USIT 解説・紹介
連載: USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法
第1回  USITとは何か? FAQ
中川 徹 (大阪学院大学)
『機械設計』 (日刊工業新聞社発行), 2007年 8月号

許可を得て掲載。無断転載禁止。(1)(2)(3)(4)(5) [連載完結]
[掲載開始:2007. 7.22;  最終更新日: 2007.12. 9]

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編集ノート (中川徹、2007年 7月21日)

本件は、日刊工業新聞社発行の月刊誌『機械設計』(Machine Design) に招かれて始めました「USIT入門」の連載記事です。2007年8月号 (7月10日発行) から連載開始し、12月号までの全5回の予定です。同社のご承認をいただきましたので、本『TRIZホームページ』には、同連載をHTML版で掲載します (同誌のPDF版を掲載することはできません)。多くの参照のリンクを追加しましたので、ぜひご活用下さい。

読者の皆さんがご存じのように、私は昨年の1月から、「連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ」という記事を、『InterLab』誌 (オプトロニクス社発行) に掲載しており、現在第 20回まで掲載され、まだもっと連載を続けるつもりでおります。そのTRIZ連載では、できるだけ世界のTRIZのいろいろな流れを盛り込んで、私の目から整理しなおして書いていこうとしております。その中でもちろん私自身が推進しています「USIT」についても記述していますが、どうしても話の一部分としての記述になります。

本件の連載「USIT入門」は、5回という限定した回数ですが、USITに集中してきちんとまとめた解説にする予定です。つぎのような骨子の構成にする予定でおります。

第1回 USITとは何か?FAQ                             2007年 8月号
第2回 USITのやさしい適用事例                        2007年 9月号
第3回 USITによる問題の定義と分析の方法         2007年10月号
第4回 USITによる創造的な解決策の生成法        2007年11月号
第5回 USITの実践法                                       2007年12月号

この第1回は、USITの紹介を一問一答の形式で記述したものです。つぎのような構成にしています。

1.  はじめに

2. USITとは: その成立過程

3. USITの情報源と教科書

4. USITのモチーフと特徴

5. USITによる解決のプロセス

6. USITの実践法

7. USITの普及状況と意義

なお、以下に、各回の内容目次を、順次、一覧表にして掲載します。

掲載号、ページ  テーマ 細目 見出し HP掲載
第1回 2007年 8月号
pp. 56-63
USITとは何か? FAQ

(1)  はじめに、(2) USITとは: その成立過程、(3) USITの情報源と教科書、 (4) USITのモチーフと特徴、 (5) USITによる解決のプロセス、 (6) USITの実践法、 (7) USITの普及状況と意義

2007. 7.22

 

第2回 2007年 9月号
pp. 92-98
USITのやさしい適用事例 (1) USITの問題解決プロセスの全体像、(2) ホッチキスの針をつぶれなくする方法 [問題の設定、問題の分析、問題の新しい理解、新しいシステムのためのアイデア、解決策のコンセプト作り−魔法の小人の方法、解決策の実現]、(3) 裁縫で針より短くなった糸を止める方法 [問題の定義、時間特性の分析と空間特性の分析、機能の分析、属性 (構成要素の性質)の分析、既知のいろいろな解決法、理想のイメージを作る、解決策のアイデアを考える、ストローの小道具、玉止め専用の針の小道具、本事例での解決策生成段階のまとめ] 2007. 8.17
第3回 2007年10月号
pp. 90-96

USITによる問題の定義と分析の方法

(1) 問題の定義と分析の方法の概要 [問題の定義と問題の分析、「オブジェクト-属性-機能」の概念]、(2) 問題を定義する方法 [USITにおける「適切に定義された問題」、問題定義段階の注意事項]、(3) 問題分析(1)現在のシステムの理解 [空間特性の分析、時間特性の分析、現在のシステムの機能的関係の理解、 現在のシステムの問題に関係する属性の理解] 、(4) 問題の分析(2)理想のシステムの理解 [分析段階で理想のシステムを考える意味、理想の結果をイメージする、魔法のParticles (賢い小人たち)、Particles 法の適用例] 2007.10.15
 
第4回 2007年11月号
pp. 100-107

USITによる創造的な解決策の生成法

(1) 「USITの6箱方式」における解決策生成段階の概要 [データフロー図という表現形式とその意味、「新システムのためのアイデア」とは、USITにおける「アイデア生成」の段階、USITにおける「解決策の構築」の段階、「解決策の実現」の段階]、(2) USITオペレータ [USITオペレータの成立、USITオペレータの全体像、USITオペレータの例と使い方、思考の課程とUSITオペレータの指針]、(3) 解決策生成段階の方向づけ [理想のイメージからの思考の過程、矛盾の解決と解決策組合せ法、解決策の階層的な体系化] 2007.11. 1

第5回

 (完)

2007年12月号
pp. 89-97

USITの実践法

(1) USITを何のために使うのか?、 (2) どのようにして学ぶか?、 (3) USITのトレーニング [実問題の持ち込みと公募制での問題解決、USIT 2日間トレーニングのプログラム]、(4) USITの習得のボイント [問題を捉える/定義する段階、問題を分析する段階、アイデアの生成と解決策の構築の段階、解決策を実現する段階、USIT中でのTRIZの役割]、(5) USITの実践と推進 [組織の中での普及・実践・定着活動の進め方、USITの実践活動、短期集中の問題解決の実践法]、(6) TRIZ/USITの推進事例、(7) まとめ 2007.12. 9

 

[追記 (中川 徹、2007.12. 9):  上記のように、当初の計画どおり、全5回でこの連載を完結いたしました。コンパクトに全体を知ることができるものになったものと思っております。] 


 

連載: USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法

第1回?USITとは何か? FAQ

中川 徹 (大阪学院大学)

『機械設計』 (日刊工業新聞社発行)、2007年 8月号、pp. 56-63

 

1. はじめに

このたび,『機械設計』誌に招かれて,「USIT入門」という連載を5回の予定で執筆することになりました。うれしいことです。USITは,創造的な問題解決のための技法で,特にその一部始終の考え方を具体的に示し,やさしく学び,実践できるようにしたものです。

あらゆる分野で技術革新が進み,社会の変動も激しく,さまざまな企業が生き残りを懸けて競争にしのぎを削っています。『機械設計』の読者の皆さんはもちろんのこと,あらゆる技術分野の技術者・研究者も管理者も,またあらゆる産業に従事している人たちが,常に何か新しいことを考え出し,工夫し,実践していかないといけないことを,身に沁みて知らされています。日常生活でももちろん,新しい工夫が必要になることはいろいろあります。

それでも,新しいことを考え出し,それを実現していくことは,通常並大抵ではありません。「創造的に考えよ」といわれ,「頭を柔らかく」,「発想を柔軟に」といわれても,そしていろいろな例を示されても,そのような力を習得することはなかなか困難なことです。

発明のような新しいアイデアを思いつくには,「ひらめき」を得ることが必要で,それは長い努力と忍耐と試行錯誤の末に,ふっとした拍子に得られるものだというのが,科学者の事績の研究や心理学の研究から得られている通説です。

しかし,その長い努力の間にどのように考えればよいのか,何か方法はないのかと思うのは当然のことです。そして今までは,自由奔放に考えよというブレインストーミングがそのための主要な方法でした。しかし,それは技術的な課題に対して積み上げを作る方法ではありません。もっと科学的な基盤をもった方法を私たちはほしいのです。

そのような要求に答えるものとして,旧ソ連の民間で60年に渡って創られてきた方法に,TRIZ(「発明問題解決の理論」)があります。世界の特許を内容的に分析して,技術の眼から科学技術を体系化しなおした膨大な知識ベースを作り,問題解決のための多数の技法を創りました。冷戦終了後,西側諸国に知られ,技術開発のための一般的な技法として,QFD(品質機能展開)やタグチメソッド(品質工学)と並んでその必要性/有効性が知られるようになってきています。

この連載で取り上げますUSIT(「統合的構造化発明思考法」)は,このTRIZの影響を受けて,米国でEd Sickafusが1995年に開発したものです。技術的な問題解決のプロセスをわかりやすく明示しました。その後USITは日本で改良され,日本のいくつもの企業に定着しつつあります。

現在の日本のUSITは,膨大な体系を持つ故に複雑であったTRIZをすっきり再編成して,理解しやすく,実践しやすくした,「やさしいTRIZ」になっています。また,それだけでなく,「創造的な問題解決の新しいパラダイム」を指し示しているのです。

さまざまな技術課題について,従来の技術開発の方法で行き詰まったときに,その壁を打開して創造的に解決するための考えるプロセスをUSITは提供しています。「ひらめき」による大きなジャンプでなく,筋道立てて考えている中で,いくつもの新しい理解と新しい発想を創り出して,小さなジャンプを繰り返して,一層高い所に到達しようとしているのです。

このようなことを理解していただけるように,この連載はつぎの5回構成で説明していきます。

第1回 USITとは何か?FAQ
第2回 USITのやさしい適用事例
第3回 USITによる問題の定義と分析の方法
第4回 USITによる創造的な解決策の生成法
第5回 USITの実践法

2. USITとは:その成立過程

Q. USITの正式名称は?

A. 英文名は,Unified Structured Inventive Thinking。日本語名は,統合的構造化発明思考法。(ユージットではなく)ユーシットと発音します。

Q. 誰が作ったものなのですか?

A. 米国のEd Sickafus(エド・シカフス)博士が,1995年に作りました。当時フォード自動車の研究所の物理学部門長で,実験物理学の素養をもち,それ以前に大学教授も勤めたことのある人です。

Ed Sickafus博士 (2007年)

Q. 何か土台になったものがあるのですか?

A. きっかけは,1993年にUC Berkeleyでたまたまイスラエルの人たちのSIT法のセミナーを聞いたことだと書いています。問題解決の方法として非常に面白いと思い,彼らをフォードに招いて1週間のセミナーを受けたといいます

Q. SIT法というのは何ですか?

A. 旧ソ連でGenrich Altshullerが創ったTRIZを,ずっと簡略化したのがSIT法です。TRIZが確立されたのは1970年代初めですが,1980年代の初めに弟子たちの一部がイスラエルに移住し,そこで米国系の現地子会社の技術者たちにTRIZを普及させるにあたって,大幅な簡略化の必要を感じて,創ったものです。SIT法(Systematic Inventive Thinking)では,たとえば,TRIZの40の発明原理を,4種の解法だけに圧縮しています

Q. そのイスラエルのSIT法とUSITは違うのですか?

A. 違います。Sickafusは,イスラエルのSIT法とロシアのTRIZとを研究した上で,SIT法をベースにして,新しく問題定義の方法や問題分析の方法などをいろいろと工夫して,一貫した問題解決のプロセスを作りあげました。ただ,当初のフォード社内での呼び名はSIT法(Structured Inventive Thinking)でした。1997年に社外向けに教科書を出版し,そのときに今のUSITという名前を使ったのです

Q. それで中川さんはどのようにしてUSITを知ったのですか?

A. 1998年11月に米国で初めてのTRIZの国際会議が開かれて,出席しました。その会議で,Sickafusの発表があり,友人になりました。その後,彼のUSIT教科書を読み,もっと詳しく知りたいと思ったのです。そこで,翌年3月の第1回TRIZCON(米国Altshuller Institute主催の国際会議)に合せて,フォード訪問を打診したら,フォードに入れるわけにいかないが,社外向けのUSIT3日間セミナーを開くから参加しないかと言ってくれました。

