TRIZ論文: TRIZ シンポジウム 2009 発表
韓国におけるTRIZ活動とその成功要因 (2009年)

Kyeongwon Lee (李敬元) (Korea Polytechnic University (韓国産業技術大学)、韓国)
スライド和訳: 中川 徹 (大阪学院大学)

日本TRIZ協会主催 第5回日本TRIZシンポジウム、2009年9月10-12日、国立女性教育会館、埼玉県比企郡嵐山町

紹介: 中川 徹 (大阪学院大学)、
英文: 2009年12月13日、和訳: 2010年 7月21日
掲載:2010. 7.25

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編集ノート (中川 徹、2010年 7月21日)

本稿は、昨年のTRIZシンポジウム2009 でのKyeongWon Lee 教授によるオーラル発表です。

韓国におけるTRIZの導入の経過を概観して、「韓国においてTRIZはいま、(幼児期から脱して) 急激な成長段階にある」といっています。その成長のきっかけになったのが、2004年 (より少し前) 頃のサムソン (グループ内) における、ロシア人TRIZ専門家を中心とした、技術的な成功事例であり、大企業がそれを認めて積極的な推進をしたことであるとしています。その後、社内でのトレーニングが強調され、それをこなすためにオンラインのトレーニングコースが活用されたといいます。韓国語での出版が多数行われ、いまやいくつかの大学に正規の授業科目としてTRIZによる創造的設計工学が開かれている、ともいいます。これらの事実の紹介とともに、成功要因を 9観点から まとめていて、大いに参考になります。

本件の発表スライド(16枚) を、英語と日本語の両方で掲載します(スラド和訳:中川)。また、中川が「TRIZシンポジウムのPersonal Report」に書きました紹介 (英文) を、ここに和訳して掲載します。

上記の紹介の最後に、日本でのTRIZの活動状況を、中川が簡単にサマリしました。著者の9観点に、さらに別な 6観点を付け加えました。今後のTRIZ (の推進のしかた) を考えていくための手がかりとして、それら15項目をここに列挙しておきます。

1. 以前のバックグランドとの関係 6. TRIZのビジネス応用 11. TRIZの全国センター
2. TRIZのチャンピオン 7. 大学などでのTRIZの教育 12. TRIZの全国会議 (学会)
3. ロシア人TRIZ専門家たち 8. トレーニングとコンサルティング 13. 学校におけるTRIZを用いた教育
4. 企業内での戦略的なアプローチ 9.ひとびとの特徴 14. TRIZの研究センタ/応用センタ
5. 本とオンライン教育 10. TRIZのソフトウェアツール 15. 政府による認知

なお、昨年のTRIZシンポジウムの後で、韓国での初めての全国的/国際的なTRIZコンファレンス (略称: KoreaTRIZCON2010) が2010年3月に 2日間開催されました。 また、現在準備中の今年のTRIZシンポジウムで、韓国から9件の一般発表があり、発表者以外にも韓国から参加者がある予定です。本件の記事が、これらの発表を聞くに際して、よい事前準備になることを願っています。


[1] 論文概要

韓国におけるTRIZ活動とその成功要因(2009年)

Kyeongwon Lee (李敬元)
(Korea Polytechnic University (韓国産業技術大学)、韓国)

概要   [和訳: 中川 徹  2010年 7月21日]

韓国の多数の大企業と大学が、TRIZの応用に非常に大きな関心を示しており、それはこの2009年までにどんどん大きくなっている。本発表では、サムソン、LG、ヒュンダイ自動車、およびLSケーブルにおけるTRIZの活動について簡単にサマリする。Korea Polytechnic Univ. (韓国産業技術大学) や Ajou Univ. (亜州大学) などの機械工学科では、ABET認定の「創造的工学設計教育」のためのTRIZのコースを開いた。韓国でのTRIZの応用が世界中でもっとも活発である主要な理由を、著者の観点から説明する。また、韓国語のTRIZの出版物、およびTRIZのオンライン/オフラインの教育 (&コンサルティング) プログラムについて示す。さらに、日本でパブリックドメインに開示可能な優れた成果をも示すことができるであろう。


[2] 発表スライド全文:      [注 (中川) : 著者は濃紺の背景を使っているが、読者の印刷時の便宜を考え白地にした。]

英文発表スライド (16 スライド、PDF 1.4 MB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)

和文発表スライド (訳: 中川 徹 (大阪学院大学)) (16スライド、PDF 792 B)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)


[3] 発表の紹介 (中川): 

「Personal Report of The Fifth TRIZ Symposium in Japan, 2009, Part E.  Promotion of TRIZ in Industries」
中川 徹 (2009年12月13日) (英文ページ) から抜粋。(和訳: 中川 徹、2010年 7月21日)
[注: スライドの和訳は中川 徹 (大阪学院大学)による]

KyeongWon Lee (韓国産業技術大学、韓国)[E15 O-4] がオーラル発表を行った。そのタイトルは、「韓国におけるTRIZ活動とその成功要因 (2009年)」であった。[この論文は、8月半ばという遅い時期にポスター発表として受理されたものであったが、実際には第1日の午後のオーラルセッションで発表された。それは他の発表者のキャンセルによるもので、僅か1日前での予告によるものであった。] ここには著者のアブストラクトを最初に引用する。

韓国の多数の大企業と大学が、TRIZの応用に非常に大きな関心を示しており、それはこの2009年までにどんどん大きくなっている。本発表では、サムソン、LG、ヒュンダイ自動車、およびLSケーブルにおけるTRIZの活動について簡単にサマリする。Korea Polytechnic Univ. (韓国産業技術大学) や Ajou Univ. (亜州大学) などの機械工学科では、ABET認定の「創造的工学設計教育」のためのTRIZのコースを開いた。韓国でのTRIZの応用が世界中でもっとも活発である主要な理由を、著者の観点から説明する。また、韓国語のTRIZの出版物、およびTRIZのオンライン/オフラインの教育 (&コンサルティング) プログラムについて示す。さらに、日本でパブリックドメインに開示可能な優れた成果をも示すことができるであろう。

最初の2枚のスライド (下) が、韓国におけるTRIZの歴史を概観したものである。著者の記述によれば、TRIZが韓国に紹介されたのは1996-1997年であり、(2004年のTRIZCON で報告されたように) サムソン電子で優れた事例が得られ、そのような成功事例がTRIZの普及と適用を大いに刺激した、という。そして、今日の韓国においてTRIZは急激な成長の段階にあり、産業界における優れた事例と、技術者教育および大学での教育を伴っている、と著者はいう。

[*** 中川注釈: 韓国におけるTRIZの活動に関しては、われわれはいままでに、本論文をサポートするいくつかの発表に出会っている。その中には、Nikolai Shpakovsky らによるTRIZオンライントレーニングプログラムについての発表 (ETRIA TFC 2001) : Hyo June Kim の発表 (日本IM ユーザグループミーティング 2003年); Sun-Wook Kang ら および Mijion Song らによるTRIZ推進についての発表 (TRIZCON2004) ; Valery Krasnoslobodtsev らの発表 (TRIZCON2005) ; Jung-Hyeon Kim らのサムソン電子でのTRIZの普及活動の発表 (ETRIA TFC 2005) ; Valery Krasnoslobodtsev のセミナー (日本にて、2006年) ;  SeHo Cheong らの サムソン電機におけるTRIZ推進の発表 (日本TRIZシンポジウム 2008)  などである。]

 

サムソングループなどの大企業において、TRIZを適用した成功事例が得られた後に、大企業はTRIZの教育プログラム、とくにイントラネットによるオンラインのプログラムに力を入れた。いまや、オンラインのTRIZ教育プログラムは、パブリックドメインで非常に廉価な授業料で提供さている (左下のスライド参照)。TRIZの本が韓国語で翻訳されてきており、いくつかのものはオリジナルであり、翻訳版ではない (右下のスライド)。

 

著者は、韓国におけるTRIZの推進が成功した要因について論じており、以下の2枚のスライド(下) を示している。このサマリは非常に興味深い。

 

著者はその発表の結論として、右のスライドを示している。著者は、「韓国におけるTRIZの活動は、いまやS-カーブの急速な成長段階にある」と結論づけている。この結論は、ここに提示されているさまざまな事実 (および、おそらく、まだ公的には開示されていないもっと多数の事実) によって支持されているように見える。

[この結論スライドの第2の点に関しては、オーラル発表のセッションにおいてコメントをした。すなわち、「ここで、「アジアTRIZコンファレンス」という名称を、韓国の人たちだけで組織している会議に用いることは適切でない。(中川は同じコメントを一年前に、「第1回」のイベントに対しても主張した。)」。 -- この点については、日本TRIZシンポジウム2009の後で、著者および韓国の関係者たちがその計画を思慮深く変更した。彼らは現在、「Global TRIZ Conference 2010 in Korea」 (略称 「Korea TRIZCON2010」) の発表募集をしている。それは2010年3月11-13日にソウルで開催予定である。彼らのWebサイト www.koreatrizcon.kr を参照されたい。]

[注 (中川、2010. 7.25): このKoreaTRIZCON2010 に関しては、本『TRIZホームページ』内のニュースと活動のページでも案内し、報告している。澤口学氏 (早稲田大学) の参加報告もある。]

 

*** [中川所感] 興味深いのは、TRIZの推進に成功裏に寄与したさまざまな要因、そして寄与することに失敗したさまざまな要因について、あなた自身の (そしてさまざまな他の) 国 (あるいは、会社や大学など) の場合で考え、議論することであろう。以下に、日本におけるTRIZの場合について、本論文の著者の観点をベースにして、比較検討してみよう。

観点

日本における状況

1. 以前のバックグランドとの関係

日本には、さまざまな品質運動の強力なバックグランドがあり、また創造性技法 (方法論)のバックグランドがある。TRIZはそれらに関心を持つ人々のごくわずかの人々を吸収したにすぎない。そのようなさまざまな運動や方法論との統合や協力について、今後さらに追求していく必要がある。

2. TRIZのチャンピオン

日本におけるTRIZの先駆者やリーダたちは、その大部分が上級の技術者や中間管理職の人たちである。われわれはまだ、経営トップのマネジャで、TRIZを全社スケールで強力に推進するような人を獲得していない。

3.ロシア人TRIZ専門家たち

TRIZの導入の初期には、日本でも、ロシア人(および米国人) TRIZ専門家たちによるさまざまなセミナーがあった。しかし、その後しばらくすると、われわれは自分たちでTRIZを学び適用することを試みて、国際会議や本やWebサイトなどを使って、世界中から、さまざまな立場のクラシカルTRIZおよび新しいTRIZの考え方とツールとを導入していった。われわれはこの選択が間違ったとは考えていない。日本は独自のスタイルでのTRIZの理解と応用のしかたを持っている。とくに顕著なものは、QFD-TRIZ-田口メソッドを統合して用いることと、USIT とであろう。

4. 企業内での戦略的なアプローチ

それぞれの企業でさまざまに違ったアプローチが行われてきた。日立、パナソニック、およびパナソニックコミュニケーションズ、などが、TRIZを推進する全社的なチームを樹立して成功してきた例として知られている。さらに多くの企業が、それぞれのスタイルでTRIZの推進を行ってきており、その大部分は中間管理職によって運営され、ボトムアップの組織を持っている。

5. 本とオンライン教育

TRIZの導入の初期から、標準的なTRIZの教科書がいくつか日本語訳で出版されてきており、日本語のオリジナルなTRIZの本もいくつか出版されている。オンラインでのTRIZ教育コースは日本では利用できるものがない。しかしながら、公共的なWebサイト、特に『TRIZホームページ』が、最新の高品質の記事を日本語 (および英語) で提供している。

6. TRIZのビジネス応用

TRIZをビジネスや経営の分野に応用することは、徐々に始まった段階である。

7. 大学などでのTRIZの教育

TRIZを教えている大学は、10校程度ある。しかしながら、それらの大部分が、教授の個別の仕事や興味をベースにしている。TRIZ (あるいは、創造的工学設計) が正規の科目として受容されるには、もっともっとするべきことがある。TRIZの研究は日本の大学においてはまだ極めて弱い。日本において、TRIZは学術界で認知されていない。

8. トレーニングとコンサルティング

TRIZトレーニング/コンサルティングを行う企業がいくつか存在し、また、企業内のTRIZトレーニングチームがいくつかある。注目されるのは、多数のTRIZ実践者たちがオープンな複数企業ベースでの有志による研究会に加入し、TRIZの知識や経験を学び、共有していこうとしていることである。

9.ひとびとの特徴

日本人は、仕事および学習にまじめ (真剣) である。

(10) TRIZのソフトウェアツール

大企業は、TRIZのソフトウェアツール (日本語版) を TRIZ推進の初期から導入してきている。ただ、そのTRIZソフトウェアツールに対する重点の置きかたは企業によってさまざまである、と思われる。

(11) TRIZの全国センター

日本におけるTRIZコミュニティは、1997年の導入当初から緊密で友好的な関係を持ってきており、一歩一歩前進して2007年末に日本TRIZ協会 (NPO) を設立した。このTRIZ協会は、日本においてTRIZに関心をもち、TRIZに関わっている人たちのほとんどすべてをカバーしている。その中には、ベンダー/コンサルタント、企業ユーザ、および大学の人たちを含んでいる。TRIZシンポジウムを毎年開催することが、TRIZ協会の現在の主要な活動である。

(12) TRIZの全国会議 (学会)

日本TRIZシンポジウムが2005年以来毎年開催されてきている。それは公開の全国的なコンファレンスであり、部分的に国際化されていて、海外からも発表者や参加者を得ている。

(13) 学校におけるTRIZを用いた教育

高等学校から小学校のレベルでの、TRIZの教育、TRIZを用いた教育は、まだ日本では始まっていない。先生たちにTRIZに興味をもって貰うことが大事であろう。これに関連して、TRIZの社会への浸透は、いまはまだまったく進んでいない。

(14) TRIZの研究センタ/応用センタ

企業内およびコンサルタント企業内にいくつかのTRIZチームが存在する。しかし、日本の大学や政府研究所には、TRIZの研究センタ/応用センタは存在していない。

(15) 政府による認知

日本においては、政府組織、地方公共組織において、TRIZはまったく認知されていない。政策プログラム、プロジェクト、政策、組織などの中に、組み入れられているものがない。

*** [中川所感] この表を記述して (そして、推敲のために何度も何度も読んでみて)、TRIZにとってするべきことが一杯ある。日本においても、世界においても一杯ある、とつくづく思う。

 

 

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最終更新日 : 2010. 7.25     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp