Darrell Mann : ICMM Book  第9章 FAQs: よくある質問

『イノベーション能力成熟度モデル (Innovation Capability Maturity Model (ICMM)) 入門編』

第9章  FAQs: よくある質問

Darrell Mann (Systematic Innovation, 英) 著 (2012年、IFRプレス)

中川 徹 和訳(大阪学院大学&クレプス研究所) (2021年 3月17日)

掲載:  2021. 3.20

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  編集ノート (中川 徹、2021年 3月17日)

 Darrelll Mann の本の第9章です。本ページの記述は第1章と同様で、詳細目次、導入のための簡単な解説、そして本文です。訳文中の、( )は著者の挿入句など、[ ]は訳者の補足です。[特に重要な訳注を青字のフォントで示しました。]


 

 本章の詳細目次

第9章 FAQs: よくある質問

9.1  組織はこれらのレベルを「飛び越える」ことができますか?

9.2  レベル5は「最終レベル」ですか?    

9.3  なぜあなたは、現在のイノベーションの急増が(「断続平衡説」により)今後15年間続く、と言うのですか? 

9.4  15年間が経過するとどうなりますか?    

9.5  私の組織はレベル5にまで到達する必要がありますか?    

9.6  あなたの言っていることが真実だと、どのようにして知ることができますか?    

9.7  上司を説得するにはどうすればよいですか?

9.8  他にもすでに、イノベーション能力を測定するツールや方法が、多く存在していませんか?

9.9  これは私自身にはどれくらいの費用がかかりますか?    

9.10  これにはどのくらい時間がかかりますか? 

 


 

 本章への導入 (中川 徹、2021. 3.17)

著者がこのICMMモデルを作り上げるまでに受けたさまざまな質問を、上記目次のように整理して、答えています。その要点だけを言うと、以下のように言えるでしょう。

Q1: レベルの「飛び越え」は?-- はっきり「No! 不可能!」です。先例の諸組織から学ぶのがベスト。

Q2: レベル5が最終?-- まだ実例はありませんが、敏捷性と安定性の矛盾を乗り越えて、「予知する」という段階がその次にあるでしょう。

Q3: イノベーションの急増が15年間はなぜ?-- 『TrenDNA』に記述した世代論に基づく。世界経済に大きな影響を持つ米国の人口動態で、ベビーブーマー世代、次の世代X、その次の世代Yが40歳台になる頃に経済上が落ち着くだろうから。ICMMの議論とはあまり関係がない。

Q4: 15年の後は?-- イノベーションの競争がやや落ち着き、漸進的・持続的なソリューションにしふとするでしょう。

Q5: レベル5まで進む必要があるか?-- 業界・業種によって異なる。役割と相対的な競争に依存し、すべての組織がレベル5に進めということではない。

Q6: 言っていることの保証は?-- 理論的な説明や、沢山のケーススタディを見せても、納得しない人は多い。自分の問題で、実際に私たちコンサルタントが一緒になって問題を解くのを見ると、初めて納得する人が多い。自分の問題が特別なのではなく、あるレベルまで抽象化すると、まったく同じ問題なのだとわかる。

Q7: 上司を説得するには?-- 自分の組織のICMMレベルで違う。レベル1: 説得しようとするな、自分の実績を作れ。レベル2-3: 本書の一部などをさりげなく渡す、示す。レベル4: 積極的に話すとよい。

Q8: なぜこの新しいICMMが必要なのか?-- 本書のイノベーションの方法は、大量(350万件)の調査分析データに基づいている。[訳注を参照ください。]そのような実証性を持つのは本書の記述だけである。

Q9: 必要な費用は?-- ある会社は、私たちの本(数種)を複数買い、その後すべて自力でイノベーション能力を向上させた。ICMMのワークショップを開催して、ツールなどを導入するには、1.5ー2.5万ドル程度。コンサルティングの費用は、条件によりいろいろ。

Q10: 必要な時間は?--組織の文化に関わることであり、組織形態、ICMMレベル、トップの推進意志などによっていろいろ。レベルの1段向上に10−50か月程度。今までの実績の表を示している。

 

本ページの先頭

本書ICMMのトップページ 

本章の目次

導入(中川)

本文の先頭

9.1 飛び越え 9.2 最終レベル 9.3 15年間 9.4 その後
9.5 どこまで? 9.6 言っていることの保証 9.7 上司の説得 9.8 なぜ新しいICMM?

9.9 費用は?

9.10 所要時間は?   編集後記 英文ページ

 

 原著第9章の和訳

 

第9章  FAQ: よくある質問

 

「ルーチンは組織ではありません、
麻痺以上のものは秩序です。」
Arthur Helps

 

本章では、ICMM(イノベーション能力成熟度モデル)の5つの異なるレベルのそれぞれについて、もう少し読んだ後でもなお、まだあなたの頭を悩ませるかもしれない雑多な質問を、すべてまとめて検討しましょう。

私たちが扱おうとしているのは、以下の基本的な質問です:

9.1  組織はこれらのレベルを「飛び越える」ことができますか?

9.2  レベル5は「最終レベル」ですか?    

9.3  なぜあなたは、現在のイノベーションの急増が(「断続平衡説」により)今後15年間続く、と言うのですか?なぜもっと長期間あるいは短期間ではないのですか?    

9.4  15年間が経過するとどうなりますか?    

[訳注: この次に「誰もが「旅」をたどる能力を持っていますか?」という質問が言及されていますが、 本文では取り扱われていません。]

9.5  私の組織はレベル5にまで到達する必要がありますか?    

9.6  あなたの言っていることが真実だと、どのようにして知ることができますか?    

9.7  上司を説得するにはどうすればよいですか?

9.8  他にもすでに、イノベーション能力を測定するツールや方法が、多く存在していませんか?なぜこの新しいものが必要なのですか?    

9.9  これは私自身にはどれくらいの費用がかかりますか?    

9.10  これにはどのくらい時間がかかりますか? 

 

9.1  組織はこれらのレベルを「飛び越える」ことができますか?

私たちがクライアントの諸組織と一緒に行った、ICMMの話の開発とテストでのすべての仕事は、この [ICMMのレベルを] 飛び越えることができるかという質問に対して、はっきりとした「No!」の答えを示しています。確かに、組織内のチームには、さまざまな段階と、それらの間に存在する諸矛盾を知識として吸収できるように見えることがありますが、何かを知的に「取得」することと、それを生きることができることとは、二つのまったく異なるものであることがわかります。

私たちが見ました大いに一般的な例を一つ取り上げましょう。多数の人々がやってきて、「すべてのどんな外部のソリューションも「Yes, but...」[という問題] を持っている」ことを理解するようになります。そしてそれよりちょっと少ない数の人々(たとえば、TRIZを知っている人々)は、「私たちがそのような矛盾を一旦見つけたら、それに対する解決策を、誰かがどこかですでに見つけている」という考えを理解します。そして、「その概念を実現させるために、リソースを提供する価値がある」と信じる人の数は、マネジメントチームの中で非常に少ないです。

言い換えれば、矛盾を解決することは理論的には素晴らしいことのように聞こえます(「win-win」は正当な理由もなく決まり文句になりませんでしたが)、しかし、[矛盾の解決が] 再現可能であると信じられるだけ十分一貫して起こるのを、見た組織はほとんどありません。そこで、いま、ICMMレベル4の一つの組織を考えてみましょう。その組織は、外部の既存の技術的分野にシフトする能力をきちんと開発してきており、したがって、ずっと多数の「Yes, but ...」の事例に遭遇しています。もし、この組織がレベル3の矛盾をまだ解決していなかったとしたら、レベル4の能力が機能する実際の機会はまったくあり得ません。

私たちがいま考えているのは、「イノベーションの世界では(ICMMの)レベルを飛び越えることができない」というこのマクロな見方が、いま非常にファッショナブルな(即時の警告フラグ!)オープンイノベーション (OI) の物語にも、かなりの程度当てはまるのでないか、ということです。ただし、ここでは飛躍の機会が少しあるように見えます。それでも、ICMMレベル1の組織によって試みられたオープンイノベーション(OI)のイニシアチブは、すでに失敗する運命にある [ことがわかってきてい] ます。そこで、OIの観点からは、ICMMの第2段階に飛躍することが完全に正当 [だろう] と考えられます。
(レベル1のOIバリアント(主に創始者Chesbroughのもの)が非常に機能不全であり、誤った方向に導かれているにも関わらず、)Chesbroughの元のコンセプトの「方向付けられたオープンイノベーション(Directed Open Innovation、DOI)」の進化が、唯一の例外として、何らかの組織が(最初から考えていかなければならないのではなく)レベル2(DOIバリアント)として入ってくることができるように見えます。
ここでも、(多数の混乱した入力を調べていかねばならないというはらわたの煮えくりかえる思いを別にすれば、)組織にとって、「私たちの誰一人、私たち全員ほど賢くない」という考えは、確かに「常識」であり、したがって、試してみる価値がある、と考えるのは誘惑的なことです。特に彼らがChesbroughの知識の泉から始めた場合には。ここでは、他の多くの生業(TRIZもその一つ)と同様に、創始者たちは、彼らのオリジナルなアイデアを売ることに強い関心を持っており、少数の間違いをしたことを認めたうえで時代とともに動いていくことを望んでいない、ように見えます。[訳注(中川、2021. 3.16): OIに関するこの段落は文と文の関係が複雑で、訳文のニュアンスに原文とは少し違う箇所があるかもしれません。]

要するに、全体的なイノベーション能力ストーリーのサブセット(オープンイノベーションが一例)は、ICMMプロセスの最初の段階を跳び越すことが可能です。しかし、全体的な組織のイノベーション能力については、跳び越しは禁止されています。ここでは、採るべき近道はありません。あなたの前に「旅」の段階を踏んできている組織から学ぶ以外には。

 

9.2  レベル5は「最終レベル」ですか?    

5つのICMMの進化のレベルを、TRIZ (発明問題解決の理論)/SI(体系的イノベーション)の進化トレンドの文脈で検討しますと、私たちはすぐに、「レベル5はまだかなりの量の未開発の可能性を含んでいる」ことを見出します。このことが私たちに言っているのは、「このレベル5に向かっている組織は、それが何らかの聖杯の終点である可能性があるという考えを破棄できる」ということです。終点ではないのでしょう。あなたの組織が懸命に取り組んできて達成したレベル5に、あなたの競合他社が到達した瞬間、あなたはすでにレベル6のストーリーを定義して構築しているべきです。

未利用のポテンシャルのさまざまな側面を見ると、現在まだ実現されていないジャンプのうちのどれが、レベル5の「旅」の終わりに出現する矛盾を解決するだろうもの(一つあるいは複数)になるかを、はっきりと確立することは困難です。

もし、今後数十年の世界経済の進化の予測に基づいて、最も可能性の高いシナリオを選択する必要があるならば、最も強力なビジネス矛盾の推進要因は、組織の敏捷性のレベルを高める要求と、(複数の国家経済がガタガタと失敗しつつ進んでいる)「危機」の時代での安定性の要求とが、結合した平行した要求に、関連するものであるように私たちには見えます。

そして、もし、敏捷性対安定性が、私たちが解決する必要のある主要矛盾である場合には、その対立を最もよく解決するジャンプは、「フィードフォワード」の予知能力を、境界のない組織というアイデアに追加する、という能力であると、私たちは信じています。図9.1では、私たちはこれをレベル第6「予知能力のあるイノベーション」[レベル6「予知する」] と呼んでいます。

図9.1: イノベーション能力の進化の6つの段階?「予知能力のあるイノベーション」

この意味での予知とは、予測的な「フィードフォワード」の組織制御システムを構築する能力を意味します。ここで私たちが話しているのは、一部の組織が実施している(将来の可能性に外挿して推定を試みる)シナリオプランニングの演習よりも、はるかに先進的なものです。シナリオプランニングは、起こりうるリスクを特定するための便利な手段です。しかし、戦略的意思決定を行う能力の観点からみますと、上級管理職のチームは、演習セッションの終了時に、演習の開始時よりも少ししか良くなっていないのです。

ICMMレベル6の用語で予知能力があるとは、組織が世界のシミュレーションモデルを既に作ったことを意味します。そのモデルで考慮しているのは、既知の非連続な技術トレンドパターン(たとえば、TRIZ/Systematic Innovationなどから)、さまざまな業界のステップチェンジの速さのデータ、消費者トレンドの対立のマップ、政治および規制のステップチェンジマップ、そして、メタレベルのテクノロジーの収斂マップ、などです。そして、それらを一貫性のある全体(モデル) [に構築するのです]。そしてさらに大きなステップとして、組織のメンバーに、アウトプットを解釈し、それに対応する方法を教育します。

 

9.3  なぜあなたは、現在のイノベーションの急増が(「断続平衡説」により)今後15年間続く、と言うのですか?なぜもっと長期間あるいは短期間ではないのですか?

もし読者が、 Monty Pythonの映画「Life Of Brian」をよく知っているなら、あなたは一つの場面、Crimson Permanent Assurance companyが関与し、非常に詳細で非常に重要な国家の現状の演説が行われている場面を覚えているかもしれません。その中に、雰囲気を明るくするための疑似事実を意図して、帽子の話が入っています。そのすぐ後 [の場面] で、その部屋に座っていて演説を聞いていたすべての人々が、(演説の)重要な情報をすべて忘れてしまったようで、帽子に関する議論に忙しかったのでした。

本書のはじめに私たちが示唆したこと、「現在のイノベーションの津波が、今後15年間ほど続くと予想される」ということは、Crimson Permanent Assuranceの帽子に相当します。オーケー、それが本当ならかなり重要な統計ですが、イノベーション能力の成熟度モデルとはそれほど関係がありません。また、帽子と同様に、多くの質問を引き起こし、何度も激しい議論を引き起こすもののようです。

今後の15年ほどが激動期であろうという私たちの予測の全容は、私たちの『TrenDNA』の本に書いています。(ちなみに、この本は、主にICMMレベル3以上の組織向けに設計されており、顧客を理解することに関連する錯綜したこと(complexities) (特に、顧客たちが、自分たちの今後のニーズが何かを、言うことができない、言おうとしないこと) のいくつかを理解するのを支援するためのものです。)

要点を短く言うと、次のようです。

a) 経済学は人々がお金を使うことです。
b) 先進国の人々は、40歳台後半のときに最も多くのお金を使います。これは、家族や家計が最大の出費をしている時期です。
c) 世界一の市場である米国では、ベビーブーマー世代は現在 (2012年)、その最年少が50歳である年齢になっています。 
d) 彼らに続く世代(「世代X」)は、はるかに小人数の人口集団であり(なぜなら、ベビーブーマー世代が内面の感情を探求するのに忙しすぎて、家族を育てるのにあまり時間を費やすことができなかったため)、その結果、いまは40歳台後半のピーク支出年齢の人口がずっと少なくなっています。したがって、お金の支出もずっと少ないのです。
e) 世代Xはまた非常に懐疑的な世代であり、経済危機(2008年のリーマンショックのように)が発生したり、政府のスポークスマンが大衆に「支出を続けよう」と指示すると、X世代はさらに支出を抑える傾向があります。
f) これは [経済に] 下向きのスパイラルを起します。 
g) 米国の下向きスパイラルは必然的に他のすべての国々に影響を及ぼします(なぜなら、米国が最も多くのものを購入しているのですから)。そのため、他のすべての国々は、支出されるお金が減り、税収が減るという下向きスパイラルに巻き込まれます。
h) このスパイラルは、もう一つの情報経済の崩壊によって、煽られています。コンピューターは、ますます沢山のことができるようになり、人間よりも安価に実行できるため、経済からより多くの仕事を排除します。さらに、私たちは、さまざまなテクノロジーが、同じ市場空間に向かって、必然的に収束していくのを、見始めています。だから、(以前の例をとると)Googleは、彼らの現行の市場を成熟させ、他の市場へ侵入することを余儀なくされています。
i) これらすべてが一緒になって、一つの場所でのステップチェンジが、どこか別の場所でのもう一つ別のステップチェンジの必要性を生み出すという、「断続する平衡」というアイデアを増幅します。
j) 失業した個人は、政府によって新しい事業を立ち上げるように奨励されており、必然的に、(ますます増えている)ステップチェンジの機会を追いかけます。
k) これは、次の世代Y(すなわち、世代Xに続き、はるかに多人数の世代)が、支出のピーク年齢に達し始める2025年頃まで続きます。これに加えて、彼らは彼らの前の世代に最も失望している世代であるため、非常に多くの人が出て行って、新規ビジネスを立ち上げ、ステップチェンジの諸問題に取り組み、解決してきたという事実があります。
l) イノベーションの新しい波が成功し始め、危機が後退し始めると、イノベーションの必要性と意志が後退します。

言い換えれば、今後の15年間は、支出の大きな落ち込みを見るでしょう。それは、人口動態の悪化とテクノロジーの収束という、完璧な嵐によって引き起こされるものです。(この人口動態の悪化は、いわゆる「避けられない驚き」であり、ほとんどの国の政府が「避けられない」という部分を無視してきたように見えるのは驚くべきことです。)この完璧な嵐は、困難な時期を生み出します。そして、困難な時期は、イノベーションのための完璧な環境を創り出します。

 

9.4  15年間が経過するとどうなりますか?