Q. SickafusさんのUSITセミナーはどんなものだったのですか?

A. 参加者10人でした。説明と簡単な演習をした後で,2日目には参加者が持ち込んだ実問題4件を2―3人ずつのグループで演習し,3日目も別の実問題4件を演習しました。非常に速いテンポで,非常に豊かなものでした

Q. それでUSITを日本に導入したのですか?

A. そうです。演習事例を自分のホームページに公表し,Sickafusに励まされて,日本でUSITの3日間トレーニングを始めました

Q. ところで,中川さんがTRIZを知ったのはいつなのですか?

A. それは,1997年5月31日です。たまたま東京でMITの産学共同プログラムのセミナーがあり,何も知らない状態で2時間余のTRIZの話を聴きました。大変感動して,これを導入・研究しようと思ったのです。当時は富士通研究所でスタッフとして仕事をしていましたので,導入努力をし,その後1998年4月から今の大阪学院大学情報学部に移って,TRIZの研究をずっと続けています。

Q. 偶然の出会いだったのですか。

A. そうです。運命だったのですね。私は大学で物理化学の研究をし,企業でソフトウェア関係の研究とソフトウェア品質向上運動に関わり,そして今TRIZの研究・普及をしています。思いもかけず,大きな転機が2度あったのです。

Q. それで今,中川さんはTRIZよりもUSITを推進しているのですか?

A.「TRIZよりも」というと語弊があります。USITはTRIZを改良したものですが,TRIZの大きな体系の中の1つの実践法だと考えているのですから。TRIZ全体も推進し,その中で特にUSITを推進しているのだと理解して下さい。

Q. どうして,特にUSITを推進するのですか?

A. それは,TRIZの体系が膨大で,複雑になりすぎているから,本当にTRIZの実践を普及させるには,もっとすっきりさせ,実践しやすくすることが必要だと考えるからです。USITがそのための最もよい方法だと思っています。

Q. それで,USITはその後改良されてきたのですか?

A. そうです。USITは日本で2段階の大きな改良がありました。

1つは,TRIZが創りあげたすべての解決策生成法(たとえば,40の発明原理とか,76の発明標準解,技術進化のトレンドなど)を再編成して,USITの解決策生成法の体系(「USITオペレータ」:5種32サブ解法)を創り上げたことです。USITのことを「やさしいTRIZ」と呼んでいますが,それは,すっきりさせて理解しやすくしたのであって,一部分だけを抽出してほかを削除する簡略化ではありません。

Q. 日本での改良の第2段というのは何ですか?

A. それはUSITのデータフロー図を作り,「創造的問題解決の6箱方式」という概念を得たことです 。USITにおける問題解決の過程を示すために,Sickafusも中川も当初からフローチャートを使っていました。フローチャートは,処理方法の名前を書いて,その順序や論理を矢印などで示します。データフロー図というのは情報科学でよく知られている表現形式で,入力(初期)情報,中間情報,出力情報をきちんと記述して,それらの関係を矢印(と処理方法名)でつないで示します。USITのデータフロー図を描くことによって,思いもかけなかったほどの豊富な示唆が得られたのです。

Q. それがそんなに重要なことなのですか?

A. そうです。TRIZの問題解決の基本方式は,概念的には「4箱方式」と呼ばれており,科学技術一般の基本方式と同じです。その方式は,「自分の具体的な問題を,モデルの問題に抽象化し,そのモデルの解決策を得て,それから自分の問題の解決策として具体化する」というものです。この方式を使えるように多種多様なモデルが作られ,知識ベースとして蓄積されてきたのです。ただ,その知識ベースが作られて膨大になるにつれて,この方式が変質しました。まずどれかのモデルを知識ベースから選択し,そのモデルを使って類比思考をすることになっていきます。問題の本質を捉えて,体系的に分析するという,本来の抽象化が見失われてしまうのです。

Q. でも新しい基本方式は有効なのですか?

A. 有効で,非常にわかりやすいものです。多様な問題に対しても,基本的に同じ考え方を使って分析(抽象化)し,体系的な方法(USITオペレータ)を使って発想を促し,得られたアイデアを解決策コンセプトに組み上げ,それを実現していくものです。示されてみると,当然のことだと思えるほどです

Q. それでUSITは普及してきているのですか?

A.日本で着実に普及してきています。詳しくはもっと後で話しましょう。

図2. TRIZ(およびUSIT)の発展の概要

3. USITの情報源と教科書

Q. USITについてもっと知りたいと思ったら,何を見るとよいのですか?

A.USITの情報は,私が創設し,編集しているWebサイト『TRIZホームページ』を見ていただくのがベストです。これは,1998年11月に創設したもので,ボランティアとして私1人で運営していますが,国内からも,海外からも寄稿があり,多くの読者がいて,公共的で信頼できる情報源として評価してもらっています。URLは,http://www.osaka―gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/です。和文ページと英文ページを並行して作るように努力しています。

図3. 『TRIZホームページ』のシンボルマーク (1998 中川)

Q. そのWebサイトにはどんな情報があるのですか?

A. TRIZおよびUSITに関する,論文,適用事例,解説,教材,ニュース,リンク集,国際会議参加報告,意見寄稿など,あらゆるものがあります。中川執筆のものが多いですが,国内の優れた論文を掲載し,海外の重要な論文を多数和訳して掲載しています。

Q. どれくらいの頻度で更新しているのですか?

A. 不定期ですが,2週間〜1カ月程度で更新し,毎回2〜5件程度の新しい記事を掲載しています。掲載日付を必ず書いて,開設時からのすべての記事を常時掲載しています。カテゴリ分類した総合目次を作り,すべての記事をワンクリックで参照できるようにしています。

Q. USITの記事も豊富なのですか?

A. そうです。前述したいろいろなことも,すべてこの『TRIZホームページ』に,その折々の記事として,あるいはまとまった論文や解説として説明されています。この『機械設計』での連載も,すでに編集部の許可を得ましたので,半月遅れで『TRIZホームページ』に掲載させていただきます。そこには多数の参照のリンクを張るつもりです。

Q. まず読むとよい記事はありますか?

A. USITのバックにあるTRIZについて読んでくださるとよいでしょう。実は,TRIZについてのやさしい解説を『InterLab』誌(オプトロニクス社)で,2006年1月号から長期連載しており,その全編を『TRIZホームページ』に再録しています。「技術革新のための創造的問題解決技法撒RIZ」という題名で,TRIZ全体について解説し,その中でUSITについてもたびたび説明してきています。そこで今回の『機械設計』誌での連載は,USITに絞って(通常の私の説明よりもTRIZへの言及を少なくして),説明していくつもりです。

Q. SickafusさんのUSIT教科書があるとのことでしたが。

A. 1997年に自費出版された教科書があります。Ed Sickafus:“Unified Structured Inventive Thinking―How to Invent”, Ntelleck LLC, Grosse Ile, MI, USA(1997)。488頁の大著で,和訳できていません [Sickafus のUSIT Webサイト: http://www.u-sit.net/  ]。

Q. もっとコンパクトなテキストがありますか?

A. Ed Sickafus:“USIT eBook”というのがあり,45頁のもので,2001年10月の執筆です。この和訳(川面恵司・越水重臣・中川徹訳)を『TRIZホームページ』に掲載しています。無償ですが,ダウンロードに際して,Sickafusさんと中川に,氏名とemailアドレスをメールで知らせることになっています。USITの考え方をまとめたもので,事例などは書いていません(USIT教科書を参照下さい)。

Q. 日本語でのUSITの教科書はありませんか?

A.単行本の一部になっているものしか,まだありません。1つは,『ものづくり教科書 革新のための7つの手法』,日経BP社,2006年8月刊,です。TRIZとUSITの最新の理解を中川が35頁ばかり書いています。[この本の元になった『日経ものづくり』誌上の連載記事「なるほどtheメソッド: 新しいTRIZ」 を『TRIZホームページ』に掲載している。]

なお,USITという名前が書名に入っている唯一の単行本として,粕谷茂:『ものづくり技術アドバンスト 図解 これで使えるTRIZ/USIT』,日本能率協会マネジメントセンター,2006年5月刊,があります。この本はTRIZの事例などを著者が収集して図解しており,わかりやすい記述です。USITについては,中川の1999年の公表事例および著者の富士ゼロックス社での事例などを扱い,やはり35頁程度の簡単な記述です。

4. USITのモチーフと特徴

Q. USITはどのような目的に使えるものですか?

A. 基本的には,技術的な分野で,通常の技術的な解決ができずに困難にぶつかったときに,新しい観点から考えるための筋道立った方法を提供し,解決策のコンセプトを複数,迅速に得ようとするものです。

Q. どんな技術分野でもよいのですか?

A. かまいません。今まで,機械・機構・電気系,システム・情報系,材料系などの分野で,うまく適用してきた実績があります。問題としているシステム中でのメカニズムが推定できるほど,より確実に適用できます。ですから,医学や農学などでもかなり応用できるはずです。また,非技術の,人間や社会が関わる問題でも,焦点を絞った問題には適用できます。

Q.  「機械設計」という分野とはどういう関係にあるのですか?

A. 何らかの製品について機械的(メカトロ的)な面から設計を行うというように機械設計を考えますと,USITは第一義的には,どんなもの,どんなメカニズムのものを設計すべきかという課題に対して,概念的な解決策を与えるものです。ですから,機械設計の前段階にある,あるいは機械設計の概念設計を助けると考えられます。

Q. すると,技術開発や商品開発の上流段階で使う方法だといってよいですか?

A.いえ,必ずしも企画・構想などの上流段階だけを対象としているのではありません。設計・生産・運用など,どんな段階にも技術的な課題はあり,新しい考え方を入れて克服しないといけない問題がありますから,そのような問題に関して,技術的な解決策の方向を考えようとするものです。ただ,USITが創り出す解決策は,まだ概念的な定性的なものですから,USITの後でそれをきちんと評価し,定量的にし,設計したり,試作・実験したりすることが,その解決策の実現には必要なのです。

5. USITによる解決のプロセス

Q.  「新しい観点から考えるための筋道立った方法」とは,どのようなものですか?

A. それはまず,問題を明確にすることからスタートします。何が望ましくない問題か?それで,何をしたいのか?(目標・課題)を明確にします。問題状況の図を簡潔に描き,考えられる原因を掘り下げます。一見当たり前の方法ですが,現実の困難な問題を解決するには,この問題定義の段階をしっかりすることが重要です。

Q. それでその問題をどのように考えていくのですか?

A. まず,問題状況の空間と時間に関する特徴をしっかり考え,いろいろな図やグラフで表現します。また,現在のシステムを,オブジェクト(構成要素),属性(性質のカテゴリ),機能という概念を使って分析します。システムの本来の設計意図を機能分析で表現し,問題に関わっている属性を列挙して根本原因分析を補強します。

Q. そしてアイデア出しに進むのですか?

A.いえ,その前に,この課題にとっての理想はどういうことだろうと考えます。Particles法というやり方で,もし魔法の粒子(あるいは小人)があって,なんでもやってくれるのだとしたら,何をしてほしいのか,その魔法の粒子がするべき望ましい行動と,持っているとよい性質はなんだろうと考えるのです。

Q. それが分析段階なのですか?

A. そうです。USITでの分析方法はこのように標準化された方法を使い,現在のシステムについて,空間と時間の特徴,オブジェクトと属性と機能という概念で考え,そして理想のシステムをイメージするのです。初めは少し抽象的で理解しにくいと思うかもしれませんが,そのおかげでどんな分野のどんな問題にも適用できるのです。いろいろな図式を描きながら考えます。

Q. それで次がアイデア出しですか?

A. そうです。アイデア出しのためにUSITでは5種32サブ解法からなる「USITオペレータの体系」を持っており,それを順次適用していきます。たとえば,「いまある構成要素の1つを,2つに分割し,それぞれの性質を違えて,再び一緒にして用いよ」というのがサブ解法の1つです。このような指示に従って考えると,何か役に立つアイデアが出てくるのです。

Q. そのような指示をヒントにするのですね?

A. そうですが,ヒントというような漠然としたものでなく,この例のようにずっと明確な指示(あるいは,操作)になっています。

Q. それで,5種というのは何ですか?

A. まず,オブジェクト(構成要素)を複数化する操作,属性(性質)を次元的に変化させる操作,機能を再配置する操作の3種があります。それぞれの内容は今は説明しませんが,システムを記述した3種の概念のそれぞれを操作しているのです。それから,2つの解決策を組み合せる操作,解決策を一般化して体系化する操作があります。これで5種です。

Q. そういう操作法を覚えるのですか?

A. 簡単な一覧表があり,操作の指示が簡潔に書いてありますから,覚える必要はありません。ただ,それぞれの操作の意味を理解しておくことは必要でしょう。すばらしい解決になった事例を組にして,学ぶとよいのです。

それから,実際には,先ほどの分析の段階でどんどんアイデアが出てきます。それらのアイデアを簡単な図に描いて,貼り出し,それに触発されてまたアイデアが出ますから,それらを(一般化法を使って)階層的に体系化していくとよいのです。

Q. そういう段階で得るアイデアというのは,ちょっとした思いつきなわけですね。

A. そうです。アイデアの断片ですが,それが解決策の中核になっていくのです。ジェームスワットの蒸気機関などの大発明でも,中核のアイデアは小さなものです。今までの分析がきちんとしているから,このアイデアの断片を有効に使う方法を考え出せるのです。

Q. そのアイデアから解決策を組み立てるのですか?

A. そうです。この解決策の組立ての段階には,それなりの技術的な素養が必要になります。機械設計でいう概念設計に近いものでしょうから。きちんとイメージして,こうすればうまく動くだろうという素案(解決策のコンセプト)を作るのです。ここまでがUSITの任務です。

Q. その後があるのですか?

A. その解決策を実際の製品などに組み込むためには,新しいアイデアの実証実験とか,試作とか,皆さんの専門の設計とかが必要です。それ以後の過程や必要な諸方法は皆さんがよくご存じのことです。

図4.  USITによる問題解決の全体プロセス(フローチャート)

6. USITの実践法

Q. ところで,USITは1人で考える方法なのですか?

A. いいえ,グループでの作業に使う方がずっと効果的です。その問題の担当者,技術の素養のある人,違う立場から見ることができる人,そしてUSITをマスターした人でグループ作業をします。USITをマスターした人が,適切な質問をして,考える過程をリードするのが,よいのです。

Q. USITの熟練者が解決策を出す役をするのではないのですか?

A.そうではありません。分析の中身も,解決策の組み立ても,その問題を知り,その分野の技術を知る人が作っていくのです。分析のしかた,アイデアの出し方などの考える方向を助言するのがUSITなのです。

下の図が技法エキスパートの役割モデルとして,よくある研究委託型のエキスパートの役割と,USITでのエキスパートの役割を対比して示しています。

図5. 技法のエキスパートの役割モデル
(左図は典型的な研究委託における技法のエキスパートの役割、右図がUSITにおける技法のエキスパートの役割)

Q. TRIZでは,沢山の知識ベースを使い,ソフトウェアツールを使うと聞いていますが。

A.そうです。膨大な知識ベースも,それを組み込んだ便利なソフトツールもTRIZの財産であり,力の源です。しかし,USITはそれらに頼らず,思考プロセスをリードして技術者たち自身の考える力を引き出そうとするのです。それでも,USITでの共同作業とは別の時間帯でTRIZの知識ベースを使って考えを補強することは,大変有効な方法です。

特に,「得られたアイデアの断片が,実はほかの技術・産業分野では既存の方法の本質的な考え方として使われていた」ということがTRIZ知識ベースからわかることが多いので,それを実現する可能性に対して大きな指針と自信を与えてくれます。

Q. USITでの問題解決は長期間かかりますか?

A. いいえ,迅速に,能率よく,というのがUSITのねらいです。USITの2日間トレーニングでは,3グループで実問題3題を並行して解決していきます。実地の問題解決でも,同じ要領でやることもできます。あるいは,午後の3時間をとびとびに3〜5回程度というやり方もあるでしょう。

Q. それで解決策が沢山出るのですか?

A. 出ます。2日間研修の場合には,アイデアの数で,数十,組み立てた解決策で数件から十件足らずというのが,実際の状況です。実地問題で,とびとびにやる場合には,間で宿題などもしますと,数百件のアイデアなどが得られます。USITは,1つのベストアイデアを出そうとするのでなく,沢山のアイデアを出して,後で選択するというやり方です。

7. USITの普及状況と意義

Q. 実際に使っている企業はありますか?

A. あります。日本でTRIZを導入している企業は,大抵いくつかの方法を試行してきていますが,その中でUSITの比重が着実に大きくなってきています。TRIZの伝統的な方法よりもやさしく,有効だからです。

Q. もっと具体的に聞くことはできますか?

A. 私から聞くよりも,企業の人たちから直接聞かれるとよいでしょう。日本では,日本TRIZ協議会が主催して,毎年夏に「TRIZシンポジウム」を開催しています。今年が第3回で,2007年8月30日(木)〜9月1日(土)に,新横浜の東芝研修センターで開催します。私が3回続けてプログラム委員長をしており,ちょうどいま参加者募集をしています。チュートリアル2件,招待の講演5件,一般発表30件があり,全体のうちで10件が海外からの発表です。日本のTRIZシンポジウムは,ユーザ企業から発表が多いことが特徴です。参加者は昨年157名(うち海外18名)でした。

Q. 世界でのUSITはどうですか?

A. 米国では事実上フォードだけのようです。2000年にSickafusがフォードを引退したため,その後継続してはいますが,少し弱まっているように思います。日本でのUSITが,いま世界のTRIZリーダたちに徐々に認識され,注目されてきているという段階です。

Q. どういう意味で注目されているのですか?

A. 世界のいろいろな流れを吸収・消化して,独自のものを作り上げるのが日本の得意芸だと彼らは知っています。そして,世界のTRIZの流れの中に日本流が1つ明確に顕れてきたと感じていると思います。

Q. TRIZやUSITの世界的意義は何ですか?

A. 広い意味での品質管理の運動が戦後60年の世界の技術革新をリードしてきたわけですが,それはデータ解析(統計学)と組織論をベースにしており,技術論を持たなかった。そこにTRIZが明確な技術論を持ち込んだ。だから,TRIZは将来の技術革新を担うものになるだろうと思います。

 

 

本ページの先頭 第1回TRIZ FAQ (1)はじめに

(2) 成立過程

(3) 情報源と教科書 (4) モチーフと特徴 (5) USITによる解決のプロセス (6) USITの実践法 (7) 普及状況と意義

 

USIT連載親ページ 第1回 USITとは何か? FAQ 第2回 やさしい適用事例 第3回 問題定義と分析の方法 第4回 解決策の生成法 第5回 実践法 TRIZ連載親ページ 英文ページ

 

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最終更新日 : 2007.12. 9      連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp