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望ましい方策とは

 最後に、アナログ停波に関して可能な選択肢を述べ、筆者らが望ましいと考える方策を提案したい。

 まず第1に、停波時点の如何にかかわらず、ケーブル事業者が「停波後においても、停波前と同じ条件で、アナログ再送信を継続する」措置を取る必要があることを指摘したい。ケーブル事業者にはデジタル放送のアナログ変換機器を備える必要が生じるが、その費用は、多数の視聴者がチューナーを備える費用総額にくらべればはるかに少ない。

 次に、停波時点の決定(2011年7月に実施するか、あるいは延期するか)を含む選択肢を考えよう。細かく述べれば多数のオプションが考えられるが、大別して「積極・推進策」と「消極・延期策」を挙げることができる。

【1】積極策――予定通り停波、チューナー購入補償を実施

 積極策とは、予定どおり2011年7月に停波して新規電波資源の効率的利用を実現することである。ただし公平性を維持するため、停波によって損害を受ける視聴者に対し、従前の視聴環境を維持するための補償を実施することが必要である。その範囲については選択の余地があるが、米国と同様にレコーダー、コンピュータ受信等を除き、停波時点のアナログ受信機保有者全員に対してチューナー購入補償の受給資格を認めることが適切であろう。そのためにはチューナー購入費用計3,000億円程度の財源が必要になる。その負担は、同電波を新規に利用する事業者すなわち「早期停波の受益者」に求めることが公平原則に適う。このことを、現在の「比較審査による免許」制度の枠内で実現するとすれば、「停波によって利用可能となる電波の新規免許時に、免許受領事業者から電波利用料を一時的に増額して徴収する」ことが考えられる。3,000億円は巨額の負担だが、それでも電波の価値である1.7兆円の2割弱程度である。

 しかしながら最も望ましい財源の調達方法は、米国など他先進国と同様に日本でも「オークション割当」を採用することである。オークションは、電波の利用に「市場メカニズム」を適用することを意味する。オークション収入を補償財源に充てることができるだけでなく、オークションの導入は新規参入の活発化や技術開発誘因の強化など電波利用全般にわたって多数の利点をもたらす。ここで詳細に論じることは避けるが、電波オークションについては「電波資源のエコノミクス――米国の周波数オークション」(現代図書、2002年)にまとめてあるので、ご興味のある方は参照されたい。

【2】消極・延期策――停波を延期し、自発的な買い替えを待つ

 次に「消極・延期策」。これは停波を当初予定から数年間延期し、デジタル受信機への自発的な買換が進行してアナログ機保有者数が減少するのを待つことである。もとより停波を延期すれば、電波の利用開始が遅れて効率性が失われるが、不公平を避けるための財政負担は少額で済む。もともと2011年7月の停波予定は、その10年前の2001年7月、つまりデジタル放送が開始される2年以上も前に定められたものである。その時点で(地上)デジタル受信機は販売されておらず、需要予測のための出荷データ等は存在しなかった。

 だが、デジタル機の普及見込がつくようになった時点で停波予定時点を延期することは、それほど常識に反することではないのではないか。米国や韓国など、当初の停波予定を変更した国も少なくない(韓国については2007年2月、本サイトで趙章恩氏が詳細に紹介している)。余談ではあるが、筆者を代表者の1人とするグループは2001年の停波期限設定の際のパブリックコメント募集に応じ、「デジタル受信機に対する需要の不確定性を考えると、停波期限を固定的に定めるべきでなく、弾力的に設定することが望ましい」と述べたが、採用に至らなかった。

【3】中間策――地域別停波

 両方のいわば中間形態としては「地域ごとのタイムラグ付アナログ停波(英国などヨーロッパ方式)」も考えることができる。地域別停波のメリット、デメリットは先に述べた通りだが、効率化のためにはデジタル機への買換が先行している地域から順に停波することが望ましい。またデメリットを最小化するためには、停波が済んだ地域から順に新規事業を開始することが考えられる。ただしこの場合、停波順序に関して地域間利害の対立が生じる可能性がある。「地域の自立性と良い意味での地域間競争」を考慮に入れつつこの対立を解決するための方策を工夫・設計することは、挑戦に値する課題であろう。

今すぐ、開かれた議論を

 いずれにしても政府は、国民に対し現状と選択肢を明示し、開かれた議論を通じて停波に関する施策を進めることが望まれる。停波時点の変更を議論すること自体がデジタル機への買換を遅らせると考えがちだが、視聴者はすでに十分賢くなっており、「停波のかけ声だけで受信機の買い換えを早める」ケースは少ないのではないだろうか。予定停波時点までまだ3年余の時間を残している今こそ、議論を開始する必要がある。

 筆者としては、政府が公平性に関する考慮を払わないままで現在予定されている時点での停波を強行しないよう、強く望みたい。国民の多数に犠牲を強いる形で進めると、直前になって混乱が生じる可能性が大きい。全く別のケースではあるが、私たちは2007年度末の国政において、まさに「時間不足の中で対立を生じ混乱を招く」状況を目の当たりにした。そうした混乱は、それ自体が国民にとって大きな損失なのである。

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Hajime Oniki
ECON, OGU
6/8/2008
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