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アナログ停波の時期は妥当か――経済学の視点で検証する

 

  薄型大画面テレビの価格低下など追風を受けて、デジタルテレビ受信機の売れ行きが加速している。しかしながら、筆者らの調査では2011年7月の「アナログ放送停止(停波)」予定時点で、全保有数1億台強のテレビのうち半数近くが旧来のアナログ機として残る、という予想が出た。その時点でのアナログ停波は不公平・非効率や社会的混乱を招きはしないだろうか。そして、それを防ぐための選択肢は何か。考えてみたい。

 なお、本稿は筆者と、大阪学院大学経済学部講師である本間清史が共同で進めた研究をもとにしている。研究内容の詳細については、大学のホームページに掲載しているので参照されたい。また本稿の内容をより詳しく解説した論文も、後日同ホームページに掲載する予定である。(鬼木甫・大阪学院大学経済学部教授/大阪大学名誉教授)

各国で進むテレビ放送のデジタル化

 地上テレビ放送のデジタル化が着々と進行している。現在は、半世紀以上続いたアナログ放送と、2003年末から開始されたデジタル放送が同じ番組を視聴者に届けている(サイマル放送)が、アナログ放送は2011年7月に停波する予定になっている。デジタル受信機を購入するか、あるいはアナログ機に取付けるチューナーを入手しなければ、停波後にテレビを見ることはできない。放送のデジタル化は、電波の節約をはじめとする多大の便益を国民にもたらすので国策として推進されており、日本だけでなく多数の先進国でも進行中である。

 しかしながら、どの時点でアナログ停波を実施するか、その際に個々の視聴者がデジタル受信に切換えるための援助をどのように実施するかについては、各国とも苦労しているようである。米国では1998年にデジタル放送が開始されたが、曲折を経て2009年2月にアナログ停波が予定されている。

経済分析を必要とする背景

 内閣府が2007年3月に実施した「消費動向調査(PDF)」をもとに計算すると、わが国でテレビは世帯平均2.5台、全国合計で1億から1.2億台保有されているようだ。NHK放送文化研究所の「2005年生活時間調査報告書(PDF)」によれば、国民1人あたりの視聴は1日平均3時間を大幅に超えているという。またビデオリサーチ社の2005年視聴時間調査は、世帯あたりで1日8時間2分、1人あたりで4時間7分と報告しており(日本民間放送連盟「放送ハンドブック」より)、個人単位の視聴も多い。またこれに加え、各種のレコーダー、テレビ受信機能のあるパソコン、車載テレビなども普及している。水道・電気・電話が生活のために不可欠なユーティリティーであるのと同じように、テレビは、インターネットの急成長にもかかわらず「総合情報ユーティリティー」としての地位を占めている生活必需品だ。

 またテレビは、多くの人にとって手軽な娯楽源でもあり、特に病気や高齢のため自由な外出が困難な人たちにとっては貴重な存在であることも事実だ。停波によって手持ちの受信機によるテレビ視聴が不可能になった場合の不便・当惑、チューナー購入を強制されることへの不満・怒りは大きいだろう。またこれらのことから停波直前に抗議や停波延期要求がなされれば、時間不足の中で混乱を生じ、国民は高い社会的コストを支払うことになる。時間的余裕のある今のうちに将来について予測を行い、国民に対して選択肢を明らかにした上で検討を加え、停波に関し万全の方策を講じるべきである。

デジタル受信機への買い換え

 視聴者の立場から考えたとき、停波についての最重要事項すなわち「停波の規準」は、停波時に使えなくなるアナログ受信機の数である。したがって、視聴者がアナログ受信機をどの程度のスピードでデジタル機に買換えるかが問題になる。この点から、日本全体のアナログ・デジタル機の出荷数・保有数を見よう。

 デジタルテレビへの買換は、最近の薄型化、大画面化などの技術革新に後押しされて加速している。図1、2は1980年以後の経過を示すグラフである。図1はアナログ・デジタル受信機の毎年の国内出荷数とその合計、図2は両受信機の年末保有数とその合計を示している。図1は実数だが、図2は本間清史が2005年にまとめた論文「デジタルテレビ受信機普及の実証研究」の中で行った推計を用いた。



 図1において、テレビ出荷数合計とデジタルテレビ出荷数の差(2本のグラフの縦方向の差)がアナログテレビ出荷数である。アナログ受信機は2003年のデジタル放送開始後においても多数販売されていたが、2006年ごろからデジタル受信機の供給が急増し、2007年では出荷数全体の9割を超えている。

 このように最近2~3年でデジタルテレビへの買換が加速しているが、テレビの買換期間は10年近くに及び、出荷数は年間平均1,000万台程度である。デジタル受信機の累積出荷数は、図2が示すように、デジタル放送開始後4年、アナログ停波予定を3年半後に控えた2007年末でも2,000万台弱であり、まだテレビ受信機保有総数1億台強の2割に達していない。

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Hajime Oniki
ECON, OGU
6/8/2008
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