いくつかの大きなプロジェクトの期間以上にわたってイノベーターであった人たちは誰でも、それがどんなに厳しい人生であるかを知っています。混乱とストレスは、私たちの多くが切望する通常の存在ではありません。厳しい経済の時代が両方を駆り立てます。したがって、厳しい経済の時代が終わると(世代Yが両親の信用債務をすべて取り戻し、繁栄し始めると)、人々は少しリラックスすることができます。そしてさらにもう少し。最終的に彼らは私たちがいまいるのと同じ位置に戻ります。それだけのことが再び起こるのに、おそらくあと80−90年はかかるでしょう。

2025年頃までのイノベーションの津波に続いて何が起こるかというと、私たちは統合と安定性の向上の時期に入るでしょう。大きな新しい産業の巨人たち(大丈夫、現在のもののいくつかも生き残るでしょう)は、破壊者であることをやめ、彼らが山のトップに留まっていることを確認し始める強いインセンティブを持っています。

イノベーションの必要性がなくなることはありませんが、それはおそらく衰退し、はるかに漸進的で持続的なソリューションにシフトするでしょう。

そして、必然的に、私たちは皆、私たちよりもインテリジェントになったコンピューターに囲まれるでしょう。使用人は主人より賢くなります。

もちろん、このセクションとその前のセクションで私たちが推測したことのいずれにも確かなことは何もありません。社会の進化を形作るパターンや根底にある力はどれも、石に書かれたものではありません。これまでのところ、私たちの政府やビジネスリーダーが行うことはすべて、それらを壊すのではなく、それらのパターンや力を強化しているようです…

…たぶん、私たちの賢い使用人が私たちよりもパターンをよく見ることができ、悪いものをどのように壊し、良いものを維持するかをよりよく理解できるようになると、それは良いことです。

 [訳注: 章の始めでは、この次に「誰もが「旅」をたどる能力を持っていますか?」という質問が言及されていますが、本文では取り扱われていません。]

 

9.5  私の組織はレベル5にまで到達する必要がありますか?    

さて、私たち自身を地球に戻しましょう。人々が初めてICMMレベルに出会ったときによく出てくるもう1つの、あまり乗り気ではない質問は、「レベル5まで到達する必要がありますか?」です。私たちの多くが条件付けられてきた考え方として、「もし、「良さ」の一つの尺度があるなら、定義上、私の目標はその尺度の「最良の」端にあるべきだ」、というのがあります。

もちろん、それでは「良い」とはどういう意味かという疑問を投げかける必要があります。私たちはここでイノベーション能力について話しているのですから、絶対的には、能力が低いよりも能力が高い方が優れています。私たちが何かに取り組む能力が高ければ高いほど、人生が私たちに投げかけるものにうまく対処することができます。

この前の段落のキーワードは「絶対的」です。私たちのほとんどは、絶対的なものによって動かされる世界に住んではいません。むしろ、私たちは相対的な世界に住んでいます。私はゴルフをするのに世界一である必要はありません(それはおそらく随分すてきでしょうが)、私は毎週一緒にプレーするグループよりも上手くなりたいだけです。

一部の業界は、進化と非連続なジャンプをするのが、他の業界よりも速いです。情報通信技術のセクターは現在、年間平均約1.8の大幅なステップチェンジを行っています。一方、資本集約的な鉱業は平均して0.2に近いものです。

私が鉱業会社のCEOである場合、ICMMレベル5である必要がありますか、それとも単に競合他社と同等か、それとも1ジャンプ優れている必要がありますか?まあ、それは個人の野心の規模に依存します。一部の鉱業者は言うかもしれません、「私たちは多様化して、私たちの膨大な利益を他のより汚れの少ない産業に投資しよう」。この人が本当に他のドメインに足を踏み入れて成功するためには、レベル5の能力を備えた組織が必要です。

他方、もし会社が、「自分たちは鉱業に長けており、自分たちの目的を地球上で最高の鉱業者になることに集中する」と判断した場合には、おそらく彼らの「旅」はICMMレベル3まで行く必要があるでしょう。少なくとも彼らの労働力の大多数に関しては。率直に言って、もし私が地球の表面から数マイル下で働いている人々のグループを担当していたとしたら、私たちが彼らに望むことははっきりしていて、貴重な鉱物を見つけて、取り出し、それと彼ら自身を安全に地表に戻すことに集中してほしい、ということです。彼らに新しいシャンプーや菓子製品のコンセプトを夢見てほしくない。言い換えれば、私はこれらの人々に、規則に従うこと、そして、規則がもはや適用されない緊急事態でのみ、規則を破ることを考えてほしい。

パイロットについても同じです。乗客として私は、パイロットが航空会社内で「最もクリエイティブ」になることを絶対に望んでいません。私は、パイロットに、フライトログのすべてのボックスにチェックマークを付け、すべてのプロトコルに従うように、望みます。創造性を発揮してほしいと望むのは、両方のエンジンがバンと鳴り、油圧系が銃撃され、私が何か一つのものに入って地上に着きたいときだけです。

 

9.6  あなたの言っていることが真実だと、どのようにして知ることができますか?  

率直に言って、あなたは [知ることが] ないでしょう、そして、私たちはあなたにそれを証明することは不可能だと見出すでしょう。(私たちが)人々に「350万件を超えるデータポイント」と言及すると、その(大きな)数が事実上無意味になるほど、抽象的な概念になっています。

何年にもわたって私の頭に、鮮明に思い出されて離れなかった出来事は、私たちが非常に熱心に、アジアの自動車OEMとイノベーションの仕事を始めたいと望んでいた時期でした。私たちは非常に熱望していましたので、私たちは100を超えるミニケーススタディをまとめて、実際の問題(機密性の問題を回避するために適切に偽装およびばらばらにしたもの)として持っていき、提示しました。私たちがそれらの約4分の1までなんとか進んだとき、私たちの一番前に居たCTOが、首を横に振って、言い始めました。「これらはすべてヨーロッパとアメリカの自動車のケーススタディだ。ここでは当てはまらない。」

「誰かが、どこかで、あなたの問題をすでに解決した」という考えは、この紳士には失われた(伝わらなかった)表現だった、と言えるでしょう。言うまでもなく、その日は何のビジネスも成立しませんでした。いまでは彼らは私たちのクライアントです。なぜなら、最終的に彼らは私たちを彼らの組織に入れて、彼らの本当の問題のいくつかに彼らと一緒に取り組み、私たちが実際の解決策を彼らに提供するようにさせたからです。いまでは、彼らは理解しました。しかし、彼らが分かった理由は、私たちが彼らの特定の問題に取り組んでいるのを彼らが見たからであり、地球の別の隅から持ってきた(彼らの目には)抽象的な理論によるのではないのです。

突き詰めて言うと、いまもし、私があなたに、「あなたのビジネスのやり方にICMMを組み込む必要があると、あなたが納得するためには、わたしはいくつのケーススタディをあなたに見せればよいですか?」と尋ねて、私がそれだけのケーススタディをあなたに提供したとしましょう。しかし、おそらく、あなたはまだ納得できないでしょう。なぜなら、私のアジアの自動車の友人のように、それら [のケーススタディ] は「あなたのもの」ではないからです。

私たちはみんな、自分たちの問題は独特だと思っています。そして、ある程度はそうです。しかし、ある程度までです。あるレベルの抽象化を越えれば、私たちはみんな、まったく同じ問題に取り組んでいるのです。私がこれを言っているのは、ある超現実的な1週間を、原子力、日用消費財、医療機器、金融サービスの人事部門で過ごし、3つすべてに同じ基本的なソリューション戦略を導き出した、という [経験をした] 人として言っているのです。

これは、私のツールキットにツールがごく少数しかない、ということではありません(私たちは過去16年間、すべてのツールを研究してきました。私を信じてください)。単純に、世界で大量の車輪の再発明が行われているだけで、それほど多くの [種類の] 問題はなく、効果的な解決策 [の種類] はさらに少ないのです。

私を「信じなさい」と言っているのではありません。私たちを呼んで、私たちが、あなたの実際の問題で、あなたの実際の設定で、あなたの実際の人々と一緒に、あなたにそれを証明させなさい。そうすれば、あなたはあなた独自の実際のデータセットと、ICMMが正しい前進方法だという、実際の証拠を取得できます。…

 

9.7  上司を説得するにはどうすればよいですか?

もし、あなたの組織がICMMの「旅」のレベル1にある場合には、あなたが小さな組織にいて、CEOまたは他の影響力のある人たちと定常的に連絡を取っているのでない限り、私たちはあなたに「[上司を説得することを] 試みない」ように勧めます。あなたがするべき最初の仕事は、あなたの管轄下で「私たちはこれを行うことができます」という信頼を得ることです。

もし、あなたの組織がレベル2または3にある場合には、本書の一冊、あるいは最も共鳴すると思われる文章を強調表示したもの、あるいはICMMのWebサイトでの無料の情報の一部をダウンロードしたもの、を [上司に] 送るのが、賢明な/さりげない方法です。これらのレベルでイノベーション能力を構築することは、会話でリーダーシップを発揮することから生じます。

これらの種類の組織のリーダーたちの大多数は、典型的には、イノベーションに懐疑的であり、「私の監督下では、〜させない」という考え方に駆り立てられていることが、あまりにもしばしばあります。もし彼らが、自分が舵を握っている間は悪いことは何も起こらないだろうと認識しているなら、潜在的に波風を立てることに強い抵抗感を持つことがよくあります。彼らの後継者にそれをさせる方がはるかに良いです。悲しいけれど、真実です。

他方、もし、「彼らの監督期間中に」何か悪いことが起こるだろう/起こるかもしれないという可能性がある場合には、上級管理職にICMMを見るように納得してもらうための、あなたの最善のチャンスは、本書と潜在的な火急の脅威または機会を結び付けることと、それら二つを組み合わせた会話を通じて関与することです。

もし、あなたの組織がレベル4の場合には、あなたは幸運です! 私たちは、一般的に言って、[そのようなレベルにある組織の] 上級リーダーたちと会話を始めるのは随分簡単であることを、すでに見つけています。彼らの耳と目はすでに「イノベーション」という言葉に合わせられており、[イノベーションの] リスクが必ずしも高い必要はないという証拠を彼らは見ています。そして、高くなったイノベーション能力を使って、(すでに成功している可能性が高いだろう)企業内で彼らの「英雄」の地位をさらに高めることは、彼らにとっては有力な手段になっています。

もし、あなたの組織がレベル5の場合には、あなたの上司はICMMについてすべて知っている可能性があります。ここでのあなたの仕事は、あなたがICMMのアドバイザーボードに参加して、何がレベル6の組織を構成するのかを定義する会話に加わるように、彼らを説得することです。

 

9.8  他にもすでに、イノベーション能力を測定するツールや方法が、多く存在していませんか?なぜこの新しいものが必要なのですか?   

イノベーション・メトリクスのテーマに関するグーグル検索の最も大雑把なものでさえ、多くの情報を出力して来るでしょう。お金を儲けられるすべての新興市場のように、多くの人々が来て嗅ぎまわり、どのようにすればそこで分け前を得られるか見ようとします。ITの世界との類似性(本書ですでに言及しました)が、おそらくここに関連しています–

 ITサービス業界が、信頼できる専門家たちの集まりに変身することを考え始めたとき、どうすれば最もよくそれができるのかについて、非常に多くの論文や記事が登場しました。カーネギーメロン大学は幸運に恵まれた人たちでした。運に加えて、彼らの側での多くのハードワークがあり、能力成熟度ゲームに参加しようとした他の誰もが、「最もハードワークを行い、最も実用的で実行可能なソリューションを持つ人」が勝つことに、すぐに気づきました。

ICMMに対する私たちの見解は、カーネギーメロン大学のように、困難な道のりを歩いたのは私たちだけだ、ということです。誰でもイノベーションアンケートを作成し、インターネットに公開して、イノベーションの専門家だと自称できます。しかし、その知見を、他者のイノベーションの試みの大規模な(350万件のように)データベースに対して、検証することを提案できるのは、[私たち] 一つだけです。

訳注: ここで著者Darrell Mannが言っていることの、事実関係を知るには、2003年3月に彼とSimon DewulfがTRIZCON2003で発表しました次の論文をお読みください。「TRIZの現代化: 1985-2002年米国特許分析からの知見」。(私はこれを『TRIZホームページ』に和・英で掲載しました:http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2003Papers/MannDeWulf0303/MannPatents0303.html ) Darrell Mannは、この論文で記述している大規模な調査・分析プロジェクトを、範囲を広げつつ、現在(2021年)までずっと継続しているのです。]

これらすべてに加えて、私たちは、ICMMを正式に立ち上げる前に、(私たちが全世界で最大だと考える)産業界、学界、政府機関の情報入力と背後支援を得ることを決定した、という事実があります。

カーネギーメロン大学は、インターネットがあまねく普及する前に開始したという点で幸運でした。彼らは十分に速くそして十分に上手く始めたので、他の誰も確実に追いつくことができませんでした。

私たちはその利点を持っていませんが、私たちは別の利点を持っています。それは、私たちをバックアップしてくれる一流の [諸組織の] のクリティカルマスを越えた数です。

しかし、たとえ私たちが [イノベーション自身の提供をしなくても]、他のイノベーション提供者たちは、[新しいイノベーションを起すという] ゲームを「しなければならない」、ということを私たちは知っています。私たちは[このゲームで] 決して負けることがないという状況にあります。より多くの組織がイノベーション [を起す] 仕事をより上手くやるようになればなるほど、私たちのデータベースはより大きくより良くなります。そしてその結果、ICMMを利用する人のみんなが、そのすべてのデータにアクセスできるのです。

イノベーションが矛盾を解決し、(双方にメリットのある) win-winのソリューションを実現することであるなら、それが得られれば得られるほど良いと感じます。ICMMは非営利団体ですから、私たちが生み出す収益はすべて、さらに優れた、さらに包括的なストーリーの構築に還元されます。

 

9.9  これは私自身にはどれくらいの費用がかかりますか?    

地球上で私のお気に入りの会社の1つは、私たちのコンサルティングサービスに1セントも費やしたことがありません。代わりに、彼らは私たちの本のいくつかを、半ダース冊ずつ購入し、彼らは自分たちの内部リソースを使用して、すべてを自分たちで行いました。彼らに脱帽です。彼らは素晴らしい仕事をしたのです。

つまり、あなたとあなたのチームがハードワークを行う準備ができているなら、私たちは、あなたが加わって仕事ができるように、ICMMのすべての本を設計しました。もしあなたがあなたの組織のCEOであるという追加のボーナスがある場合には、あなたは外部からのサポートなしで、ICMMの5つのレベルすべてを始めから終わりまで、「旅」する機会さえ得るのです。

もし、あなたがそういう立場でない場合、あるいは、眠れない夜を数回節約するために、当事者から直接話を聞きたい(本には書いてない、すべての戦いの物語も含めて)と思う場合には、まずICMMの評価を行い、そして、ICMMの最初のワークショップを開催して、ICMMのツールとプロトコルをあなたの組織に導入するための最適な方法を探ろうとするでしょう。これらのためには、あなたはおそらく、初期投資として、1.5−2.5万米ドル程度を見込んでいるでしょう。

もしあなたが探しているコストが、本格的な介入に関するもので、イノベーション能力についてあなたの組織が望む所への保証されたジャンプに対するものなら、悲しいかな、それはすべての質問に対する古典的なコンサルタントの答えです:「それは(いろんなことに)依存します」。私たちがある程度の自信を持って言えることは、(ものごとを無次元化して)私たちの通常のROIは私たちが去ってから1年以内に典型的には5−10倍であり、資金の回収までの期間は、その業界のステップチェンジの速さに依存しますが、典型的には12か月未満です。

 

9.10  これにはどのくらい時間がかかりますか? 

残念ながら、この質問に対しても、答えは「それは(いろんなことに)依存します」です。私たちがかなり確実に言えることは、ICMMのレベルが進むほど、次のレベルへの「旅」が長くかかる可能性が高いということです。その理由は単純に、イノベーションのレベルが上がるほど、イノベーションがより広くひろがり、組織全体の文化の一部になって行くためです。たとえ誰もがイノベーションに直接関与しているわけでなくても、レベル5になるまでには、誰もがイノベーションの重要性を認識し、新たな脅威や機会を見つけるための十分な知識を持っています。私たちが組織の文化に影響を与えることについて話していることに気付いた瞬間、私たちはタイムスケールを測るのに、数週間や数日ではなく、数年で考えることになります。ここでタイムスケールを推進する究極の力は、組織のCEOがこのトピックに専念する準備ができている時間と、変化に対して「私の監督下では〜させない」といった反応や、火急の脅威や機会による変化への要求が、存在するかしないかです。

過去10年間、私たちは諸組織と協力して、組織がICMMのさまざまな段階で「旅」に着手するという勇敢な決断を下した例を経験してきました。(覚えておいてください。私たちがさまざまなレベルを定式化したのは比較的最近です。そのため、幸い、ICMMのさまざまな構成要素を考案し、テストする機会が、この10年間ありました。)それらの経験から、予想されるタイムスケールの種類は以下のようです。

組織の形態

進行段階

(典型的な)所要時間  (単位: 月)

最短ケース

平均的

最長ケース

多国籍企業/
大企業

レベル 1 → 2

8

10

18

レベル 2 → 3

12

20

30

レベル 3 → 4

26

36

52

レベル 4 → 5

36

42

> 60

中小企業

レベル 1 → 2

4

8

24

レベル 2 → 3

10

14

26

レベル 3 → 4

18

26

> 36

レベル 4 → 5

------ データなし --------

政府機関/
NGO

レベル 1 → 2

12

18

30

レベル 2 → 3

24

32

> 48

レベル 3 → 4

------ データなし --------

レベル 4 → 5

------ データなし --------

 

 

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本章の目次

導入(中川)

本文の先頭

9.1 飛び越え 9.2 最終レベル 9.3 15年間 9.4 その後
9.5 どこまで? 9.6 言っていることの保証 9.7 上司の説得 9.8 なぜ新しいICMM?

9.9 費用は?

9.10 所要時間は?   編集後記 英文ページ

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最終更新日 : 2021. 3.20    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp