TRIZ研究ノート |
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TRIZのエッセンス − 50語による表現 | |
中川 徹 (大阪学院大学)
2001年 5月16日 和訳: 2001年 5月19日 [掲載 (英文・和文): 2001. 5.22] |
TRIZのエッセンスは何か? この質問は, われわれがTRIZを教え/学ぶために最も基本的で重要なものである。TRIZには, 多数の重要な原理や方法がある。例えば:
TRIZのエッセンスを抽出するためには, われわれはまずTRIZの全体構造を理解しなければならない。私の理解 [1] によれば,
TRIZ = 方法論 + 知識ベースであり, TRIZにはつぎの三つの側面がある。
以下に掲げるのが, 私が現在理解しているTRIZのエッセンスを50語で表現したものである。
Essence
of TRIZ:
Recognition that
Thus, for creative problem
solving,
|
TRIZのエッセンス:
「技術システムが,
そこで, 創造的問題解決のために,
|
私がこのような理解を得たのは, 主としてサラマトフのTRIZ教科書[2] を勉強した結果である。 上記の簡潔な表現を最初に示したのは, TRIZCON2001の国際会議での発表[3] のスライドとしてであり, 本ホームページに私のTRIZCON発表論文を掲載した際に, その編集ノート中に記録した。
この50語による表現を, 以下に簡単に, トップダウンに説明しておこう。
まず最初に, TRIZは一つの「認識」である, 言い換えると, 技術についての一つの「新しい見方」 (すなわち, 上記の方法論(a)) である, と言明している。 この認識をもつことにより, つまり, 技術をこの観点から見ることによって, われわれは非常に大きな視野を持つ位置に達することができ, その視野は, 技術だけでなく, 科学や社会やわれわれの生活などすべてに及ぶ。
その最も重要な認識は, 「技術システムが進化する」という認識である。われわれは, 技術を, 主として技術システムとして見る。いかなるシステムも, いくつかの構成要素 (すなわち, 下位システム) とそれらの関係とから構成され, それ自身がその上位システムの一つの下位システムと見なすことができる。すべての技術システムが進化する, すなわち, 歴史の中で変化・発展する。この進化は巨大な潮流を形成し, 個々の発明を包含しつつ飲み込んでしまう。進化はさまざまなフェーズでさまざまな様子で現れ, 例えば, 誕生, 拡張, 統合, 縮約などがある。
技術システムの進化は 「理想性の増大に向かって」いる。 この認識は進化の主法則と呼ばれる。 理想性は, サラマトフ [2]によれば「主機能/(質量+エネルギー+サイズ)」と定義されるが, ときには, 「有用機能/(コスト+有害機能)」と定義されることもある。これらの定義は本性として定性的なものである。ここの主たる認識は, さまざまな形の進化を, 理想性の増大の方向への動きであるとして普遍的にみることができる, という認識である。この認識が, 将来の技術システムを予測し開発するときの, われわれの基礎を形成する。
進化が起こるのは, 「矛盾の克服」だけによる。さまざまの矛盾は最初, 需要と供給 (すなわち, 現行の技術性能) との間のギャップとして顕れる。それらの矛盾は, 障害・障壁として認識され, しばらくの間はなんらかの妥協が行われるが, やがて, ブレークスルーの発明によって克服される。これらの諸発明が, 技術システムの進化におけるミクロのステップを形成する。
矛盾の克服が達成されるのは, 「大抵, リソースの最小限の導入による」。リソース (すなわち, 物質, エネルギー, サイズなど) を安易に追加導入すると, しばしばシステムを複雑化し, 矛盾を解決しない。リソースの導入をなしでするか, 最小限でしたときにだけ, 矛盾が克服できるというのが, TRIZの認識である。これは理想性の増大の法則とよく対応している。
上記に述べた認識を基礎にして, TRIZは「創造的に問題を解決するための」一つの方法論 (すなわち, 一つの思考方法) を提供しようとする。これが, TRIZを開発し, 学ぶ, 主要な目的である。問題解決は諸矛盾を克服するのに最も必要とされる。そのような矛盾に対しては, 解決策も解決する方法も予め知られていないのだから, われわれはそれらを創造的に解決せざるをえない。
創造的な問題解決のために, 「TRIZは弁証法的な思考を薦める」。TRIZはわれわれに, 最も一般的な意味で, 考える方法を提供する。さまざまの特定の方法や, ヒューリスティクスや, トリックなどを超えて, TRIZは新しい思考の方法をわれわれに示している。それは, サラマトフ[2] によれば, 哲学的な用語を使って, 「弁証法的思考」と呼んでよい。この思考方法の主要な特徴を, 以下のフレーズで説明している。すなわち,
第一に, 「問題をシステムとして理解する」。問題の対象を (技術的) システムとみなすべきである。システムに対しては, TRIZは上記の認識に述べたように, 深い洞察を与えている。われわれはまた, 問題自体も階層的な問題システムを形成していることを理解すべきである。この理解をすれば, 問題に対しても, そしてその可能な解決策に対しても, われわれは複眼的でかつ進化する観点をもつことができる。
第二に, 「理想の解決策を最初にイメージする」。これはもちろん, 技術システムが理想性の増大に向かって進化するというTRIZの認識に基礎を置いている。進化の方向をわれわれは知っているのだから, われわれは解決策のイメージをまず考えるべきである。われわれは理想的解決策をまずイメージし, それから, それを達成するための方法を見つけることを試みる。例えば, 理想解から現在のシステムへと一歩一歩戻ってくる。これは従来の思考の方法, すなわち, 現在のシステムからスタートして試行錯誤により考えるのとは対照的に, その逆方向の思考過程をわれわれに薦める。
第三に, 「矛盾を解決する」。弁証法論理は, 哲学においてしばしば, 「一つの命題とその反対命題との間の矛盾を, 総合命題を導入して解決する」ものであると言われるが, それを実現するための実際のプロセスについてはよく説明されてこなかった。その中で, TRIZは, 技術的問題における矛盾を解決するための具体的なガイドラインを (特に ARIZの形で) 示すのに成功した。そのプロセスの中心は, (問題を再定式化して) 物理的矛盾 (すなわち, システムの一つの側面に対して正方向と逆方向の要求が同時に存在する状況) を導出し, それを分離原理によって解決するものである。物理的矛盾が一旦導かれると, この解決技法は驚くばかりに強力で, ブレークスルーの解決策を見つけることができる。
TRIZにおける弁証法的な思考方法の三つの特徴が, 技術システムについてのTRIZの認識と非常によく対応していることに注意すべきである。
参考文献:
[1] Toru Nakagawa , "Approaches to Application of TRIZ in Japan", TRIZCON2000: The Second Annual AI TRIZ Conference, Apr. 30 - May 2, 2000, Nashua, NH, USA, pp. 21-35. ; TRIZ HP Japan, May 2000. (和訳: 中川 徹, 「日本におけるTRIZ適用のアプローチ」, TRIZホームページ, 2001年 2月)。
[2] Yuri Salamatov, "TRIZ: The Right Solution at the Right Time", Insytec, 1999; 和訳: "超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」 , 中川 徹監訳, 三菱総研訳, 日経BP社刊, 2000年11月。
[3] Toru Nakagawa: "Staircase
Design of High-rise Buildings Preparing against Fire -TRIZ/USIT Case Study
-", TRIZCON2001: The 3rd Annual AI TRIZ Conference, Mar. 25-27, 2001, Woodland
Hills, CA; TRIZ HP Japan, Apr. 2001. (和訳: 中川
徹, 「中高層建築物における火災対策を考えた階段の構造−TRIZ/USIT適用事例」,
TRIZホームページ,
2001年 4月)。
編集ノート (中川 徹, 2001年 5月22日) [追記: 2001. 8.23]
本稿は, ヨーロッパTRIZ協会 (ETRIA) の国際会議での発表のために,
投稿論文の一つの節として書き下したばかりのものである。その発表論文のタイトルはつぎのようである。
「TRIZのエッセンスをやさしいUSIT法で学び・適用する」,
中川 徹
[原題: "Learning and Applying
the Essence of TRIZ with Easier USIT Procedure" by Toru Nakagawa]
学会は 2001年11月 7-9日に英国のバースで開催予定である。学会発表や出版の前には論文を公表しないのが通常であるけれども, 私は論文の一部をここに掲載することにした。それが読者の役に立ち, 世界中でTRIZをよりスムーズに普及させるのに少しでも寄与するだろうと思うからである。
追記 (2001. 8.23):
この論文全体を和訳し,
本ホームページに掲載しました。(論文題名の和訳を上記のように修正しました。)
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最終更新日 : 2001. 8.23
連絡先: 中川 徹 nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp