大阪学院大学 外国語学部ホームページ
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IV. イギリス留学

5) 登録する

さて、幸いなことに合格通知が届きました。アメリカの大学の合格通知と比べるとイギリスの大学の合格通知は比較的簡単です。出願書類の一覧を眺めて、「おや?」と不思議に思った人はいませんか。アメリカの大学が留学希望者に必ず要求する銀行の残高証明書が含まれていません。イギリスの大学ではこれを正式に要求しないところが少なくありません。その代わり、入国審査で要求されます。銀行から英文の証明書を出発までに発行してもらいましょう。入学許可を知らせる手紙と残高証明書、もちろんパスポートが必要です。ヒースロー空港へ到着して(日本からの直行便はたいてい夕方の5時頃到着します。緯度の高いロンドンでは夏のこの時間はまだ明るく、梅雨もないので空気は乾燥して、気温もせいぜいで22度ほどです。) 入国審査を受ける時に上の3点セットを示します。係官が英語で質問しますが、これが英語のテストらしいテストです。実際、語学学校へ入学するためにヒースロー空港へ到着した日本の若者にはかなり辛辣な、嫌みな質問をするというのは定説になっています。筆者の姪が(当時名古屋のカソリック系の大学で中国語を専攻していました)夏休みにサセックス大学の語学学校で英語を勉強するためにイギリスへ到着したときに、同じような経験をしたそうです。彼女によれば、「帰るときにテストをするぞ」と脅されたとか。他にも同じような失礼な扱いをされた日本の若者の例を知っています。

しかし、語学学校ではなく大学へ正規の学生として入学する人は入国係官の質問に余裕を持って答えられるはずです。そして、外国人でありながらイギリスの大学でイギリス人と競い合って勉強しようという人を、入国係官も温かい気持ちで迎えないはずがありません。一方、語学学校へ入学しようという人の中には、長期の観光気分でいる人が少なくないということを係官は知っているので、警告の意味で厳しい態度を取るのでしょう。アメリカでは入国審査の時点で既にパスポートにF-1ビザが押されているはずですが、イギリスでは入国審査を通ると、係官がLeave to enterというはんこを押してくれます。Leaveは許可の意味です。残高証明を見て、最大で1年間滞在許可を与えられて、入国の日から一年後の日付が書き込まれます。この滞在許可が切れないうちにロンドン南部のHome Office(内務省)を訪ねてビザを更新しなければなりません。今度はLeave to remainのはんこです。このやり方はアメリカの大学とは大違いです。この時にも係官はたちまち英語の試験官に変身します。

残念ながら、2007年の移民法の改正によって、日本の留学生は日本国内でビザの申請をしなければならなくなりました。また半年以内の語学留学の学生には就労が禁止されました。さらにビザの延長も認められなくなっています。この改正はイギリスがビザの管理をアメリカ並みの厳しいものにしようとしていると受け止められています。アルバイトをしながら英語も少し勉強しようかなと、留学と遊学を混同していた一部の日本人にとってイギリスはもはや「天国」ではなくなりました。しかし、この改正を最も嘆いているのは、少しお化粧が濃くて派手でも可愛い日本の女子学生に、辛辣な質問を浴びせることを楽しみにしていたヒースロー空港の入国係官ではないかと思っています。 アメリカとイギリスの違いがもう一つ。アメリカの大学ではF-1ビザの学生はアルバイトを禁じられていますが、イギリスでは正規の留学生に一週間最大20時間までのアルバイトを許しています。次の英語をちょっと訳してみて下さい。

People who have secured a place to study on a full-time basis at some form of educational institution may enter the UK as a student. In practice, at least 15 hours a week must be spent in study and the student must be able to meet the cost of the course, maintenance and accommodation without working. However, those on student visas may work 20 hours/week during term time and 40 hours/week during holidays.
前段では、授業料や生活費の支払い能力を証明する必要を定めています。後段では週に20時間以内のアルバイトが可能だと述べています。アルバイトが許可されているからといって、真面目に勉強をしようという人にはそんな余裕はないということを弁えていただきたいと思います。

もう一つ、アメリカの大学との大きな違いがあります。それは健康保険です。日本政府とイギリス政府の協定によって、日本で公的な健康保険制度に加入している人はすべて、イギリスの国民健康保険National Health Serviceに加入していると認められます。ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)は、福祉国家(Welfare State)を目標にしていたイギリスの労働党政府が1948年に立ち上げた世界最初の国民皆保険制度で、日本の国民皆保険制度はそれをモデルにしました。日本の留学生は、日本からイギリスまで旅行する期間だけ傷害保険に加入するだけでよいのです。大学で入学手続きを済ませたら、すぐにキャンパス内のクリニックで医師の問診を受ける予約を取ることができます。健康保険については、日本人留学生にとってイギリスの大学で学ぶのはアメリカの大学で学ぶよりもはるかに経済的です。

6) 授業―モジュール(module)とオナー(honour)

英米の大学の違いはたくさんありますが、留学生が第一に認識しておかなければならないのが、授業の体系です。イギリスの大学に特徴的なのはモジュラー・システム(Modular system)で、学部課程のすべての学科はいくつものモジュールによって構成されています。ひとつのモジュールは一学期で完結する授業です(二学期継続するものもある)。フルタイムの学生(と留学生)は一学期に4モジュールを履修します。ひとつのモジュールが演習と講義からなっている場合もあります。一学期のモジュールは必修科目をコアにして、その周辺に選択科目が配置されていることが多いようです。モジュール・システムをイギリスの大学が採用している理由は、学問の体系化によって、三年で大学を修了することが可能になること、入学の時点で大学生が知的に成熟していて、自分の歩むべき方向を既に見つけているからだと思います。イギリスの大学生はvirtual adultsではなく既にadultsなのですね。

このように関連性を持ついくつかのモジュールで構成される学科、あるいは学群をオナーと呼び、一つのオナー内からモジュールを履修すると、シングル・オナーズ(single honours)、複数のオナーから履修するとコンバインド・オナーズ(combined honours)と呼ばれます。アメリカの大学のメイジャーやダブル・メイジャーに相当すると考えて下さい。コンバインド・オナーズの中でエリートヘの道として知られているのがPPE (Politics, Philosophy and Economics)です。政治家を目指すイギリスの学生はオクスフォード大学などへの入学時に、PPE入学試験を受けて、合格するとそれぞれの分野からモジュールを選択することが許されます。政治家志望の学生の必修科目に哲学が含まれているのはイギリスらしいと言うべきでしょうか。オクスフォード大学でPPEを専攻し、後に政治家になったのがトニー・ブレアです。

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