TRIZ/USIT 解説・紹介
連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ
第11回 知識ベースを活用するTRIZ(5)
「40の発明原理」の学び方と使い方
中川 徹 (大阪学院大学)
InterLab (オプトロニクス社), 2006年11月号 (No. 97), pp. 48-51
許可を得て掲載。無断転載禁止。 [掲載:2006.11. 1]

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編集ノート (中川徹、2006年10月28日)

本件は、研究・技術開発者のための情報誌『InterLab』誌に掲載している長期連載の第11回です。同誌のご好意によりここに掲載しています。連載の親ページ。同誌の発行は前月15日で、本ホームページには当月1日以降の掲載を標準にしています。

同誌で発行された形のものは PDFファイルにしています。ここをクリック下さい (PDF 283 KB)

また、ここにHTML形式のページを作り、いろいろなところへのリンクを張りましたので、ご活用下さい。

なお、このページはTRIZについて初心者の方のための、TRIZ紹介のページとしても位置づけております。TRIZ紹介の親ページ その他の記事へも多数リンクしておりますので、ご活用下さい。

目次:

はじめに

1. 発明原理を学ぶには

1.1  発明原理の参考文献
1.2 「40の発明原理」の一覧
1.3 発明原理の説明: サブ原理
1.4 発明原理の狭い理解と広い理解

2. 既存の発明のエッセンスを発明原理で理解する

2.1 発明のエッセンスを捉える
2.2 一つの分野の指導原理を知る
2.3 技術システムの発展方向を知る

3. 発明原理をヒントにする

3.1  発明原理の事例集を学ぶ
3.2 エッセンスを適切に適用する

4. TRIZの発明原理の諸分野への拡張

4.1 諸分野の発明原理の適用事例集
4.2 新しい分野での発明原理の解釈
4.3 発明原理を追加していくべきか?

 


 

第11回

知識ベースを活用するTRIZ(5)

「40の発明原理」の学び方と使い方

 

大阪学院大学 中川 徹

InterLab誌, 2006年11月号 (No. 97), pp. 48-51

 

 TRIZにおける知識ベースとして、前回までに、科学技術原理(Effects)のデータベース技術システムの進化のトレンドの知識ベース、そして、機能目標から実現手段を探す知識ベースについて説明してきました。

  今回はいよいよ、アルトシュラーが抽出した「発明の原理」とその事例データベースについて説明します。アルトシュラーが多数の特許の内容を分析して、そのアイデアのエッセンスを抽出してまとめていったのが、この「発明原理」です。

  アルトシュラーが最初にまとめたときには32の原理だったのですが、その後彼が拡張して、「40の発明原理」と呼ばれて親しまれています(サブ原理でいうと約100項)。

  「40の発明原理」はTRIZの中で最も親しまれているものでしょう。TRIZの初心者がまず興味を持ち、学習するものですし、学習する価値があるものです。これを学習して使えるようになれば、TRIZの半分をマスターしたといってよいでしょう。少なくともその後継続してTRIZを学習していく下地ができたのですから。

  また、機械系・電気系の分野から飛び出して、ソフトウェア分野だとか、ビジネス分野だとかにTRIZが進出しようとするときには、いつもこの発明原理の適用法が考えられ、その意味が拡張・深化させられてきています。

1. 発明原理を学ぶには

1.1 発明原理の参考文献

  TRIZの「40の発明原理」は、TRIZ教科書のすべてに採録されているが、例えばつぎのものを参照するとよい。

[1] 超発明術TRIZシリーズ3、テクニック編『図解40の発明原理』、日経BP社(1999)。-- Lev Shlyakの解説本の和訳。各原理に関連して、日本での技術開発の事例一つずつを詳しく説明し、それを発明原理で解釈している。

[2] Darrell Mann著、中川徹監訳、『TRIZ 実践と効用(1)体系的技術革新』、創造開発イニシアチブ(2004)。-- 各原理に数〜数十件の事例が、一行ずつの説明で記述されている。

[3] 粕谷茂著、『図解 これで使える TRIZ/USIT』、日本能率協会マネジメントセンター(2006)。--独自に集めた事例で発明原理を図解している。

1.2 「40の発明原理」の一覧

  ここでやはり、40の発明原理の一覧を示しておこう。[2] に準拠して示す(個々の原理の名称は教科書やソフトツールごとに少しずつ差異があるが、内容自身は同じである)。

表1. 「40の発明原理」の一覧

1. 分割
2. 分離
3. 局所的性質
4. 非対称
5. 併合
6. 汎用性
7. 入れ子
8. 釣り合い
9. 先取り反作用
10. 先取り作用
11. 事前保護
12. 等ポテンシャル
13. 逆発想
14. 曲面
15. ダイナミックス
16. 部分的な作用または過剰な作用
17. もう一つの次元
18. 機械的振動
19. 周期的作用
20. 有用作用の継続
21. 高速実行
22. 災いを転じて福となす
23. フィードバック
24. 仲介
25. セルフサービス
26. コピー
27. 高価な長寿命より安価な短寿命
28. メカニズムの代替/もう一つの知覚
29. 空気圧と水圧の利用
30. 柔軟な殻と薄膜
31. 多孔質材料
32. 色の変化
33. 均質性
34. 排除と再生
35. パラメータの変更
36. 相変化
37. 熱膨張
38. 強い酸化剤
39. 不活性雰囲気
40. 複合材料

  これらの原理に対する番号は固有のものとみなされていて、TRIZの多くの文献で記述の節約のために発明原理をその番号だけで示すことがある。

  おおまかにいうと、最初の方に全般的なよく使われるものがあり、後ろにはある程度関連があるものがグループになって並んでいる。ずっと後ろのものは物質に関連した表現になっていて、そのままではやや一般性が低い。「40の発明原理」には明確な分類や階層構造が作られていない。

1.3 発明原理の説明:サブ原理

  これら発明原理の基本的な内容は、アルトシュラー自身が簡潔な文の形で記述している。その記述は、各発明原理に1〜4項程度あり、「サブ原理」と呼ばれることもある。

  例えば、最もよく使われる「1. 分割の原理」にはつぎのような説明がある。

1a. システムを分離した部分あるいは区分に分割する。
1b. 組み立てと分解が容易なようにシステムを作る。
1c. 分割の度合いを増加させる。

  また、「15. ダイナミックスの原理」にはつぎの説明がある。

15a. システムや物体が、さまざまに異なる条件下で最適動作ができるように変化可能にする。
15b. 一つの物体あるいはシステムを分割して、相互に相対的に運動可能にする。
15c. 物体やシステムが固くまたは柔軟性がない場合、それを移動可能か適応可能にする。
15d. 自由運動の量を増加させる。

  これらの記述から分かるように、教科書の説明を読み、その例示の項目とその説明図を読めば、基本的なことは十分に分かる。TRIZのソフトウェアツールは、これらの発明原理のいろいろな事例を図やアニメで紹介していて、検索も容易にしてある。

1.4 発明原理の狭い理解と広い理解

  発明原理の意味を、広く解釈するのか、狭く解釈するのかは、読者の自由である。ただし、その発明原理を使って何か新しいアイデアのヒントを得たいというのが普通の使い方だから、発明原理の意味を杓子定規に狭く解釈しても何のメリットもない。広く解釈して、そのエッセンスを捉えるというのが、望ましい姿勢である。

  例えば、前記の「分割原理1c」でいう「分割の度合いを増加させる」というのは、二つ三つの分割から、何百の分割、さらにもっともっと多くの極限にまで多くの分割(細分化)を意味していると解釈するのがよい。それは実際には、技術システムの進化のトレンド(第9回参照)で言う「物体の分割(細分化)のトレンド」に対応する。

  また、「4. 非対称の原理」のサブ原理4a の原文は以下のようであった。「4a. 物体やシステムが対称的、あるいは対称の線を含んでいるところに非対称性を導入する。」これを参考文献[2]に翻訳したとき、私は「対称の線 [対称の中心・線・軸・面など]」 と[ ]内に訳注を加えた。なお、さらにいえば、この対称性というのは、空間での対称性だけに限定する必要はなく、時間に関する対称性でもよいし、機能の関係の対称性でもよい。

2 既存の発明のエッセンスを発明原理で理解する

 発明原理の使い方の第一は、いままでのさまざまな発明、特許や、技術の発展の歴史のエッセンスを理解するのに使うことである。

2.1 発明のエッセンスを捉える

  アルトシュラーが沢山の特許を分析して、そのエッセンスを捉えていったのが「発明原理」40項である。それでは、自分の分野ですばらしいと思う発明一つ一つのエッセンスは、何なのだろう?技術の専門用語で「...法を発明した」という表現ではなく、その方法自身のエッセンスは何なのだろう?それを40の発明の原理で表現してみるとよい。

  実はこのような作業を、三菱総研が主宰するTRIZの研究会の作業グループで、精選米国特許について共同で議論したことがある。特許を読み込んで、発明者自身が記述しているエッセンスを読み取り、また、自分たち自身でそのエッセンスを考え直してみる。この作業は、意外にも各人の捉え方がばらついた。本質を捉えることの難しさ、それ故の重要さを認識した。

  この作業を自分のアイデアについてもやってみることが重要である。本質を捉えると、より広いアイデア、よりよいアイデアに導かれるからである。

2.2 一つの分野の指導原理を知る

  上記の作業を、実際的な一つの分野/テーマに関して体系的に行なった例がある。マレーシアのIntel社が TRIZの国際会議で発表した(2006年春)もので、「半導体素子における静電放電破壊を防ぐ諸方法」を一つ一つ発明原理で捉え直した。

  その結論は、「高速実行原理(すなわち、放電を素早く無害に起こさせる)と、等ポテンシャル原理(すなわち、静電気の電位差を生じさせないようにする)とが基本である。他に、曲面、先取り作用、併合、非対称、分割、汎用性、分離、災いを転じて福となす、などの原理が使われている」という。

  このような試行錯誤的な実際問題に対して発明原理できちんと説明すると、今後の指針を得ることができる。

2.3 技術システムの発展方向を知る

  もう少し大きく一つの技術システムの発展の歴史を扱い、一つ一つの発明の意義を明確にした研究例もある。

  例えば、「レーザ光学ディスク(DVD)システムの開発における観点とその分析」という論文で、ロシアの若い技術者S. Khrouchtchevが欧州のTRIZ国際会議(2003年)で発表している(『TRIZホームページ』に和訳を掲載)。

  彼はまず、CD(特にその光学系)の開発の歴史を丹念に辿って、そのエッセンスを発明原理の言葉で説明している。そして彼はいう。「ここまでに紹介したのはすべて、技術開発の歴史のレビューである。このレビューの後で考えると、もし設計者たちがTRIZの方法論を使っていれば、設計に要した時間は大幅に短縮したと言えるであろう。」そして、「さていまから、筆者が行なったトレンド設計について述べたい」として、彼自身の新しい仕事を記述しているのである。

3. 発明原理をヒントにする

 さらに大事な使い方は、発明の原理をヒントにして、自分の問題に新しい解決策を創り出すことである。

3.1 発明原理の事例集を学ぶ

  発明原理をヒントにして、新しい解決策を考え出そうとするとき、もっともよく行なうのは、その原理を使った事例をいろいろと学ぶことである。そのような事例は、1.1節で述べた参考文献やTRIZのソフトウェアツールにいろいろと掲載されている。それらを手元に用意して折にふれて見て、身につけることがよい。また、自分で事例を蓄積したり、自社内の事例を蓄積して共有化することも有益である。

3.2 エッセンスを適切に適用する

  しかし、われわれが知っている沢山の事例が、かえって「落とし穴」になることがある(TRIZでは「心理的惰性」という)。

  フォード自動車の研究者たちが1997年に発表したすばらしいTRIZ事例報告がある。「フロントガラスのモールディングのきしみ音の問題」(『TRIZホームページ』に和訳掲載(1999年)

  図が、ガラスの周りのプラスチックの縁の断面構造を示している。−20℃以下の厳冬に高速で走ると、フロントガラスの縁が風圧で横にわずかに(1〜2ミリ)動き、それがキューキューときしみ音を発する。この音を防ぐのが10年来の懸案であった。

  きしみ音の原因は、縁の「stick & slip」(くっついては滑るの繰り返し)だと分かった。解決策の一つの方向は、(高価な)潤滑剤を塗るなどして「いつも滑る」ようにすることである。別の方向は、(接着剤などの荒療治で)「いつも固定しておく」ことである。

  ここで、「車輪」の原理(発明原理14b)を使えばよいというアイデアがヒントとして得られた。車輪を使って「滑らかに転がる」状態にすれば、フロントガラスの動きがあっても、キューキュー音がしないだろう。

図1.  フロントガラスのきしみ雑音の問題。「車輪 (転がり)」のアイデアをどう実現するか?

  -- さて、それでは、このプラスチックの縁にどのようにして、「車輪」を実現するのか?車軸をどうするのか?ボールペンのような構造にするのか?機密性も必要だよ。フロントガラスの縁を一周するのだよ。…

  適用事例、適用事例、…と求める人は際限なく壁にぶつかる。もっと原理にもどって、エッセンスを見出すことが必要である。

4. TRIZの発明原理の諸分野への拡張 

4.1 諸分野の発明原理の適用事例集

  TRIZは1970年代にその基本が樹立されたから、機械系・電気系の分野を中心に発展した。その後、化学分野や農学・医学などの応用分野、に広がり、さらにソフトウェア分野、あるいは経営などの非技術分野にも広がりつつある。

  このようにTRIZの適用を新しい分野に広げようとするとき、研究者たちがまず試みてきたのは、新しい分野での発明・改良の事例をTRIZの40の発明原理に当てはめて説明してみることであった。

  そのような試みは、米国のWeb サイト "The TRIZ Journal"上に収録されている (http://www.triz-journal.com/matrix/index.htm)

  つぎのような分野のものがある。

化学、化学工業、食品工業、建築、建設、マイクロエレクトロニクス、ソフトウェア開発、品質管理、エコデザイン、公衆衛生、社会問題、教育、ビジネス、マーケッティング/セールス/宣伝、金融、サービス

4.2 新しい分野での発明原理の解釈

  上記のようにさまざまに広がった分野においてTRIZの発明原理が適用できるのは、基本的にはアルトシュラーが特定の技術分野に依存しない形で発明原理を表現したからである。

  それでももちろん、40の発明原理には基本的に機械的・電気的な分野での物質を主体とした表現になっている。「29.空気圧と水圧の利用」、「37.熱膨張」、「38.強い酸化剤」などが、その例である。

  だから新しい分野では、(いままでも繰り返し説明したように)語句の表層でなく、もっと深いところでの理解、適用が大事なことである。

  そこで場合によっては、発明原理の名称を(より共通なエッセンスを示すように)少し修正することも行われる。

  例えば、ビジネスとマーケッティングの分野に対して、Darrell Mannの新しい教科書("Hands-On Systematic Innovation for Business & Management", IFR Press, UK, 2004)では、上記の3つの原理を「29.流体性」、「37.相対的変化」、「38.強化した雰囲気」と呼んでいる。

4.3 発明原理を追加していくべきか?

  新しい分野へのTRIZの進出は、上記のような既存の発明原理の拡張解釈では収まりきれない部分を認識することにも繋がる。そのときに、「40の発明原理」に新しく何かを追加すべきか?という問題があり、TRIZ研究者たちの立場にも少し幅がある。

  Darrell Mannは、ビジネス分野、ソフトウェア分野、そして生物分野などの新分野にTRIZを積極的に展開して教科書などを書いている。その彼は、「40の発明原理に追加すべきものはない/なかった」と主張している。

  一方、Ideation社のBoris Zlotin & Alla Zusman は、アルトシュラー自身が40の発明原理を導出したときにもいろいろな変遷があったのだから、その後改良していくのは当然だと考えている。そして、「組合せた発明原理」および「特殊化した発明原理」を合計37件リストアップしている。

  筆者自身はまだあまり明確な考えを持てていない。しかし、ソフトウェア分野などでのいろいろな改良のエッセンスを発明原理の枠組みに投影しようとすると、少なくともサブ原理のレベルで、より適切な表現を追加するべきであると考えるに至っている。

  例えば、「6.汎用性原理」は現在、「6a.一つの物体やシステムが複数の機能を実行できるようにし、他のシステムの必要性をなくす」とある。しかしこの他に、「6b.基本的で標準的な機能単位のものを作り、広い範囲に一般的に使えるようにする」という標準化/規格化のサブ原理の追加が有益で必要であると考える。

 

 さて、次回には、「どんなときにどの発明原理を使うとよいのか?」という問題を扱おう。この質問に答えるためにアルトシュラーが作ったのが「矛盾マトリックス」という知識ベースである。

 

注:  3.2節の図の事例に対するフォード社の論文の解答は、「プラスチックの縁の内側3ミリ程度のところを下側からくびれさせ、そこが折れ曲がることによって先端が転がるようにする。1〜2ミリの左右の動きは1/8 回転程度で十分吸収できる。」すなわち、自由回転をさせる車軸は不必要なのである。

 

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本ページの先頭 記事の最初 1. 発明原理を学ぶ 2. 既存の発明のエッセンス 3. 発明原理をヒントに

4. 発明原理の諸分野への拡張

 

連載の親ページ 第1回FAQ 第2回歴史(1) 旧ソ連 第3回 歴史(2) 米殴 第4回 歴史(3) 日韓 第5回 事例(1) 裁縫 第6回 事例(2) 万引き防止 第7回 知識ベースとソフトツール
第8回 Effects DB 第9回 技術進化のトレンド 第10回 機能から手段を知る 今回 PDF   次回 (第12回) InterLabサイト TRIZ紹介のページ

 

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最終更新日 : 2006.11. 29.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp