TRIZ/USIT論文
 TRIZにおける解決策 生成のための
 USIT オペレータ:
 問題解決 のより明確な道案内
  中川 徹 (大阪学院大学)
   ETRIA国際会議 "TRIZ Future 2004" (フィレンツェ, イタリア, 2004年11月5-7日)  発表予定論文, 和訳: 2004年10月17日
    [掲載: 2004.10.18] [バグ修正: 2004.10.20]   [英文掲載: 2004.11.16] 
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編集ノート  (中川  徹, 2004年10月17日)

     こ こに掲載するのは、2週間後の11月5-7日に開かれるETRIA (欧州TRIZ協会) 主催の国際会議 "TRIZ Future 2004" で発表する論文を、和訳したものである。海外よりも一足先に国内向けに発表させていただく [注: 英 文版掲載: 2004.11.16]。なお、本論文の要点は、すでに9月8-10日のエム・アール・ アイ システムズ主催の「知識創造シンポジウム: 修善寺2004」 の特別講演で言及している。

   今回の論文で分かったことは、つぎの二つの図で表される。
   問題解決の図式は、TRIZをはじめ、もっと一般的に、つぎの 4箱のスキームで表され、基本的には「モデル」に対して「類比思考」をするのだと、いままで理解されてきた。そして、TRIZは膨大な種類の「モデル」を 創ってきて、それがかえって全体の手順を複線化し、複雑化してきた。

   しかし、USITはいまや、上記のスキームを改良して、つぎのような 6箱のスキームを提案している。




   このスキームでは、問題の定義と分析により、自分の問題に則した「モデル」が作られ、そのモデルの諸要素に 「USITオペレータ」を直接作用させることによってさまざまなアイデアを創ることができる。それらのアイデアをベースにして、解決策コンセプトを創り、 さらに具体的な解決策を実現していくのである。ここには、すっきりした合目的的なルートが示され、また、通常のような「類比思考」に頼るあいまいさがなく なっている。

   また、このスキームは、具体的な問題とその分野を知っている技術者 (いわゆるドメイン・エキスパート) と、(USITのような) 問題解決の技法を知っている者との、共同作業・グループ作業の重要性 (それが重要であることの必然性) を明瞭に教えてくれる。問題の定義・分析の段階で、技術者たちはUSITの技法によって導かれる。USITオペレータを作用させる段階では、専門技術の知 識のウェイトはずっと少なく、技法主導である。アイデアの断片から解決策コンセプトにまとめていく段階では、ふたたび専門技術の寄与が大きくなり、技術者 主体でないとよいコンセプトができない。それを実装する段階は、もはやUSITの範囲外であり、技術そのものの世界である。技術者とUSIT技法の実践者 (リーダ) との共同作業が、これらの全段階をスムーズに乗り越えていく必須の鍵であることがよく分かる。


   本論文の目次は以下のようである。

1.  はじめに

2.  TRIZにおける問題解決の現在のスキーム
    2.1  原理および事実に関するTRIZの知識ベース
    2.2  TRIZにおける問題解決の個々の方法と技法
    2.3  TRIZにおける問題解決の全体的手続き

3.  USIT (統合的構造化発明思考法) がTRIZをやさしく統合化した
    3.1  USITの主要な特徴
    3.2  USITにおける問題解決の手順
    3.3  USITにおける問題解決の全体構造

4.  USITの解決策生成オペレータ
    4.1  USITの解決策生成オペレータの階層的体系
    4.2  USITオペレータの適用法の例示:  額縁掛けの問題の例
    4.3  USIT解決策生成オペレータがもつガイドライン
    4.4  USITを教え、適用した経験

5.  おわりに

参考文献


 ページ先頭
論文先頭
1. はじめに
2. TRIZのスキーム
3. USITの全容
4. USITオペレータ
5. おわりに
参考文献
修善寺2004講演
英 文ページ







TRIZ における解決策生成のための
USITオペレータ:
問題解決のより明確な道案内


中 川  徹
(大阪学院大学)

e-mail: nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp

 
要約

TRIZの普及が西側諸国の技術・産業界においていままで遅かった最大の理由は、問題解決のためにTRIZが もつ知識ベースや諸方法の非常に豊富な内容を、問題解決の全体的な手順や構造が明瞭でないままで、教えようとしてきたからである。伝統的にTRIZでは、 その主要な解決策生成技法 (すなわ ち、発明原理、発明標準解、技術進化のトレンドなど) が、それぞれ独自の問題分析法に基づき、 互いに分離して適用されてきた。一方、本論文で明らかにするのは、統合的構造化発明思考法 (USIT) が、 ここに述べたTRIZの弱点を克服して、TRIZを やさしく統合していることである。

TRIZにおける解決策生成法のすべてが、統合されて階層構造を持つUSITの解決策 生成オペレータに再編された。これを基礎にして、USITは創造的な問題解決プロセスのための、フ ローチャートで表わされる明瞭な手順をもち、また同時に、問題状況の情報を段階的に解決策の情報に変換していくための、データフローダイアクラムで表わさ れる明瞭な構造をもっている。ユーザの当初の具体的だが曖昧な問題はつぎの5段階で逐次変換され る。(1) まず、問題定義段階で、「適切に定義された問題」に変換する。(2) つぎに、問題分析段階で、オブジェクト、属性、機能、空間、時間、理想の行動、および理想の性質に 関して、問題のシステムに対する理解を作りあげる。(3) そして、解決策生成段階で、USITオペレータ群を適用して、新しいシステムのためのさまざまなアイデアに変換する。(4) ついで、ユーザの技術的な素養や力量を基礎にして、概念的な解決策を構築する。(5) そして最後に、実装段階において、ユーザの具体的な解決策を実現する。USITは 上記のプロセスのうちの (1)〜(4) の 段階を導く。USITは、2日間トレーニン グセミナーにおいて、企業の実地の問題を参加者たち自身が解決できるレベルで、十分に教育してきた実績をもっている。

キーワード:  解決策生成、モデル、USIT、類比思考、問題解決、TRIZ



1.  はじめに

TRIZ (「発明問題解決の理論」) [1、7、9、2] は、技術関連の広い分野 (そしてさらに多くの非技術分野) における創造的な問題解決のための強力な方法論である。それは、技術情報と発明的思考の原理群の知識ベースを創り上げ (多様な有用な索引システムを備えている)、また、問題を定義し、分析し、解決策を生成する多数の技法を開発してきた。これらの知識ベースは科学・技術に おける世界の最良の解決策群から抽出して構築したものであり、また、TRIZの問題解決の諸原理は、広範な分野の問題に適用可能なように、高度に抽象化さ れている。

しかしながら、TRIZの専門家たちの期待に反し て、1990年代初めに西側諸 国に紹介されて以来、TRIZはそれほど広く、速く広がってきてはいない。筆者の観察 [3] は、多くの人も同意するであろうが、「TRIZの普及が遅かった原因は、TRIZの内容が貧弱であったからではなく、あまりにも豊富だった からである」。 TRIZユーザにとっての課題は、「有効な [発明の] 原理をどのようにして選択するのか?」、「一つの [発明の] 原理をユーザの具体的な問題に適用するにはどうすればよいのか?」ということであった。TRIZの専門家の大多数は、TRIZの知識ベースと思考方法の豊 富な内容を、(程度の差はあれ) 伝統的な形で教えようと努力してきた。けれども、企業技術者たちや工学の学生たちの大部分は、それらを自分たちの実地問題に適用できるレベルにまでは理解 することができなかった。TRIZ専門家の一部の人たちは、「それは学生の側の問題と、訓練期間の問題だ」というであろうが、本論文の筆者の立場は「それ は教師の側の問題で、TRIZ自身のシステムの問題だ」ということである。

TRIZの基本的なモデルと全体構造を、この文脈 で見直し、議論するべきであ る。一般的に理解されているように、TRIZは問題解決のための4つの箱のスキーム [方式] (図1参照) を基礎にしている [2]。 ユーザの具体的な問題から (その具体的なレベルのままで) 直接に具体的な解決策を見つけようとする代わりに、TRIZが薦めるのは、より抽象化の高いレベルに迂回し、一般化された問題に対する一般化された解決策 を示している標準的なモデルを使うことである。TRIZはこの方式を科学技術の健全な基盤から採用してきたのである。


図1.  問題解決の基本的な4つの箱のスキーム

TRIZのすべての知識ベース (物理的効果、発明原理、発明標準解、技術進化のトレンドなど) は、このスキームの抽象化レベルにおけるさまざまなモデルとして役立てることを意図して構築されてきたのである。

一旦これらのモデル群が確立されれば、問題解決のプロセスはつぎのような課題に還元でき る。
一般的にいって、残念なことに、これらの課題は科学技術の多くの分野であまりよく理解でき ていない。専門分野のそれぞれ のトピックにおいて、一つのモデルが選択されて、少数の例題で教えられる。そして、学ぶ者たちは、何回も何回も、学び、研究し、練習し、実践してみて、そ のモデルがある種の問題に対してある種の抽象化をした後に有用であることを、自分で理解しなければならない。

TRIZは、技術分野の問題解決のために、いくつ かの手続き的な方法をすでに開発して、抽象化および選択のプロセス (具体化のプロセスはわずかだけ) においてユーザをガイドしようとしている。TRIZにおけるこれらの方法 (例えば、9画面法、物質-場分析、技術的矛盾と物理的矛盾の方法など) は、他に有効な方法や思考法が存在しない領域において、しばしば非常にユニークであり、強力である。しかしながら、TRIZにおける問題解決の全体プロセ スは、まだよく確立できていず、ユーザたちを混乱させる状況にある。

本論文では、TRIZ方法論の現状をこの4箱ス キームに基づいて簡単に整理す る。そして、TRIZを簡易化し統合化したUSIT (「統合的構造化発明思考法」) [8] が、この4箱のスキームをより意味のある6箱のスキームに拡張することにより、問題解決プロセスの明快な構造を確立したことを、つぎに示そ う。この構造の 鍵になる要素はUSITの解決策生成オペレータ群であり、それは解決策生成のためのTRIZの諸原理や諸方法のすべてを再編成して、筆者らが以前に確立し ていたものである [4、5]




2.  TRIZにおける問題解決の現在のスキーム

TRIZにおける問題解決の全体スキームの現状 は、図1の枠組みでまとめると、 おおよそ図2に示したようである。TRIZの種々の知識ベースは図の上部の箱の中に示されており、さまざまなTRIZの方法は、問題解決の段階に応じて長 円の中に示している。これらの諸構成要素はよく確立されており [1、7、9、2]、それらをつぎの2.1-2.2節で簡単にまとめた後に、全体構造を 2.3節で議論しよう。


図2.  伝統的なTRIZにおける問題解決の全体構造



2.1  原理およ び事実に関するTRIZの知識ベース

TRIZがもつ知識ベースの第一のタイプは、事実 および技術的手段の情報を蓄積したものである。特に、
この種の知識ベースは、科学技術のさまざまな分野で知られている多様な事実や手段を学び、 自分たちの分野に新規なやり方で適用するのに役立つ。この知識ベースを、機能に関する明確な階層システムとして再編したことが、TRIZの一つの重要な貢 献である。

TRIZがもつ知識ベースの第二のタイプは、発明 的思考のための諸原理をより高い抽象化レベルで記述したものであり、[科学技術に対する] TRIZの最も重要な寄与をなしてきた。つぎのものがある。
これらが、4箱のスキームにおけるTRIZの主要 なモデル群であり、一般化した問題に対する一般化した解決策を、問題解決者たちに提供している。これらの知識ベースの各項目に対して、その典型的な適用例 が蓄積され、リンク (たとえば、物理的効果の知識ベースや特許データベースなどへリンク) されて、ユーザに例示してユーザの類比思考を刺激するのに用いられている。注目すべきは、これらの知識ベースが、平行的な代替法として、互いに分離した (そして多少重複した) ものとして、ユーザに提示されていることである。その事情を図2では点線で分離して示した。


2.2  TRIZ における問題解決の個々の方法と技法

技術分野の問題解決のための方法・技法の領域で、古典的TRIZは多数のユニークで効果的な方法を開発した。それらの主要なものを下記に簡単にまとめ、特 にTRIZ知識ベースとの関係についてコメントしておこう。

TRIZの最近の研究で、いくつかの方法が追加された。つぎのものを含む。
2.3  TRIZ における問題解決の全体的手続き

TRIZの知識ベースと諸方法についての各要素に 関する上記の記述、および、図 2に示したそれらの位置づけは、TRIZの専門家たちの間で基本的な共通理解になっている [1、7、9、2]。TRIZにおける問題解決の全体的 手続きとしてはさらに、「どんな問題状況の場合に、どの方法とどの知識ベースを、ど んな順番で使う べきか?」についての推奨を特定すべきである。これこそが、多くのTRIZリーダたちがさまざまに違うやり方を提案し適用してきた課題であり、以下に述べ るようにいまなお混乱した状況にある。

古典的TRIZの個々の方法と知識ベースのすべて を開発したアルトシュラー [1] は、ARIZ (「発明問題解決のアルゴリズム」) という名前でその全体的手続きをも開発した。ARIZをますます強力にしてより一層困難な問題をも解決できるようにすることを彼は意図した。さまざまな個 別の方法とそれに対応した知識ベースを開発しつつ、それらを複雑な手順で構成してさまざまなバージョンのARIZを [歴史的に変化しつつ] 構築した。アルトシュラーは、少なくとも80時間のトレーニングをしてからARIZを使うように推奨し、また、より簡単な問題を解くには、もっと標準的な 方法 (すなわち、どれかの適当な個別の方法) を使うように助言した。

Yuri Salamatov は、そのオーソドックスなTRIZ教科書 [7] において、 「上記に列挙したいくつかの個別の方法を試みても満足な解決策が得られなかったときにだけ、ARIZを使う」ように薦めている。Boris ZlotinとAlla Zusman [9] は、TRIZ Tool Map を提案し、原因-結果分析によって示唆された多数の小問題のそれぞれのタイプに応じて、さまざまの個別の方法を使い分けることを推奨している。

Darrell Mann はその最近の著書 [2] において、問題定義、解決ツールの選択、問題解決、および解決策の評価からなる、4段階の手順を提案している。個々の方法についての彼の説 明は深い洞察を 持ち優れたものであるが、彼の全体手続きはつぎのような二つの問題点を含んでいるように見える。問題分析 (すなわち、4箱のスキームにおける抽象化の主要部分) の諸方法が、彼の「問題定義」と「問題解決」の2段階に跨がって分離して記述されている。「解決ツールの選択」の段階において、問題定義段階の結果を判断 するのに19の状況を示し、問題解決段階で選択すべきツール [すなわち、2.2節で述べた諸方法] を各状況に対して最大4個まで推奨している。その選択のための表はあまりにも大きく複雑で、ここにまとめることができない。

このように、これらの伝統的なTRIZにおける問 題解決の全体プロセスは、つぎのような弱点を共通に持っている。


3.  USIT (統合的構造化発明思考法) がTRIZをやさしくし統合化した

USITはTRIZをやさしくし統合化したもので あり、問題分析と解決策生成のためのTRIZの諸方法をすべて再編し、問題解決の全手続きを明快に構築し、また問題解決の明快なスキーム [方式、構造] をもっている。

3.1  USITの主要な特徴

USITは、1995年にフォード自動車社のEd Sickafus [8] によって開発されたもので、イスラエルのSIT法 (体系的発明思考法) を採用して強化したものである (SIT法は、TRIZをずっと簡略にした方法であり、1980年代初めに開発された)。USITはつぎの特徴をもっている。
筆者は1999年以来USITを日本に導入して、 さらに改良してきた [3-6]改良した主要点は以下のようである。


3.2  USITにおける問題解決の手順

USITの手順の全体は、図3に示すようなフローチャー トで表わされる [3]。USITでの問題解決は明確に区別される3段階で行う。す なわち、問題定義、問題分析、そして解決策生成の各段階である。問題分析段階には、3つの主要な方法をもつ。すなわち、(a) 現在のシステムの機能と属性の分析、(b) 理想の解決策を最初に考えるためのParticles法、および (c) 空間と時間の特性の分析である。問題の性格に応じて方法 (a) または (b) のどちらか一つを用いるのでも構わないが、最近の実践によれば、どんな問題に対しても方法 (a) と (b) の両方を用いることが強く推奨される。3方法を (a)、(c)、(b) の順序で継続的に用いるのが、最近の典型的な使い方である。解決策生成段階においては、USITの5種のオペレータを、システムあるいは解空間にある任意 の可能なオペランド [操作対象] に対して、繰り返し適用していく。


図 3.  USITの問題解決手順のフローチャート

USITのフローチャートによる表現は、USITの開発初期からずっと 使われてきた。それは非常に自然なものであり、USITにおける問題解決のグループ作業は、このフローチャートに沿ったいくつかのセッションを行う形式 で、実際に実施されている。典型的には [後述のUSIT 2日間トレーニングセミナーでは]、セッション1を問題定義段階、セッション2と3を問題分析段階 (それぞれ方法 (a)+(c) と方法 (b) を使う)、そして、セッション4と5を解決策生成段階に当てる。

3.3  USITにおける問題解決の全体構造

さてここで、USITの手順を、図1に示した問題 解決の基本的な4箱のスキームの上に写像することを検討しよう。ここで、4つの箱がプロセス (あるいは、方法・技法) ではなく情報 (あるいは、データ) を表わしており、矢印がプロセスを表わしていることに、注意することが大事である。だからいまわれわれは、(情報科学の用語でいう) 「データフローダイアグラム」をUSITの問題解決に関して描こうと しているのである。

USITの問題解決手順について、データフローダ イアクラムを図4に示す。この図は、つぎの諸点を示し (そして主張し) ている。


  図4.  USITにおける問題解決の全体的構造を示すデータフローダイアクラム


  • 抽象化は最初にUSITの「問題定義」段階で実行され る。ユーザの具体的な問題 (それはユーザ自身でさえしばしば曖昧に理解されていて、焦点が絞られていない) を、上記に述べた情報を備えた「適切に定義された問題」に変換する。

  • 抽象化はさらに、USITの「問題分 析」段階で実行される。現在のシステムについて、オブジェクト、属性、機能、空間、および時間という基本的な概念を使った理解を得、さら に、理想的なシス テムについて、望ましい行動と望ましい性質という面からの理解を得る。このようにして得られた情報が、一般化された問題のモデル (すなわち、[4箱スキーム中の第2の箱である] 抽象的な一つの問題) である。

  • USITは問題解決のためのモデルを「解決策生成のためのUSITオペ レータ群」という形式で持っている。USITの 各オペレータがもつガイドラインは、システムあるいは問題中の任意の可能なオペランド [操作対象] (すなわち、オブジェクト、属性、機能、および解決策) を取り上げ、それらを変更したオペランドに変換して、新しいシステムのためのコンセプト (あるいは、アイデア) の諸断片を獲得するように、指示する。

  • そこで、USITの解決策生成段階において、USITの 解決策生成法オペレータを、一般化した問題 モデル中のさまざまなオペランド [に作用させて] 修正したオペランドに変換すると、それらが新しいシステムのコンセプトの部分部分を構成する。

  • USITの解説策生成段階では、新システムのためのコンセプト (アイデア) の断片から、さらに、(問題解決者の技術的な素養と力量を基盤にして) 解決策コ ンセプトに組み上げていく。これは「具体化」のプロセスの一部である。

  • 具体化の最終ステップ [実現段階] は、解決策コンセプトをユーザの具体的な解決策に実現していくことである。このステップは通常USITプロセスの 外側で実行されるものであり、解決策コンセプトを技術的・ビジネス的な判断基準で選択し [ふるいに掛け]、新しいシステムを設計し、実験を実施するなど、である。
[解決策生成のための] USITオペレータ群が、創造的問題解決のこのスキームにおいて鍵となるプロセスを成すから、次節において、それらの性質をより詳しく示して議論しよう。



4.  USITの解決策生成オペレータ

4.1  USITの解決策生成オペレータの階層的体系

USITの解決策生成オペレータ群は、図 5に示すような階層的な体系を形成して いる [5]。5種の主要なオペレータがあり、それら をさらに [階層的に] 分類すると、総計32種のサブ-オペレータになる。
 

1)  オブジェクト複数化法

  a. 消去する
  b. 多数 (2, 3, ... , ∞個) に 
  c. 分割 (1/2, 1/3, ... 1/∞ ずつ) 
  d. 複数をまとめて一つに 
  e. 新規導入/変容 
  f. 環境から導入
  g.  固体から, 粉体, 液体, 気体 へ

2) 属性次元法

  a.   有害属性を使わない 
  b.  有用な属性を使う 
  c.  有用を強調, 有害を抑制 
  d.  空間属性を導入, 
           属性(値)を空間変化
  e.  時間属性を導入, 
           属性(値)を時間変化 
  f.  相を変える, 内部構造を変える
  g.  ミクロレベルの属性
  h.  システム全体の性質・機能

3) 機能配置法

  a.  機能を別オブジェクトに
  b.  複合機能を分割、分担
  c.  二つの機能を統合
  d.  新機能を導入
  e.  機能を空間的変化, 移動/振動
  f.  機能を時間的に変化
  g.  検出・測定の機能
  h.  適応・調整・制御の機能 
  i.  別の物理原理で

4)  解決策組み合わせ法

  a.  機能的に 組み合わせる 
  b.  空間的に 
  c.  時間的に
  d.  構造的に
  e.  原理レベルで 
  f.   スーパーシステムに移行

5) 解決策一般化法

  a.  用語の一般化と具体化
  b.  解決策の階層的な体系

図5.  USITの解決策生成オペレータの階層的な体系


4.2  USITオペレータの適用法の例示: 額縁掛けの問題の例


USITの解決策生成オペレータの性格について議 論する前に、一つの簡単な事例 [6] でその適用法を例示することが適当であろう。ここには額縁掛けの問題 [8] を使おう。われわれの課題は、「釘と紐と二つのフックからなる通常の額縁掛けのキットを改良して、額縁が傾きにくいようにせよ」というもの である。この問 題での問題定義と問題分析のプロセスを記述することは省略しよう (文献 [8、3、6] を参照)。この場合の一般化した問題のモデルとして、われわれは少なくともつぎのような情報を得てい る。


 
図6.  額縁掛けの問題に対する機能分析のダイアグラム [6]

例えば「釘」に焦点を絞って、USITオペレータ をさまざまに適用してみよう。そのような適用例の一部を図7に例示した。


図7.  額縁掛けの問題で、釘にさまざまのUSITオペレータを適用した結果の図示


図a) とb) が、もとの釘と紐とを図示している。「複数倍にする (乗算)」オペレータ (1b) はオブジェクト複数化法の最も簡単な場合であり、摩擦を増大させるこ とを意図して、解決策 c) や d) を与える。「分割する (除算)」オペレータ (1c) もまた複数化法の一つの形式であり、狭いスリットで紐をきつく保持することを意図して、図e) に示すアイデアを与える。もし、調節後にさらにしっかり保持する機能を望むなら、図i) に示すようにネジを取り付けてもよい。


第二の主要なオペレータは、「属性を次元的に変化させよ」と助言して いる。例えば図f) がそれに対する一つの単純な応答であり、釘の表面の滑らかさの属性をずっと異なる値に (すなわち、釘の表面を粗く) している。粗い表面は調節のためには良くないから、われわれは図k) に示すように、釘の半分だけを粗くし、あと半分は滑らかなままにしておくというアイデアを得た。これはさらに、釘の滑らかな部分で紐を調節し、その後、紐 を釘の粗い部分に [移動させて] 保持するというアイデアに導いた。アイデアl) は、釘の周りにカラーをつけ、その表面の半分を粗く、半分を滑らかにしておくものである。釘の表面を粗くすることをさらに進めて、ぎざぎざにすることが考 えられ、その結果、釘の断面の形を図g) に示すようにすることを思いつく。この断面の上部だけしか実際に使っていないことが分かるから、この断面の形とサイズをもっと劇的に変えて図h) のようにしてもよい。釘の「形状を変える」という操作のアイデアから、また別の図i) の解決策が得られ、それは実質的に釘の本体が2本になっている。この図i) の釘は紐の張力によって回転しやすいことに気がついて、[回転を防ぐために] 2本足の釘のアイデア m) を思いついた。この結果は、図c) に示した2本の釘に「統合化」のオペレータ (1d) を適用したものだとみなすこともできる。

上記の説明でUSITの他の3種の主オペレータが はっきりと言及されていないことに気がつかれたかもしれないが、心配する必要はない。上記の解決策の多くが他のUSITオペレータによる結果としても説明 できるのである。例えば、上記のアイデアk) は、つぎのようにさまざまに異なる方法で得られたのだと説明することもできる。

このように、USITの異なるオペレータがときに は (あるいはしばしば) 同じ概念的なアイデアにわれわれを導く。このことは、USITの解決策生成オペレータに意図的に冗長性が含まれているからである。

一つのアイデアを得るのに、これらのオペレータを先に明白に意識していても、いなくてもよ い。しかし、任意のアイデアをこれらのオペレータの一般的な用語で捉え直す [注: これはUSITの「解決策一般化法」の一つの適用法である] ことが、そのアイデアのエッセンスを理解するために大事であることに、注目すべきである。例えば、上記のアイデア k) についての5種の解釈の中で、「オペレータ (4c): 時間による組合せ」 を用いた解釈がこの問題においては最も本質的であることが見出された。このオペレータはその本質において、オーソドックスなTRIZでいうと、「物理的矛 盾に対して時間による分離の原理を適用する」ことに対応する。だから、アイデアk) を「時間による組合せ」のオペレータを適用した結果だと認識することは、ユーザにこの問題の中核にある物理的矛盾を認識させ、その矛盾を時間による分離で 解消する可能性を認識させる。このような理解を得ると、ユーザは多数のもっと新規な解決策を生成することが容易に可能になるであろう。


4.3  USIT解決策生成オペレータがもつガイドライン

解決策生成のためのUSITオペレータは、その 32種のサブ-オペレータのレベル (そしてさらに詳細なレベル) で、それぞれ [適用のための] 「ガイドライン」、すなわち、図式を伴った簡潔な指示をもっている。それらはTRIZのさまざまな原理を反映したものであるが、さらにもっと有効なやり方 に定式化し直されている [4、5]。例として、USITの「オブジェクトを分割 する」オペレータ (1c) を取り上げて議論しよう。このオペレータは、複数のTRIZの原理から導かれたものであり、それらの原理にはつぎのものを含む。[注: ここの発明原理の表現はSalamatov [7] を使っている。Mann [2] とは微小な違いがある。]

TRIZの諸原理からUSITのガイドラインを導出するにあたって、 われわれはつぎのような立場を 取った。

そこで、USITのオペレータ (1c) のガイドラインは以下のように記述された。 USITオペレータのガイドラインをもう少し示す ために、前節に現れた他の4種のサブ-オペレータを以下に記そう。 USITのこれらのガイドラインの例から、多数の TRIZの諸原理 (発明原理、発明標準解、進化のトレンドを含む) がこれらのUSITオペレータ群にスムーズに統合されていることを、読者が理解されることと思う。また、上記に記した解決策の諸例がこれらのUSITオペ レータのガイドラインを適用することによって容易に得られることも、理解されるであろう。

USITオペレータの有用性と意図した冗長性は、 オブジェクト、属性、機能とい うUSITの基本概念を基礎にしている。オブジェクトに対するUSITオペレータは (上記に (1c) の場合を示しているように)、その操作対象 (オペランド) としてどれかのオブジェクトを取り、指定された操作をそのオブジェクトに適用し、そしてさらにガイドラインの記述に従って対象オブジェクトの属性や機能に 変更を及ぼす。属性や機能に対するUSITオペレータにおいても、同様の状況にある。USITのガイドライン記述におけるこのタイプの拡張により、たいて いのTRIZ諸原理によるよりも、より分かりやすく問題解決者を導くことができる。また同時に、それぞれのガイドライン記述でオブジェクトと属性と機能と に言及していることが、USITオペレータ群における意図的な冗長性 (すなわち、相互の重複) の源泉である。



4.4  USITを教え、適用した経験

日本においてUSITを教え、適用した経験につい てはすでに [3、6] に報告してきた。2時間の講義でTRIZとUSITの概要を教えることができる。典型的には、2日間のUSITトレーニングセミナーを、企 業内で 15〜25人の技術者を対象にして開く。[注: 図7Aにこのセミナーのプログラムを示す。] [上記の] 2時間の概要紹介の講義の後に、参加者たちは3件の企業の実地問題を持ち込み、USITの手順に従ってそれらを並行したグループ演習で解決することを試み る。5つのセッションを [逐次的に] 行い、その各セッションは、その段階のプロセスについての講義、並行したグループ演習、および [全体での] 発表と討論から構成される。通常各グループは20〜40件のアイデアを得、それらはさらに数件の (実現に向けてさらに検討するに値するような) 解決策コンセプトに集約される。このようにして、TRIZ/USITの初心者であった技術者たちが、各々一つの技術的問題を自分たち自身でUSITを使っ て解決した経験を獲得し、また3件の実地事例を通してUSITの全手続きを理解することができる。このことは、TRIZを学ぶことに比較して、USITを 学ぶことが、ずっと容易で効果的であることを示している。


図 7A.  USITトレーニングセミナーの2日間のプログラム



5.  おわりに

問題解決の基本的な4箱のスキームにおいて、 TRIZ (およびその他の多くの科学技術の諸理論) の一般化したモデルは、一般化した問題とそれに対応した一般化した解決策という形で表現され、[実際の具体的な問題を解くときには] 類比思考を使うことを想定している。ユーザの具体的な問題をモデル中の一般化した問題に写像するのに抽象化を使い、[具体的な解決策に] 逆写像するのに具体化を使う。しかしながら、これらの写像のプロセスはしばしば、手続き的な形でうまく説明することができていない。

本論文は、[図4を簡略化して] 図8にまとめたような、問題解決の新しいスキームを提案してい る。


図8.  USITにおける問題解決のスキーム。USITの解決策生成オペレータ群を使っている。


抽象化は2段階で実行される。問題定義段階で、 ユーザの具体的だがしばしばあい まいな問題を適切に定義された具体的な問題に変換し、そして問題分析段階でそれをさらに、現在のシステムと理想のシステムとの抽象化した理解に変換する。 システムに対するこの抽象化した理解は、オブジェクト、属性、機能、空間、時間、望ましい行動、および望ましい性質などの基本的な用語で表現されたもので あり、4箱スキームの一般化した問題の位置を占めるものである。ついで、USITの 解決策生成オペレータ群が、抽象化したシステムの諸要素を新しい解決策 システムでの修正した諸要素に変換する。この段階が問題解決全体の鍵となる段階である。それから [つぎの段階で]、技術的思考を基礎にして解決策コンセプトが形成され、さらに最終的に、ユーザの具体的な解決策が技術的に設計され [実現され] る。

[従来のスキームでの] 類比思考における曖昧さが、この新しいスキームで消滅していることに注目すべきである。TRIZ (および問題解決法一般) において「モデル」として表現されている知識が、USITオペレータに凝縮されたのである。また、これによって、創造的問題解決のすべての手続きが、いま やずっと明確な用語と手続きによって表現されているのである。

TRIZをこのように統合し簡単化することによっ て、上記に例示したように、人々がもっと容易にTRIZを理解し、自分たちの実地の問題にもっと広範にTRIZを適用していくことを、助けることができ る。



参考文献
[1] Genrich Altshuller: "Creativity as an Exact Science", Gordon &Breach, 1984.

[2] Darrell Mann: "Hands-On Systematic Innovation", CREAX Press, Ieper, Belgium, 2002; 中川 徹監訳、知識創造研究グループ訳: 『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』、創造開発イニシアチブ刊、東京、2004年。[同出版案内と資料: 『TRIZホームページ』, 2004年6月(和 ・英) ]

[3] 中川 徹: 「やさしいUSIT法を使ってTRIZのエッセンスを教え・適用した経験」、TRIZCON2002: 第4回Altshuller Institute TRIZ国際会議、2002年 4月28-30日、セントルイス、ミズーリ州、米国; 『TRIZホームページ』、2002年 1月 (和)、5月 (英)。

[4] 中川 徹、古謝秀明、三原祐治: 「TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの5解法に単純化する」、ETRIA国際会議、TRIZ Future 2002、ストラスブール、フランス、2002年11月6-8日; 『TRIZホームページ』、2002年9月(和) 、11月(英))。     

[5] 中川 徹、古謝秀明、三原祐治: 「USITの解決策生成技法−TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの5解法に単純化した」、ETRIA国際会議発表論文付録、TRIZ Future 2002、ストラスブール、フランス、2002年11月6-8日; 『TRIZホームページ』、2002年9月(和) 、11月(英)

[6] 中川 徹、古謝秀明、三原祐治: 「USIT解決策生成法の使い方 -- TRIZを簡易化・統合化したシステム」、TRIZCON2003、フィラデルフィア、米国、2003年3月16-18日; 『TRIZホームページ』、2003年1月(和) 、4月(英)

[7] Yuri Salamatov: "TRIZ: The Right Solution at the Right Time", Insytec, 1999 (E); 中川 徹監訳、三菱総研訳: 『超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」』、日経BP社刊、2000年11月。[同出版案内と資料: 『TRIZホームページ』、2000年11月(和 ・英)] 

[8] Ed. N. Sickafus: "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", NTELLECK, Grosse Ile, MI, USA, (1997). [また、Ed Sickafus: "Unified Structured Inventive Thinking:  An Overview", eBook, URL: http://www.u-sit.net/; 川面恵司・越水重臣・中川 徹 訳: 『USIT の概要 (統合的構造化発明思考法): USIT eBook』、『TRIZホームページ』、2004年10月。 ]

[9] Boris Zlotin and Alla Zusman: "Tools of Classical TRIZ", Ideation International Inc., Southfield, MI, USA, (1999) (E); 産能大学TRIZ企画室監訳: 『超発明術TRIZシリーズ6、 理論編「クラシカルTRIZの技法」』、日経BP社刊、2000年 9月。


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論文先頭
1. はじめに
2. TRIZのスキーム
3. USITの全容
4. USITオペレータ
5. おわりに
参考文献
修善寺2004講演
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終更新日 : 2004.11.16     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp