大阪学院大学 外国語学部ホームページ
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IV. イギリス留学

2) 大学選び

19世紀の半ばまで、イングランドには大学はふたつしかありませんでした。西洋の古典語や古典の文献を祖述するのが学問だと考えられていました。同じ時代に、北隣のスコットランドでは1411年に創設されたセント・アンドリューズ大学を始め、グラスゴー、アバディーン、エジンバラなどの大学が優れた卒業生を世に送り出していました。例えば、アダム・スミスやジェームズ・ワットはグラスゴー大学の出身です。この時代、つまりヴィクトリア朝には高等教育ではスコットランドにイギリスは大きく引き離されていました。しかし、英国国教会の信徒以外にも入学を認める大学の必要性が大きくなって、ロンドンやマンチェスター、リバプール、シェフィールド、リーズなど産業革命で大きく発展し富を蓄積した都市に次々大学ができました。オックスブリッジに続く、「第二世代」の大学です。知と権力が分散され始めたのです。赤煉瓦でできていたので、この時期に創設された大学は「レッド・ブリック」と呼ばれます。20世紀に入って、さらに高等教育の必要性も高まり、その要求も大きくなりました。それに応えるべく政府は1960年代に「新」大学を造りました。この先はピーター・ミルワードに表現を借りて説明します。

ヴィクトリア朝の大学は[ . . .]もっとも醜い新興工業都市に建てられたが、[新大学は]カンタベリーやヨークのような、もっと伝統のある都市に置かれたのである。[. . .]よい教育は立派な建物と資格ある教師によるだけではなく、快適な環境も必要であるということが認識されたのである。その環境というのは、自然とイギリスの伝統ある歴史に親しめる所である。 (『イギリス―くにひと』、中山理訳、1982、東京: 英友社、1995, 169)イギリスの大学を留学先に選ぶ意味はこの引用に凝縮されています。コーネルやスタンフォードがその好例ですが、アメリカの大学のキャンパスは実にきれいです。静かで快適に学問をする環境が整っています。ところがイギリスの大学にはキャンパスの外側に伝統と自然が息づいているのです。サセックス大学を例にとれば、キャンパスから南を眺めるとサウス・ダウンズ(South Downs)と呼ばれる小高い丘が連なっていました。イングランドには山らしい山がほとんどありませんが、南北に何本も丘が延びていて、そのひとつがサウス・ダウンズです。図書館から外へ出ると正面から右手にサウス・ダウンズが眺められます。夏は気候が乾燥しているので牧草が枯れかけて黄色になり、冬は雨が多いので濃い緑でした。勉強だけに自分の時間を使うことのできたサセックスでの贅沢な2年半の思い出には、サウス・ダウンの眺めがいつも棲みついています。

サウス・ダウンズ。Downsはこの地方の方言で、丘を指す。

サウス・ダウンズはサセックスとケントの境目付近で海に接する。そこにあるセブン・シスターズと呼ばれる崖。ブリテン島の古称アルビオン(Albion=white land)の由来である石灰質の白亜の地層が見えている。フランシス・コッポラ制作のゴシック・ロマン『月下の恋(The Haunted)』(1995)のロケ地でもある。

イギリスの大学はひとつを除いてすべて国立大学ですから、授業料はほとんど同じで大体9,000ポンドから1万1000ポンドの間です。上に述べたように、日本から留学を志す人が選ぶ対象になりそうな大学は約80校です。イギリスの大学をWebで探すときには、Yahoo Directory>By Region>Countries>United Kingdom>Complete Listと進むか、イギリスの大学に特化したサイトを使って下さい。このサイトは地域からも、専攻からも大学探しができるようになっていて便利です。もうひとつUCASも便利です。学部への入学希望者はすべてUCAS(Universities and Colleges Admissions Service)へ願書を提出することになっています。ですからこのサイトは留学希望者にとって必須の事柄が簡単に見つかり、それを調べることができるようになっています。例えば、自分の専攻したい科目名を入力すると、それに該当する大学の学部の一覧を見ることができます。入学資格なども簡潔に書かれています。ファウンデーション・コースに入学したい人は、Foundation Courseを検索すればこのコースを提供している大学の一覧を見ることができます。地域から大学を選ぶことも可能です。

イギリスの大学は主要都市にたいていふたつずつあります(ロンドンなどの大都市を除く)。ひとつはアカデミックな大学、もうひとつが職業教育中心の大学です。どちらの大学に属するかは名前の長さでほぼ判断できます。例えば、マンチェスターにはManchester UniversityとManchester Metropolitan Universityの二つがあります。ブリストルにもBristol UniversityとUniversity of the West of Englandという大学があります。名前の短い大学はアカデミック、つまり大学で学んだことが必ずしもお金儲けにつながらない学部中心の大学、名前の長い方が職業に直結した勉強のできる大学です。世界遺産に指定された都市バース(Bath)には、Bath UniversityとBath Spar Universityがあります。これらの大学の違いはもう明らかですね。

ローマ人がブリテン島を占領していた時代に造られたバースの浴場

アメリカの大学とイギリスの大学の顕著な違いは、アメリカの大学は名前がひとつですが、イギリスの大学は二通りに呼びならされることがあるということです。イギリス人はCambridge Universityともthe University of Cambridgeとも平気で呼びます。彼らは同じ調子で、例えば、アメリカの大学をthe University of Chicagoと呼び、Chicago Universityと呼びますが、シカゴ大学の卒業生である経済学者のミルトン・フリードマンなら自分はthe University of Chicagoの卒業生だ、Chicago Universityではない、と怒るでしょう。イギリスでこういうおおざっぱな呼称が通用するのも、ひとつの都市に大学はひとつという歴史の反映です。上に述べたManchester Metropolitan Universityは1991年までManchester Polytechnicという名前でした。日本語の「科学技術専門学校」という訳を充てますが、ほぼ正確に性格を表す訳です。つまり、ひとつの都市に、その都市名を冠したアカデミックな大学が一校、ポリテクニックという名前だった職業教育専門の大学がもう一校存在しているのです。イギリスの大学の規模はアメリカの大学ほど大きくありません。アカデミックな大学の平均的な学生数は2万足らずです。1991年までポリテクニックだった大学の中には学生数が5万を超える例もあります。職業教育専門大学は規模にかかわらず、たいてい複数のキャンパスを持っています。では、アカデミックな大学と職業教育中心の大学のどちらを選ぶべきでしょうか。

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