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  2011年7月に予定されている、テレビのアナログ放送停止。前回は、その時期の設定が妥当なものかどうか、経済学の視点から検証を進めた。結果、この時点での停止は国全体にとって利益をもたらすという意味で効率的ではあるが、一部の事業者を利する反面、多くの国民に負担を強いることにもなりかねないため公平性に欠く、ということが見えてきた。

 今回は、この検証結果に対し、海外の動向などを踏まえたうえで、どのような政策が有効であるかを考えていきたい。

諸外国のテレビデジタル化

 アナログ停波を含むテレビのデジタル化は多大の利益を国民にもたらすので、世界各国はこぞってその実現に努めている。とくに先進国では、遅くとも21世紀初頭までにデジタル放送を開始し、その後10年程度でアナログ停波を実施してデジタル化を完了することを目指している。オランダ、フィンランドなどの小規模先進国では、すでにデジタル化が終っているケースもある。

 図表9は、日・米・英・独の4カ国についてテレビデジタル化とアナログ停波の背景・内容を比較したものである。デジタル放送開始から停波終了予定までの期間は、日本が7年7カ月で最も短い。また日本は地上波によるテレビ受信が多いことで英国に似ており、全国一斉停波を予定している点では米国に似ている。これに対し英・独などヨーロッパ諸国では全国一斉でなく、地域を区分して順次停波を進めるケースが多い。地域別停波は、早期停波地域の経験を生かすことができる、停波支援マンパワーを停波実施地域に集中できるなどの利点があるが、他方、新しい電波の全国利用が遅れるという欠点を持っている。

 次に図表10は、日本と米国との比較である。両国は、電波割当用オークション導入の有無を除けば類似する点が多い。米国は日本に先立ち1998年にデジタル放送を発足させ、2009年2月に一斉停波を予定している(原資料はこちら<PDF>:第3節、P21~27)。



 米国では、議会(通信担当委員会)がテレビデジタル化のリーダーシップを取っている。当初は2006年の停波を予定していたが、デジタル機の受信機普及が見込より遅れたため、2006年2月に法律を改正し、2009年2月の一斉停波を定めた。以下に日本の現状と比較したときの相違点を述べる。

米国と日本の相違点

 米国では第1に、「テレビ受信機へのデジタル受信機能装着が義務化」されている。日本では同義務は課されていない。しかしながら日本では「アナログ受信機への使用期限表示ラベル貼付」がほぼ100%実施されており、2007年ごろまでに店頭でのアナログ受信機販売数はごく少数になった。

 第2に、米国はケーブルテレビ事業者に対し「停波後少なくとも3年間、同加入者に対して停波前と同一条件でのアナログ送信を義務化」した。図表9が示すように、米国ではケーブル視聴が全世帯の2/3に及んでいるので、このことは停波後のテレビ視聴環境維持に大きく貢献する(衛星経由受信を考慮すると、停波によってテレビ視聴ができなくなるのは、地上波を直接に受信している13%の中でデジタル受信機への買換が済んでいないケースに限られることになる)。日本ではこれに対応する措置はまだ取られていない。

 第3に、米国議会は法律を制定し、停波時にアナログテレビ受信機(レコーダーや、テレビ機能付きパソコンを含まない)を保有する視聴者が40ドル相当のクーポン券を世帯あたり2枚まで受取り、デジタルチューナー購入費用の一部として使用できることを定め、2009年1月からその受付を開始した。クーポン券受領に所得制限は付けられていない。また財源として、停波によって利用可能になる電波割当時のオークション収入の一部を充てることとし、当面は計25億ドル(2,700億円)程度の予算を措置している。この予算額は、同オークション収入191億ドルの13%にすぎない。この政策は、早期停波によって電波利用にかかる効率性を追求しつつ、オークション収入を用いてテレビ視聴環境を維持することにより公平性の規準をも満たすものであると言うことができる。

 米国議会・FCCなどはこれらの政策を精力的に進めており、下院商務委員会委員長は、「停波の翌日起床して、スイッチを入れても薄暗い画面しか出てこないテレビ機に直面する米国国民を1人も出さないことがわれわれの目標である」旨を述べている。しかしながら他方で、「放送の一斉停波は米国国民がはじめて直面する困難な事業であり、実際には停波時に多数のトラブルが生じることを避けることができない」とする意見も見られる。

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Hajime Oniki
ECON, OGU
6/8/2008
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