大阪学院大学 外国語学部ホームページ
社会で活躍する卒業生の体験談や、留学中の学生からの現地リポート等が閲覧できます。

III. アメリカ留学

6) 登録をする

大学への入学手続きや入寮の手続きは、たいてい長い行列ができて、時間が掛かります。皆さんは編入学学生(transfer student)ですから、単位認定の手続きもしなければなりません。初めて耳にする単語が次々出てくるでしょう。知ったかぶりをしないで、理解できないときには必ず質問して確認してください。大阪学院大学で学んだ人は「クラス指定」科目や必修科目のような言葉に日常的に接しています。でもアメリカの大学ではこういう言葉はほとんど聞かれません。アメリカの大学では、学部間の壁が低いので、「他学部履修」はありふれています。クラス指定科目がないので、科目登録は全部自分で考え、自分で選ばなくてはなりません。大学生はvirtual adultであり、自立/自律すべきだという考えがこの背景にあります。学問というものはそういうものなのですね。人まねや先人の研究をコピーするのは学問ではありません。ですから「学問する」場である大学では自立の妨げになる親切は避けるべきものなのです。

自立は大学生の目指すものであっても、学問は体系的でなければなりません。自立を重んじるあまり、科目を「偏食」しないようにという配慮がされています。University of Nebraska—LincolnのDepartment of Englishを例に説明しましょう。ネブラスカ大学リンカン校は筆者の母校です。ネブラスカ州の州都リンカンにあって、州立大学としては中規模で学生数が2万5000人ほど、夏は頻繁にトルネードが襲い、冬は零下20度まで気温の下がる土地にあります。筆者はそれでもこの大学で初めての留学生活を楽しみました。ジョギングを本格的に始めたのもここで、零下10度の寒い日でも1時間以上戸外を走りました。私の属していた学科を英語学科と便宜上訳しますが、アメリカの大学のEnglish Departmentは文学の比重が多くなっていますから、「英米文学科」と訳すのが正確かも知れません。イギリス文学を専攻する留学生である私の履修した科目は全部英米文学の科目でしたが、アメリカの学生は日本の学生のようにひとつの学科の提供する科目だけを選択して卒業することが希なので、特定の学科の卒業生であるという資格を得るための基準を設けています。ネブラスカ大学リンカン校の英語学科では次のように定めています―“36 Total Credit Hours required for an English Major.” 卒業要件の125単位中の36単位以上を英語学科提供の科目から履修すると英語専攻生(an English major)と名乗ることができるということですね。

ここでcredit hoursという表現が使われています。これは日本語の単位に相当する英語で、アメリカの大学で学ぼうという人にとって必須の言葉です。単位という単語と時間という単語が合体しているのに注意して下さい。アメリカの大学では、一週間に3時間開講される授業を一学期(one semesterでしたね)履修すると3 credit hoursが得られるようになっているからです。一週間に3時間ということは、月、水、金にそれぞれ1時間(実際には50分単位)の授業を受けるか、火、木にそれぞれ90分(同様に80分)の授業を受講するか、一日で3時間の授業を受けるか、ということになります。一日で3時間という授業はそれほど多くありません。上級の科目や大学院の科目に限られています。私が受講した科目の中で一日3時間という科目は、19世紀イギリス小説の授業でした。夜7時から始まり、コーヒー・ブレークを挟んで180 分続きました。たいてい一週間の間にチャールズ・ディケンズやジョージ・エリオットやアンソニー・トロロプの作品(ほとんどが4〜500ページ、中には900ページほどの小説もありました)から、指定された一冊を読むことを前提に授業はディスカッションでおこなわれました。10人ほど受講していたと思いますが、昼は仕事をし、この授業だけを取っているという人もいました。大学院で修士号を取得するためには36単位必要ですから、この人にとって学位の取得は長丁場です。(私は修士号をtwo semestersと4週間の夏学期[summer session]ふたつで取りました。1年と8ヶ月です。あまり急いだので、勉強が身につきませんでした。学問は“slow and steady”こそ肝心だと認識したことです。)

先ほど卒業には125単位が必要だと述べました。理論的には大学で登録できる科目は何千に上ります。その中から好き勝手に履修しても卒業はできません。ネブラスカ大学の英語学科では、分野とレベルの偏りがないように、履修の要件が定められています。分野を考慮した履修要件(Distribution Requirements)の中には、イギリス文学、1800年までの文学、アメリカ文学についての科目からそれぞれ1科目(3 credit hours)、計9 credit hours、文化、民族的背景(ethnicity)、ジェンダーに関する科目から3 credit hoursなど、5つの分野から合計で24 credit hoursを履修することと定めています。レベルについては、15 credit hours以上の単位を299番以上の科目から、このうちの6 credit hoursは399番以上の科目から履修することが必要です。ネブラスカ大学では、科目名の前に3桁の番号を振って科目の難易度の目安にしています。100番台は一年次配当、200番台は二年次配当という具合です。400番台の科目で800番台の番号が付いているものは大学院と共通になっています。ENG3○○だったら、英語学科提供の二年次配当科目というわけです。

7) 履修する

一学期に15単位(5科目)以上を履修しないと留学生の資格(F-1 status)は満たせません。実際には、自分の専攻と決めた学科の科目ばかりを一学期に5科目履修するのは、英語を外国語として学んだ日本人留学生にとってはかなりの負担です。それを考慮して、比較的単位の取りやすい日本語の授業や体育の授業を一科目か二科目履修して留学生の資格を満たし、残りを専門の科目に宛てるという留学生も少なくありません。ただし、卒業に必要な科目としてカウントされない場合が多いので卒業は遅れることがあります。数年前に民主党の衆議院議員の学歴詐称事件が世間を賑わせました。この議員はアメリカの大学へ留学したものの、大半の単位を自分の得意なテニスを含む体育の授業で満たしていたのです。F-1 statusは満たしていたのですが、卒業資格は取れませんでした。学歴詐称疑惑がささやかれ始めたときに、この議員さんは、「卒業したはずだ。確認するように弁護士に任せてある」と言い張りました。笑止千万ですね、卒業証明書を示せば、皆を納得させられるはずなのに、それをしないのですから。結局、卒業に必要な15単位が不足していたことが明らかになり、気の毒に、この議員さんは議員辞職をしました。留学生にはF-1 statusを満たすことがまず要求されますが、それに汲々としているような人は留学しても満足な勉強はできません。

日本の大学では、入学して1年たてば二年次生、さらに1年後には三年次生というふうに自動的に進級していきます。こういうやり方はアメリカの大学にはありません。大学の学費が1単位いくらという計算なので、ひとりひとりの学生が自分の経済力や能力や勉強に割ける時間などを考慮して、ある人は短距離走者のように、また別の人はマラソン走者のような「走り」で卒業に向かって進んでいくからです。ある学期は授業を受け、次の学期の間は生活費と学費を稼ぐために働き、その次の学期にまた大学へ戻ってくるという友だちがいました。ですから、同じ年に入学した人が二年後に、あるいは三年後に同じ学年にいるとは限りません。「自分は一体何年生だろう、」「彼は何年生だろう」という疑問は、ですから、日常的なのです。ネブラスカ大学は、そのような事情を考慮して、自分の学年が何年生かを判断する目安を設けています。その英語を示しますので、読んで下さい―“Students who have earned 26 credit hours or fewer are classified as freshmen; those with 27-52 credit hours are sophomores; those with 53-88 credit hours are juniors; and those with 89credit hours or more are seniors.” 修得単位数26単位以下が一年生、27単位以上、52単位までが二年生、53単位から88単位までが三年生、それ以上は四年生ということですね。

一学期に、例えば一科目3単位しか登録しない学生もいます。そういう人はfull-time studentとは呼びません。四科目12単位以上登録するとfull-time studentと呼ばれます。いくつかの英和辞典がfull-time studentを「全日制の生徒」と訳していますが、これは現実を正確に説明する訳ではありません。Full-time studentがいれば、part-time studentもいなければなりませんが、日本ではそのような立場の学生は存在しません。Full-time studentという英語は日本語には翻訳不可能な単語の一つです。

このようにアメリカの大学では、学生が自分の今いる場所、つまり何年生か、必要な単位は取れているか、分野別の配当科目は履修済みか、などについて誰かに確認する必要があります。そのためにアカデミック・アドバイザー(ネブラスカではfaculty advisorが正式)の制度が設けられていて、学生は自分のアドバイザーに相談できるのです。アメリカの学生は自立/自律を求められると書きましたが、それでも20歳前後の若者です。悩みもあり、困難に直面することもあります。そういうときでも自分のアカデミック・アドバイザーの教員に相談が可能です。身分の保証もアドバイザーがしてくれます。自立と扶助がこうしてバランスよく保たれて、アメリカの大学は学生を育て、社会へ送り出しているのです。アメリカの大学は巨大なコミュニティです。社会の縮図と言ってよいと思います。その大学のキャンパスで学生生活を送りながら、学生たちはvirtual adultsとして、社会へ出る準備をします。社会で自分を活かせる学問の修得に励みます。Real adultsになっていくのです。その目的を達成させるための条件がこれほど十分整っている大学は世界の他の国には見られないと筆者は信じています。大阪学院大学の皆さんもぜひ人生の一時期をアメリカの大学で過ごしていただきたいと思います。もちろん正規の学生として。

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