アイデアを取り入れてお金に変えるために必要な厳しく長い活動について書くことはそうではありません。誰もがDysonがサイクロン真空掃除機のアイデアをどのように思いついたのか知りたがります。しかし、正気の人は誰も、適切な設計が明らかになる前に作成された5000以上のプロトタイプに付随するストーリーを、辿りたいとは思わないでしょう。

イノベーションの物語の実行「部分」に関する比較的少数の本の中で、最も優れたものの1つは、『The Other Side Of Innovation』です。一群の大成功を収めた諸組織がどのようにしてイノベーションを起こしたかについての、10年にわたる研究の結果です。多くの知恵、多くの知識、そしてさらに多くの「それを行う方法はここにある」レシピを備えた、テキストです。素晴らしい。ただし、(これがICMM哲学全体への鍵なのですが)、おそらく、この本を読んでいる人の75%にとって、この本の推奨事項を組織に採用しようとすると、その結果は、多くのフラストレーションが生じ、ずっと多くの失敗が起こります。

この理由は、きっと意識せずに、基本的に「旅」の同じ段階に着手している一群の組織に沿って、著者たちが考えを発展させたためです。言い換えれば、『The Other Side Of Innovation』は、ICMMレベル2の組織で、レベル3への飛躍の「英雄の旅」を目指している組織にとって、ほぼ完璧な台本のテキストです。しかし、レベル1の組織のイノベーションを殺す可能性が非常に高く、そしてレベル4または5で運営されている組織にとっては、「だから何?無関係だよ」と見なされます。

ここで重要なのは文脈です。私たちのICMMの研究タスクの中で、最も長く、最も困難なものの1つは、『The Other Side Of Innovation』のような多くの本を、より大きな世界観の中に位置付けることでした。2011年には、4500を超えるマネジメントの教科書が英語で出版されました。これは恐ろしく多くのノイズであり、その結果、組織が自分たちにとって何が正しいか/正しくないかを判断するのが、恐ろしく困難な一連の意思決定になります。私たちが住んでいる現在の光速で変化する世界で、私たちみんなが直面している一つの矛盾は、「情報が豊富な世界では、時間的に非常に貧しい」ことです。

まったく同じ問題が、私たちの注意を本から、ツールや方法に切り替えたときに、生じます。ある組織が使用するべきなのは、シックスシグマだろうか?TRIZ?ブルーオーシャン戦略?QFD?5S?VSM? それとも利用可能な他の無数の、百万種もありそうなツールのうちの一つだろうか?

答えは「状況によります」です。

良い知らせは、私たちはいまや、これらの依存関係が何であるかがわかりました。ブルーオーシャンがあなたの組織に適しているかどうかは、あなたのICMMレベルによって異なります。同じことが、QFDについても、TRIZについても、そして『The Other Side Of Innovation』についても、言えます。それらがあなたに関係があるかどうかは、あなたがどのICMMレベルにおり、どこに到達しようとしているのかに、依存します。

私たちの「旅」の本のシリーズで、私たちは最善を尽くして、年間4500冊以上の本をふるいにかけました。(心配しないでください、それは聞こえるほど難しい作業ではありません。それらの非常に大きな割合は、同じテーマでの微妙な「me too」のバリエーションです。また、やや悲惨なほど高い割合は、間違っていて、あなたのICMMレベルに関係なく危険なほどです。) そして私たちは、教科書、ツール、および方法のコアセットを特定しました。それらは、一つ一つのICMMレベルにある組織に対して、最大の関連性を持ち、したがって最大の利益を提供するでしょう。

私たち自身のクライアントの調査により、また、他の人々のデータを集めた結果、組織内の変革のイニシアチブの(控えめに見積って)70%以上が失敗に終わっていると、推定されています。私たちが確信していますのは、この高い失敗率の最大の単一の理由は、組織(または彼らが助言を得るために採用するコンサルタントたち)が、彼らの支配的な変化の文脈に、間違った解決策を押し込もうとするからです。次の8.3節のICMMレベルの要約表は、この問題を解決するプロセスを開始します。ICMMの「旅」の本のシリーズは、私たちがこの問題を深く掘り下げ、私たちがいろいろな組織に有意義な助言をできるようにしたものです。組織が、現在いる場所から、居る必要がある場所に到達するのに、何が役立ち、何が役立たないかを、まとめています。

 

[以下、後続: 8.3  ICMM(イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベルを要約する
大規模な表です。次回に掲載します。]

 

8.3  ICMM(イノベーション能力成熟度モデル)の5つのレベルを要約する

以上で、はっきりしました。組織のイノベーション能力には、5つのレベルが(これまでのところ)あります:
        種を蒔く(Seeding) - チャンピオンを作る(Chanpioning) − 管理する(Managing) − 戦略化する (Strategizing) − 挑戦する(Venturing)。

私たちは、「あなたの組織がこの進化のどこにいるか?」を、あなたが知る必要があると、思います。「競合他社たちはどこにいるか?」をも、あなたが知る必要があると、思います。そして、あなたが彼ら [競合他社] と少なくとも同程度にイノベーション可能なレベルにうまく到達するために、あなたは何をしていますか?幸運を祈ります、頑張ってください。彼らは、イノベーションを世界で最も難しくそして役に立たない仕事だとは言っていません。

本章での5つのレベルの概要説明を終わる前に、私たちは以下の一覧表に、各レベルでの主な特徴を記述しておきます。[以下の、主要8項目について、記述しています。]

A) 「McKinseyの組織モデルの7つのS」に基づく、組織の典型的な特徴。
          すなわち、戦略 (strategy)、構造 (structure)、システム (systems)、スタイル (style)、スタッフ (staff)、スキル (skill)、および共有価値 (shared values)    

B) 典型的なイノベーションの役割     

C) 典型的なイノベーションの成功指標    

D) 典型的なイノベーション・レバー(方策、手段)    

E) 典型的な「英雄の旅」での「試練」(すなわち、支配的な矛盾)。
         次の能力レベルへのステップチェンジの飛躍を実現するために、克服する必要がある「試練」(支配的な矛盾)。これらを使って、「私たちはいまどこにいるのか?」を評価できます。「あなたの組織は、これらの試練を解決しましたか?」    

F) 典型的なハイプサイクル特性で、各レベルで処置する必要があるだろうもの。    

G) 典型的なマネジメントの教科書で、その特定のレベルの組織に役立つだろうもの。 

       [訳注: 現在は、英文タイトルだけです。それらの本の著者名と出版年を、著者Darrell Mannに問い合わせており、追記するつもりです。また、和訳書があれば、追記します。]

H) 典型的なイノベーションツール、方法、および哲学で、その特定のレベルの組織に役立つだろうもの。

    

8.3.1  ICMM レベル1:  種を蒔く(Seedomg)   要約表

A1. 戦略

組織がイノベーションによってどのように前進するかについての「ビジョン」がなく、したがって、そうするための正式な戦略はありません。このレベルの組織はほとんどの場合反応的 [主体的の逆で、外からの刺激によって動いている/動かされている] であり、観察された脅威への対応の方向は、過去に機能したもの(それが何であれ)への復帰である可能性が非常に高いです。

A2. 構造

ビジネスは、以前からするように設定されていたものを、効率的に提供するように、構造化されており、「安定性」が構造を導く主要要素です。この「種を蒔く」段階で仕事をしているイノベーターは、従来からほとんど/まったく成功のチャンスを持っていません。しかし、彼らが手渡された「毒杯」は、彼らの探索が小規模な成功に留まっている限り、彼らのキャリアにも組織にも致命的な(害がある)必要はありません。組織全体にサイロ [閉鎖的な縦割り部門] が支配的であり、[イノベーターが試みる] 変化が一つのサイロを越えて影響を与える可能性がある場合には、しばしば縄張り争いが起こります

A3. システム

組織は日常のビジネスを実行するための諸プロセスをすでに確立しているかもしれませんが、レベル1の組織は正式なイノベーションプロセス能力を持っていません。成功事例はいずれにせよ本質的に漸進的であり、各サイロ内で発生します。それらは、システムのおかげというよりも、システムにもかかわらず発生するという傾向があるでしょう。

A4. スタイル

イノベーション能力の進歩のこの段階では、経営陣の推進力は部外者には「私の管理下では、何も起させない」ように見えるかもしれません。うまく機能しているように見える組織を、変更したり、混乱させたいと思う上級管理職はほとんどいません。(問題を解決する)火消し活動の成功が英雄を作ります。不測の事態への対応計画やイノベーションの機会の発見が、リーダーたちのレーダー画面に表示される可能性は低いでしょう。

A5. スタッフ

レベル1が関連付けられているような断片化された組織に、何らかの真の共有文化がある限り、イノベーションについて言うことはほとんど何もありません。強力な組織文化はなく、人々はイノベーションスキルのために採用されたのではありません。…あるいは、採用されたとしても、チーム内で長く生き残ることはできないでしょう。

A6. スキル

ほとんどの人は、イノベーションや変化への対処に必要な、スキルや考え方を持っていません。スキルは、単に「現行の仕事をする」ために必要なものでしょう。少数の孤立した個人が、より批判的な考え方を持ち、創造性や質問や分析のスキルを持っているかもしれません。人々は現在の仕事をするために必要なスキルを持っていますが、イノベーションツールや方法やスキルはまれであり、奨励されることはめったにありません。

A7. 共有価値

人々は、自分が今していることと、今起こっていることを、避けられない、または唯一の可能なシナリオであると、信じる傾向があります。共通の価値観は、おそらく、継続性の重要さ、不確実性の回避、「伝統」と「リンゴのカートをひっくり返さない」ことの重要性でしょう。安定性と予測可能性が評価されるでしょう。

B. 典型的な役割

成功したイノベーターは、ある種の秘密の、グループで集まる、中低レベルのマネージャーの反逆者であり、「許可ではなく許しを求める」準備ができている可能性が最も高いです。レベル1のイノベーションの成功 [者たち] は、「海賊」、「私掠船」、そして、システムにもかかわらず自分が正しいと思うことを実行することに情熱を持っている人々、である可能性が最も高いでしょう。

C. 典型的な成功指標

提出された提案の数。
フィードバックが提供された提案の数(「経営陣は聞いています!」)。
正常に実装されたアイデアの数。
節約されたお金。
ROI (ソリューションの作成に許容できる「コスト」がない可能性が非常に高いことを念頭に置いて)

D. 典型的なレバー(方策、手段)

外部助成金。
「サバティカル」休暇。
課外グループミーティング。

E. 「英雄の旅」の「試練」

正式な予算や時間なしで、成功事例の実績をいかにして創り出すか?
「勝てない」プロジェクトで仕事することをいかにして拒否するか?

F. ハイプサイクルの特性

ピークの時: 経営陣は(技術的な)イノベーションに関心を示します(そしておそらく、「キックスタート」のための大きな立ち上げのイニシアチブを取ります)
谷の時: 技術部門が彼らの解決策を、組織の営業部門とビジネス側に壁を越えて投げかけると、事態はひどく悪くなります。

G. マネジメントの教科書

Orbiting The Giant Hairball.
Cubicle Commando.
Rules For Renegades.
The Art Of War.
How To Win Friends And Influence People.
Seven Habits Of Highly Effective People. (Stephen R Covey, 2005): 『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(2020,新書版)
Shibumi Strategy.
Chutzpah.
How To Measure Anything.

H. イノベーションのツール、方法

機能分析/バリューストリーム・マッピング
ケプナー・トリゴー法
DFMA (Design For Manufacture and Assembly) /トリミング
Six Thinking Hats.  (Edward De Bono: 6つの帽子思考法)
パーセプション・マッピング
9画面法 [TRIZの方法の一つ]
なぜ−何が妨げているのか?
Subversion Analysis [破壊分析]/ AFD (Anticipatory Failure Determination)
SCAMPER (オズボーンの)/(TRIZの40の)発明原理
5S [整理・整頓・清潔・清掃・しつけ]/ 8D [フォード社の問題解決フレームワーク] / QCサークル

    

8.3.2  ICMM レベル2:  チャンピオンを作る(Championing)  要約表

A1. 戦略

戦略は、安定した世界を仮定しがちであり、長期的な脅威や機会の理解をあまり表示しないでしょう。競合他社の活動、特に新しいドメインからの破壊的な脅威について、随分の無視があるでしょう。組織の正式な戦略のいかなる部分にも、イノベーションに言及していることが、あまりないでしょう。研究開発機能はきちんと存在しているかもしれませんが、日常業務の「現実世界」から戦略的に大きく切り離されています。技術イノベーションはありそうですが、ビジネスイノベーションはずっと稀でしょう。イノベーションの大きなビジョンはあまりよく理解されていず、戦略が流行やファッション(たとえば、オープンイノベーションなど)、および「易しい近道」の探索に、強く影響される可能性があります。

A2. 構造

いくつかの「経営取締役会での議論」により、イノベーションチームはいまや、「イノベーションを推奨する] 言葉を広め、サポーターのネットワークを構築し、(そして最も重要なことに)いくつかのツール、システム、またはメソッドをインフラストラクチャに導入する、などを始める準備ができているはずです。この「チーム化/チャンピオン化」段階での主な目的は、「イノベーションが目に見えずリスクの高い敵ではなく、重要なビジネスプロセスである」という認識が、組織全体に幅広く受け容れられる状況を実現することです。通常、チャンピオン [として実践し]、[人的/機能的] ネットワーク [を構築・運用し]、[進行・実績を] 測定する役割を担うには、少なくとも1人のフルタイムの専任者が必要です。
このレベルでは、変革を扱う機能は組織全体でまったく一貫性がなく、「サイロ(閉鎖的縦割り部門)」の境界によって妨げられています。1つの「サイロ」内の人々は、変革の実装を計画し、あるいは、管理された変革に対処しようと計画しているかもしれませんが、組織内のサイロ間で変革の観点からの本当の対話や意見交換や協力関係がなく、そのために、変革のプロジェクトはしばしばサイロ間の境界で潰れて、失敗してしまいます。

A3. システム

この第2段階で必須のことは、イノベーションチームが、提供している種々の改善の定量化を、開始できることです。測定の信頼性の問題を解決することが、このフェーズでの難しい課題です。再現性のある成功を提供することが、次のレベルへの前進を達成する前に実証する必要がある主要な能力です。競合他社のベンチマークをすることにより、組織は変革の必要性をよりよく感知することができます。組織の何らかの部門が、ときには、「外部の変化が、内部システムの変革を必要にしている」と、観測することがあります。有形の諸要因は簡単に測定できるため、それらをビジネス指標に組み込むことが有効です。

A4. スタイル

リーダーたちは、「現状」を維持し、自分自身やチームの力や地位を脅かす可能性のある混乱や変化を回避することに、関心を持つ傾向があります。イノベーターたちはせいぜい「許容」される [存在である] 可能性があり、最悪の場合には、潜在的なトラブルメーカーであり、制御下に置くか、邪魔にならないようにせねばならない [存在だ] とみなされます。「私の監督下にある間は、[余計なことはさせない]」というのが、依然として会社のトップの支配的な要因である可能性が高いです。しかし、少なくともこの段階では、「変化は必然的に発生し、経営陣の対応が必要になるだろう」という認識があります。イノベーションプロジェクトが開始されると、(不可避の)困難な期間に、組織が [古い] ものごとに固執する意志は、低くなる傾向があります。

A5. スタッフ

レベル2 の「断片化された」組織が、強力な統一された組織全体の文化を持っている可能性は非常に低いため、存在する「文化」は(社内の)チームおよび専門分野内にあり、チームおよび技術のステータスを保存・維持するために、非常に「内向き」になる傾向があります。強力な統一された組織文化はありませんが、諸サイロ内にはサブカルチャーがあります。これらのいくつかはイノベーションを促進するかもしれません。イノベーションの試みは、潰されたり、「無関係だ」と批判されたりしないように、しばしば秘密裏に行われる必要があるでしょう。支配的な「常識」に合わないものは何でも、生き残るのが非常に困難な時期でしょう。

A6. スキル

イノベーションスキルは、稀でしょう。それに加えて、スキルの開発に個人的な関心を持っている人もまた、珍しいものでしょう。スキルセットとマインドセットは、成功するビジネスにとって必要な「継続的改善」の効率エンジンの創成と維持に焦点を合わせています。ソフトな「人々」のスキルは、イノベーションの成功にはしばしば必要とされるのですが、欠落する傾向があるでしょう。そのようなことが必要であるという認識も、同様に [欠落しているでしょう]。

A7. 共有価値

安全性、予測可能性、「平和」、安定性、そして、技術的知識と専門知識の栄光(その背後に長い歴史を持つから)。このレベルの研究開発は、効果がないが必要な「道楽」とみなされることがよくあります。イノベーションのポストは、リスクが高く、しばしば、失速したキャリアの「最後のチャンス」の兆候と見なされる傾向があります。

B. 典型的な役割

イノベーション・チャンピオン。
イノベーションプロジェクト・チームリーダー。
研究開発責任者/「イノベーション責任者」
技術/マーケティング連携の役員(「私たちは実際に一緒に、同じ側にいます」)

C. 典型的な成功指標

特許/意匠登録等の数
実際のROI /「もし実装されたとすれば」の推測ROI
プロジェクトパイプライン関連: インプット 対 アウトプット
「良い試み」の数

D. 典型的なレバー(方策、手段)

外部研究&開発資金助成金
学界への外部委託コラボレーション
インターン
効率エンジンの「スラックタイム」 [遊びの時間]

E. 「英雄の旅」の「試練」

「新しい」(変化/イノベーション)の仕事が、日常の「効率エンジン」活動と一貫性がなく、破壊的です。
社内のサイロ壁で立ち往生している(特に「技術」部門と「ビジネス」部門の間で)。
イノベーションの「失敗」を、キャリアを限定するものと見なさないようにする。

F. ハイプサイクルの特性

ピーク時: 成功した持続的イノベーションプロジェクトは、上級管理職の支持者をもたらし、広範な「イノベーション文化」を求めます。
谷の時: 避けられない失敗が到来し、経営陣は「これは難しすぎる」と判断します。

G. マネジメントの教科書

The Other Side Of Innovation (Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010); 『イノベーションを実行する―挑戦的アイデアを実現するマネジメント』、吉田利子訳(2012)
Buy-In
Good Strategy/Bad Strategy
Competitive Advantage
The Pirate's Dilemma
The Mind Of War
Winning At New Products
The Future Of Knowledge
The Next Evolution Of Marketing
Mastering The Dynamics Of Innovation
The Elegant Solution
Out Of Our Minds
Designing For Growth
Design Of Business
Reverse Innovation
Jugaad Innovation
Innovation Engine
Repeatability: Build Enduring Businesses for a World of Constant Change
TrenDNA: Undeerstanding Populations Better Than They Understand Themselves.   (Darrell Mann, Yekta Ozozer, 2009)

H. イノベーションのツール、方法

TOC (制約理論)/ QFD (品質機能展開)
TrenDNA
進化のポテンシャル/進化のトレンド [TRIZの一部]
矛盾 [TRIZの重要手法]
「トング」モデル   [TRIZの一部の手法]
バリューエンジニアリング  [VE]
ピューマトリックス/コンセプトの選択  [公理的設計の一部]
デザイン思考
公理的設計
リーン [トヨタ生産方式]/タグチメソッド [品質工学]/
シックスシグマ/ DMAIC [シックスシグマの問題解決プロセス]/ DMADV [Design for Six Sigma (DFSS)]

    

8.3.3  ICMM レベル3:  管理する(Managing)    要約表


A1. 戦略

レベル3の組織は、「イノベーション」をその組織のコア戦略の中心的な柱として持っています。明確なイノベーションプロセスが実施されており、目標が設定されると、プロセスが、確実にかつ繰り返し、提供しようとしたものを、(それが現行のドメインに属するものである限り)提供できるであろう、という強い可能性があります。たとえば、レベル3の [IC] チップ製造会社は、より優れたチップを一貫して提供できるでしょう。このレベルのイノベーションは、その組織が得意なものに焦点を当てており、必ずしも、市場が必然的に必要とするものではありません。

A2. 構造

このレベルの組織は、「変革プロジェクト」を構造化された方法で管理し、サイロの境界をうまく越え始めています。一部のビジネスサイロが除去されたため、組織はある程度の敏捷性を発揮し、変化が破壊的なステップチェンジ(階段状の変化)ではなく持続的な変化である限り、組織は現行のプロセスから抜け出して、必要とされる新しいプロセスに移ることを、確実に管理できます。多くの場合、レベル3では、組織はイノベーション活動を残りのビジネスから物理的に分離します。これにより、効率エンジンを脅かすことなく、さまざまな実践、手順、およびルールを、使用することができます。

A3. システム

正式なイノベーションプロセスとシステムが実装されており、新しいアイデアを体系的に開発し、テストし、活用することを可能にしています。組織はまた、効果的なコミュニケーションと研修システムをもっており、非常にしばしば主要サプライヤーともいっしょになって、変化の管理を助けています。システムとプロセスは、ドメイン内の重要な技術的変化に対処できますが、ドメイン外のパラダイムシフトをサポートするようには設計されていません。システムはそのようなシフトの可能性を特定することを実装しているかもしれませんが、それらが現実になると、組織は簡単に麻痺する可能性があります。

A4. スタイル

リーダーたちの最優先事項はまだやはり、「効率エンジン」を改善することによって、「現在の仕事を管理する」ことですが、いまではすべてのリーダーが、イノベーションとイノベーターを育成およびサポートする責任があることを認識しています。アイデアを持っている人は聞いてもらえ、「通常のルーチン」にあ
まり混乱がなければ、アイデアの開発とテストをサポートしてもらえます。リーダーはまた、彼らが「チェンジ・エージェント」の役割を持っており、組織が変化を実装するのを助ける役割を彼らが果たすことを受け入れていることを認識しています。リーダーたちは、イノベーション活動が通常の運用を脅かす可能性がない限り、イノベーターを信じてサポートします。多くの場合、[イノベーション活動を] 他のビジネスから物理的に分離し、2つのエンティティ間の移行を管理します。

A5. スタッフ

真のイノベーションプロセスでは、失敗は「避けられない」という認識があります(「もし私たちが(まったく)失敗していないのなら、私たちは十分に力を入れていない [十分に新しいこと/限界にチャレンジしていない]」)。このマネジメントプロセスの重要な部分は、「リスクがイノベーションプロセスによって管理可能である」ことを、上級マネジメントチームに納得させることです。この種のデモンストレーションの良い例は、「早く失敗せよ、前向きに失敗せよ」という哲学を持つ組織で生じています。そこでは、「失敗」は、実験として構築されており、チームがそれから学んで、将来のより大きな成功に向けて構築していくでしょう。この理解は、組織内の主流 [の人々] が理解しないことが多いでしょう。そこでは、[建前として] 信奉しているイノベーションの哲学と実際の [心底の] ものとに不一致があって、失敗は、公式には受け容れられていますが、非公式には、「1回のチャンスとアウト」という底流にある傾向が続いているでしょう。

A6. スキル

人々は、彼ら [自分たち] が何をしており、どのように仕事が進んでいるのかを、質問することが奨励されています。イノベーションに必要なスキルは、ごく一部の労働力に存在します。人々は一般に、ビジネスが変化するだろう、仕事が変化するだろう、そして組織は成長して適応できる必要がある、ことを予期していますから、変化が起こったときに、人々は一般的に抵抗しません。非線形の変化と混乱を検知する能力はいまや十分に確立されており、現在の能力に応答が収まっている限り、既知のスキルセットに収まる範囲内での、応答を設計することができます。

A7. 共有価値

安定性と、学習と変化の要求との、バランスを取ることの必要性。イノベーションが、構造とシステムに関して、組織の管理された枠内にあることの重要性。イノベーションが「旅」に貢献するだろうという期待が組み込まれています。現在の出力(成果)は、時間の経過とともに、より良く、より安く、より速くなって行くでしょう。データがものごとを支配する傾向があります:「私たちが何かをする前に、それが理に適っていることを証明せよ」。

B. 典型的な役割

最高イノベーション責任者
「スカンクワークス」 [(秘密の)開発プロジェクト] のメンバー
顧客「人類学者」 [人類学的なアプローチで顧客一般の需要・行動を観察する人]
「橋渡し役」: (組織の)内部と外部との

C. 典型的な成功指標

特許の質
プロジェクトの「脈拍数」: ステージゲートを通過する速度
進化のポテンシャルの達成率
従業員1人あたりの学習日数
従業員の自発的なイノベーション時間
プロジェクトのROI
成功した新しい製品/サービスの数
ビジネス全体への「イノベーション」の貢献

D. 典型的なレバー(方策、手段)

日常のルールと構造から「解放された」社内従業員の一団
自発裁量の時間
サプライヤーとの共同イノベーションのネットワーク
解決策を [を求めて] 「外を見る」許可 [他の分野・領域・業種など]

E. 「英雄の旅」の「試練」

イノベーションの試みが意味があることを、それを証明するデータが(基本的に)ない場合に、どのようにして証明するか?
ドメインエキスパートが主体の状況からから、「顧客にとって最善のことを何でもする」に、移行すること。
プロジェクトのさまざまな段階で、根本的に異なる(ソフト)スキルが必要である、という認識。

F. ハイプサイクルの特性

ピークの時: 「私たちはこれが本当に得意です」−イノベーションを維持して、市場シェアをうまく伸ばしています。
谷の時: 最初の「ブラックスワン [まったく思いがけない]」破壊的脅威が外部から出現し、組織にはそれに対応する実行可能な手段がないことを悟る。

G. マネジメントの教科書

Competitive Advantage
The Rule Of Three
Escape Velocity
The Innovator's Dilemma (Clayton M. Christensen, 1997, 2016); 『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』 (玉田俊平太他訳, 2011)  / The Innovator's Solution (Clayton M. Christensen, Michael E. Raynor, ); 『イノベーションへの解』 (2013)
Where Good Ideas Come From
Polarity Management
The Ten Faces Of Innovation
Jumping The S-Curve /Managing Transitions
The Checklist Manifesto
The Wide Lens
Business Model Generation
More With Less
The Decision Book
The Culture Cycle
Appreciative Inquiry
Thinking In Systems: A Primer
Being Wrong
The Blind Spot
Synergy
Counter-Knowledge

H. イノベーションのツール、方法

根本矛盾分析 (Root Contradiction Analysis)
ApolloSigma (特許品質)
Δ進化のポテンシャル (業界の「パルス」レート)
心理的惰性ツール  [TRIZの技法の一つ]
ARIZ  [TRIZの代表的アルゴリズム] / RF2
DFMEA [デザイン故障モード影響解析]
OODA [Observe(観察)-Orient(方針決定)-Decide(意思決定)-Act(行動)]
感性工学
(方向づけられた)オープンイノベーション
シナリオプランニング

    

8.3.4  ICMM レベル4   戦略化する(Strategising)   要約表


A1. 戦略

この第4段階で達成するべき主な目標は、予測可能なビジネスプロスのイノベーションから、現在の製品とサービスの範囲を超えてビジネスの将来の成功をもたらすことができるイノベーションに移行することです。言い換えれば、この段階でのイノベーションは、ビジネスの従来の扉の外に飛躍し、より広い文脈でビジネスの将来の位置を検討し始めます。ここでの戦略的鍵は、顧客が [商品やサ―ビスを越えて、より本質的な] 「成果」/「仕事」/「機能」を購入しようとしており、組織がそれらのニーズを満たすための最良のソリューションを提供できる必要がある、という認識です。また、無形の推進力が有形の推進力と同様に重要であること、そして、すべてが「理想的な」最終状態に向かって容赦なく収斂していく、という認識です。

A2. 構造

組織は、すでに「指令&管理」の構造を大幅に取り除いており、サイロ [閉鎖的縦割り組織] を除去しており、敏捷になるように意図的に設計されています。そのため、必要なときに、(複数の)プロジェクトグループを編成したり、解消したりできます。イノベーションは、キャリアアップのベストチャンスのための「居るべき場所」として、ますます見られるようになります。

A3. システム

(無形で非言語的な)イノベーションの機会の手がかりを、引き出す(取得する)ためのプロセスが、実施されています。「イノベーターのジレンマ」についての戦略的認識があり、それが生み出す脅威と機会を考慮に入れるためのプロセスが実施されています。迅速なイノベーションサイクルとそれらのサイクルの結果からの学習を可能にするプロセスが、すでに導入されています。イノベーションの敏捷性を測定することができ、組織は現在のドメインの境界を越えて見ることができ、顧客の機能的ニーズが最も適切な方法で満たされていることを確認できます。

A4. スタイル

リーダーたちは、イノベーションと変革への取り組みを支援することを、彼らの職務の中心的な部分と見なしており、サイロを解体する責任があると考えています。イノベーションは現在、上級管理職のレーダー画面で非常に目立ち、その(上級管理職たちの)チーム内で、イノベーションに専任で責任を持つ人が、おそらく存在する(ようになる)でしょう。部外者の目には、この組織はいまや、(自信を持ち有能な)学習およびイノベーションエンジンだと、見えています。

A5. スタッフ

組織はイノベーションを明示的に高く評価しており、それがビジネスの成功に大きく貢献するものであるとみなされています。変化は組織内のほとんどの人々に歓迎されており、イノベーションの成功とキャリアの前進の間には正の関係があります。反応的(受け身の)変化から積極的な変化への移行が済んでおり、その結果、組織のエネルギーには新しい起業家的側面があります。そこで、誰かが一つの別のドメインの製品やサービスについて新しいアイデアを持つと、そのアイデアに関連して何かをしてみようという意志があります。

A6. スキル

諸矛盾を明らかにし解決することが、イノベーションの根源として重要であることを、(組織内で)働く人々の大部分に伝えられ、また経験されてきました。組織は、「変化の管理」に非常に有能になっています。TRIZやその他の「予測可能なトレンド」の方法が、将来の業界シナリオマップを構築するために、意味のある方法として広く使用されています。

A7. 共有価値

イノベーションは高く評価された活動であり、イノベーション活動に従事している人々は非常に尊敬され、影響力を持っています。人々はイノベーションが重要であると信じています。失敗はイノベーションの「旅」の必然的な部分として認識されており、失敗はもはや「キャリアを制限するもの」ではなく、より早く学ぶ機会であると認められています。進歩とビジネスの成功が強く関連しているのは、学習と非学習の継続的なプログラムの必要です。

B. 典型的な役割

最高戦略責任者
イノベーションプロジェクトのチームアーキテクト
顧客の無形のものの人類学者 [人類学的アプローチで観察・理解する人]
「システム思考」のコーチ
イノベーションの「マスター」/メンター
ブラックスワンを見張る・注意する人 / 戦略家
コーポレート・ジェスター [道化師]

C. 典型的な成功指標

ドメインを越えた特許の量と質
ビジネスプロセスの知的財産権(特許など)
破壊(的変化)で商業的に成功したもの
消費者の無形のもの/「すごい!」/「ぜひ手に入れなくちゃ!」
マーケティングROI

D. 典型的なレバー(方策、手段)

「学習の喜び」
従業員の関与/情熱
「差を作る」
ドメインを越えた相乗効果

E. 「英雄の旅」の「試練」

ますます「流動的な」組織の境界を管理する。
資本家たちが主に支配する世界経済システムにおいて、「十分な [足るを知る]」対「終わりなき成長」の概念に、利害関係者たちを関与させる。
どの新しいドメインが最も魅力的なオプションであるかについて、意味のある意思決定をする。

F. ハイプサイクルの特性

ピークの時: 「将来に耐える」、「破壊(的変化)に耐える」ビジネスモデルだ
谷の時: 「これは資本家が支配するエコシステムでは、機能しない

G. マネジメントの教科書

Leading The Revolution/ Future Of Management
The Mind Of The Strategist/Next Global Stage
Defining Moments
The Halo Effect
Blue Ocean Strategy
Co-opetition
The Culture Code
Marketing Metaphoria/Metaphors We Live By
Fundamental Design Method
The Systems Bible
Zen & The Art Of Motorcycle Maintenance
Future Shock
Save The Cat/The Seven Basic Plots
Sex, Science & Politics
Outliers
Hands-On Systematic Innovation  (Darrell Mann, 2002, 2007); 『TRIZ 実践と効用(1A) 体系的技術革新 改訂版 新版矛盾マトリックスMatrix2010採用』(中川徹監, 2014)
Hands-On Systematic Innovation For Business & Management (Darell Mann, 2004, 2007)
Bursts/Linked

H. イノベーションのツール、方法

究極の理想解
機能指向の探索 (Function-Oriented Search)
基本設計法 (Fundamental Design Method)
バイオミメティックス (生物工学) / 複雑適応系(Complex-Adaptive-Systems)

    

8.3.5  ICMM レベル5   挑戦する (Venturing)  要約表


A1. 戦略

組織は、コアスキル分野の外や他分野に、積極的に進出することができます。これは異なるビジネスにスピンオフするという可能性も大いにありますが、一方、ベンチャーの仕事を世界レベルのバージョンの「三強の法則」[の一つ] に変える可能性も大きくあります。組織は、「イノベーションが実に重要な時期があるとともに、競争が緩くなり、安定性が日常の秩序になるような別の時期もある」と認識しており、それに応じたビジネスを設計しています。このレベルでは、組織は絶えずそのビジネス環境と世界の状況一般をモニターし情報収集して、変化の必要によって「不意を突かれる」ことがないようにしています。組織は常に外向きであり、前向きです。[何が] 「必須のもの」かという概念については、明確な戦略的理解を持っています。それが主要なビジネス目標と推進要因に関連しますから。

A2. 構造

組織の構造は、学習とイノベーションをビジネスの中心に置いています。誰もが、学習し、時期に応じて、イノベーションを実現する、という役割を担っています。イノベーション活動は、注目を集め、十分なリソースがあり、すべての人に伝えられます。チームは、新たな必要に合うように、シームレスに編成および解散できます。組織は、自己管理、自己組織のビジネスを主としており、外部で生じたあるいは自ら起した変化に、迅速かつ適切に適応できます。組織の境界は本質的に流動的になり、錯綜した(complex) システムの原則が理解され、受け容れられています。

A3. システム

イノベーションプロセスはすべての段階でサポートされています。アイデアから完全な実装まで、すべての創造的な活動は、無駄がないことを保証するシステムのフレームワーク内で、調査・伝達・評価・テストされます。すべてのシステムとプロセスは、 「無駄のない」ものであり、迅速なイノベーションサイクルを可能にします。組織は、[OODAでの] 感知から応答までのサイクルタイムが、世界最先端の [短さ(速さ)] を持っています。

A4. スタイル

リーダーたちは常に、(その組織内の)人々が学び、イノベーションを起すことを奨励し、サポートしています。(組織内に)「立ち入り禁止」はありません。リーダーたちは、人々が創造的で変化するように、刺激し、挑戦し、支援します。リーダーたちは変革をもたらします。彼らは、自分たちの役割を、他の人々を解放して、創造と提供ができるようにすることだと考えています。

A5. スタッフ

イノベーションと適応を、ビジネスの中心に置くという、強力な組織全体の文化があります。イノベーションは成功への鍵として評価されています。[組織の人々にとっての] 「ノルマ」は、ものごとがどのように行われているかを尋ね、可能な未来を想像することです。組織全体に真の「イノベーション文化」があります。ビジネスの成功の中心にイノベーションがあると見なされており、実際のイノベーション哲学と信奉されているイノベーション哲学とが、一致しています。

A6. スキル

「世界は「断続する平衡」の諸期間を通して循環するから、安定性が望ましい期間と、混乱と変化が必要な期間がある」という認識があります。ICMMレベル5の組織は、いつ [どちらの] 状況が正しいのかを両方の場合に特定でき、両方の場合に適切に運営できます。組織は変化を管理することの高度な能力を持ち、外部で引き起こされた変化に適切に対応する場合であっても、あるいは、自分が変化を始動した場合であっても、[対応できます]。シナリオ手法が広く使用されており、無形の要素が「科学」になり、組織は錯綜した(complex)状況を自分たちに有利に働くようにさせることができます。最小限の入力の努力で最大のプラスの影響を生み出すような方策を特定できます。戦略家たちは、「断続した平衡」の意味することを理解し、それに応じてビジネスを設計および運営します。

A7. 共有価値

楽観主義;ビジネスの将来への信念;絶え間ない変化と改善への信念;学習、非学習、関与と参加の価値。収斂する進化と、クロスドメインでエコシステムに関連した「理想的な最終状態」に向けた進化との重要性が、さまざまな業界ドメインにわたる作業コミュニティの大部分の人々に、受け容れられてきました。

B. 典型的な役割

チーフ矛盾オフィサー
チーフ非連続/パルスレート・オフィサー
チーフシナジー・オフィサー
賢明な長老/チーフストーリーテラー
無形-科学者

C. 典型的な成功指標

従業員の学習日
ビジネス/人々の多様性指数
「必須の」能力/必要指数

D. 典型的なレバー(方策、手段)

錯綜性(complexity)モデル (蝶の羽の羽ばたきの何が、トルネードを起すのか、を理解する)
才能を引き寄せる重力(「居るべき/居りたい場所」)

E. 「英雄の旅」の「試練」

パレードのずっと前を進んでいるので、誰ももう、あなたがパレードの一部であることを知りません。
「意味のある組織」 対 国民国家。

F. ハイプサイクルの特性

(ICMMレベル5ではほとんど関係ありません。組織は、ハイプサイクルを永続的に良くする力に変える方法を学びました。)

G. マネジメントの教科書

The Road To True Professionalism
The New Leadership Paradigm
The Empty Raincoat/The Hungry Spirit
Why Leaders Can't Lead
Brain Of The Firm/Decision & Control
Cybernetics (サイバネティクス)
The Necessary Revolution
The Emperor's Nightingale
Evolution In Four Dimensions
Lila: An Enquiry Into Morals

H. イノベーションのツール、方法

Viable System Model(実行可能なシステムモデル)
Cynefin 
コンピューター支援イノベーション(「実際の」シナリオ)

 

 

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本章の目次

導入(中川)

本文の先頭

8.1 ICMMの5つのレベル

8.2.1 イノベーションプロジェクトの5つのタイプ

8.2.2 Complicated と Complex

8.2.3 本の読み方の注意

8.3 ICMMの5つのレベルの要約表

8.3.1 レベル1 要約表

8.3.2 レベル2 要約表 8.3.3 レベル3 要約表 8.3.4 レベル4 要約表 8.3.5 レベル5 要約表   編集後記 英文ページ

総合目次  (A) Editorial (B) 参考文献・関連文献 リンク集 TRIZ関連サイトカタログ(日本) ニュース・活動 ソ フトツール (C) 論文・技術報告・解説 教材・講義ノート (D) フォーラム   サイト内検索 Generla Index 
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最終更新日 : 2021. 3.20    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp